ep23.第二皇子サイドのお話(2)
エヴァが帰ってきた。
「おかえり」
そう言うと、エヴァは泣きそうな顔をした。
どうしてかは分からなかった。
家族を持っていれば、当然言われるその言葉を聞いて、嬉しかったのか、それともまた別の、俺が知らない何かがあるのか。
真意は定かではないが、どうしても放っておけなかった俺は翌日エヴァの様子を見に離宮へ向かった。
2年前ならこんなことしなかっただろうし、エヴァのことを視界にすら入れなかっただろう。
それがこんなに気にかけるようになるなんてな
「エヴァ、入ってもいい?」
「どうぞ」
まるで分かっていたかのように即答だったことに違和感を覚えたが、いくら考えても分からない事だったので気にせず入ることにした。
「…少し顔色が悪くない?」
「え、気のせいですよ。久しぶりにお会いするのでそう見えるだけです」
俺は記憶力は悪い方ではないため、たかだか半年で人の顔色を覚えていないような人間じゃなかったはずなんだが。
「…俺には言えないこと?」
「いいえ!そうではないのですが…誰にも言いませんか……?」
「言わないよ」
ここ半年は別の場所で暮らしていたので当然と言えば当然なのだが、依然として俺たちのことを家族として見ていない。
だけど、2年、2年だぞ?
2年経っても、俺たちを家族と思えない理由があるのか?
……いや、そうだった。
あるじゃないか。エヴァが1番、俺たちを家族と思えない圧倒的な理由が。
「暗殺者を片っ端から治療していたんですよ」
「はっ?」
そもそも、エヴァを【人質】として迎え入れたのは、紛れもなく俺たちじゃないか…。
「反逆じゃありませんよ?!」
そんなこと疑ってないよ。
顔には出さないけど、やるせない気持ちで満たされた。
「取引をしたんです。取引相手が誰か話すことと、ここで捕まって殺されるか、私の治療を受けて、罪を償ったら平民にはなるけど、超のつく贅沢をしなければ衣食住には困らない生活を約束すること」
「…それは、あまりにも向こうに有利なんじゃないかな…」
優しすぎるエヴァの仕打ち。本当はもっと重たい罰を与えてもいい。最悪死刑になる罪だと、エヴァは、分かっているのだろうか。
「あえてですよ」
「あえて?」
思いもよらない言葉に、思わず復唱をして聞き返してしまった。
「はい。追い詰められている人間ほど、より甘い誘惑に惹かれるのです。貴族の大体の雇い主は、バレそうになれば自決しろという命令を下しているはずです。それがもし、自決せずに済む方法があるのだとすれば?」
分からない。
この聡明さの出所が。
こんな考え、パーティーに出席してばかりの悪女じゃ到底考えることの出来ない思考だ。
「なるほどね」
隣国…エヴァの祖国から流れてくる悪女という噂の面影はどこにあるのだろう。
むしろ博識で聡明、自分を人質にしている国の民を助けるほどのお人好し。
今エヴァが話していることだって、わざわざ救わずに、もっと残酷な方法で情報を聞き出せたはずだ。
それを、自分を殺そうとしたやつの怪我を治して、生きるチャンスまで与えて、本当に不思議。
「分かって頂けて良かったです」
「それで、顔色が悪いのはその暗殺者を片っ端から治療してたのが原因?」
「おそらくそうです」
この世界で治癒魔法が使えるのはどれも希少な属性で、光属性、闇属性、そして聖女だけが扱うことの出来る聖属性魔法だ。
今まで治癒魔法はどの属性が使っても同じなのだと思っていたけど、少し違ったようだ。
「私の扱う光魔法は、身体の内側、つまり、病気を治すことに特化しています。そして闇魔法は身体的、身体の怪我を治すことに特化しています。そして聖魔法はその両方を治すことが出来るのです。」
「そうなんだ。初めて知った。エヴァは流石だね」
心からの本心でそう言うと、エヴァは首を横にフリフリと振った。
「いえ、これくらいで顔色が悪くなるなんて、まだまだ魔法を扱いきれていない証拠です。例え特化していなくても治すことは出来るので、今後精進して参ります。」
まだ、頑張るのか…?
もう既に半年で俺たちみんなを救っているのに?
ことの発端は俺の自由を得るためだけど、利益自体は皇家みんなにあった。
俺も第二皇子の派閥が無くなったことで完全に自由に貿易が出来るようになったし、クラウス兄上は暗殺される心配が無くなったし、皇女レジーナも父上も母上も、食事中紛れているかもと、毒の心配をしなくても良くなった。
この2年で、エヴァは国民のことも俺たちのこともたくさん救ってくれた。
なのに、それでも、彼女は頑張るのだ。
「…これに関しては、俺がとやかく言うことじゃないね…。うん、応援してる。ただ、無理は禁物だよ」
「はい、ご心配ありがとうございます」
多分エヴァの中では社交辞令だとでも思ってるんだろうな。
「じゃあ、そろそろ俺は戻るよ。顔色が悪い原因も分かったし、…あ!そうだ、言い忘れてた」
「?何ですか?」
「精進するのは自由だけど、今日は休むこと。良いね?」
まるで自分が母になったかのような気分に少しおかしくなっていると、向こうも同じように思ったのかクスクスと笑っていた。
「分かりました」
ちゃんと笑っててよかった。
エヴァの笑顔を見れて、俺は一安心した。
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