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今日も何かを食べています  作者: 弓軸月子
第五章

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94 銀むつ西京焼き定食


『暫く見ているからこそ遭遇するんですよー』


 一応もう早朝で良いだろう。

 四時半、昨日割った竹を最終確認、気になる部分に軽くやすりをかけながら佐藤さんと電話。

 議題は写真の私に話しかける場面に遭遇するにはで、返ってきたのはそんな言葉。


「暫く見ていられる時間って、やっぱり昼間かね。夜だとウチの親イチャイチャし始めるから、あー、ハイハイってなるんだよねぇ」


 やすりをかけた竹は鍋に放り込む。届いたのが青竹だったので、念の為茹でて油抜き。


『お若いんですねー』

「父が異常レベルで母の事が好きなの。娘としては微妙」


 崖に私と母がしがみついてたら迷いなく母を助ける。

 勿論私が幼稚園児とかであってもだ。

 そして母はそれを受け入れるし、どうして子供を先に……! みたいなことは、死なない限りは言わない。否、死んでも言わないか。


『微笑ましいじゃないですかー。仲が悪いよりは良いと思いますけれどー』


 それはそうなんだけどね。


「まあねぇ。必要最小限保護者してくれたしね。感謝しなくちゃとは思うけど、結婚もしてないし、子供もいなかったから難しいかな。上辺だけ」

『まだ裁判の余韻が残ってますねー』

「え? そういう感じ?」

『そんな気がしますねー』


 そうかな?


「裁判て言えばさぁ……」


 気になった事を聞いてみる。


「閻魔大王担当者が私の前に現れないんだけど」

『後回しじゃないですかー? 高坂さんは強制でも確定でもないですからー』


 強制と言うのは峰岸さんの様に刑罰後生まれ変わる人で、少ないながらもいくつかの候補は案内があるという。

 茉里奈の様に条件が達成されている人は、そこそこある候補の案内で、選び方や、相談等にのってくれるらしい。


『閻魔さま担当は条件達成者の生まれ変わり拒否対応がメインなのでー』

「拒否対応?」

『生まれ変わりたくなーいー! もっとゲームで遊ぶんだー! という方の対応ですー』


 そういう死者もいるのだろう。モノマネっぽい言い方がちょっと可愛い佐藤さん。

 まぁでも、居るよね、そりゃあ。

 ただただ己の欲を満たすためと判断された場合は、脅してみるのだと言う。


『お前みたいに身勝手なヤツばかりならー、地球なんてなくしてしまおー! ええっと、今って人口七十七億人位でしたっけー? 七十七億人をお前の我がままで殺すのだー! って感じで』


