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6話 「それぞれの戦場」 前編

 大地を黒く埋め尽くす大砲から砲音が轟く。それが絶え間なく断続的に響いているので、さながら祭りの大太鼓を叩いてるかのような戦場だった。自走砲から放たれた砲弾は曲線を描きながら砦に向かって、数秒後には爆発による着弾を確認する。観測員による報告をうけたら、次弾を装填するまでは仰角を調整し、次なる目標物へと狙いを定める。

狙いやすい獲物を数多の自走砲を操る砲手が躍起になって探している。お互いが無駄なく砲撃を繰り出せるよう指揮官がそれぞれ自分の砲撃地点を口にだして砲手に、聞こえるのならば味方に伝え合う。そうして放たれる砲弾の雨で砦からはいたるところで煙が上がり、火の手が回り始めようとしていた。



 「熱いぃぃぃ!!」


 「西側の守りが薄いぞ。厚みを増やせ。」


 「戦闘は始まったばっかだぞ。倒れているんじゃねえ!!」

 

 砦内部は熱気に包まれていた。砲撃が開始されてからすぐ火の手が上がり始めたからだ。

魔法使いは、基礎的な魔法として、防御魔法を扱える。それは砲弾だろうと防げる優れものだ。しかし、個人レベルでしか守れないので数にモノを言わせてくると弱い。

 こちらの防衛兵器は敵の自走砲まで届かない。ましてや、並みの魔法使いなど超長距離戦はもってのほかだ。非戦闘要員が火を消し止めようと駆け回って水をかけている。焼け石に水ではあるが、それでも敵の砲撃は止むことなく、再び砲音が聞こえる。

 誰かが声を上げ周囲に伝える。それを聞いた全員がしゃがみ、着弾に備える。しかし、何時まで待っても着弾はしなかった。恐る恐る上を見てみると、氷の膜が砦全体を包んでいた。その膜で砲弾は爆発していて砦までは降ってこなかった。


 「アイス・プレリュートス!!」


 ランスキーが自ら駆け回って苦労して砦に施した防衛魔法を唱える。それは砦のあちこちにいくつも仕掛けられた魔法陣がお互いに繋がり合い一つの巨大な魔法を作り上げるものだった。それは「氷間」と呼ばれる所以でもあり、ランスキーだけが使える防衛用の上級魔法だった。


 「まったく、これだけの出費は痛いですから無事に生きて戻れたら請求しなくては。」


 魔法を発動させることにランスキーが愚痴を言うのには理由がある。

 それはこの魔法がランスキーだけでは魔力が足りずに発動しないからだ。だから媒介としていくつかの魔法器具で魔力を補っている。そして魔法が力を失い消滅すると同時に魔法器具も魔力を失って、使い物にならなくなってしまうのだ。


 魔法器具はお金がかかる。ランスキーは戦争前までは貴族だったため、自前の財産で蓄えていた。それでも、無駄にはできないと効率を重視するよう周囲に厳しく当たるので、このようなことを言ったのだ。


 ランスキーは躊躇わなかった。いや、躊躇いはしたがすぐに振り切ったのだ。自分が砦を守り続ければ、他の連中が全力で敵を叩いてくれるだろうと信じで。それは自分が安全圏に居続けられることでもあったから。



 砦が砲撃されているのは主に中層から上層区だった。最初期の段階で下層の方は長大な壁によって阻まれていたおかげで被害は比較的少なかった。そんな最下層の砦の内と外を繋ぐ門の前に2000人もの兵士たちが集まっていた。ランスキーを除く二つ名持ちの5人もいる。彼らはこれから打って出て敵の自走砲を破壊しようとしていた。


 「敵は今回、CTRを大量に投入している。おそらく二つ名持ちだけでも対処しきれないだろう。」


 この中のまとめ役であるランスロットは皆の前に立ち、言った。その言葉に兵士達は、分かりきっているのでざわめきは起こらなかった。


 「だから、まず私以外の二つ名持ちが突っ込む。少数による速度を活かして砲兵群に肉薄し、撃破する。」


 ランスロットが決められていた作戦を今一度確認する。それに、兵士達の隊長たちが応える。


 「二つ名持ちがCTRと接敵する前に自走砲をすべて破壊できた場合は、私たちは門から出たらすぐに共同してCTRと戦闘に入る。二つ名持ちが自走砲を破壊しきれなかった場合は我々が残りを叩く。そして、その後にCTRを迎撃する。今回は総力戦だ。少数では物量に押し負ける。各々全力を尽くせ。期待しているぞ。」


