私の『三面図』に愛がバグを引き起こしました!?〜重複した尻尾と指の数を今すぐ修正してください!〜
ユリウス様が子猫に本気の嫉妬を燃やし、私が「あなたはたった一人の旦那様です」と宥めてから数日。
私への愛をさらにこじらせた(深めた)ヤンデレ公爵は、新たな愛情表現の手段として、とんでもない計画を立ち上げていた。
「リリアァァァッ!! 見てくれ!! ついに完成したぞ!!」
執務室の扉をバーン!と勢いよく開け放ち、ユリウス様が巨大な羊皮紙の巻物を抱えて飛び込んできた。
「ゆ、ユリウス様? 今度は一体何事ですか……」
「君への永遠の愛を後世に語り継ぐため、中庭に『純度百パーセントの特大クリスタル像』を錬成することにした! そのための完璧な設計図だ!」
バサァァァッ!!
ユリウス様が誇らしげに広げた羊皮紙には、恐ろしく緻密で美麗な私の姿が描かれていた。
正面、横顔、そして背面の姿まで細かく描き分けられた、いわゆる『三面図』である。
「おお……さすが従兄殿。魔法陣を描く要領で製図したのか、一切の狂いがない見事な三面図だな」
お茶を飲んでいたシリル様が、感心したように頷いた。
「ふふん! 当然だろう! 立体物を錬成するにあたり、リリアの美しさを一ミリたりとも損なわないよう、完璧なキャラクターの整合性を追求した結果だ!」
ユリウス様は得意げに胸を張っている。
確かに、絵のクオリティは王宮の専属画家に匹敵する……いや、それ以上の凄まじい熱量が込められている。
しかし。その三面図をじっくりと見ていた私は、ある『致命的な違和感』に気がつき、スッと目を細めた。
「……あの、ユリウス様」
「なんだリリア! 私の完璧な製図に、君も感動で言葉が出ないか!?」
「いいえ。……この横からの図と後ろ姿の図なんですけど。私の腰のあたりから、なぜかフサフサの『尻尾』が生えてるんですけど」
「うむ!」
「しかも、よく見たら二本。完全に『重複』して生えてますよね? 私、人間なので尻尾なんて一本も生えてませんけど」
私がジロリと睨むと、ユリウス様は全く悪びれることなく、キラキラと瞳を輝かせた。
「当然わかっている! だが、私の脳内で君の姿をイメージ(生成)しようとした時、『私の愛しいご主人様(猛獣使い)』という概念と『世界一可愛い』という概念が激しく衝突を起こしたのだ! その結果、愛の熱量がオーバーフローを起こし、キュートな尻尾が重複してバグ出力されてしまったのだ!!」
「バグ出力しないでください!」
私はビシィッ!と羊皮紙を指差した。
「それだけじゃありません! こっちの手元の拡大図! なんで私の手の指の数が、片手で七本もあるんですか!? 解剖学的におかしいです!!」
「それも愛ゆえの必然だ! 指の数が多ければ多いほど、私が君に贈る『誓いの指輪』をたくさん嵌められるだろう!? 私の『君を飾り立てたい』という強すぎる願望が、指の数をバグらせたのだ!」
「……記録」
部屋の隅で、ソフィア様がバインダーに冷徹なペンを走らせる。
「従兄殿の脳内イメージ生成が、過剰な情報量により完全に破綻しています。指の数の異常と、パーツの重複。……これはクリエイターとして最もやってはいけない初歩的なエラーです」
「うるさいぞソフィア! 愛の重さを表現した結果のアバンギャルドな芸術と言え!!」
「言い訳しないでください!!」
私は羊皮紙を丸め、ポンッ!とユリウス様の頭を叩いた。
「指の数がおかしくて尻尾が二本も生えてる彫像なんて、ただのホラーです! 夜中に中庭で見たら絶対に泣きます! 今すぐ重複した尻尾を削除して、指の数を正しく修正してください! 直すまで彫像の錬成は禁止です!!」
「クゥンッ……!!(は、はいぃぃっ!)」
私の厳しいダメ出し(コマンド)を受け、ユリウス様は涙目で徹夜し、三面図の解剖学的なエラーを完璧に修正し終えた。
そして翌日。
中庭の噴水前に、眩い光と共に『実物大のクリスタル像』が顕現した。
重複した尻尾もなく、指の数も正しい、美しく精巧な私の姿を象った完璧な彫像だ。
「わぁ……すごい。太陽の光を反射して、本当に綺麗……」
私が感嘆の声を漏らすと、ユリウス様は「至福……!」と両手を合わせて昇天しかけた。
しかし、ヤンデレ公爵の暴走はここからが本番だった。
「――ハッ!? 待てよ!?」
ユリウス様が突然、血相を変えてクリスタル像の前に立ち塞がった。
「私が完璧な修正を施したことで、この彫像はあまりにもリリアに似すぎている! ということは……今、この中庭を吹き抜ける『風』が、彫像の頬を撫でているということではないか! さらに『太陽』め、彫像の全身を舐め回すように照らしおって!!」
「(……また始まったわ)」
「許さん! 万物に嫉妬するぞ私は!! この完璧な彫像は、今すぐ私の魔力で作り出した『絶対零度の地下金庫』の奥底に厳重に封印し、私以外の視界から完全に隔離する!!」
「中庭に飾るって言ったのあなたでしょうが!!」
ドワァァァァッ!!と冷気を噴出させ、自ら作った傑作を地の底へ沈めようとするユリウス様。
『ピーーーッ!! ピーーーーーッ!!!!』
「レッドカード!! 従兄殿、自作自演の嫉妬で中庭の生態系を破壊するな!! ――『概念切断』!!」
シリル様のホイッスルと共に光の刃が飛び、ユリウス様の展開しかけた絶対零度の魔法陣がパァン!と弾け飛んだ。
「邪魔をするなシリル! 私はリリア(彫像)を守らねばならないのだ!」
「ただの石ころに発情してんじゃないですよこの狂犬!!」
「……もう、ユリウス様。『お座り』」
私がため息混じりにコマンドを出すと、ユリウス様は彫像の前で瞬時に正座した。
「そんな冷たいクリスタルの塊を地下に隠さなくても。本物の私は、ちゃんとここにいるじゃないですか」
私が彼に歩み寄り、その温かい頬を両手で包み込むと、ユリウス様の瞳からすっと狂気が引いていった。
「指の数も五本だし、尻尾も生えてません。……あなたが触れられるのは、この私だけですよ?」
「リリア……っ」
ユリウス様は私の腰に縋り付くように腕を回し、「ああ、やはり本物の温もりには勝てない……!」と私の胸元に顔を擦り付けた。
「記録。彫像騒動、これにて一件落着です」
「……俺はもう、彫像よりも自分の胃袋を修正(回復)してほしいんだが……」
呆れるソフィア様とシリル様をよそに。
私の旦那様は、バグの修正から完全な三面図を作り上げた凄まじい執念を、結局最後は『本物の私への重すぎるスキンシップ』へと変換し、今日も幻覚の尻尾を全力で振るい続けるのだった。