 全然ピンとこない上に脅されている感じがしない。


「それで言う事聞くの?」

『七十七億の人質では不足ですかー?』

「嫌だけれども。死んだら皆こっちに移動してくるんでしょう? それはそれでありなんじゃなかったっけ? こっちを地球にしちゃうみたいな話」

『そういう歴史もあるにはあるんですが、あんまり均衡が保てないなら人間の飼育を辞めますよー、というのは神様から再三言われていますのでー。何とかしてるんですよー』

「え? 神様だって食べるものないと困るんじゃないの?」

『逆人質! 高坂さんもなかなか猟奇的な発想をー』

「回りくどいのも面倒なんだもの」


 フツフツと沸騰している湯から菜箸で竹を取り出してウッドデッキに並べて乾かしながらの難しい会話はより難しいのだ。


『神様としての楽しみが減るだけでー、別に生存に支障は無いようですよー。神様になった事がないので分かりませんけれどー』

「食道楽なのかしら? 霞を食うのは仙人だっけ? 神様って何で稼働してるんだろう?」

『太陽光発電とかですかねー』

「分かった。人間の常識で考えても無駄なのね」

『振動発電なら自身が揺れてればワンチャンありよりのありかも知れませんよー』


 本当に、どこで覚えてくるんだろう。そういう言葉。


「まぁいいわ。じゃあ、閻魔大王担当の人は、その内手が空いたら来るかもってことで、期待しないで忘れておく」

『受付で申請すれば会えますよー?』

「佐藤さんが戻った時に対面がまだだったら連れてきてよ」

『承知しました』

「あら素直」

『失礼なー。いつでも素直ですよー』


 かつてこの人に素直だった時があるのだろうか。


「そう言えば最終裁判三十五日目ってカウントになるじゃない? なんか四十九日が忌明けって思ってたんだけど」

『宗派とー、地域とー、あとは人間の都合ですかねー』

「宗派とか地域によっては三十五日が忌明けって事?」

『三十五日に決まってー、四十九日に旅立つー、とか、色々ですからー、何とも言えませんけれどー。一月下旬に亡くなると三月に四十九日でー、三ヶ月またぐのがよくないから三十五日に法要するー、なんてお話もありますね』

「でも実際は三十五日に決まって出発、移動に一週間かかるから四十九日に、着床?」

『ですねー。高坂さん、結構こっちに詳しいですよねー』

「比べる対象が茉里奈しかしないけど、茉里奈の方が細かい事は詳しいと思う」


 実際色々な人から聞いた話を統合するとそういう結論に至ると言うだけで、調べたわけでもないし。


『忌明けは生きている人用の言葉ですからねー。気持ちの一区切りですよー』

「忌は汚れなんて時代もあったんだもんね。色々変わったのかな」

『伝染するから一歩も外に出るなーみたいな話ですよねー。それこそ伝染病でも蔓延していたのかもー』

「それはありそう。そういうきっかけで歴史がねじ曲がったり捏造されたり簡略化されたりするのよね、きっと。……ていうかさぁ、生前の悪い部分が周りにいた人の想いで軽減されるってやつ、法要は関係ないの? 死の周知だけ?」


 そう言えば我々の死亡日だと普通の死者より只でさえ一日少ないのだ。


『今頃それ気になっちゃう感じですかー? まぁ、真面目な話ですけれどー、昨日まで気にしていたのに今日からは綺麗さっぱり忘れてというのはなかなかありませんからー、裁判では一日分きちんと反映して下さってますよー』

