↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
28/100

「人間としての尊厳を守るため雪遊びを提案しました〜旦那様が私を模した巨大な氷の女神像

私が「干物女(駄目人間)アピール」をするために要求した『コタツ』が、火の精霊王を熱源とする『絶対に抜け出せない魔の家具』として錬成されてから、数日が経過した。


「さあ、リリア。次は温かいお茶を飲もうか。熱くないように、私が口の中で適温に冷ましてから流し込んであげるからね」


「んんっ……!! むぐぅっ……(自分で飲めます!!)」


 公爵邸の最上階、寝室の中央に鎮座する超特注コタツの中。


 私はユリウス様の広い胸の中にすっぽりと収まり、文字通り『赤子のように』すべての世話を焼かれていた。


 私が少しでも腕を動かそうとすれば、右手首の『呪いの赤い糸』がスッと引かれ、ユリウス様が「指を動かすと疲れるだろう?」と先回りして果物を剥き、お茶を飲ませ、あまつさえ口元を優しくハンカチ(※私の血染めの刺繍入り)で拭ってくれる。


(だ、駄目だ……! このままじゃ、私の人間としての尊厳が完全に失われてしまう……!!)


 スパイ疑惑を晴らすために怠け者を演じた結果、ユリウス様の「君は何もしなくていい、私が骨の髄まで甘やかして生かす」という究極の依存システム(介護)が発動してしまったのだ。


 頭上の魔導カメラ三台が、口移しでお茶を飲まされて涙目になっている私の顔を、今日も超ドアップで録画し続けている。


「……ゆ、ユリウス様。私、そろそろコタツから出たいです」


「ん? どうしてだい? 火の精霊王の温度調節が気に入らなかったかな?」


 コタツの中から「解セヌ……」という精霊王の呻き声が聞こえた気がしたが、私は必死に首を横に振った。


「違います! その……ずっとコタツにいると、足腰が弱ってしまいますから! 少しは体を動かさないと……」


 私が窓の外へ視線を向けると、そこには王都の冬の訪れを告げる『初雪』が、チラチラと舞い降りていた。


 邸の中庭は、うっすらと純白の雪化粧を始めている。


(そうだわ! 雪よ!!)


「ユリウス様! お庭に雪が積もっています! 私、ニホンの冬の伝統的な遊びである『ユキダルマ』を作りたいです!」


「……ユキダルマ?」


 ユリウス様が、ピクリと反応した。


「はい! 雪を丸めて大きな玉を二つ作って、重ねてお顔を作るんです。体を動かして遊べば、健康にも良いですし、何よりすごく楽しいんですよ!」


 雪だるま作りなら、コタツから出られるし、無邪気な子供のように遊ぶ姿を見せれば「私は暗殺者ではありません、ただの雪遊びが好きな平民です!」という『無害アピール』の再挑戦ができる!


 私の必死の訴えに、ユリウス様は氷の青い瞳をスッと細め、顎に手を当てた。


「……なるほど。ニホンの文献によれば、『ダルマ(達磨)』とは、星の海の向こうの国において、災厄を払い願いを叶える高位の守護神(仏教の祖)を意味する言葉だったはず」


「(やばい、またスケールが壮大になってる!!)」


「つまり『ユキダルマ』とは、雪を素材としてその守護神の像を創り出し、神聖な祈りを捧げる冬の宗教儀式というわけだな。君がそれほどまでに故郷の神を敬い、儀式を行いたいというのなら、夫として付き合わないわけにはいかないだろう」


 ただの雪遊びが、完全に『異教の召喚儀式』に誤訳されていた。


 しかし、コタツから脱出できるなら背に腹は代えられない。


 私は「は、はい! その儀式です!」と力強く頷いたのだった。


数十分後。


 公爵邸の中庭(※完全封鎖・騎士団による厳重警備付き)へと降り立った私は、雪の冷たさなど微塵も感じないどころか、逆に汗だくになりそうなほどの重装備をさせられていた。


「どうだい、リリア。火竜(サラマンダー)の逆鱗を編み込んだ特注の防寒コートに、雪山の魔獣イエティの毛皮で作ったブーツだ。これなら、絶対零度の吹雪の中でも君の体温は一・度たりとも下がらない」


