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世界最強を隠したい俺、学校一の冷徹な氷系聖騎士に監視(同棲)されることになった ――中身は激重感情、記録は凍る監視報告書  作者: ざつ
第4章:もう隠しきれない「好き」

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第25話:カメラマン、蓮の地雷を踏む。 ――威圧に、魔力はいらない。

 噂は、学校の外にも漏れ始めていた。


 きっかけは、些細なことだった。新聞部の記事が、部内誌の域を超えて、地域のフリーペーパーに転載された。「名門聖騎士学園、氷の令嬢に婚約者」という見出しがついていた。


 数日後、正門の前に、見慣れない大人たちが立つようになった。


「……なんだ、あれ?」


 蓮が眉をひそめた。


 カメラを構えた男が数人、校門の少し離れた場所に陣取っている。芸能誌のロゴが入った腕章をつけた者もいた。


「マスコミのようです」


 小夜が、静かに答えた。今日は珍しく、送迎のために校門まで来ていた。


「神代の令嬢の容姿は、業界内でも以前から噂になっておりました。今回の件で、火がついたのかと」


 雪菜は、明らかに動揺していた。


「な、なんで、こんな……!」

「お嬢様の容姿は、この国の美的水準の中でも突出しております。スカウトの申し出も、過去に何度か」

「知りません、そんな話……!」

「お断りしておりました。ご存じないのは、私が対応していたためです」


 雪菜が、絶句していた。


「そ、そんなに大騒ぎするようなものじゃ……その、普通です、普通……」

「普通ではないだろ」


 蓮が、あっさりと言った。


「お前の顔は、普通に整ってる。まぁ、俺は容姿だけで惚れたわけじゃないけどな」

「っ……!?」


 雪菜が、その場でぐらりと傾いだ。足がもつれ、そのまま横に倒れかけたところを、小夜が慣れた様子で片手一本で支えた。


「毎回、これくらいで倒れられては困ります」

「い、今のは不意打ちです……! 心の準備が……!」

「褒められる予定を立てて生活しているのですか?」

「そうしないと、命に関わります……!」


 蓮は、その会話にはあまり反応しなかった。


 ……容姿の話はどうでもいい。


 問題は、別のところにあった。


 ◇


 校門を出たところで、一人のカメラマンが近づいてきた。


「烏丸蓮くんだよね? ちょっといいかな?」

「……何の用だ?」

「婚約、おめでとう。それでね、君のことも少し聞かせてほしいんだ」


 カメラマンが、手帳を開いた。


「出身は? 家族構成は? 前の学校での成績とか、部活とか」

「関係ないだろ」

「いやいや、これから神代家の婿になるかもしれない人だからね。読者も気になるところだと思うよ」


 カメラマンが、笑顔のまま続けた。


「特に、SSS級の結界を壊したって噂、あれ本当? どこでその実力を身につけたのかとか、そういう過去の話が――」


 そこで、空気が変わった。


 蓮は、何もしていなかった。


 魔力を放出したわけでも、殺気を飛ばしたわけでもない。


 ただ、視線を上げただけだった。


 カメラマンの手帳を持つ手が、震え始めた。


「……あ」


 言葉が、続かなくなっていた。


 蓮の目の奥に、何か――底の見えない、圧倒的な質量のようなものが、ちらりと覗いた気がした。


 理屈ではなかった。本能が、警報を鳴らしていた。目の前にいるのは、自分たちが太刀打ちできる相手ではない、と。


「……過去の話は、しない」


 低い声だった。怒鳴っているわけでも、脅しているわけでもない。ただ、それだけの重みがあった。


「それ以上、詮索するなら……」


 蓮は、それ以上、言葉を続けなかった。


 続ける必要が、なかった。


 カメラマンは、後ずさりした。手帳を閉じる手が、まだ震えていた。


「……し、失礼しました」


 そのまま、逃げるように離れていった。他のカメラマンたちも、その様子を見て、そそくさと機材を片付け始めた。


 数分後には、校門前から人影が消えていた。


 ◇


 雪菜が、恐る恐る蓮の顔を覗き込んだ。


「……蓮様、今、何をされたんですか?」

「別に、何も」

「いええ。絶対何かしましたよね!? あの人たち、顔面蒼白でしたよ!?」

「気のせいだ。ちょっと朝ご飯に消化に悪いものでも食べたんだろ」


 小夜が、静かに口を挟んだ。


「旦那様の『気配』は、常人には認識できないレベルで抑えられております。ただ、ほんの一瞬でも意図的に緩めれば、ああなります」

「……小夜、見てたのか?」

「はい。なかなか見事な威圧でした」


 蓮は答えなかった。


 ……容姿を詮索されるのは、まだいい。


 ……だが、過去を根掘り葉掘りやられるのは、話が別だ。


 隠しているものが、あまりにも多すぎる。


 雪菜が、少し不安そうな顔で蓮の袖を掴んだ。


「……怒って、いますか?」

「……少しだけな」

「私のことで、ご迷惑を……」

「お前のせいじゃない」


 蓮は、短く答えた。


「ああいうのは、慣れてる」


 嘘だった。慣れてなどいなかった。ただ、雪菜にこれ以上、不安な顔をさせたくなかっただけだ。


 雪菜は、それでもしばらく、蓮の袖を離さなかった。


 ◇


 その夜、リビングで、小夜が静かに言った。


「旦那様。今後、同様の接触が増える可能性がございます」

「……だろうな」

「対応方針を、決めておいた方がよろしいかと」


 蓮は、少し考えた。


「容姿の話は、好きにさせておけ。それは雪菜自身の魅力だ、隠すようなものじゃない」

「かしこまりました」

「ただしーー」


 蓮の声が、少しだけ低くなった。


「俺の過去に触れようとする奴には、今日と同じ対応をする」


 小夜が、静かに頷いた。


「承知いたしました。それでよろしいかと存じますわ。なおーー」


 小夜が、エプロンのポケットから手帳を取り出した。


「アパート周辺の対策は、すでに講じております」

「……なんの話だ?」

「本日の朝から、私とココア様とで、自宅周辺一帯に結界を展開しております。無許可で敷地内にカメラを向けた者は、機材が一時的に誤作動を起こす仕様です」

「誤作動……とは?」

「レンズが曇り、シャッターが切れなくなります。害はございません、写らないだけです」


 蓮は少し黙った。


「……そんなことができるのか?」

「私の【風】と、ココア様の権能を組み合わせております。おそらく、国内の防諜設備としても、かなり上位の性能です」


 足元で丸まっていたココアが、得意げに「わふん」と鳴いた。


「……お前も一枚噛んでたのか?」

「わふ」


 ――当然だ。


 小夜が、淡々と続けた。


「本日だけで、敷地周辺で七件の誤作動が確認されております。今後も、定期的に強度を調整してまいります」

「……いつの間に、そんな準備を?」

「旦那様と雪菜お嬢様が学校にいらっしゃる間、私は暇ではございませんので」


 蓮は、それ以上何も言わなかった。


 なんとなく、敵に回したくない相手だと思った。


 雪菜が、ソファの隅で、その様子をじっと見ていた。


 何か言いたそうにしていたが、結局、何も言わなかった。


 ただ、いつもより少しだけ、蓮のそばに寄った。


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