5話 「前夜」 前編
開戦前夜
追記 敵の規模を変更しました。(CTR500→250)
大隊規模で中隊4つ分。つまり一個大隊にCTRは48機程存在します。
普段はそびえたつ山麗に荘厳な白亜の要塞として近寄りがたい雰囲気のロック砦も今は誰が入ろうとも気にしないほど騒然としていた。皆が皆戦闘の準備をするためだけに駆け回っていた。それはいつものような局地戦の比ではなかった。いつもならこちらが戦場へと向かうため、戦闘要員だけがある程度の余裕を持って準備をし、戦場へと向かっていく。しかし、今回はこちらが攻められ、それによる砦の防衛のために皆が駆け回っているのだ。
ついに機械派が中央部を掌握しようと動き出したのだ。
それは数刻前、機械派の大規模な軍勢が東からロック砦に向かっていると哨戒から連絡が来たことが発端だった。中央戦線が崩壊したため、機械派はいつ攻めてくるのかと、ままならない状況だった。幸いなことに機械派の軍勢がロック砦近辺に到着するまでまだ猶予があった。前線を少し西寄りに下げていた魔法派が哨戒の人数を増やして大規模な侵攻がないかを見張っていたからだ。また、北の最大拠点であったロージアが去年の夏に落とされたため、中央西部に存在するこのロック砦と南部に存在するクロスストリートが魔法派の首都までの最後の防衛線となっていたことも哨戒の人数の増派に関わっていた。
今砦の中を駆け回っているのは戦闘要員だけではない。兵士たちの日常を支える非戦闘要員までが動員されている。ある者は腹ごしらえのための食事を作ったり、ある者は砦の設備や兵器に異常がないかを調べたりしている。なかでも機械派から逃げてきた農民や商人は砦の防護を固めるために、あちこちに外壁を破壊されにくくするために木の板を打ち付けたり、兵士たちの使う道具の作成に取り掛かっている。そこには婦女子あるいは老人しかいない。大人の男達はほとんどが戦闘要員として駆り出されている。それほどまでにここは追い詰められていたのだ。
そんな中、砦のとある一角に建てられた少し大きめの小屋に二つ名を持つ魔法使い達が集まっていた。もちろんグレンもランスロットもいる。
「ついにこの時がきたか。」
そう最初言葉を発したのは戦いたい気持ちを隠しきれない黒衣を纏った「闇の流星」ことジャクマ。
「まあ、予想はしていたけどね。こうなることは。」
このような事態を前にしても調子のいい道化師の「七玉」ことフルルースク。
「だから、早く終わらせてくださいよ。こちらは設置魔法の精製作業に戻りたいのですから。」
効率が大事な貴族風の「氷間」ことヒエール・ランスキー。
「分かっている。だが、お前たちに部隊を率いてもらうような難しいことはしない。」
この集まりの主催者である「剣聖」ことランスロット。
「じゃあ、適当に暴れればいいのか。」
敵を前にいつものどこ吹く風のような態度の「紅い死神」ことグレン。
「これは、なんとも、バラバラですね。」
この砦にいるまだ知られていない二つ名持ちの「聖解」ことディランド。
彼が機械派に知られていないのは、彼が表向きは教会に努める神官だからだ。二つ名持ちはその力を持って常に最前線に現れ、無双をしていく。単体だけとはいえ機械派の被害は甚大になるため機械派は幾重にも偵察網を形成して二つ名持ちの動向を隈なく探っていた。しかし、彼はロック砦に赴くにあたって兵士ではなく神官であるゆえに一般人と同じ扱いを受けていたのだ。それが盲点となり行軍するのではなく馬車の中で過ごしていた彼を機械派の網は捉えられなかったのだ。
CTRを難なく倒せる二つ名持ちが砦の中でここに全員集まっているのは、これから来るだろう機械派のCTRの大部隊の対しての作戦会議をするためであった。しかし、
「お前たちはいつも通り、前線で好きなように戦い、帰ってこい。自由に動くことこそが、魔法派の勝利に繋がる。」
この中で一番位が高いランスロットが言ったことの内容は非常に原始的だった。それは、作戦と呼べるようなものでもない。それに対して二つ名持ちは
「最前線とは願ってもないことだぜ。」
「今回も私の劇を披露できますね。」
ジャクマとフルルースクはお互いに指し示すまでもなくにやりと笑った。
「私はあまり前には出たくないのですが、私がいなければ前線は成り立ちませんからね。行きますよ。」
「ランスキー、お前は消極的すぎるな。もっと前で暴れようぜ。」
