ep22.悪女は価値を証明する(1-3)
「どうして?」
「はい?」
皇后陛下からの予想していなかった疑問点に私も疑問符を浮かべざるを得なかった。
「どうしてあなたがその療養の地に行かないといけないの?」
これは…地雷、なのだろうか。
「えっと、私は何か皇后陛下のお気に触ることを言ってしまいましたでしょうか…?」
「…違うわよ。わざわざ貴方が療養の地に行かなくても、下の者たちに任せたら良いでしょう?」
皇后陛下は良くも悪くも平等な人だ。
確かに皇族は全身全霊で貴族平民関係なく国民を守り、平和な生活を保障している。
しかしそれと同時に、代わりに私たちのことも命を懸けて守るべきだと、そう思っているのだ。
「皇后陛下、それなら、私は人質です。この国で、誰よりも身分が低いと言っても差し支えないのですよ。ですから陛下、私を利用してください。私の息子たちのために命を懸けろと、そう言ってください」
これは私が適任だ。
それに、行くのは私1人ではないし、護衛だってエイハムさんがつけた人たちがいる。
私が行くという方法が、無駄な犠牲者を出さない1番効率的な方法。…だと言うのに、依然として皇后陛下は納得のいっていない様子だ。
「…あなたは、第一皇子の婚約者なの。そんなあなたが行く必要が、本当にあるの?」
どこまで言われても、私には理解出来る気はしなかった。
「ありますよ。私が行くことで、表面上は第一皇子殿下の婚約者である私を守ろうと指揮が高まるでしょう。それに、先言った通り、この婚約は表面上だけではないですか」
「………」
「私は後の死刑人です。そんな人間に情けは必要ないと、皇后陛下ならお分かりになるはずです」
穏やかな笑みで言った。
この言葉に何1つ、嘘偽りはないのだから。
私もまた、自分の人生において生きたい理由など、1つもないのだから。
一方で皇后陛下は苦いものでも噛んだような顔をして、渋々頷いた。
ただし怪我はしないようにとキツく言われた。
皇族の婚約者としての体裁を保つためだろうと思った私は快く了承した。
療養する予定の場所で私が過ごす事を離宮の侍女たちに言うと、「私たちも着いて行く」と言って聞かなかった。
けれどこれだけは、私も了承出来なかった。
「ごめんなさい。だけどこれだけは分かって欲しいの。あなたたちを危険な目に合わせたくない」
「…!そんなの、私たちも同じです!エヴァ様には楽しく過ごしていただきたいのです…!」
あらためて、侍女たちが本当に私を思ってくれていることが再認識出来た出来事だった。
だからこそ、この子たちを命の危険に晒すことはどうしてもしたくなかった。
「私は十分楽しい。あなたたちと一緒にお茶して、たくさん話して、充実してる。これからも今の日常を大切にしていきたいの。だからお願い。ここにいる人が誰1人として欠けないように、今だけは私の言うことを聞いて」
それは、私が初めてした【命令】だった。
今までのそれはお願いだ。
決して強要するものではないし、自身の意思で決めるもの。ただ今回は、私の意思を無理矢理他の侍女たちに反映させてしまう。それが命令というものだった。
命令をすれば、この関係が崩れてしまいそうで怖かった。今だって、もう今まで通りではいられないのだと少しだけ寂しくなった。
けれど、違った。
みんなには、それだけ私がここの侍女たちを大切にしているのだと、私の思いが曲解されずに真っ直ぐ伝わった。
思わずうるっと来てしまいそうになった私は唇をキュッと結んでから「ありがとう!」と元気よく告げた。
滞在期間は中立派だった人たちが全員動きを見せるまで。
目的を達成するまでにはまた約半年の時間がかかった。
純粋な気持ちで皇家に見舞いの品を渡すものから、そうでない、毒を仕込んで見舞いの品だと偽って渡した貴族たち。
直接療養の地へ出向き、暗殺を企てた貴族。暗殺者を雇い、誰が企てたのかをバレないようにと必死に誤魔化す貴族。
そんなことをしても無駄なのにとどれほど思ったことか。
ついに全員の動きが見られた頃にはティラノ帝国に来て2年が経っていた。
第一皇子には何も伝えずに来てしまったため少し申し訳なかったが、こうでもしなければまた着いていくとごねてしまうだろう。
この時だけは、一度も隠すことが出来なかった私の行き先を隠すことが出来たのだ。あれは半年経った今でも不思議だ。
完全に皇家の敵がいなくなるのを確認して、私は帰ってきた。
もう私のことなど忘れているだろうと思っていたのだが、どうやらそうではなかったらしい。
皇帝陛下、皇后陛下、第一皇子、第二皇子、第一皇女全員から温かい出迎えを受けた。
「おかえり」と、そう言われただけなのに、どうして人質にここまで温かく接してくれるのか、気になったけど、聞けなかった。
聞いたら、この温かさがなくなりそうで怖かった。私が受けて良いはずの温かみではないのに、私はこの国に来て欲張りになってしまった。
ああ、嫌だな…、知りたくなかった…
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