 「おう!!!」


 それを聞いたランスロットは最前列にいる二つ名持ち達の方を見る。


 「お前たちは緒戦で死ぬなよ。貴重な戦力だし、数少ない戦友なんだからな。」


 「分かってますよ。」


 「そうだ、余計なお世話だっての。」


 「私は死なないよー。」


 それぞれがそれぞれらしい受け答えをする。


 「はっ。お前こそ死ぬなよ、ランスロット。」


 そんな中グレンは鼻で笑いながらもランスロットの心配をした。


 「肝に免じる。…時間だ。」


 予定されていた時刻になったことを部下が伝える。それを受けてランスロットは合図を出す。


 「いけっ!!」


 ランスロットが手で合図を出すと門番が頷き傍にあるハンドルを回す。すると門が開いた。二人か三人通れるぐらいまで開くと二つ名持ちの四人はすぐさま門から飛び出し、一直線に自走砲へと向かう。二つ名持ちが四人出ていくのを門番が確認するとまた門が閉められた。次に門が開くのは、彼らが接敵をした時だ。




「敵の二つ名持ち達が出撃しました!」


 その報告を空中の飛行機の観測員から聞いた司令部はすぐさま各CTR大隊に連絡を取った。しかし、観測員からの続報は予想していたものとは違っていた。


 「二つ名持ちは四名。確認できるのは「闇の流星」、「赤い死神」、「七玉」です。後のもう一人はデータにありませんが恐らく二つ名持ちだと思われます。それで、二つ名持ち以外の魔法使いは見当たりません。」


 「なんだと?」


 司令部は釈然としない思いで包まれた。調査結果と合致しない二つ名がいたことも驚くが、いくら二つ名持ちが強いからといっても4人での突撃は無謀にもほどがあった。それでもジラート司令官は命令を下す。


 「何かの策かもしれないが、自走砲部隊を見捨てるわけには行かない。直ちに担当する各部隊は出撃せよ。」


 「はっ!」


 そう応えて二つのCTR大隊隊長と予備のCTR一個大隊隊長、そしてスレイプニル隊隊長は司令部を辞する。


 自分の部隊の待機場所へと足を運ぶジンテツは高揚していた。


 「(ついに奴と相見える時がきたか。 願わくば、いままでの成果を存分に発揮させてもらうぞ。)」


 そう虚空に願った。




 ジャクマとグレンは自らの身体を魔法で強化して一気に群れをなしている自走砲の一団がいるであろう場所へと詰め寄った。道中、歩兵などから銃弾が打ち出されたが、二人は自身が得意とする闇と炎の魔法で自身の周囲に壁を作り防いだ。逆に、ジャクマは闇の槍を生成し打ち出す。グレンは炎の玉を十個近く作り、ばら撒く。


 闇の槍は歩兵達を貫いて直進していく。貫かれた兵士達は胸を圧迫されたような苦しみを覚え倒れていく。闇の属性には触れた者を呪わせる力があるのだ。

貫かれた兵士達は呪われて、しばらくは苦しむことになる。

一方、炎の玉は戦車の近くに落ちると爆発して周辺を火の海に変えた。戦車は火の海の中でゆっくりと燃えていく。車内は業火に包まれ、熱さから逃れようとしたのか上部の蓋を開けて乗員が出てきた。しかし、その努力も空しく乗員は車両から燃え盛る炎に呑まれ断末魔をあげながら尽き果てた。


 「いまですよ、フルスク!」


 「わかってるよー。」


 そうして二人の魔法によって空間が開くと次にフルルースクが「七玉」の由来でもある七つの玉を魔力で浮かして周囲に展開した。それぞれの玉には属性があり、一定量の魔力が込められている。それらをフルルースクは今回支援魔法のために使った。


