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世界最強を隠したい俺、学校一の冷徹な氷系聖騎士に監視(同棲)されることになった ――中身は激重感情、記録は凍る監視報告書  作者: ざつ
第4章:もう隠しきれない「好き」

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26/29

第26話:初めての、正式なデート。 ――氷の聖騎士、私服選びで壊滅する。

 土曜日。


「蓮様! 今日、お時間ありますか!?」


 朝から、雪菜のテンションが明らかに違った。


「別に、予定はないが」

「では! デートしていただけませんか!」


 勢いのある申し出だった。


「デート、ってわざわざ言うほどのことか? いつも一緒にいるだろ」

「違います! それは同居です! デートは、その、ちゃんと二人で出かけて、街を歩いて、何か食べて、その……恋人らしいことをする、アレです!」


 雪菜が、両手を握りしめて力説した。


「実家でも公認していただいて、学校でも隠さなくてよくなって……でも、まだ一度も、きちんとしたデートをしたことがないな、と……!」


 言われてみれば、そうだった。買い物や送り迎えはあっても、目的が「デート」だったことはない。


「……いいけど」

「本当ですか! やった……!」


 雪菜が、その場で小さく飛び跳ねた。


 ◇


 一時間後。


 雪菜が、リビングに姿を現した。


 私服姿だった。ただし、明らかに気合いが入りすぎていた。


「……その恰好は?」

「へ、変ですか!?」


 フリルとレースを大量に纏った、貴族令嬢が舞踏会に行くような装いだった。街を歩くには、いささか浮く。


「デート用の服、たくさん持っていたので……どれがいいか迷って、結局、一番気合いの入ったものを……」

「気合い入りすぎだ」

「そんな……! せっかく蓮様と出かけるので、いつも以上に……!」


 小夜が、静かにキッチンから顔を出した。


「お嬢様、少々よろしいですか?」

「な、なんですか?」

「本日のお召し物ですが……」


 小夜が、じっと雪菜を観察した。


「お嬢様らしくて悪くはございませんが、街中を歩くには、いささか目立ちすぎます」

「目立つのは、駄目なんですか?」

「マスコミの件、お忘れですか?」


 雪菜の顔が、さっと青ざめた。


「……忘れてました」

「今のお召し物のまま出歩けば、三分と経たず発見されます」


 雪菜が、慌てて着替えに戻っていった。


 ◇


 二度目に現れた雪菜は、今度は逆方向に振り切れていた。


 黒いフード付きのコートに、マスク、サングラス。完全に不審者だった。


「……お前、それは?」

「か、変装です! 目立たないように!」

「一番目立ってる」

「そんなはずは……。ドラマというもので見たのですが……」

「あのなぁ、あれはフィクションだ。サングラスとマスクとフードを同時に着けてる時点で、街で一番浮いてる」


 雪菜が、しばらく固まった後、静かにフードを下ろした。


「……蓮様は、私に、どんな服が似合うと思いますか?」


 急に、真面目な質問が飛んできた。


 蓮は、少し考えた。


「……普段着てるやつで、いいだろ」

「普段着、ですか?」

「無理して着飾らなくても、お前は十分――」


 言いかけて、蓮は言葉を止めた。


 続きを言うのが、少し気恥ずかしくなったらしい。


 雪菜が、じっと続きを待っていた。


「……なんでもない」

「気になります! 続き、お願いします!」

「言わない」

「言ってください! お願いします!」

「……(ぼそぼそ)」


 その直後、雪菜が顔を真っ赤にして昇天したようだった。


 小夜が、こめかみを押さえながら、こっそり呟いた。


「……見ていられません」


 ◇


 結局、雪菜はいつも通りの服装に落ち着いた。シンプルなワンピースに、薄手のカーディガン。それでも、十分すぎるほど目を引いた。


 玄関で、ココアが二人を見送りに来た。


「わふ」


 ――行ってらっしゃい。


「留守番、頼んだぞ」

「わふん」


 小夜が、玄関先で一礼した。


「いってらっしゃいませ。……なお」

「なんだ?」

「アパート周辺の結界は、外出中も稼働しております。お二人が街に出た後の追跡についても、念のため対策を講じておりますので、ご心配なく」

「対策?」

「詳細は、企業秘密です」


 小夜が、にこりともせずに言った。何をするつもりなのか、聞くのが少し怖かった。


 ◇


 駅前の街並みを、二人で歩いた。


 雪菜が、隣を歩きながら、時折こちらをちらちらと見てきた。


「……なんだ?」

「いえ、その……手を、繋いでも、いいですか?」

「……好きにしろ」


 雪菜の手が、そっと伸びてきた。指が絡む。


「っ……」


 雪菜の足取りが、一瞬乱れた。転びかけたのを、蓮がさりげなく支えた。


「手を繋いだだけで転ぶのか?」

「不可抗力です……!」


 繋いだ手を、雪菜は離さなかった。


 街を歩く人々が、時折二人を見た。振り返る者もいた。それでも、以前ほどの緊張はなかった。


 隠すものが、もう何もなかったからだ。


「……蓮様」

「なんだ?」

「今日、楽しいです」

「……そうか」


 雪菜が繋いだ手を見た。


「まだ何もしていませんけど」

「それでもか?」

「はい!」


 雪菜が、繋いだ手に少しだけ力を込めた。


 蓮は、それに合わせて、握り返した。


 ……悪くない一日になりそうだった。


 口には出さなかった。


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