「お、重いです……雪だるまを作る前に体力が……」


 モコモコの球体のようなシルエットになった私に、ユリウス様は「ああ、雪だるまのように丸くて愛らしい……」と謎の感動を覚えている。


 隣には、同じく雪遊びに駆り出された(連行された)白犬のフェンリル(ポメラニアン形態)が、ブルブルと震えながら雪を掘っていた。


「さあ、リリア。君の望む『ユキダルマ(守護神の像)』を創りたまえ。私が手伝おう」


「はい!」


 私は重い防寒手袋をはめた手で、雪をギュッ、ギュッと握って小さな雪玉を作り、それを雪の積もった地面の上でゴロゴロと転がし始めた。


 次第に大きくなっていく雪玉。いびつだが、なんとか胴体と頭の二つの雪玉を重ね合わせ、落ちていた小石で目と口を作り、木の枝を腕として突き刺した。


「できました! これがニホンのユキダルマです!」


 私の膝丈ほどの、少し不格好で愛嬌のある雪だるま。


 これを見たユリウス様は、氷の青い瞳を大きく見開き、信じられないものを見るように絶句した。


「……リリア。これが……君の故郷の神の姿なのか?」


「はい! 可愛いですよね!」


「なんという……なんという前衛的な抽象芸術(アバンギャルド)だ。これが神……いや、君は私に気を遣って、あえて簡単な形で妥協してくれたのだな!」


(妥協してない!! 雪だるまってこういうものだから!!)


 ユリウス様は首を横に振り、私の作った雪だるまの隣にスッと歩み出た。


「駄目だ、リリア。君の魂の故郷の神を、こんな歪な雪の塊で表現するなど、夫として許されることではない。君の信仰心を満たすためにも、私が最高の素材と魔力で『真のユキダルマ』を錬成して見せよう!!」


「えっ、真のユキダルマ?」


 ユリウス様が、両腕を天に向かって高く掲げた。


 その瞬間。


 公爵邸の中庭の雪が、まるで意思を持ったかのように空中に舞い上がり、凄まじい青白い魔力の奔流となって渦を巻き始めたのだ!


「我が魔力よ! 愛しき妻の祈りを具現化する、至高の神像となれ!! ――『絶対氷河の創造(クリエイション・オブ・コキュートス)』!!」


 ゴゴゴゴゴゴッ!!


 地響きと共に、舞い上がった雪と氷が一点に集束し、凄まじい速度で彫刻されていく。


 数秒後、雪煙が晴れた後に現れたのは――。


「…………え?」


 高さ十メートルは下らない。


 透明度の高い、ダイヤモンドのように輝く巨大な『氷の彫像』だった。


 しかもその彫像の姿は……ダルマでも何でもない。流れるような長い髪、憂いを帯びた美しい瞳、そして純白のドレスを身に纏った……。


「わ、私……!?」


 そう、それは他でもない。


 私(リリア)の姿を、一寸の狂いもなく神々しく模写した、超巨大な『氷の女神像』だったのだ!!


「見よ、リリア! これぞまさに『真の守護神』だ!」


 ユリウス様は巨大な私の氷像を見上げ、恍惚とした表情で両手を広げた。


「私にとって、この世界で祈りを捧げるべき神は、君ただ一人! ならば、君が望むユキダルマ(守護神)とは、君自身の姿であるべきだ! どうだ、君のまつ毛の一本一本、唇の柔らかな曲線に至るまで、私の愛と記憶のすべてを注ぎ込んで完璧に再現したぞ!」


(自己顕示欲とヤンデレのスケールが天を衝いてるーーっ!!)


 中庭を警備していた騎士たちが、「おおお……公爵夫人の女神像……ありがたや……」と雪の上に平伏して祈り始めている。


 ただの雪遊びが、完全に巨大新興宗教の建立イベントにすり替わってしまった。


「そ、そんな巨大な私の像を庭に置かれたら、恥ずかしくて外に出られません!! 早く壊してください!!」


「壊す!? 冗談だろう! これは私から君への愛の結晶……いわば私たちの子供のようなものだ!」


 私が顔を真っ赤にして抗議していると。


 突然、ギギギ……という重い音が中庭に響いた。


「え?」


 見上げると、十メートルある『巨大な私の氷像』が、ゆっくりと首を動かし、私とユリウス様の方を見下ろしていたのだ。


 そして、その巨大な氷の腕が、ズンッ!と地面を揺らして動き始めた。


「ひぃぃぃぃっ!? 像が動いたぁぁっ!!」


「……む?」


 私が悲鳴を上げてユリウス様の背後に隠れると、ユリウス様は感心したように顎を撫でた。


「なるほど。私が像を錬成する際、君への『深すぎる愛』と『君を守りたいという強い意志』を込めすぎたせいで、ただの氷像ではなく、意思を持つ『氷の守護巨兵(アイス・ゴーレム)』として受肉してしまったらしい」


(魔力が強すぎてフィギュアが自律稼働しちゃったーーっ!!)


