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5話 「前夜」 後編

 ロック砦にて魔法派の人間達が戦闘準備に勤しんでいる間も機械派の部隊は東から着々と進軍していた。冬の寒さはまだ和らぐことはなく、その進軍は雪とぬかるみとの戦いでもあった。

 しかし、どういうわけか道中に敵は見当たらず、弾薬に問題は今のところ発生していない。


「先頭集団より報告。前方の山脈にて魔法派の要塞らしきものを確認。行軍を停止して命令を待っています。」


「了解した。直ちに司令部へ連絡する。」


ロック砦まであと50kmというところまで機械派の部隊は迫っていた。ロック砦を視認するや全軍がざわつく。しかし、すでに日が沈み始めていたので一旦全軍を止め、最後の休息を取らせている。その陣取っている場所の中央部に今回の作戦における臨時総司令部が置かれていた。その中で今、将校達による定例会議が開かれている。なお、ジンテツ准将以下スレイプニル隊全員は紅い死神と対峙した時のための、対策を練り、訓練に明け暮れているため、作戦開始前の会議まで出ないつもりだった。


 「おかしいな。ロック砦は魔法派の絶対防衛線のひとつと聞く。それなのにこの静けさはなんだ。普通ならば1つや2つの部隊を会敵とまでいかずも見つけられるだろう。」


 今回の作戦の指揮を執るジラート大将は今までの行軍に不審を持たずにはいられなかった。


 魔法派とて負けたくはないはずだ。にも関わらず、こちらに損害を与えず、時間稼ぎもしないで一直線に砦へと向かわせている。砦の方もまだ万全な準備が整っていないにも関わらず打って出ないのはおかしい。砦が落ちれば魔法派は喉元に刃を突きつけられたも当然のはずなのに。


 そんな疑問を思っていると、となりの将校が楽観的に言う。


 「恐らく、我々に恐れをなして逃げていったのでしょう。なにしろ、今回こちらには3個師団に300近いCTRを投入していますので。」


 たしかにCTRの性能を知っていれば、勝機はないと悟り、逃げるだろう。


 別の将校もつられて言う。


 「今頃は砦に篭って、天に向かって祈りながら増援でも待っていることでしょう。」


 「はははっ。砦に篭っているのなら袋叩きにしてやりましょう!!」


 皆が口々に軽く言うのは敵が弱いと思っていることが前提だ。それでは足元をすくわれてしまっては元も子もない。ジラートが今一度戒めようと口を開きかけると


 「たとえ、敵の力が弱くとも、我々は死ぬ可能性があるのです。決して最後まで油断はしないようにしてください。」


  今、発言したのは二つ名を仕留めた事のある将校だ。さすがに、敵を侮ってはいないな。位が上の将校を相手に物怖じもしていない。ジラートはすかさずその言葉に乗る。


 「そうだ。私も二つ名の実力は何度も目にしている。決してCTRに乗っているからといって油断して良い存在ではない。それにCTRはともかく、歩兵部隊、戦車部隊はCTRほど魔法に耐えられるものではない。もし新たな二つ名がどこからともなく現れたのならば死ぬのはあなたがたからだ。心してかかるようにしろ。」


 ジラート大将の柔らかくとも厳しい言葉に将校達の気が引き締まる。


 「それで、各部隊の現在状況はどうなっている。」


 ジラートの問いに参謀達が手元の紙の束に目を通しながら答える。


 「現在は、各部隊ともに順調です。特に大きな問題は見当たりません。」


 「一番危惧されていたCTRのメンテナンスも今のところはすべて怠りなく進んでいます。」


 「歩兵達も敵の襲撃がありませんので、一部の哨戒を除いて比較的精神状態は安定しています。」


 参謀達の報告を聞いて、ひとつ厄介なことがあったので注意を促す。


 「いくら敵の襲撃がないとはいえ、ここはすでに敵地。全軍に警戒を怠らないようにしろ。」


 「はっ!全軍に伝えます。」


 それからも会議は続く。戦局全体の動向。大統領からの辞令の最終確認。最終的な部隊編成。

 今日の議題はあらかた出尽くしたところでジラートは周りの将校達に言う。


 「今日のところはここまでにしよう。他になにか気がかりなことはあるか?なければ解散だ。」


 ジラートの言葉にだれもが沈黙で答えたので、ジラートはでは解散と言って皆が席を離れていった。


 誰もが出て行き一人残されたジラートは目を瞑り、今まで一度も口にしていない懸念について考えていた。


 (私を含め誰もがCTRに頼り切っているというのか…。それでは今回の作戦は難しいだろうな。CTR達が機能しなければ、我々が不利だ。それに、機械を受け入れられない敵もより必死になるだろう。そうなれば間違いなく泥沼の戦いになるだろうな。)


