ep31.悪女は皆が幸せになる方法を考える
エイハムさんが私の元から去って行き、私は魔力の凝縮を始めた。
誰も死なせない。
死なせてなるものか。
皇后陛下の民の皆が幸せであるべきだというその意見は、私も好きだったから。
それに、ここにきて2年、どうしても、他人とは思えなかった。
「水魔法、霧雨」
魔力を、国を包むように広げた。
どうかみんなが助かるようにと、そんな願いを込めて。
「光魔法、天からの癒し」
水魔法は、広がってしまった赤い街を鎮めるため、光魔法は国民の負ってしまった怪我を治すため。あわよくば、兵士たちの怪我も治ってほしい。
魔法はそれぞれに与えられる使いやすい属性というものがあるのだが、私はその中で、稀有な光魔法を使えて、たまたま全属性にそれなりに適していただけ。
こんな偶然があるのだろうかと魔法を調べ始めた当初は疑ったが、これも自分を守るための術だと思って素直に受け取ろうと決めたのは良い思い出だ。
今ではこうして、誰かの役に立てているから、受け入れて良かったと思う。
…いつのまに、こんなにも国民や皇族の人たちに対して情を抱いていたのだろう。
情を抱いてはいけないと言ったのは私のはずなのに。それでも、温かかったのだ。
くれた優しさが、どうしようもなく、私の心に沁みてきたのだ。私は、もう十分あの人たちに良くしてもらった。幸せにしてもらった。
だから、悔いなんてない。
眩暈がするし、吐き気もする。
しまいには口から赤黒いものが出て、立っていられず下から崩れ落ちた。
おそらく魔力の使いすぎだろう。
人間には個々の魔力量に限界がある。限界以上に魔力を使えば重い異常をきたすことになるだろうし、最悪の場合死に至ることだってある。
へたり込んで座ってしまったが、それでも魔法を使うことはやめなかった。
まだ、消えていない。
せめて、国から火の手が消えるまでは、魔法を使うことを止めてはいけなかった。
何故なら、ここの皇族は皆自分の国が好きだから。
国を愛し、国民を愛し、自分の味方や領民には施しを与える。自分のためではなく国民のために、彼らは働き、闘い、統治する。
これ以上に良い皇族など、後にも先にもいないだろう。
ここがどれだけ戦闘国家と言われていたとしても、国民にとって、…私にとっても…皇帝陛下たちがとても良い人たちなのには変わらない。
だから、誰も悲しまないようにするためには、私が魔法を使い続けるしかないのだ。
◇◇◇
魔法を使い続けて、かれこれ数十分がすぎた。
その頃には、火の手もなくなっていた。
ああ、終わった…
さっきの悲鳴のような不安を煽るような声はもう聞こえない。
人の声は聞こえるものの、それは不安ではなく驚きというほうが強そうだ。
国民たちが安全だと分かった瞬間、私は倒れた。
立つことはおろか、座ることすらも出来ず、ただ冷たい地面に力無く伏せることしか出来なかった。
身体が軋んで力も入らない。
口の中は未だ血の鉄臭い味がするし、多分ダラダラと出ている。
後処理をお願いするのは申し訳ないけど、どうやら本当に限界を迎えそうなようだった。
どうか私の死刑が実行される前にこの国の人たちが復興出来るようにと願って、意識を手放した。
_____________
私が次に目を覚ましたのは記憶に残っている冷たい床の上…ではなく、ふかふかなベッドに身を寄せていた。
まだ生きていることに内心驚いた。
ゆっくりと目を開けると、まず1番に声を上げたのは皇女殿下だった。
「エヴァ姉様!目が覚めたのね!あぁ、よかった…」
今にも泣きそうな顔で言ってくるものだから、私は少しだけ焦った。
出来るだけ安心させたくて声を出そうとするのだが枯れていて出なかった。すると、続々と他の皇族たちも声をかけてくれた。
「目が覚めて良かった。我が国の救世主の目が覚めないとなると、それこそ国の一大事だ」
「本当にありがとう…!エヴァ。あなたのおかげで国民を皆守れたわ」
皇帝陛下と皇后陛下も、慈しんだ目でこちらを見てくる。
「あなたがここまで無茶をするとは思っていなかった…。どうか、自分の身を1番に考えてくれ…」
「兄上の言う通りだ。エヴァ、君は自分のことを蔑ろにしすぎだ」
そんなことを言われても、自分を大切にする方法を私は教わらなかったから…。
叱られてるのか褒められてるのかよく分からなかったけど、今はとにかく気になっていることを順番に聞くことにした。
「こ…こは?」
ああ、そういえば声が出ないんだった…。
どうにか出した声も掠れ掠れで聞くに耐えない。
第二皇子がすかさず水を持ってきてくれた。
その間に、第一皇子が私の質問に答えてくれる。
「ここは本邸の特別室です。…あなたが目を覚ますのは、…1週間ぶりなんですよ」
そう言って、第一皇子は力無く微笑んだ。
そんなに眠っているとは思わなかった。
聞きたいことはたくさんあった。
戦争はどうなったのか、爆弾を持ち込まれた後の街は無事なのか、死者はいないか。だけどそれよりも、言いたいことがあった。
「皆さんがご無事に生還できて、何よりです」
私がにへらと力のない笑みを浮かべると、皇族の人たちはみんな険しい顔をした。
…えっと、私、また何か気に触ることを言った…?
最後まで読んで頂きありがとうございました!
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