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ep32.悪女は現実を受け入れられない

 私があれこれとみんなが険しい表情になってしまった理由を考えていると、皇帝陛下が口を開いた。


「エヴァのおかげで、私たちは無事だった」

「であれば、良かったです」

「…良い訳ないでしょう?」


 私の良かったという言葉に対して、皇后陛下はいつもより低い声で言った。


 皇女殿下も相変わらず泣きそうな顔のまま私に気持ちをぶつけてきた。


「姉様が無事じゃなかったじゃない…!」


 皇女殿下に続いて第二皇子まで、珍しく私に自分の気持ちをぶつけた。


「そうだよ。この国と俺たちを救ってくれた君が無事でいてくれないと、俺たちが戦った意味がないんだから…」


 いつもは快活な第二皇子がここまで寂しそうな顔をして言うのだから、相当心配してくれたのだろう。かと思えば、次は第一皇子が寂しそうに尋ねた。


「何故、私たちがあの手紙を寄越されて開戦したか分かるか…?」

「それは…、自国、ティラノ帝国を軽んじられたからではないのですか?人質へと寄越した私を簡単に取り戻せるものだと腹を立てたのでは…」


 憶測を途中まで話した時点で、それは間違いだということに気付く。


 だってあまりにも、悲しそうなんだもの。


 だけど私にはこれ以上理由が見当たらなかった。


「あなたを、祖国へ返すのが私を含めて皆嫌だったからだよ」

「えっ?」


 聞き間違いかと問うてしまいたくなる程にはおかしな返答がかえってきたのだけど。


 第一皇子は混乱している脳内に追い討ちをかけるように説明した。


「隣国からの手紙の内容を国民に伝えたところ、皆も快く戦争を承諾してくれた。それだけ、流行り病から救ってくれたことや、知恵を授けてくれたことに感謝しているんだ。私たちも、感謝してもしたりないほどの恩を受けている。だから、私たちがあなたを隣国に返すのが嫌だと思うのは、当然のことなのだ。」


 ああ、もうやめてほしい。


 お願いだからどうか、これ以上私に温かさを与えないで。


 これ以上強欲な私は見たくない。


 2年前のように、何を望むことでもない。無欲な私でいさせてほしい。


 そうすれば、彼に、彼らに、…もっと温かさが欲しいなんて思うことはないのに。


 この環境に慣れてしまったから、優しくされることに、話しかけてくれることに、笑顔でいることに。


 全部全部、私なんかが与えられてはいけない贅沢なものだ。


 だから、捨ててしまわないと。


「私は、何もしていません…。ただ価値のある人質としてみなさんのお役に立てれば、何でも良かったのです。皆さんに好意を抱かれるようなことは、何もしていないのですよ?だから、私を早くこ「エヴァ」」


 もう。


 この先が1番大切なのに、どうして遮るの?


 まあいいや。言うチャンスは生きている以上いくらでもある訳だし。


 私は黙って第一皇子の言葉を待った。


 そして、第一皇子は心に決めたように言った。


「もう…、やめにしないか…?」


 やめる?


 もしかして、もう隣国は負けたから、私も用済みになった。だから、死刑になる。そう言いたいの?


「あなたの祖国は、申し訳ないが私たちの国の支配下となった。だから、もうあなたは人質でなくても良いんだ」


 ああ、ほら、やっぱり


「つまり、私も死刑を執行されるのですよね。人質でない私には何の価値もありません。お早めに離縁して死刑を執行するか追放でもしてくださいませ」


 私は義母以外からの無償の愛を知らない。


 誰だって、温かさや愛をくれるからには対価を払わないといけなかった。


 父や義兄、義弟からの愛は義母あってのものだったし、皇族の人たちも、私が国民や皇族の助けになるようなことをしたから、だから温かくしてくれた。


 そうでしょう?


「本当に、言ってるのか?そう、思ってるのか?」


 何を当たり前のことを。


 私が逃げてしまわないか心配なのだろうか。だったら安心して欲しい。


 私は逃げない。


 だって、母も義母も、私が生まれたから、私がいたから亡くなった。


 もう、目の前で人の死を見るのは嫌。


 私のせいで誰かが死ぬくらいなら、私が早くこの世からいなくなってしまった方が、余程マシだもの。


「もちろんです。あ、執行する時はせめて痛みの少ない方法でお願いしますね。少しはこの国に貢献出来たようなので」


 なんで、そんな目で見るの?


 憐れみのつもり?それとも慈悲?


 いらないのに。優しさも、温かさも、今殿下が持っているであろう気持ちも、私には勿体無いものだ。


「あなたは、死刑ではない」

「な、どうし「ましてや」」


 突然、2年前から言われていたことを取り消されて、頭が混乱していた。


 だって、言っていた。いずれ私は死刑になる。そう言っていたのを、私はこの耳でしっかり聞いた。


 第一皇子は私の気持ちなど知ったことではないと言うように告げてくる。

 

「追放することも、あなたとの婚約を破棄することもない」


 そこまで言われてようやく、私は言いたかったことを遮られることなく話すことが出来た。


「どうしてです…!私の祖国があなた方の国の支配下となった今、私がここにいる意味も、殿下との婚約を維持する意味もありません…!!ただの慈悲なら、私にそんな綺麗なものを渡さないで…」


 ここで笑うことなど、到底無理なことだった。


 きっと今の私の表情は歪みまくっているに決まっている。今まで溜まっていたものが、全て言葉として出てきそうなのを必死で抑えているのだから。

 

 


 

 









最後まで読んで頂きありがとうございました!

次話も見てくださると嬉しいですm(_ _)m

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