 私の姿をした巨大氷像(ゴーレム)は、のっしのっしと地響きを立てて私たちに近づいてくる。


 そして、その巨大な両腕を広げ、私に向かって……まるで愛しい我が子を抱きしめるような仕草を見せたのだ。


『……リ……リ……ア……(守ル……愛ス……)』


「ひゃああっ! 潰される!!」


 氷像の体長は十メートル。あんなものにハグされたら、愛どころか物理的に圧死してしまう!


 私が死の恐怖に震え上がった、その時だった。


「――そこまでだ」


 絶対零度の声が、中庭の空気を切り裂いた。


 ユリウス様が、私を自身の背中に完全に隠し、巨大な氷像との間に立ちはだかったのだ。


「ゆ、ユリウス様?」


「……私が創り出したとはいえ、その姿(リリア)で、リリアに触れようとするなど。たとえ無機物であろうと、言語道断だ」


 ユリウス様の氷の青い瞳が、ドス黒い殺意と嫉妬の炎で燃え上がっていた。


 左手の『星屑の指輪』が、私が怯えて心拍数を上げているのを感知し、激しく点滅している。


「リリアに触れていいのは、宇宙でこの私ただ一人!! 私の魔力から生まれた分際で、私からリリアを奪おう(ハグしよう)とするとは……万死に値する!!」


(自分で作った自分の魔力(ゴーレム)に嫉妬して激怒してるーーっ!!)


 氷像ゴーレムは、ユリウス様の殺気に首を傾げた。


 彼の中には「リリアを愛し、守れ」というユリウス様の初期命令(プログラム)が組み込まれているため、ただ純粋に私を抱きしめようとしているだけなのだ。


『……ジャマ……ヲ……スルナ……。リリア……ヲ……ハグ……スル……』


 氷像がユリウス様を巨大な手でどかそうとした、次の瞬間。


「我が妻に気安く触れるなゴミがぁぁぁぁっ!! ――『超極大・終焉の業火(メテオ・ストライク・バースト)』!!」


 ドゴォォォォォォォォォッ!!!!


 ユリウス様の手から放たれた、雪をも一瞬で蒸発させる凄まじい業火の魔法が、十メートルの巨大氷像を真正面から打ち抜いた。


 彼自身の最高傑作であるはずの「リリアの巨大氷像」は、断末魔の悲鳴すら上げる間もなく、一瞬にしてドロドロに融解し、ただの水蒸気となって天空へと消え去った。


「…………えぇ……」


 私は、ポカンと口を開けたまま、ただ立ち尽くした。


 自分で作って、自分で燃やした。


 マッチポンプという言葉すら生ぬるい、完全なる狂気のワンマンショーである。


「……ふぅ。危ないところだったね、リリア。君の美しさを模したとはいえ、あんな化け物に君を触らせるわけにはいかないからね」


 ユリウス様は息を吐き、何事もなかったかのように私を振り返って微笑んだ。


「さあ、外はやはり危険がいっぱいだ。雪遊びはもうこれくらいにして、安全な寝室の『コタツ』へ戻ろう。君の体が冷え切ってしまう前に、私が体温で直接温め直してあげるからね」


 そう言って、ユリウス様は私をヒョイとお姫様抱っこし、有無を言わさず公爵邸の中へと引き返していった。


 中庭には、私が最初に作った膝丈の「いびつな雪だるま」と、水蒸気でビショビショになった白犬(フェンリル)だけが、ぽつんと取り残されていた。


 コタツから抜け出し、健康的な干物女アピールをするための「雪だるま作戦」は。


 巨大ゴーレムの暴走と、夫の自家中毒(嫉妬)による爆破という、スペクタクル巨編の末に大失敗に終わった。


 魔導カメラに怯える顔を撮られながら、私は再び火の精霊王が待つ魔のコタツへと連行され。


 私の二度目の人生の自由は、春の雪解けよりも早く、一瞬にして蒸発させられてしまったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。