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今日も何かを食べています  作者: 弓軸月子
第四章

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83 トマトリゾット


「職員さん側から分裂の出来る出来ないを調整したりとかしてますか? 個人的にとかは置いておいて」


 犬飼少年は少し笑って言う。


『確かに個人的にはあると思われますが、そうですね、人数確保が必要な場合は調整する事もあります。例えば、高坂さんのように分裂方法を模索中の死者に、目視出来ない分裂方法をお教えして、職員二人以上で確認に伺った場合、成功率は跳ね上がります』

「ああ、一対二にするんですね」

『ええ。本人が強く拒絶していない場合は成立します』

「え? 強い拒絶があれば成立しないんですか?」

『そういった事例もあります。稀ですが』


 強い拒絶か。ちょっと思いつかない。

 生理的に無理とか、どちらかというと嫌悪とかかな。

 自分が二人いるっていうのは確かに許容できない人はいそうではあるけれど。

 ああ、そういえば犬飼少年もさっき強く拒絶してたよね。


「……そういえば人手不足なんでしたっけ、鬼界隈」

『鬼界隈……。こちらの人口が徐々に減少しているとは言えますが、運用は問題ないです。ご安心ください』


 問題ないのか。大問題なんだけど。


「犬飼さんは例えば四人で同じ場所に居る時、AとBの会話をすり替えてCとDに聞かせられますか?」

『AとBの合意の下であれば可能です』

「そうなんですか? 合意がないとどうなるんですか?」

『高坂さん、内容は問いませんのでとにかく喋り続けてください』

「え? え? 喋り続けるんですか? え? む、昔々ある所におじいさんとおばあさんが……」

『と、いうように、未承諾側の一人語りが再生されます』


 じゃ、あの外郎売は茉里奈? どうなってるの今の十九歳女子。

 さておき、じゃ、あの時は会話じゃなくて昔話になってなきゃおかしい。

 説明が難しかったので起こった事を伝えれば、犬飼さんはあっさりと言うのだ。


『地域部の人間がご迷惑をおかけしました。大変申し訳ありません。』

「いや、そういうのいいから、説明して欲しいんだけど」


 おっと思わず素になってしまった。


『葛城さんは改ざんされた三人の会話を聞いていたいただけで、会話には参加されていなかったかと思います。職員が二人という事であれば容易に……失礼、本当に職員は二人でしたか?』

「微妙なところです」

『確認させていただいても?』

「……どうぞ?」


 どうやって確認しているのかは聞かないけれど、犬飼少年はあからさまに人間を辞めている枠なのでしばし待つ。

 そういえば確かに茉里奈は会話には参加していなかったし、耳に入って来た時だけ反応すると言った感じで、聞いて無いな、って思ったんだよね。


『なるほど』


 やがて小さく落とされたその言葉の後、犬飼少年は普通に会話に戻った。


『失礼しました。やはり三人で会話をされて、葛城さんは会話には不参加。高坂さん向けに職員二人で改ざんした会話が音として存在し、高坂さんはその両方を認識していた、という状態です。了承も取らず、説明もされなかったようで、改めてお詫びを』

「いや、そういうのいいですから、ホント」

『他にご質問はありますか?』

「……SIM。自分のSIMの番号って覚えてます? あと分裂体にSIMって入ってないんですよね?」


 もはや少年ボイスにもときめかなくなってきた。

 なんだか苛々して良くないなぁ。


『私は覚えています。抜き出して覚えるだけですから、覚える気があれば覚えられます。それから、おっしゃる様に、分裂体にはSIMは入っていません』

「神様はどうやって魂化した個体を判別しているんですか?」

『物理的に殺傷して消えず、こちらの理通りに生き返った、という記録を読み取った時です。SIMはその時に新たに作成されます。番号の法則もお教えしましょうか。本体の連番です』


 予想が付いているのだろう。犬飼少年はたんたんとそう告げた。


『こちらでお決めしても宜しいですか?』


 言われて一瞬迷いそうになったが、飲み込んだ。


「お願いしても?」

『かしこまりました。では、明朝、そうですね、朝食を食べに、池橋と伺います。

 答え合わせはどうされますか?』

「明日は模様替えと、うどんを打つのに忙しいんですよねぇ。夜は寝たいし、明後日かなぁ」

『そうですか。こちらはいつでも構いませんので、高坂さんの宜しい時に改めてご連絡をください。それでは後程』

「はい。ありがとうございました」


 通話を切って、くたりと床に寝そべる。

 相変わらず冷たいとも暖かいとも思わない床に頬っぺたを付けて、虚しいなぁ、などと思う。

 結局。

 分裂の話だけを切り取るなら、分裂出来たら楽しそうだけれど、運用したりこっちで働くと言うのは面倒そうだな、と言う両方の気持ちがあった。

 なるようになるでしょうと思いながら、佐藤さんはどっちがいいのかな、と思った時に、明確に出来ないで欲しいと思っていそうと思ってしまったのだ。

 だって彼女は私なのだから。


「そらぁ、とっとと生まれ変わって普通に幸せにして欲しいよねぇ」


 私だって佐藤さんに思っているのだ。

 あの人こそ、とっとと生まれ変わって普通に幸せにすりゃいいのに。

 こっちに残る理由なんて少なければ少ないほどいい。

 犬飼少年には悪い事をしたなぁ。

 そんな事を思いながら、もそもそと布団に入って、明日起きたい時間を想像する。

 寝逃げとも言う。





--------------------

死亡 二十四日目(四日目)