 「せめて、二つ名持ちだけでもここで潰しておかなければ・・・」


 ジラートの呟きは虚空に消えていった。




 「隊長。頼んでいました弾薬が届きましたよ。」


 グラバスが報告をする。それを受けてジンテツが口元を緩めた。


 「これで準備は整ったな。後は、奴が出てくるのを待つのみだ。」


 ジンテツは周囲を見渡した。野営地のひとつであるそこは簡易式のハンガーになっていた。夜の闇にまぎれながらもハンガーの中央を光が縦に切り裂き、両脇にスレイプニル隊のCTR計八機が鎮座してそれぞれが最終調整を受けていた。それぞれの機体には従来の装甲に追加で装甲が加えられている。複合装甲はグレンの魔法に耐えうるよう万全の状態に持って行っている。また、レイラ機のみ特殊弾を使用するため、先ほど届いた弾丸を積み込み始めてもいる。


 「隊長、この作戦は我々機械派の勝利へと大きな一歩につながりますよね。」


 グラバスはこの空気にあてられたのか少し熱くなっている。


 「それだけならばいいのだがな。今作戦はロージアではあまり投入されなかったCTRによる大攻勢だ。市街戦と違い死角が全くないがそれでも敵を侮ってはいかん。」


 「…はっ。肝に免じておきます。」


 「よろしい。お前はもう休め、明日は早いぞ。」


 「はっ!隊長もお体にお気を付けください。」


 そう言ってグラバスは駆け足で去って行った。ジンテツはそれを見送ってから、老骨に鞭を打って各隊員のCTRの状態を一日中働いていた整備員達と確認していった。




日付が変わってもロック砦のなかは騒然としていた。彼らにとってここは最後の砦なので突破されるわけにはいかない。そのため、準備は最後まで入念に行うつもりだ。そうして今日も一日誰もが休まずに働いた。その日は作業が早く終わったので皆すぐに就寝した。疲れ切った体で次の日も朝は早いのだろうと思いながら。


 日がまた変わって闇の中に光が射してきた。やがて夜が明け始める。東の空から紅く染まり、丸い光の玉が顔を出す。朝がやってきたのだ。ロック砦内部でも松明などによる明かりも必要なくなってきた。


 ロック砦の正面部分にある物見の塔で見張りをしていた兵士は見張りをしながら朝焼けに見とれていた。


 「きれいだな…。これを見るのも最後になるのかもしれないのがなんとも。」


 そうしみじみと感傷に浸っていた。しかし、日が昇り始める中、大地が黒く塗りつぶされている部分があった。


 「んっ・・・?」 


 それらは波のように上下しながらこちらへやってくる。一瞬陽炎かと思ったがそれにしては黒い部分は大きくなっていった。水平線上の大きさはまちまちだが一際大きい影に見張りの兵士は目を凝らした。


 「あれは機械派の軍勢か。それにあれはまさか…CTRかっ!!」


 兵士がみたのは地平を埋め尽くす機械派。その中でひときわ背の高いCTRの影は何十、何百と水平に散らばっていた。それらすべてがこちらへと向かっていた。それは機械派の軍がここへたどり着いたということを物語っていた。


 「くそっ!!」


 見張りの兵士はすぐさま塔に取り付けてあった鐘を小槌で思いっきり鳴らした。


 カーン! カーン! カーン! カーン!


 虚空に鐘の音が響く。ほとんどが寝静まっているのかなかなか喧噪は起きなかったが、次第にざわめきが広がっていき気付き始めていた。


 「はっ!!」 「まさか・・・」 「なんだ、この音は。」 「これは・・・、敵襲だーっっっ!!!」


 わっ!!と砦内は騒がしくなった。ある者は武器を取りに。ある者は兵器の操作位置についたり。ある者は門の前に駆けていった。


 


 1189年 2月 アイリ・スタ国中央西部 ロック砦付近


この日機械派によるロック砦攻略作戦が始まった。これを速達で受けた魔法派の上層部はロック砦への支援を見送った。その理由は諸説があるが、一番整合性の取れているとされているのはロック砦の包囲は主力軍を差し向けなければ突破できないと判断したからであった。こうしてロック砦の人間達は孤立無援の状態で果てしなき籠城戦を始めた。

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