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世界最強を隠したい俺、学校一の冷徹な氷系聖騎士に監視(同棲)されることになった ――中身は激重感情、記録は凍る監視報告書  作者: ざつ
第3章:連れ戻しと、婚約!?

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第21話:お見合いの相手は――俺!? ――決闘するはずが、なぜか歓迎会になった。

 大広間に、新しい足音が響いた。


「――親父殿! いい加減、いつまで娘を正座させておくつもりだ!」


 扉を勢いよく開けて入ってきたのは、凍牙だった。聖騎士団の制服のまま、息を切らしている。


「お兄様……!?」

「遅くなった、雪菜! すまん、報告を受けてすぐ飛んできたんだが……」


 凍牙が、大広間の状況を見回した。


 正座する雪菜。仁王立ちの当主。そして、その前に平然と立っている蓮。


「……あれ、義弟もいるじゃないか?」

「義弟?」


 当主の眉が、ぴくりと動いた。


「お前、いつの間にそんな呼び方を!?」

「決まってるだろう、親父殿! この男が――」


 凍牙が言いかけたところで、当主が片手を挙げて制した。


「その話は後だ。今は……」


 当主が、改めて蓮の方を向いた。


「先ほどの続きだ。話をさせてもらいたい」


 雪菜が、びくりと肩を強張らせた。


「お、お父様、蓮様には本当に非は……!」

「雪菜、少し黙っていろ」


 当主が、静かに、しかしはっきりと言った。


 大広間に、緊張が満ちた。


「さて、烏丸蓮」

「なんだ?」

「単刀直入に聞く。お前は、雪菜をどう思っている?」

「……え?」


 想定と違う質問だったらしい。蓮が、初めて僅かに反応を見せた。


「決闘の話じゃないのか?」

「決闘? 誰がそんな話をした」

「……あんたが結界を壊されて怒ってたから、てっきり」

「怒ってはいた。だが、それとこれとは別だ」


 当主が、僅かに口の端を上げた。


「正直に言えば、腹立たしさより先に、得心した部分もある」

「得心?」

「あの結界は、神代家が三代かけて構築した防衛設備だ。SSS級のハンター部隊が総出で攻めても、半日は持ちこたえる想定で組んである。それを、貴様は歩きながら片手間に消し飛ばした」


 蓮は特に反応しなかった。当たり前のことを言われている、という顔だった。


「凍牙からの報告でも、荒木からの定期報告でも、貴様の実力については聞いていた。話半分に聞いていたが……今のを見て、むしろ過小評価だったと分かった」


 当主が、深く息を吐いた。


「単刀直入に言おう。此度、雪菜との顔合わせをセッティングした相手は――お前だ、烏丸蓮」


 大広間が、静まり返った。


「……は、い?」


 今度は、雪菜が声を上げた。


「な、なにを……お父様、蓮様をからかうのは……!」

「最初から、からかってなどいない」


 当主が、懐から一枚の書類を取り出した。神代家の家紋が入った、正式な釣書だった。


「結界の一件も含めてだ。神代家の結界を単独で消し飛ばし、SSS級相当の危機を涼しい顔で処理し、家族全員の胃袋と信頼を同時に掴んでいる相手など、そうそういない」

「そ、そんな話……」

「雪菜。お前は今まで、家のために完璧であろうとしすぎていた」


 当主の声から、少しだけ硬さが抜けた。


「学業も、剣も、聖騎士としての務めも。誰よりも厳しく己を律してきた。それを、私も、この家も、当然のことのように受け取ってしまっていた」


 雪菜が、何も言えずに父を見ていた。


「だが最近の報告書を見て、思った。……あの子が、あんなふうに笑うのか、と」

「っ……」


 雪菜の顔が、みるみる赤くなった。


「報告書に、笑ってるなんて一言も……!」

「行間から滲み出ていた」


 小夜の仕事がバレていた。


「なので、正式に顔合わせの場を設けようとした。それだけの話だ。決闘でも、引き離すためでもない」


 当主が、蓮を見た。


「改めて聞く。烏丸蓮、お前は雪菜をどう思っている?」


 大広間中の視線が、蓮に集まった。凍牙も、雪菜も、固唾を呑んでいる。


 蓮は、少し考えた。


「……まあ」

「まあ、では答えになっていない」

「そういうことだ」

「烏丸蓮、ここは男としてはっきりさせるべきだ」


 もうこれ以上は逃げられない。蓮は覚悟を決めた。


「……。……好きだ。ああ、雪菜のことが大好きだ!」


 短い沈黙が落ちた。


「……す……」


 雪菜が、掠れた声で呟いた。


「す、好き……好き、と……蓮様が、今、好きって……」


 両手が、ゆっくりと顔を覆っていく。


「好き、好き、す、好きって……お父様の前で……こんな、堂々と……」

「っ……っっっ……!」


 床に、じわりと霜が広がった。何度も「好き」と繰り返すたび、範囲が少しずつ広がっていく。


 当主が、満足そうに頷いた。


「よかろう」

「よかろうって……お父様、それだけで……!?」

「これ以上、何を確かめる必要がある?」


 当主が立ち上がった。


「凍牙」

「はっ!」

「今夜は宴だ。準備をさせろ」

「御意!」


 凍牙が、弾かれたように動き出した。廊下の向こうで「宴の準備だ! 特上の肉を出せ!」と叫ぶ声が響いていく。


 蓮の足元に、いつの間にかココアが戻ってきていた。当主の家の使用人から、こっそり何かをもらっていたらしい。口の周りにソースがついている。


「……お前、こんな時に」

「わふっ」


 悪びれる様子はなかった。


 雪菜は、まだ両手で顔を覆ったまま、床の霜と一緒にへたり込んでいた。


「……お父様……いきなり過ぎます……心の準備が……」

「早とちりで実家に飛び込んできた娘に言われたくはないな」

「うっ……」


 正論だった。


 当主が、蓮の方へ向き直った。


「なお、一点訂正させてもらいたい」

「なんだ?」

「先ほどから『お見合い』という言葉が飛び交っていたが、正式には『顔合わせ』だ。お見合いには釣書と申込の正式な手続きが必要になる。今回はまだそこまで踏んでいない」

「……」


 蓮は、特に何も言わなかった。


 小夜が、いつの間にか部屋の隅に控えていた。手帳を取り出し、すかさず何かを書き足している。


「訂正、承りました」

「小夜!? いつからそこに……!」

「先ほどからです」


 雪菜が、崩れ落ちる勢いをもう一段深くした。


「……そんな細かいところ、今どうでもいいです……!」

「お嬢様。正確な言葉遣いは、神代家の――」

「今はいいですから……!」


 大広間の外から、宴の準備をする物音が賑やかに響いてきていた。


 蓮は、それを聞きながら、ふと思った。


 ……本当に、厳しい家だったのか、ここ。


 深く考えるのはやめた。


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