 青色と白色、緑色の玉が輝いて、四人の周りに薄いベールが三層にも重なって纏わった。それぞれ、青は水による浮力で打撃を軽減してくれ、白は光による神聖な力で肉体の傷を和らげてくれ、緑の風の力は弾丸を吹き返してくれる。


 これらの支援魔法のおかげでジャクマとグレンの二人は自身の魔法と相まって特に被弾を気にすることなく思いっきり暴れることが出来た。しかし、これには弱点もある。それは魔法を維持し続けるだけの魔力をフルルースクは持っていないことだ。フルルースクが展開している玉は、使える魔法は多いが玉自体の魔力保有量が少ない。今、支援魔法を三重に重ねがけしているが、3つの属性をお互いに干渉し合わせて一つの魔法にしているので、制御するだけでもかなりの魔力を使い、せいぜい持って15分程度だった。七つ全てを重ねがけすればその膨大な消費量により1分が限界だった。だからこうして、敵の目前まで迫ってから使うことで最大限の効果を発揮させるようにしていた。


 「おまけに、これでも食らうがいい!!」


 さらに、フルルースクは青、白、緑の玉を使った三つの支援魔法に加えて別の玉を使って攻撃魔法も唱えていた。これは支援魔法に使っているやり方とは別物で一回一回魔力を込めて打ち出している。支援魔法は継続するため一度使ったら魔法が切れるまで込めることはできなかったが、攻撃魔法は、玉に魔力をそれほど込めなくてもいいので魔法を唱えたらすぐに魔力を補充してまた唱えることが出来た。それでも敵の歩兵を倒さなければいけないので疲弊することはたしかだった。体力に自信のあるジャクマとグレンはともかくフルルースクとディランドは純枠な魔法使いであったため、長期戦は不利と見て迅速に四人は行動した。


 「彼の者達を癒しなさい、ラウンドヒールっ!!」


 ディランドの言葉に二つ名持ち達の周囲に光が降り注ぐ。その光は彼らが負ったかすり傷すらも治していく。ディランドは彼らの治療に徹していた。その理由は彼がこの中で最もうまく治癒魔法を唱えることができるからである。血を止めることは様々な属性の魔法で出来るが、傷を塞ぐことまでできるのは光属性の回復魔法だけだった。


 フルルースクも当然光属性の魔法を使えるが、彼の魔法では効率が悪すぎるのだ。なぜならば、治癒魔法は時間を掛けて行うため傷を治すことを一瞬で出来ないからだ。支援魔法は掛けてすぐに効果を発揮するが、時間を掛けて行う魔法を攻撃の要が使うことは無駄だと判断しているため、事前にフルルースクには支援魔法だけを使うよう命令されているし、本人もそう判断している。


 ディランドは常に味方の後方に位置しているため治癒魔法を使う以外の消耗は少なかった。そのため、味方が敵を排除してくれるおかげで自分への注意が少なく、戦場を見渡すことが出来たので、常に他の三人に指示をだして導く。


 「自走砲を見つけました!! 正面左手。距離500mくらい。グレン、ジャクマ、一気にお願いします。」


 「分かったぜ。」


 「おう。」


 「サーペントクイック!」


 ジャクマはその身にフルルースクのベールに加えて漆黒の衣を纏った。その魔法は敵から視認し辛くなる程自らの存在を薄め、さらに空気抵抗を減らし素早く動くことが出来るようになる魔法であった。そうして、敵が反応するよりも早く駆け抜け、自走砲の一団の中で一番遠くにある自走砲を目指した。反応が出来た兵士達もいたが、しかし、その行動にあるもう一つの意図に、遅れて反応した兵士達も気付かなかった。


 ジャクマが敵の注意を惹き付けている間今まで縦横無尽に動いていたグレンは立ち止まり、抜いていた刀を一度納めて、抜刀の構えになった。この間にも周囲の敵の銃弾に晒されるが、フルルースクの魔法とディランドの支援により被弾する心配もなく行うことが出来た。グレンは抜刀する際に、腰を少し落とし、足を踏み込んだ。そうすることで巨大な質量を放った反動を軽減しようとしたのだ。


