↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界最強を隠したい俺、学校一の冷徹な氷系聖騎士に監視(同棲)されることになった ――中身は激重感情、記録は凍る監視報告書  作者: ざつ
第1章:押しかけ同棲、始まりました

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
2/25

第2話:新参ワンコVS先住魔獣。 ――炙り肉の前では、属性も覇気も関係なかった。

 少し、説明しておく。


 現代にダンジョンが出現して、もう数十年になる。地面が割れ、魔物が溢れ、同時に人類の中から魔術の適性を持つ「能力者」が生まれ始めた。国家は能力者をハンターとして登録し、ランクで管理するようになった。F、E、D、C、B、A、S、SS。最高峰がSS級とされており、神代雪菜はそのSS級だ。学生にして国家最高峰、氷の聖騎士と呼ばれる所以だ。


 ちなみに蓮のランクは、国家登録上は「一般」になっている。


 本題に戻る。


 雪菜がソファに落ち着いてから、まだ一時間も経っていない。


 リビングのソファを挟んで、二つの視線がぶつかり合っていた。


 片方は、ブラウンのトイプードル。


 もう片方は、白銀の髪の聖騎士。


「…………」

「…………」


 ピリピリと、空気が震えている。


 ソファの肘掛けに鎮座したココアは、王者の目でじっと雪菜を見下ろしていた。その小さな体から漏れ出る地属性の覇気が、テーブルのコップをかすかに揺らしている。


 対する雪菜は、ダイニングチェアに背筋を伸ばして座ったまま、青い瞳でココアを真っ向から睨み返していた。口元はきゅっと引き結ばれ、足元のフローリングには薄っすらと霜が広がり始めている。


 蓮はキッチンで朝食の準備をしながら、それをちらりと横目で確認した。


 ……まあ、こうなるよな。


 ついさっき転がり込んできた雪菜と、ここはもう蓮の縄張りだと主張するワンコ。仲良くしろという方が無理ある。


「……ねえ蓮様」


 雪菜が、ことさら涼しい声で呼びかけてきた。


「なんだ?」

「あの子、さっきからずっとそういう目で私のことを見ているのですが……」

「ああ……」

「何か言うことはありませんか!? ほら、雪菜は蓮様の特別な存在――」

「……ココアも慣れてないんだろ。ほっとけ」


 フライパンに油を引きながら答えると、「ちょっと聞いていらっしゃいます!? あと、ほっとけ、じゃないですよ!」と声が跳ね上がった。


「あの子の覇気、ご存知ですか!? さっきから断続的に地属性の波動を放出していて、私の氷結魔術が微妙に干渉されているんですけど!? これ絶対わざとやってますよね!?」


 わざとだろうな、とは思う。


 ぐるる、とでも言うようにココアが低く鼻を鳴らした。雪菜が「な、鳴らした!? 今絶対、うるさい新参者め、と思いましたよね!?」と声を裏返らせる。


「わふん」


 違う、とでも言いたそうな返事だった。どう見ても違わない。


「……二人とも、飯できるぞ」


 蓮はまな板に牛カルビを並べながら言った。


 それだけで、ぴたりと空気が変わった。


「…………」

「…………」


 さっきまで剣呑に睨み合っていた二つの視線が、示し合わせたようにキッチンへと向く。


 現金な連中だ。


 冷蔵庫から取り出した国産牛のカルビ。毎週金曜は肉の特売日で、昨夜確保しておいた今週の戦利品だ。雪菜が「お肉、朝から食べるんですか!?」と目を丸くする。


「食べるだろ、普通に」

「朝からカルビは……普通じゃないと思うのですが……」

「わふっ!」


 ココアが同意するように鳴いた。ただしこちらは完全に「早くしろ」という意味合いだ。


 フライパンに並べた肉に向け、蓮は指先を軽く向ける。


 ――【極小火力:点熱】。


 魔神すら一瞬で消し飛ばす炎を、針の先ほどに絞る。肉の繊維一本一本に、最適な熱を通していく。表面にだけ完璧な焼き色をつけ、内側はとろけるジューシーさで止める。火を使わない、完全なる無音の調理だ。


 30秒。


「……できたぞ」


 皿に盛りつけて、テーブルへ。


「わふっ! わふっ!」


 ココアがソファから飛び降り、テーブルの前で前足をそろえて座った。背筋が伸びている。どこからどう見ても「お手」の予備動作だ。


「……ちょ、ちょっと待ってください!」


 雪菜が立ち上がり、同じようにテーブルの前に立った。そして、びしっと右手を差し出す。


「お手です、蓮様」

「…………」


 蓮はしばらく二人を見比べた。


 聖騎士と魔獣が、朝から揃ってお手をしている。お前は、犬に対抗心燃やしてて何も思わないのか……。


「……はいはい」


 ため息をひとつついて、ラップした小さな肉片をそれぞれの前に置いた。


 雪菜がきゅっと指でつまんで口に入れる。


 ふわっと、表情が溶けた。


「……っ!? な、なんですかこれ……!? お肉が、溶ける……!?」

「わふ……っ」


 ココアも一口。小さな体が、ぶるっと震えた。尻尾が高速で回転し始める。


「外はちゃんと焦げてるのに、中がとろとろで……こんなお肉、食べたことないです……!」

「わふわふっ!」


 雪菜とココアが、横並びで蓮を見上げてくる。


「もっと!」「わふっ!」

「……わかった、わかった」


 蓮はもう一枚、カルビを手に取った。


 気づけば二人は、さっきまでの剣呑な空気をどこかへ放り投げて、肩を並べてテーブルに向かっていた。雪菜が「ねえ、次は私が先ですよ」とうっかり小声でタメ口を使い、ココアが「わふん」とちんまり主張し、雪菜が「あ、ごめんなさい、どうぞ」と引く。


 ずいぶんと早い和解だった。


「……肉の前では関係ないんだな」


 蓮がぼそりと言うと、雪菜がはっとして背筋を伸ばした。


「ち、違いますよ!? 別に仲良くなったわけじゃなくて、ただ、お肉が美味しかっただけで……!」

「わふん」

「そう! そういうことです!」


 ぷいっと顔を背ける雪菜の足元で、ほんの少しだけ霜が薄くなっていた。


 蓮はそれを見て、静かにフライパンを火にかけた。


 ……まあ、これくらいなら悪くない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。