幻影アバターの『解釈違い』は許しません!〜私のデザインに対するこだわりが、ヤンデレ公爵の性癖を完全論破しました〜
中庭に私の『実物大・特大クリスタル像(修正版)』を錬成し、自作自演の嫉妬でそれを地下に埋めようとした騒動から数日。
私の「本物の私に触れてください」というコマンドによって物理的な彫像作りを諦めたユリウス様は、よりエコで安全な『幻影魔法(3Dホログラム)』による愛情表現にシフトしていた。
「リリア! 今日の執務の合間に、素晴らしいものを構築したぞ!!」
執務室に呼ばれた私の前に、ユリウス様が得意げな顔で空中の魔法陣を展開した。
そこには、光の粒子で形作られた、美しく精巧な『もう一人の私』がフワフワと浮遊していた。
「これは……私?」
「うむ! もし君が私と共に世界を旅するSランク冒険者だったなら……という『if』の世界線をシミュレートし、完全な幻影モデルとして出力したものだ!」
なるほど、確かにマントを羽織り、軽傷な防具を身につけたその姿は、凛々しくて少しカッコいい。
ユリウス様の底なしの魔力と執念によって、服のシワから風に揺れる髪の動きまで、恐ろしいほどのクオリティで再現されている。
しかし。
その幻影アバターの周囲をぐるりと一周して観察した私は、腕を組み、スッと目を細めた。
「……あの、ユリウス様」
「なんだリリア! 自分のあまりの可憐さに、言葉を失ったか!?」
「いいえ。いくつか指摘事項があります」
私はビシィッ!と幻影アバターを指差した。
「まず、このアバター、動くたびに『瞳』と『髪』の色が微妙に変わっていませんか? 光の加減をごまかして、色が安定していません。元の私のデザイン設定からブレています」
「そ、それは……君の美しさを表現しようとする私の魔力が、色彩の限界を突破して虹色に発光しようとしている余波で……!」
「ダメです。設定したデザインのビジョンに対する『一貫性』を保ってください。瞳と髪の色は、しっかりと元の色で固定すること」
「クゥン……!(は、はい! 修正します!)」
私の厳しい指摘に、ユリウス様は慌てて魔法陣の術式を書き換え、アバターの色彩を完全に固定した。
「そして、もう一つ。……これが一番の問題です」
私はさらに一歩アバターに近づき、その『足元』を指差した。
「なんでダンジョンを探索する戦闘用の服装なのに、足元が『サンダル』なんですか!?」
そう。上半身は完璧な冒険者の装いなのに、なぜか足元だけが、つま先が完全に露出したラフなサンダルだったのだ。
「なっ……! なぜならリリア!」
ユリウス様はバッ!と胸を張り、信じられないほど堂々と言い放った。
「戦闘服という禁欲的な装いの中で、唯一無防備に露出した君の『美しく可憐なつま先』! これこそが、私の胸を焦がす至高のギャップだからだ!! 幻影の中でくらい、君の素足を堪能したかったのだ!!」
「そんな個人的な性癖をデザインに持ち込まないでください!!」
私は持っていた扇子で、ユリウス様の胸板をペチン!と叩いた。
「そもそも、ダンジョンを歩くのにサンダルなんてあり得ません! 石につまずいて怪我をしますし、全体のデザインビジョンがそこだけ浮いていて『解釈違い』を起こしています! 全体の美しさを損なうノイズです!」
「だ、だが! 防御力など、夫である私が完璧な魔力障壁を張って守り抜くから……!」
「そういう設定の問題じゃありません! 見た目の説得力と、デザインの一貫性の話をしているんです! 今すぐそのサンダルを削除して、きちんとした革のブーツに変更してください!」
私が一切の妥協なく「作り手(妻)」としてのこだわりをぶつけると。
ピタァッ。
ユリウス様は雷に打たれたように硬直した。そして、彼の青い瞳に、今まで見たこともないような『尊敬と歓喜』の光がブワァァァッ!と燃え上がった。
「おおおおおおおっ……!!!!」
「ちょ、また黄金のオーラが出てる……!」
「素晴らしい……! ただ私の愛を受け入れるだけでなく、自らの確固たる『美学』と『ビジョン』を持ち、それを私に突きつけてくる! なんという気高き魂! なんという完璧な解釈!!」
ユリウス様は両手を天に掲げ、感涙を流しながら叫んだ。
「君の言う通りだ! 私の浅はかな性癖など、君の崇高なデザインビジョンの前には塵芥に等しい! 今すぐ完璧なブーツを錬成し、君の解釈をこの世界に顕現させよう!!」
「……記録。義姉上が『猛獣使い』から、妥協を許さない『敏腕アートディレクター』へとクラスチェンジしました。従兄殿は完全に論破されています」
執務室の隅で、ソフィア様がバインダーに花丸を書き込んでいる。
「いや、まさかあの狂犬の性癖を、デザイン論でねじ伏せるとはな……。俺の胃薬の消費量も、今日は少なくて済みそうだ」
シリル様も、感心したようにホイッスルを懐にしまった。
「――よし! 修正完了だリリア!!」
数分後。
ユリウス様の魔法によって更新されたアバターは、瞳と髪の色も完璧に固定され、足元には世界観にぴったりと合った、編み上げの美しい革のブーツが履かされていた。
「うん、これなら完璧です。すごくカッコよくなりましたね」
「至福……!! リリアのアートディレクションを受けたこの幻影こそ、我が公爵家の新たな国宝だ!!」
私が満足げに頷くと、ユリウス様はまたしても幻覚の尻尾をちぎれんばかりに振りながら、私の足元で歓喜のスライディング土下座をキメた。
「(……まぁ、結果的にサンダル姿を見られずに済んだし、いっか)」
自分のデザインに対するこだわりが、まさかヤンデレ公爵の暴走を止める(別の方向に爆発させる)とは思わなかったけれど。
足元で「次はどんな衣装のアバターを作ろうかご主人様!」と目を輝かせている彼を見て、私は呆れながらも、次も容赦なくダメ出しをしてあげようと密かに決意するのだった。




