4話 「鋼鉄の軍馬」 後編
カシャッ、ピッ。ジィィィ・・・ザザッ。
ジンテツが記録媒体を再生装置に入れ、液晶の画面をつける。少しの間テープが擦れる音が聞こえると、画面が一瞬白黒の模様になり次には鮮明な色の付いた映像が映し出された。
映像は、一人の少年が映し出されるところから始まった。少年が砂利を踏むような音が聞こえてきそうなほど少し勾配のある坂を一歩一歩登っている。周りは土が荒れていて閑々としていていた。命が乏しい光景に少年以外で動いている生き物はいない。少年は黙々と坂を登っていき、ついに頂上に着くか着かないかというところで立ち止まった。少年は何かを見つけたのかその場に伏せて、息を殺して静かにしていた。
ふと少年の先にある頂上の地表より上空をみると、
「ギアェェェ!!!」 「グェェェ!!!」 「ゴルァァァァァ!!!」
おぞましい雄たけびを上げるドラゴンの群れが100、200、それ以上の数が群れをなして飛んでいた。いや、飛んでいるなどという生易しいものではなかった。ドラゴン達は飛びながらもお互いを殺し合い、食い合う狂気の世界がそこにあった。そこに存在しているドラゴン達は皆一様にくすんだ色をしており、また凶暴ではないドラゴンはいなかった。彼らはすべてが魔物であり人の手には余りまくる存在であった。しかし、そこには時々、はっきりした色のドラゴンがどこからともなく現れ、圧倒的な力で他のドラゴン達を蹴散らし、しばらくすると物足りたのか去っていく姿が見えた。
「魔界」
たくさんのドラゴンがおり、殺しあっているこの場所はそう呼ばれている。さらに、ここだけでなく、少年の見ている先の大地は、空は、世界はすべて魔界なのである。
魔界に人は住めない。それほどまで混沌としていて、闘争に満ちているからだ。 また、人の住める場所(これを「人間界」と呼んでいる)にはいなくて、魔界にはいる存在として「レジェンズ」が何十万といるとされているからだ。
なぜ、絶対的な力を持つレジェンズが何十万と存在できるのか。本来ならば食物連鎖の頂点に立つレジェンズは数が少なくてはならない。しかし、レジェンズの数は人間の数に匹敵していた。
それは、レジェンズが意思を持ち、また魔物と違って知識を蓄えることが出来る存在だ。しかし、生物学上同じ固体が存在しない。また魔物のように同じ性格同じ意思を持った同じ固体が何百と存在しているわけではない。神として生まれたのならば同じ個体は存在し得ないが、下位のレジェンズ達は同じ個体でありながら全く違った力を持ち、性格も異なってくることが多い。
なぜならばレジェンズ達は人間と同じように生きていると言ってもいい。出会いや別れがあり、お互いに愛し合い、子供を育むことが出来るからだ。それを多くの人間達は知らないが。
そんな人間が人間界を支配しているようにレジェンズ達が支配している魔界においても魔物は存在し、お互いに血みどろの争いを繰り広げている。それ故に混沌だ。
そんな人間達が関与出来ない、したくない場所にいま少年が踏み込んて行く。
「えっ。」
撮影していた偵察員の声が漏れたが気にしない。
少年は頂上にのぼり立つと、なにかをするわけではなく、ただ立っていた。しかし、少年は目の前の光景を目にしても動じてはいなかった。そんな少年を手ごろな獲物と見たのか、少年の先、ちょうどはぐれていたドラゴンが少年に襲い掛かる。その顔はぼやけてよく見えなかったが明らかに狩人の目をしていた。そして、次にはその巨体を少年に向けて、羽ばたかせた。それを見ればだれもが自らの運命を呪い絶望する光景だったが、少年はそれでもまったく動じていなかった。ドラゴンは猛然と少年に近づいていく。
そして急降下から少年に喰らおうと口を斜めに大きく開けて噛み付こうとした瞬間、少年はドラゴンの口の範囲から素早く右に避けた。その動作は軽やかで優雅だった。少年は姿勢を崩さず、ただのステップでドラゴンの顎の範囲から逃れたのだ。
そして避ける際に左腰に差してあった鞘から刀を右手で抜いて、最初に足をついた左足に力を入れ次についた右足で踏ん張り届くはずのない翼に一閃。すると、刀から巨大な刃が現れ宙を裂きそのままドラゴンの翼も裂いていった。刃は右翼の中腹から先端までを断ち切った後見えなくなった。
さらに少年はステップをして着地した後、右足を捻り、左足を後ろに振って勢いをつけると、今度は右腰に差してあった鞘から左手で刀を抜き、後ろに倒れるように回転しながら真横に一閃。するとちょうどそこに翼を切られドラゴンの苦痛に歪む顔が通り過ぎ、首に差し掛かったところで、刃がドラゴンを捉えた。少年の振った刀はドラゴンの首を易々と断っていき、刀を振り終える時には、ドラゴンの首は半分以上が千切れて分かたれていた。首からはどす黒い血が体内で循環することなく行き場を外へと向け、大量に噴出した。
刀を振り終わった少年は身体を回転させた力を使って斜め前転してドラゴンからさらに距離を取った。この時、少年の手に持っていた刀は自分の体に当たらないように最小限の動きで動かした。一瞬もすればドラゴンの足が、残った右翼がいままで少年がいた場所を通り過ぎた。そして地鳴りを上げながら地面に激突し、土煙を上げながらそのまま動かなくなった。
