最強のオジ様からの贈り物!〜『大人の余裕』を証明するため、旦那様が巨大魔獣とニンニクで死闘を始めました〜
私が夜会で「ユリウス様は私の夫です」と堂々の所有権を主張し、彼が歓喜のあまり王宮を黄金のドームで包み込んでから数日。
「フフフ……ハァーッハッハッハ!!」
城の執務室からは、朝からユリウス様の底抜けに明るい笑い声が響いていた。
私の「やきもち」によるバフ(精神的強化)を受けた彼は、数日分の領地経営の書類をわずか一時間で片付け、その余波で城中の大掃除まで自らこなすという、恐るべきハイテンション状態を維持している。
「……記録。従兄殿の幸福度メーターがカンストしたまま下がりません。このままでは魔力過多で城が空に浮く可能性があります」
「頼むから誰か、あの大型犬を落ち着かせてくれ……」
ソフィア様がバインダーを片手に分析し、シリル様が朝から胃薬を水なしで飲み込んでいた。
私が「少しやりすぎたかも……」と赤くなった頬を押さえていた、その時である。
「奥様! 旦那様! 大変です、城の中庭に……空から巨大な氷塊が降ってきました!!」
血相を変えた門番が、執務室に駆け込んできた。
私たちが急いで中庭に出ると、そこには見上げるほど巨大な氷の塊がドスーン!と鎮座していた。
そして、その氷の中に閉じ込められていたのは……なんと、全長十メートルはあろうかという巨大な海の魔獣だった。
「な、なんですかこれぇぇっ!?」
私が悲鳴を上げると、氷塊の頂上に一枚の防水加工された便箋が突き刺さっているのをユリウス様が見つけた。
彼はスッと飛び上がって手紙を取り、それを読み上げ始めた。
『よぉ、猛獣使いと狂犬。息災か?
軍事国家の艦隊の大掃除は無事に終わったぜ。ついでに近海を荒らしていた海王類を仕留めたから、土産に送る。
……狂犬。お前、まさかまだ愛妻に泣きついて「ご主人様」なんて尻尾を振ってるんじゃねぇだろうな?
本当に大人の男になりてぇなら、この極上の海の幸くらい、魔法で消し飛ばさずにエレガントに料理して、お嬢さんの舌を満足させてみせろ。 ――ヴィクトル』
「ヴィクトル様からだわ! 無事だったんですね!」
私がパッと顔を輝かせた瞬間。
ギリリリリリッ……!!
手紙を持っていたユリウス様の手から、凄まじい冷気と闘気が噴き出した。
「あの片目のオッサン……!! 私がリリアのやきもちによって『真の大人の男』へと覚醒したことも知らず、遠い海から手紙一つで私を煽りおって!!」
「ユリウス様、手紙が凍ってますよ!」
「よかろう! その挑発、受けて立つ! リリア、見ていてくれ! この私が、有り余る情熱と完璧な包丁捌きをもって、この巨大イカを最高の一皿に調理して見せよう!!」
ユリウス様は上着を脱ぎ捨て、腕まくりをして厨房へと突撃していった。
それから一時間後。
私たちは厨房の入り口から、信じられない光景を目撃していた。
「ハァァァァァッ!! ――『極・千切り(ミリオン・スライス)』!!」
ダダダダダダダダダッ!!
ユリウス様が、魔法を一切使わず、純粋な身体能力と剣術の動きを応用して、巨大なクラーケンの足をミリ単位の美しさでスライスしていた。
彼の無尽蔵のスタミナが、今は「料理の仕込み」という極めて平和なベクトルへと注がれている。
「すごい……あんな巨大な魔獣が、あっという間に綺麗な切り身に……」
「記録。従兄殿の剣術が、料理の領域で完全にオーバーフローしています」
そして、ユリウス様は巨大なフライパン(彼が特注で錬成したもの)を取り出すと、そこに大量のオリーブオイルを引き、薄切りにしたたっぷりのニンニクを投入した。
ジジジジジッ……!!
熱されたオイルの中でニンニクが踊り、厨房いっぱいに、食欲を強烈に刺激する香ばしい匂いが爆発的に広がった。
「これぞ大人の男のスタミナ料理! ニンニクと香草を極限まで効かせた、海王類のガーリック・ソテーだ!! リリアの疲労を回復させ、さらに私への愛を燃え上がらせるための完璧な調合!!」
「ユリウス様、火力が強すぎます! 焦げちゃう!」
「安心しろリリア! 炎の温度も私の動体視力で完璧に見切っている!」
ザァァァァッ!!
彼がフライパンを振るうたびに、炎が天高く舞い上がり、ニンニクの香ばしい匂いと海の幸の旨味が絡み合う最高の香りが城中を包み込んでいく。
魔法の暴走ではなく、純粋な「妻に美味しいものを食べさせたい」という凄まじい熱量。
「(……なんか、普通にすごく美味しそうなんですけど……!)」
朝から胃薬を飲んでいたシリル様でさえ、ニンニクの香りに思わず「ゴクリ」と喉を鳴らしていた。
「完成だ、リリア!!」
ダイニングテーブルに運ばれてきたのは、まるで高級レストランのような盛り付けがされた『海王類のガーリック・ソテー』だった。
香ばしくキツネ色に炒められたニンニクが、プリプリの分厚いイカの身にたっぷりと絡んでいる。
「いただきます……」
私がフォークで一口切り取り、口に運ぶ。
――瞬間、ガツンと響くニンニクの旨味と、新鮮な海の幸の弾力が口いっぱいに弾けた。
「……っ! なにこれ、すごく美味しい!!」
「本当か!?」
「はい! イカは全然硬くないし、ニンニクの香りが食欲をそそって……ヴィクトル様が送ってくれた素材も最高だけど、ユリウス様の味付け、本当に完璧です!」
私が満面の笑みで伝えると。
ピタァッ。
ユリウス様の動きが止まり、その整った顔がみるみるうちに赤く染まっていった。
「私の料理が……リリアを、笑顔に……」
ポロポロ、ポロポロ。
大人の余裕を見せつけるはずだった若き公爵の両目から、滝のような歓喜の涙がこぼれ落ち始めた。
「おおおおおおおっ!! リリアァァッ!! 私の作った料理を食べて笑ってくれた!! これが、これが夫婦の食卓というものか!! ああ、私は今すぐ世界中のニンニク畑を買い占め、君のためだけの専属シェフとして生きる!!」
ズサーーーッ!!
結局、感極まったユリウス様は「大人の余裕」を三秒で放り投げ、私の足元にスライディングして幻覚の尻尾をちぎれんばかりに振り始めた。
「もう……! せっかくカッコよかったのに、結局これなんだから」
「『お座り』は!? リリア、『お座り』のコマンドと、ご褒美の頭撫でを要求する!!」
「はいはい。お座り」
私がため息をつきながら、足元にすり寄る旦那様の頭を撫でてやると、彼は「至福ゥゥゥッ!!」と天を仰いで泣き崩れた。
「……記録。大人の男への進化は、一時的なものに留まりました。本質は忠犬のままです」
「だが……このガーリックソテーは、本当に美味いな。胃薬の後に食べるものじゃないが……止まらん」
ソフィア様が呆れながらもフォークを進め、シリル様もバクバクと料理を平らげている。
最強のオジ様からの粋な贈り物と、ニンニクの香りに包まれたドタバタな食卓。
私の旦那様が完璧な「大人の男」になる日はまだまだ遠そうだけれど、この賑やかで温かい日常こそが、私にとって何よりも美味しい「幸せの味」なのだ。