--------------------

入手品:車エビ/茗荷/寝袋/クワイ


朝食:ジャーマンポテトマフィン

昼食:まごわやさしい弁当

夕食:色々油揚げ定食

間食:チョコバー




***




 五人前の朝食かぁ、と思ったら一気に面倒になったので、大鍋ドン、な朝食ならリゾットがいいかな、と、玉ねぎとニンニク、セロリをみじん切りにしてオリーブオイルで炒めて、ウィンナーは男子向けにちょっと大きめ四等分、これも加えて炒めて、洗ってザルにあけておいた米も投入して炒めて、米がちょっと透明になってきたら、トマト缶がないからミニトマトを半分に切ってドバっと投入、ついでに熱湯とコンソメも投入。

 魔女になったつもりでゴリゴリ混ぜて、と。


「タイマー五分」


 携帯端末に告げてサラダの用意。

 一人分づつ種類も豊富な茉里奈サラダ。ある物を詰めるだけともいう。

 途中でタイマーが鳴ったので再び魔女になりつつ味見。

 塩がもうちょっと。

 仕上げにチーズを振りたいし、もう少し煮詰まるから物足りない位で丁度いいはず。

 もう一度タイマーをかけて、サラダを完成させて、後はグレープフルーツとヨーグルトのハチミツ掛けのほんのちょっとデザート。

 の間に三度めの魔女。

 よし。もう五分かな。

 本場のリゾットはパスタと同じ扱いなので芯が残る程度だけれど、日本人のおじや的感覚でどうも芯が残っていると気になるのだ。

 とは言え変に水を吸っても困るけど。

 デザートが完成した辺りで茉里奈が降りてきて、いい匂いですね、と言いながら量を見て若干引いた。


「あ! お昼込みですか? 今日あちらの設置がありますもんね」


 立て直してそういうけれど、そう言われて気が付いたよ。

 設置したりしたらお昼だもんね。

 まぁそれはそれで考えるけども。


「あー、ちょっと来客があるの。伝えてなかった。池橋さんと犬飼さんて、次の裁判担当の人」


 茉里奈は普通に、そうなんですかー、と笑い、犬飼さんは初めて会いますね、と、裁判担当者が違う事を教えてくれた。


「え? 違ったの」

「みたいですね。小島さんて女の方で。峰岸さんくらいの年齢の方ですかね。丹羽先生に聞いてみたんですけれど、五官王ごかんおう担当の方は穏やかな人が多いとかで、正しく穏やかな感じの方でした」