「そういうものですか」

『そういうものですよー』

「そういえばこっちに来て早く到着した警報に遭遇してない」

『そんなに頻繁にないですよー。たまたまですー。たまたまー。奇跡みたいなものですよー』

「どうせ奇跡なら植物状態で寝ていた夢オチで目覚めてみたいもんだわ」

『無いですねー』


 そんな感じで今朝は長々と佐藤さんと会話をした。

 夢とあの世の違いって実はあんまりないんじゃないかと、ちょっと思った。




***




 掃除を終えて暖簾を出し、ついでにカウンターを見れば、ちゃんと用意した重箱は無くなっていて、メモが置いてあった。


『ごちそうさまでした。美味しかったです。重箱は今夜お返ししますので、今晩もお願いしていいですか? 空』


 漠然と当たり前の様に毎晩用意するつもりになっていたのだけれど、そういう訳でもないらしい。

 一瞬どうしようかな? と思ったけれど、そもそもなんでそんな事を思ったのだろうと思ったので、メモはクシャっと握ってゴミ箱へポイ。

 二階で茉里奈が掃除をする音も聞こえて来たので、そろそろ朝食の準備をしなくちゃ。


 昨晩は洋食っぽかったし、今朝は和食にしようかな。

 銀むつ、銀むつが良い感じに漬かってるはず。


 味噌床は出来るだけ取り除いてキッチンペーパーで拭いて焼くだけなので、先に手順を考える。

 野菜多めのお味噌汁と、卵焼きと、おしんこで良いかな。

 忘れちゃいそうだから先にちょっと多めの大根おろし。

 皮を剥いてざく切りにしてブレンダーを使って簡略化。


「ゴッゴッガガガッガッゴッゴグガガガガガガー」


 お味噌汁は、長ネギと、茄子、椎茸、ごぼう、にんじん、小松菜かな。

 おしんこはきゅうりの梅肉和え。

 よしよし。

 ごぼうと人参を斜めに切って先に茹で始める。

 きゅうりは縦にシマシマになるように皮を剥いてちょっぴり厚めの輪切り。

 梅ぼしは種を取って包丁で良く叩く。ついでに鰹節粉も入れたらちょっと硬めになったけど、どうせきゅうりから水気が出るので気にしない。

 袋にきゅうり、叩いた梅、ごま油をたらして満遍なく混ぜたら準備完了まで休憩に入ります。

 お次は椎茸と茄子。椎茸は軸を取って五~六等分にスライス、茄子は乱切り、アク抜きは省略してごぼうと人参の鍋にドボン。

 小松菜はざく切り、長ネギは小口切り、小松菜の根の方だけ先にお鍋に放り込んでここらで和風顆粒出汁投入。

 卵焼きはシンプルな厚焼き玉子で良いかな。卵三つをボウルに割って、醤油とお砂糖を入れて白身が残らないように良く混ぜる。

 銀むつもそろそろグリルに入れて焼き始めよう。

 皮側から焼いて、皮がパリッとする手前ぐらいでひっくり返して、もう一度ひっくり返して皮がバリっとしたら完成という邪道な焼き方をする私ではあるが、西京焼きは焦げやすいのでいったん弱火でじっくり、の間に卵焼き。

 温まった玉子焼器に半量入れてぷくっと膨らんだところを箸で潰して、折りたたんで奥に寄せて、追加の半量入れたら折りたたんだ卵を持ち上げて下に卵液を入れたらくるんと手前に巻き倒して、包む要領でもうひとパタン。

 綴じ目を下にもうひと焼き。

 醤油と砂糖だけのなので卵焼きも焦げやすいのだけど、ちょっと色づいた感じも美味しそうなんだよね。

 余熱で完全に火が入るので、そのまま交互に両側面に押し付ける様に形を整えて、暫くお待ちくださいっと。

 魚をひっくり返してから、お味噌汁用の鍋に小松菜の葉っぱ部分とネギ追加。


「おはようございます」

「おはよう。もうちょっとで出来るよー」


 茉里奈が良いタイミングで降りてきた。

 お茶とご飯は茉里奈に任せて、お味噌汁用鍋は火を止めて味噌を溶き入れて完成。

 魚はもう一回ひっくり返して、その間に厚焼き玉子は六等分。

 一人二個づつで山田さんの分も今日は用意しておく。

 大きめの丸皿に厚焼き玉子と軽く水けを切った大根おろしを盛り付けて、銀むつの西京焼きを真ん中に置いたら完成。

 きゅうりの梅肉和えは小鉢に……入れる前に思わずもうひと揉み。意味が無いようであるひともみであって欲しい。小鉢に盛ったら完成。

 使ったものはざっと洗って食洗機へ入れて、お味噌汁を注ごうとしたところで山田さんがやってきた。


「おはようございます」

「「おはようございます」」

「間が悪かったですかね」

「いえいえ、その辺にいったん置いてもらって、一緒に朝食にしましょう」

「ありがとうございます」


 山田さんは嬉しそうに笑って言う。


「では、住居側の玄関から入り直して土間に置いておきますね」

「え? 山田さん今なんて?」

「住居側の玄関から入り直して土間に置いておきますね?」

「土間!」


 悩みが一個解決した。

 あっちでもそっちでもなく一階のあそこは土間。


 その後三人でカウンターに並んでご飯を食べた。

 美味しいと言って貰えたので良かったな。

 銀むつもいまではほとんど高級魚。とろっとした食感で美味しい。煮魚も美味しいんだよね。


 配達物はアボカドとオートミールとアーモンドミルク。

 茉里奈からはズッキーニ。

 謎野菜は終わったの? と聞けばちょっと恥ずかしそうに言う。


「自宅を見に行ったんですけれど、美味しそうに食べていたので」


 ああ、茉里奈も展望台に行ってたのかな。

 クシャっと茉里奈の頭を撫でて聞く。


「夜に作るね。どんな料理だったの?」


 いつもなら料理の方が気になるんだけれど、なんだかちょっとだけ切なくなった。

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