 「グレン式一刀流奥義参ノ型、覇黒(はごく)!!!」


 普段は叫ばないグレンが思いっきり叫んだ。それは、大技を発動させるための合図だった。今、グレンの抜こうとしていた刀の鞘の口からは紅く煌めいた炎が覗かせた。それはほんの一瞬で、次の瞬間には刀を振り終え、振った剣尖からは巨大な炎の刃がすべてを焼き尽くすように進行方向上の大地を、人を、戦車を飲み込んだ。その凄まじさは砦からでも確認できるほど巨大だった。後に残るのは焼き焦げた大地と溶けた鉄塊だけだった。


 「ははっ、すげえなこれは、いつ見ても。」


 ジャクマはあらかじめこれが来ることを知っていたのでグレンの狙っていた方向とは違う場所を目指していた。しかし、その威力を目にして、恐怖を感じずにはいられなかった。 しかし、自分の役割である自走砲の破壊を忘れてはいなかった。今のグレンの技で機械派の連中は気を取られている。その隙をついて自走砲を破壊する。


 「ダークボンバー!!」


 ジャクマは自身の両手で闇の玉を作り出し、それを自走砲目がけて放り投げた。




 「接敵を確認しましたー!!」


 そう砦の観察員は言った。それを聞いた門の開閉者は門を開け放とうとする。ランスロットは皆に合図を送り、一斉に人々が動き出した。門から次々と兵士達が出てくる。先頭をいくのはランスロットだ。そうして戦闘要員全員が出ると砲撃による被害を抑えるため再び門が閉まった。


 「まだ、CTRは来ていない!!奴らが二つ名持ちに注意を向けている間に前進だーーー!!」


 ランスロットは叫びながら駆ける。2000にも及ぶ人数全員に命令を行き届かせることは時間的に不可能だ。だから自らが前に出て後続をついて来させる。一番前に出ることは一番命が危険にさらされ、それでいて信頼できない者であったならば命令に背かれて、続かないこともある。しかし、貴族であり騎士であるランスロットだからこそ死ににくく、なおかつ従ってくれるのだ。後続の兵士達もランスロットについて行くとあらかじめ決めていたので迷わず続く。


 彼らは皆自身に強化魔法を施して走っていた。その大移動は武装した牛の大群が駆けていくかのようだった。馬を使えばこんな馬鹿なことはしなくていいと思われがちだが、機械派との戦いにおいてそれは愚策だ。


 なにしろ、馬は敵の銃弾を一発でも食らえば倒れ、騎手がその下敷きになる危険もある。また、馬にまで強化魔法をかけると騎手の魔力消費が二倍になったり、敵の砲弾を防げるほどの魔法を、走りながらの馬では安定しないので発動できなくなることも挙げられる。そのため自らが駆けたほうが安全なのだ。しかも、今回は大勢の魔法使いがいる。お互いが一致団結し助け合うことで敵の銃弾やこちらに目標を変更した自走砲や戦車による被害がかなり軽減されていた。




機械派の軍勢の後方。二つ名出現の報を受けて、CTRの各部隊を出撃を開始していた。しかし、すでに自走砲に手をかけられていると聞くと、驚きが広がる。


 「おいおい。ほんとに二つ名持ちだけで自走砲部隊が全滅させられそうじゃないか。」


 CTRのコクピットに備え付けられているディスプレイに映った様子に前線に出たCTR大隊の大隊長の一人が言う。


 「それだけ化け物なら、大隊規模でやるのもあながち間違えじゃなかったな。」


 「まったくだ。」


 「ふふっ、お手並み拝見というところかしら。」


 「油断するな。ただ、敵を討つのみだ。」


 そうそれぞれの隊長が短くやり取りをすると操縦している機体をさらに加速させた。後続のCTR達も隊長達について行く。その光景を見たならば先ほどの魔法使い達が牛であってもCTRの大移動は圧倒的暴力を持つ象の群れのようだった。

攻略戦開始。2,3話続くと思う。

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