 私の担当猟奇的だけど。

 とはいえ、穏やかではあるか。あんまり感情が波立たないって意味で。

 そういう感じじゃないとやっていけない部署なのかもなぁ。

 聞くともなくそんな話をしながら、朝食の準備を進めているとアケル君がやってきた。


「っはよーっす。和香嬢、荷物住居側のドアから入れちゃっていっすか? ウッドデッキだけ先設置しちゃうんで」

「おはよう。オーキー・ドーキー。ねぇ、ウッドデッキって組みたてじゃないの? 後でやろうと思ってたんだけど」

「嵩張るんで片付けちゃうっすよ。すぐすぐ」

「じゃあお言葉に甘えようかな。お願いします」


 それでドンドンガンガンやっている間に池橋さんと犬飼さんがやってくるというお約束展開だ。


「「おはようございます」」

「いらっしゃい。あ、茉里奈! 五官王担当の犬飼さん」


 招き入れて茉里奈に声をかけると、茉里奈は駆け寄るように厨房から回ってきて、にっこり笑って犬飼少年の目線に合わせるようにかがんで挨拶をする。


「はじめまして。高坂さんと同居しています。葛城茉里奈です」

「ご丁寧にありがとうございます。五官王を担当しております犬飼源十郎と申します。どうぞ宜しくお願いいたします」


 出た。紳士対応。

 茉里奈はふにふにと破顔した。ツボだったのかな。幸せそうだしそっとしておこう。


「池橋さん、先日はどうも」

「いえいえ」


 短く答えて壁の先に視線をやる。

 アケル君の話、犬飼少年から聞いてきたのかな。

 困った様に喋らないマッチョってなかなか新鮮だ。

 暑苦しい位で池橋さんは丁度いいんだな、などと思いながら厨房に回って、作業風景を見ないように壁を叩いてアケル君に声をかける。


「アケル君、あとどれくらい?」

「あー? 一分七秒くらい?」


 厳密だな、おい。

 犬飼少年に視線を向けるとこくりと頷いて、厨房に回ってきながら言った。


「ああ、それでは先に済ませましょうか。池橋、確認するから同行しろ。高坂さん、ご案内いただけますか?」


 茉里奈はなんだか嬉しそうに犬飼少年を目で追いつつ、なにをするのかな? と首を傾げているので、私も出来る限り明るく返す。


「そうですね。見るだけだし。二階なんですよ。

 アケル君、茉里奈、ちょっと分裂体確認してくるね」


 返事は待たずにさっさと階段を駆け上がる。

 犬飼少年もすぐ後をついてきて、池橋さんもハイ! といい返事の後ついてきているし、茉里奈の反応は分からないけれど、アケル君の方からはなんかぐしゃっと嫌な音が聞こえてたけれど気にしてはいけない。

 どうせアケル君の事なので玄関を開けて私の部屋直で押し入れの前あたりで合流するだろう。

 部屋のドアを開けるけれど開けた先は押し入れと思って扉を開く。

 心の準備とかそういうのもなく。

 押し入れを見る視界と、背景が廊下の私と池橋さんと犬飼さんの視界と、背景が私の部屋のアケル君の視界が、薄く重なるように全部見えて慌てて目を瞑る。

 うわぁ。こりゃ大変だ。

 ええと、消し方は前に習って、あの時は面白半分でアケル君に言ったんだよね。

 今思えば死ぬほど焦っただろうな。


「取りあえず消えてね」


 片目だけ開けて、押し入れの寝袋に半身を起こし、俯いて目を覆っている、今の私と同じ服を着た私らしき人に告げれば、ハイハイ、と片手を振って、霧散するように消えた。


「池橋!」

「っハイ!」


 犬飼少年が強めの口調で言い、池橋さんが答えて後ろから支えてくれたんだけど、ちょっとチョークスリーパー。

 大丈夫だけど何となく慌てて声に出さずに腕をタップ。


「わぁ、すまんすまん」


 パッと手を放してくれたので何となく首に手をやりつつ横を見れば、困った顔でアケル君が笑っていた。

 私も困って笑っておいた。

 アケル君はちらっと犬飼さんを見てから池橋さんの肩に軽くグーパンチ。


「イケさん、それ、俺の女なんで、って今のカッコ良くない?」

「そのネタ二回目だから」

「へいへい。いつ話せんの?」

「忙しいから保留で」

「へぇ。怒んねぇの?」

「茉里奈が心配するから、このまんま一階に戻ってくれる」

「それ、俺に関係ある?」

「じゃあ、あんたのそのあれやこれやは私に関係あるの?」

「あー、はいはい。んじゃ、しれっとね。

 犬飼ぃ。これからつく嘘はその女が俺につかせてる嘘だからな?」


 いや、存在自体が嘘レベルだからね、アケル君?

 犬飼少年は普通だった。


「山田、抗わずに自分で決めてつく嘘を人のせいにするな」


 アケル君はふん、とそのまま部屋から出て行った。

 多分一階のもう一つの玄関から入り直して、なんならウッドデッキも完成させて朝食の席に着くつもりだろう。

 小さく階下からアケル君の声が聞こえる。


「茉里奈嬢ー、モップ持ってきてー。木屑散った」

「はーい」


 ふぅ、とため息を付いて、二人にお礼をする。


「ごめんなさい。どうもありがとう」


 なにはともあれ分裂体はもう成功した。

 ここから先は丹羽先生が言っていた練習なのだろう。

 まぁしなさそうだけど。なにはともあれ、生まれ変わり条件が達成出来ず、長く留まる事になった時の為の保険が出来たと思おう。


「今朝はトマトリゾットとサラダとヨーグルト。好きなものがあればいいんだけれど」


 一階に降りようと部屋を出る私に付いて来ながら、犬飼少年は言う。


「決めさせてもらったのは私の方ですので、不本意な結果にならなければと思います。こちらこそ申し訳ありませんでした。もう少しスマートに処理が出来れば良かったのですが」


 池橋さんはどうやら突き抜けてしまったのか、突然笑い出した。


「ははは! きちんとした朝食は良いですね! お洒落だし若返った気持ちになります」


 笑い声で気が付いたのか、茉里奈が階段下からのぞき込んでいる。


「茉里奈、ごめんね、終わったから」

「どうでした?」

「成功、成功」


 Vサインって今の子にやっても通じるのか通じないのか?

 茉里奈は笑ってくれた。


「良かったです。準備出来てますよ! ウッドデッキも設置完了して、今モップかけてくれてるんで、朝食にしましょう」


 二人に手を洗わせ座って貰った頃に、アケル君も普通にこっちに来て手を洗って席に着く。


「おぉ、旨そうっすね! 謎料理?」

「普通にトマトリゾット。仕上は粉チーズか黒コショウお好みで」


 普通に食べて、いつも通りお喋りをして、池橋さんにも犬飼さんにも料理を褒めてもらって、美味しいと言って貰ったけれど、なんだか味のしない食事だった。

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