「ホワイトデーは『純白の監獄』です〜旦那様が邸のすべてを白く塗りつぶして精神病院の隔離病棟みたいにしています!〜」
バレンタインデーに捧げた『本命チョコ(魂の契約)』が、ユリウス様のヤンデレ解釈によって「三倍の濃度の愛(過剰なスキンシップ)を三ヶ月間継続する」という、あまりにも重すぎる契約(三倍返し)へと発展してしまった。
「……はぁ……。今日も、一日が長いわ……」
私は公爵邸の最上階、昨夜から『ホワイトデーの準備』という名目で改装された寝室のベッドに座り込んでいた。
左手の指輪、右手の赤い糸、鎖骨の紋章、頭上の魔導カメラ三台。
この完璧な監視体制に加えて、今の寝室は――目が眩むほどに真っ白だった。
壁、天井、床、そして家具のすべてが、ユリウス様が「君の純潔を守るために、汚れのない色に染め上げた」として、真っ白なペンキで塗りつぶされているのだ。
まるで前世のニホンで見たことがある、精神病院の隔離病棟そのもののような無機質で圧迫感のある空間。
窓の外に広がる雪景色と相まって、ここはもう、私という『標本』を保管するためのホワイトボックスにしか見えない。
「リリア。どうだい? この『純白の聖域』は。君の魂の清らかさに相応しい空間だろう?」
ユリウス様が、白一色に染まった部屋の中で、真っ白な礼服に身を包んで微笑んでいた。
彼もまた、白い。すべてが白い。
狂気じみた白さだ。
「……ええ。とても、落ち着きます(と、言わないとまた何か破壊される……)」
私は心にもない返事をして、ふかふかの純白のシーツを握りしめた。
「よかった。君が望んだホワイトデーの行事……ニホンの文献によれば、男性から女性へ、贈り物のお返しをする日だそうだな。だが、私はあえて選んだ。君を彩るすべての色を消し去り、私だけの『純白』に染め上げる日、それこそが私のホワイトデーだと!」
(だからホワイトデーの意味を履き違えないでーーっ!!)
「さあ、リリア。ホワイトデーの贈り物だ」
ユリウス様は、執事長が持ってきた純白の箱を開けた。
中に入っていたのは、透き通るような白磁の糸で織られた、繊細なレースのドレスだった。
「これは『天上の光の衣』だ。光を屈折させ、君の肌に触れるだけで、魔力による浄化効果と、汚れを一切寄せ付けない絶対防御を発揮する」
「……え、あの、ありがとうございます。でも、これ、ちょっと……」
私はドレスを広げて、絶句した。
あまりにも薄く、あまりにも純白すぎて、光を透かして下着が……いや、肌が、ほとんど隠せないのだ!
「安心しなさい。君の美しさを隠す必要などない。私の結界魔法で、この部屋の中は常に『視覚遮断の魔法』が施されている。私以外、誰も君のその姿を見ることはできないからね」
「(私が恥ずかしいの!!)」
ユリウス様は有無を言わさず、その透け感のある純白のドレスを私に着せ始めた。
背中のジッパーを閉めるのはもちろん彼の手で、赤い糸で繋がれた左手も器用に動かしている。
「……ああ、なんて……! 純白のドレスに包まれた君は、この世のものとは思えないほど神々しい。まさに、私の鳥籠に舞い降りた女神だ」
鏡に映る私は、確かに白くて美しいけれど、それは誰かに愛でられるための装飾品のように見えた。
その時、ウィーン……と、頭上の魔導カメラ三台が、私の胸元から足先までを執拗にスキャンするようにズームしてくる。
(恥ずかしい!! こんな薄い服で、高画質録画されるなんて!!)
「ユリウス様、少しカメラを……っ」
「駄目だ。君のその可憐な姿を、一瞬たりとも記録から漏らすわけにはいかない」
彼は私のドレスの裾を愛おしそうに撫で、そのまま私の唇を塞いだ。
「ホワイトデーの返しは、これからだ。三ヶ月間の『三倍返し』の愛を、今夜、この純白の部屋で……君の魂の奥底にまで、私の色を刻み込んであげよう」
その夜。
私は、真っ白な部屋の中で、ユリウス様による「三倍返しの愛(という名の過酷な抱擁)」を受けていた。
「んっ……ぁ……!」
「愛しているよ、リリア。君の心拍数が、私の指輪と完全に共鳴している……!」
部屋中の壁、天井、床。すべてが真っ白。
私の世界は、彼の色によって塗りつぶされていた。
(もう、終わった……。逃げる気力も、恥じらう気力も、すべて奪われてしまった……)
私の二度目の人生は、もはや自分がスパイだったことすら記憶の彼方へと消し去り、ただこの狂気の公爵様の愛という名の『純白の檻』の中で、永遠に飼い慣らされるだけの存在へと成り下がってしまった。
私の頬を伝う涙すらも、指輪が放つ青い光に照らされて、美しく輝いている。
ユリウス様は、私の涙を「幸福の結晶」と呼び、その涙の一滴すらも逃さず、魔導カメラがスローモーションで永遠に記録し続けていた。
ホワイトデーが終わっても、三ヶ月の監禁(三倍返し)はまだ始まったばかり。
純白に染め上げられた部屋の中で、私の自由とプライバシーは、今日もヤンデレの愛の海へと深々と沈んでいくのだった。




