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ep20.第二皇子サイドのお話(1)

 おかしな女


 初めなんて、自分の人生には関わって来ないただの女だと思っていた。


 女は皆等しく弱い。

 自分でどうにかしようとせず全て他力本願。


 だから嫌いだった。…のだが、戦闘国家と言われているこの国に人質としてクラウス兄上と婚約を結ばされる女がやってきた。


 その女もまた、この国にやって来て絶望するのだろうと思っていた。この国は噂が噂だ。


 女からすれば嫁ぐだけでも絶望に値するのに、人質と言われてどれだけ心を病んでいるのだろうと。


 流石の俺も可哀想だと思った。


 ところが、その女は違った。「自分の価値を証明してみせる」なんて生意気なことを言う。


 常に弱い女も嫌いだけど、気の強い人も無理だなとこの時は思った。


 ある日、伝染病だと思われていた病の原因をあの女が突き止めた。


 正直かなり驚いた。


 あの女がいくら優秀と言えど、皇宮の調査を担当する人間もかなり有能だ。その有能な人員が手をこまねいている件を1ヶ月も経たずに解決したのだから。


 それからあの女は知らないだろうが、原因を突き止め魔法で皆の病を治したことにより次期皇后に相応しい人だと国民から強く認められた。


 さらには俺の提案にも乗ってきた。


 俺が言っているのは【病が流行する以前の利益よりも、流行後の今の利益を上げること】


 流石に無理だろうと思っていたのに、冷静に、楽しそうにしていた。俺と似た何かがあるのではと思った。


 俺の提案を飲んで1年が経った頃、達成できると思っていなかった俺の提案をクラウス兄上の婚約者は達成させた。


 おかげで俺にも利益が回ってきた。


 貿易で必要になる提示できる額が圧倒的に増えた。


 そのため、交渉も効率よく出来るようになったのだ。


 面白かった。

 あの女のすることも、俺の貿易で出来ることが増えることも。彼女に限界はないのではと思うほどだった。


 同時に、少し申し訳ないことをしたとも思った。


 気に入らなかったのだ。皇族が直々にお礼を言っているのに、あの女は何故か頑なにそのお礼を受け取ろうとしない。


 あの女の見解では人質という立場で俺たちにお礼や謝罪を言われるのは違うのだそうだ。


 『ならどうすれば良い?何をして欲しい?』と聞けば、本当の目的を話すものかと思っていた。それほどまでに、あの女は自分を甘やかさない。


 返答は『これからも私たちのために役立てと言えば良い』とのことだった。


 あり得ない。


 心の中でそんな言葉が浮かんだ。


 貴族は皆、自分のしたことの功績を世に知らしめようとする。


 だから新聞社にお金を出して自分のことを載せてもらったり、自らパーティーを開いたりする。


 今回父上が言った【叶えられる範囲でのお願い】というのも、そういう類を想像して言ったものだろう。


 結果はまさかの俺と話したいと言う、別にお願いしなくても簡単に叶えられるようなことだった。


 そうして見事に俺のしたいこと、考えていることを言い当てられ、顔には出さないもののつい焦ってしまう。それすらもあの女…エヴァに見抜かれているようだった。


 弱みを握られたと思った。


 皇族は自分のしたいことを優先してはいけない。結婚がそうだったように、皇族には国の政務に携わらなければいけないという義務があるのだから。


 ところがその義務を放棄しても良いと、間接的に言われた。


 自分がしたいことを正直に家族に打ち明けろと、きっと受け入れてくれると、言われた。


 エヴァは貴族の総入れ替えを行い、俺の派閥を無くすことで俺を貴族のしがらみから解放しようとしているようだった。


 そしてパーティーに出席して、貴族たちが初めにどちらに報告するのかを待てば良いのだと。


 思わずいつもの癖でニヤッとした笑みを浮かべると、エヴァは嬉しそうに「お気に召して頂けて何よりですわ」と言った。


 不思議だ。


「どうして君は、俺にそこまでするの?その事実を弱みとして使えば、今の人質って立場からもう少し良いものに出来るかもしれないのに」

「殿下はそうしてほしいのですか?」


 即答で言われた。


 まるでそんなこと考えたこともなかったというほどに純粋な眼差しで疑問をぶつけられた。


「そうじゃないけど、大抵の貴族は相手の弱みを握った瞬間から勘違いして威張るやつが多いから」

「勘違いでしょうか?」

「そう。勘違い。弱みを握った瞬間に、自分の方が有利な立場にあるって勘違いするんだ」


 説明すると、エヴァも知っているようだった。そして一瞬、ほんの一瞬だが、エヴァの瞳からハイライトが消えた気がした。


 だが本当に気のせいだったのか、気がつけばいつもの笑顔を絶やさない彼女に戻っていた。


 …今のは何だったんだ…?


「確かに。貴族というのは皆悪い意味で傲慢なものですからね。ですが殿下は違うでしょう?」

「え?」


 先のエヴァの表情が脳裏から離れずつい素っ頓狂な返事をしてしまう。


「自分が成し遂げたいものと、国民のためになることの双方を叶えようとするのは、私は決して悪いことではないと思うのです。殿下は国民のことをしっかり考えていらっしゃいますし」

「…!」


 何その新しい考え方。


 自分のしたいことを優先しても、悪いことじゃない?国民のことを考えているから?


「自分の心を満たしてこそ、人は人に優しく出来るのですよ。傲慢と言うのは、自分の心が満たされても尚、自分の利益しか考えないことです。私の中の【傲慢】の基準は、幸福を人に分け与えられるか与えられないかの違いです。ですので殿下は、傲慢ではないんですよ。少なくとも私から見ればの話ですけどね」


 ああ、とても、いとも容易く、俺にとっての救いの言葉を言ってくれる。


 初めは心の中で君を嘲笑っていた俺を、君はどうして救うんだ?


 どれだけの濃い人生を歩めば、そんな見解を思いつくのだろう。


 だけど、そうか。


 【傲慢】は、幸福を人に分け与えられるか分け与えられないか。俺は、自分にとっての楽しさや幸せを、国民の利益に繋げているから傲慢ではない…。


 自分の中でエヴァの言ったことを反芻させた。


「っあはは!そっか、そうなんだね。…君は凄いね、あんなにどうしようか迷ってた俺の考えなんか吹っ飛ぶくらい、何故か分からないけど納得のいく答えだったよ」

「それは良かったですわ。第二皇子殿下」


 第二皇子殿下と言われて、ズキンと胸が痛くなったのは内緒の話。


 エヴァはまだ、誰1人として俺たちのことを家族だと思ってはいないことを再認識させられる呼び方だった。無論、俺のことも、エヴァからすれば、ただの第二皇子でしかなかったことに胸が痛んだ。


 こんなこと今までなかったのに。


 エヴァには、俺のことを家族として見て欲しい。兄として見て欲しいと、女性に対して初めて抱く感情に戸惑うのだった。


 …流石にこれは、傲慢だね…






 

 









最後まで読んで頂きありがとうございました!

次話も見てくださると嬉しいですm(_ _)m

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