少年はなんてこともないようにすぐに立ち上がると、今度は向こうから3体ものドラゴンが少年に向かってきた。そのドラゴン達はいま絶命したドラゴンの過ちを学ぶことなく魔物であることを示すようにむやみに突っ込んできた。
それに対して、少年は抜いた刀を半回転させ逆手でそれぞれの鞘に納めて、再び立ち尽くしていた。ドラゴン達はお構いなしに突っ込んでくる。そしてドラゴンと少年の間合いが20mを切ったとき、少年はいままで隠していたのか左右のドラゴンの進行方向にそれぞれ魔法陣を展開された。その魔法陣の色は赤。そして等級は下級だった。赤色の魔法陣は炎を構成する。下級魔法の規模はせいぜい人間を仰け反らせる程度の力しかない。
なぜそれなのかと疑問に思うが、しかし、その魔法陣が光り、ドラゴンがちょうど真上に来た時に発動したのはドラゴンを覆い尽くすほどの炎の竜巻だった。その火力も凄まじく火に耐性を持つドラゴンですら苦しんでいた。そして身を焼かれた二体のドラゴンは瞬く間に黒焦げとなって断末魔をあげながら絶命した。その間に中央の一回り巨体のドラゴンは一気に少年に近づき、少年を喰らおうと口を開けた。そして少年を捉え、噛み砕いた。かみ砕いたはずだった。
巨体のドラゴンが通り過ぎた後、そのドラゴンは噛んだ感触がなかったのか何度も歯を合わせた。しかし、それでも人間の肉や骨の感触はなかった。疑問に思って首を少年がいた場所に向けようとすると、体がずれた。足を踏んで踏ん張ろうとするがそれでもずれが止まることはなかった。足にも力が入らなかった。そして自らの身体が両断されていることにも気づかず、意識が途絶え、ついには絶命した。
少年は先ほどいた場所からさらに前に移動していた。それは目に捉えられぬ速さで、一瞬残像が出来る程捉えたと錯覚していたのだ。その速さで少年は刀を抜刀術の要領で振った。その一撃はドラゴンには捉えることも知覚することさえも許さなかった。刀の抜き始めから、振り終わりまでの間がほんの刹那のできごとだったのだのだ。その一瞬で少年はドラゴンの身体を両断した。
四体のドラゴンを倒しても、少年は余裕を崩さなかった。しかし、それを見ていた他のドラゴン達は、得体の知れない恐怖を少年から感じたのかその付近から離れていった。その行動に少年は息をついた。それは物足りないと思っているように感じられた。
そして、ドラゴンが去ったのを見届けた音殺したドラゴン達からいくつか使えるものを剥ぎ取っていく。ドラゴンの爪や翼、牙、肉、骨、様々な部位が重宝されている。そのため、こうしてドラゴンを倒したのなら取れるだけとっていく。しかし、少年には四体分の素材は持ち帰れないので、手持ちがいっぱいになったなら、手に持てるだけの肉を剥ぎ取り、自らの魔法で焼いていく。魔法の火力はちょうど良いらしく、いい感じに焼けた肉が次々と出来ていた。
その肉を少年はしばらく堪能していた。ドラゴンの肉は栄養があり、血は身体の血行を良くしてくれると噂されている。その肉を食べ終えると周囲の掃除を魔法で焼くことでして、ようやく来た道の坂を下っていく。
その最中、いつから気づいていたのかこちらを向きフッと小さく笑った。その笑顔はまるで獲物を見つけて舌なめずりをしているかのようだった。
「ひいいいい。」
ザザッ、ザッ。ジィィィ・・・カシャン。
少年の微笑を最後に映像が途絶え白黒の線になった後、テープの音は途絶え画面は真っ黒になった。
記録された映像を見終えたスレイプニル隊の面々は言葉を発しなかった。今見た内容をどこまで信じればいいのか分からなかったからかもしれない。もしくは、それと戦わなければいけない自分に恐怖したのかもしれない。そんな暗くて不安な面持ちの隊員たちの中、ジンテツは言う。
「これが、「赤い死神」の実力か…。まだ力を隠しているとはいえ、強いな。」
その言葉にスレイプニル隊の面々は一層悲壮感を漂わせてきた。
「こんなあっさりとドラゴンを倒せるやつと戦うのかよ・・・」
「それに、彼はまだ子供よね…あの歳であそこまでやれるのは異常すぎるわよ。」
「た、隊長…今からでも遅くありませんよ。命令の変更か、さらなる増援を要請しましょうよ。」
「まったく・・・臆病なぐらいがちょうどいいが、今回のような重要な作戦のもっとも厄介な相手を私達だけですることに意味があるんだぞ。」
「「「隊長…」」」 「准将閣下。」 「ジンテツ隊長!」 「閣下…」 「ジンテツさん…」
九人が自分に視線を向ける。
「今回の作戦は俺達だけで奴を仕留める。そのために策も武器も技量もなんでも使おうじゃないか。そして、奴を倒し私は「鋼騎」を名乗ろうではないか。」
「おおっ。」
隊員たちの目に輝きが戻る。グラバスも
「隊長のためならいつでもどこまでも何にでもお供します。」
「そこまでせんでもいいわ…」
「そ、そんな・・・」
「「はははっ!!」」 「ふふっ。」
グラバスの摘心的すぎる言動がジンテツに突っ込まれたので皆が笑う。
そうだ。この雰囲気こそがわがスレイプニル隊だ。
「では、まずはお前達がたるんでないか模擬戦で確かめる。時間は有限だ!!急げっ!!」
「えっ。まさか、あの鬼教官が再び指導するなんて…」
「つべこべいわずに行くぞ。」
そう言って鬼教官と言った暢気なアントニオを引き連れて部屋を出て行った。それに続いて、残りの十人も満更でもない様子で部屋を出て行った。