「いや、あなたがおかしいのですよ、グレン。私もランスキーと同じくどちらかと言えば後衛ですし。」
後衛であるランスキーとディランドは不満を口出す。逆にグレンは前線で思いっきり戦えるからか上機嫌だ。その様子を見たランスロットは、
「ランスキー、ディランド。お前たちは基本的に砦の連中の支援を任せるぞ。」
「分かりました。」
「面倒ですけど引き受けるしかないか。その代わり、あなたに前線の兵士の指揮を全部任せます。爵位持ちですからね。」
「分かっているが、俺一人でどうにかなるものじゃない。他の爵位持ちが出張って来るだろう。でもこの状況じゃそうも言ってられないか。」
ランスロットも分かっていたことに不満を漏らさずにはいられない。今ロック砦にいる部隊はほとんど混成部隊だ。敗戦に敗戦を重ね部隊として機能しなくなった兵士達を指揮するのは優秀かまたは新顔なのかである。
「頼みましたよ、あなただけがこの中で有一指揮官の役割を果たせますので。」
そうディランドはフォローする。
ディランドの言っていることは最もだった。なにしろ二つ名持ちの前衛は多くが前線志望であり、後衛も一人で戦う方がやりやすいとまで言うのだ。そんな中ランスロットは数少ない貴族でありなおかつ実力も兼ね備えてる。その指揮に逆らえるものは少ない。
「とりあえず、作戦会議は終わったな。じゃあ、俺は摩道具を取りに行く。」
そう言ってジャクマは出ていく。
「私も同じく。せいぜい楽しみましょう。」
続いてフルルースクも出ていく。
「なっ、私より先を越していくとは…くっ、あなた達、覚えておきなさい!」
一番時間を気にしていたにも関わらず、先を越されてしまったランスキーはすぐに後を追いかけるように出ていく。
残された三人も出て行こうとしたが、ディランドがグレンとランスロットの足を止めた。
「待ってください、二人とも。」
「んっ…なんだ?」
「すでに伝えることはすべて伝えたはずだが。」
「いえ…ですが・・・。」
ディランドは言葉を濁した。しかし、このような非常事態に悠長にしている時間はないので、すぐに決心をして二人に聞いた。
「あなたたちは、敵の規模がどれほどのものか分かっているのですか?」
ディランドは今回攻めてきた敵がCTR大隊が五つ以上、250機にも及んでいると聞いていた。さらに戦車と自走砲を組み合わせた機甲師団がいくつも存在しているらしい。その兵力はロック砦の戦力を大きく超えている。しかし、その情報は上層部の方で握りつぶされた。もしこのことを皆に伝えたのならば士気が低下することは目に見えており、さらに敵前逃亡しかねなかったからだ。
それをディランドが知ることが出来たのは、神官故に悩みを多くの人から聞くことが出来たからである。時に、貴族のいざこざから現状を把握できていた。しかし、目の前の二人は、特に騎士であるランスロットはこのことを知っているはずだ。それでも、前線に出るという心境を聞きたかった。
「そのことなら知っている。だが…それがどうした?」
「なっ・・・。」
ディランドは言葉を失った。目の前に迫っている死神にものともせずかのようにランスロットは言ったのだ。そしてグレンも
「500だろうが、1000だろうが倒せるのなら多いに越したことはない。」
ランスロットとは違った狂気を感じた。だが、この二人に共通することは、二人は別々の方向に狂っていたことだ。それは、まるで行き急いでいるようだった。だが、
「心配はしなくてもいいぜ。ちゃんと生きて帰ってくるさ。」
グレンはこちらの考えを見透かしたかのように言った。その言葉に私だけでなくランスロットも一瞬だけたじろいだ。しかしすぐに、何か思い当ったのか言った。
「・・・そうだな。死にに行くのではない。守りに行くのだ。」
その言葉を私が聞いたとき、この二人もまた形は違えど「魔法」を守ろうとしているのだと分かった。疑ってしまったことを謝罪してからディランドも覚悟を決める。
「少し…嫌なことを聞きましたね。すいません。でも、私も死ぬ気をありませんよ。」
そういって自慢の杖を取り出して誓うように掲げる。
「いいね、そういう決意に満ちた目は。」
グレンも愛刀を抜き杖に合わせるように掲げる。
「「勝利を」」
「用は済んだか。ならとっとと行くぞ。」
微笑ましくも呆れているランスロットが二人を促す。それに二人が応える。
この三人の決意はこの戦いにどういう結末をもたらすのかはまだ誰も分からない。




