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今日も何かを食べています  作者: 弓軸月子
第四章

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80 ジャーマンポテトマフィン


『なんだか忙しいですねー』


 朝食を作りながら佐藤さんと朝のお話し中だ。

 今朝はマフィンの材料をフライパンで焼く予定で、じゃがいもや、サラダ用に野菜を茹でつつ、小麦粉とぺーキングパウダーと卵、丁度いい硬さまで牛乳を足して、混ぜすぎないけどダマが残らないように狙い撃ちしつつ混ぜる。


「そうかな? 生きてた頃と比べると自由時間ばっかりだし、のんびりしていると思うけれど」

『これからの話ですよー』

「これから?」


 玉ねぎは細めに刻んで水にさらして、ベーコンも先に切っておこうかな。チーズは上からかけるか生地に入れるか悩ましいところだけれど、見た目で味が変わりそうだからかける方が良いかもしれない。


『後十日で葛城さんや峰岸さんは居なくなりますよー?』

「あー、茉里奈とは一緒にうどん打ちたいと思ってたから明日か明後日には予定しておかなくちゃ」

『それだけなんですかー?』

「うん? ああ、聞いた聞いた。次の裁判が結構ショッキングなんでしょう? 峰岸さんにもうどんのタイミングで声かけてみるよ」

『……高坂さんはー、今すぐにパンパカパーンと生まれ変わり条件が達成したらどうしますかー?』


 今すぐに。


「別にどうもしないかな」

「勢いで生まれ変わったりとかー」

「佐藤さん次第だってば。……最終裁判の前日かその前か、佐藤さん帰ってきてるタイミングだよね?」

『居ますねー。遅れる事は絶対にないのでー、前々日には必ずー』


 茹でていた野菜を引き上げて、じゃがいも以外は氷水、じゃがいもは水気を切って油を引いたフライパンに入れて、フライパンを回してじゃがいもに油を絡ませつつ点火。

 オーブン予熱もスタート。


「じゃあ誘えるだけ誘おうかな。リクエストの懐石料理でわいわい」

『わいわい。おばさん発言ですよー』


 ベーコンと玉ねぎも入れて炒めていく。順番間違えたな。ベーコンを先に加熱しておくべきだった。

 くすくす佐藤さんが笑うので言い返す。


「なぁに? ひいおばあちゃん」

『そんなに若く言ってもなにもあげられませんよー』

「褒めてない!」

『ひぃひぃひぃおばあちゃん位じゃないですかねー? もうラマーズ法みたいですねー』

「いやいや、息吐いて?」


 塩コショウで味を付けて、後でチーズが乗るから塩分濃度は低めかな。

 今では三十超えての初婚、初産は良くあること、だもんな。

 当たり前、ではなくて、多種多様なケースの中のよくある事で、好景気の頃の日本ではクリスマスケーキを文字って二十五歳で売れ残り、なんて言い方があったそうだから、その頃はまだ当たり前という考え方があったのかもしれない。

 二十代前半の結婚で早かったね、授かり婚? なんて聞かれたりするくらいだけれど、佐藤さんからしてみたらひぃひぃひぃおばあちゃんでも少なく見積もっての話かもね。

 逆に実際はひぃひぃくらいな気もするけれど……


「知らないの?」

『どうしてるかなー、と思うのも、年月でだんだん日が開いていくものですよー。気が付いたら増えたり思いの外死んでたりでー、曾孫くらいまでですねー』

「そういうものですかー」

『そういうものですよー。まぁいいですー。開催の際には是非ともお声がけいただきたいですー』

「むしろ佐藤さんリクエストなんだから佐藤さんだけでも出席してね」

『楽しみにしていますー』


 通話を終わらせて、先に混ぜておいたマフィン生地にフライパンの中身を入れて軽く混ぜたら、またフライパンに戻して、上にチーズを散らしたらオーブンに入れて焼く。

 温かいマフィンだし、後はサラダとヨーグルトで良いかな。

 軽く掃除をして、暖簾を出していたら茉里奈が降りてきた。

 朝の挨拶はさっき二階の廊下で済ませたし、お腹が空いたりするわけではないので、特に言葉は交わさない。正しく同居人って感じに、茉里奈はお湯を沸かしながらオーブンをのぞき込んだり、ザルで水を切っているサラダを見ながら茶葉を用意している。


「ケークサレですか? いい匂いがしますね」

「あー、その手もあった。また作ろう。マフィン型がないからフライパンでまとめて焼いてるだけ。ジャーマンポテトマフィンだよ」


 焼き上がりまで二人で準備をしつつ、うどん作りに誘うと、茉里奈も次の裁判後は引き籠る人が多いと聞いたそうで、明日の昼過ぎで合意。峰岸さんを誘う件についても同意は得られたのだけれど、既に前回の裁判でかなり落ち込んでいるそうで、展望台に足繁く通っているらしい。

 茉里奈は峰岸さんを苦手だと思っていたので驚いたんだけれど、一緒に家に来たことがある人が教育部に顔を出していたそうで、百合ちゃん落ち込んでいるから何かあれば誘ってあげてね、と言われたけれど、百合ちゃんが誰の事か暫く分からず、分かった後で詳しく聞こうと思ったけれど、元々毎日来る人ではなかったので、電話をしてみたのだそうだ。

 しっかりしてるなぁ。

 茉里奈が連絡しておきますと言ってくれたのお任せする事にした。

 知らないふりをして軽く誘う事は出来るけれど、断られた時に私だと駄目そうだし。

 生まれ変わりを決めた茉里奈や、強制的に生まれ変わらせられる峰岸さんには後十日”しか”ないのだ。

 さっきの佐藤さんの忠言が今頃刺さる。

 佐藤さん次第なんて言いながら、何となく長くこちらにいるような心持になっていたけれど、佐藤さんに見捨てられたら私死んじゃうだろうしなー。

 十日どころか、今日しか、かもしれない。他人に生命を委ねるとか、ちょっとなにも考えていなさ過ぎたかもしれない。

 思わず笑ってしまったら、きょとんとした茉里奈に、うどん楽しみですね、と言われた。

 茉里奈さん、今のは自嘲的な笑いでしたよ? え? 私、楽しそうでした?




***




「食っちゃっていんすか? 取っとく?」


 ジャーマンポテトマフィンは好評で、私も茉里奈もいつもより食べたので、最後の一切れをにらみながらアケル君が聞いてきた。

 上に乗せたチーズが良い仕事をしてくれて、ベーコンの代わりにカリッと食感と良い塩気が出て、じゃがいもも、もっさりする事なくするっと食べられた。

 もっさりしたらしたでちょっとバターを付けても美味しいのだけれど、結構カロリー爆弾。生きていた頃なら週一のお楽しみ的味。


「食べたければどうぞ。材料あるからまた作れるし、今日のは制作手順に不満がある」

「十分旨いっすけどね」


 アケル君は遠慮なく最後の一切れを取ってパクパクと二口で食べきった。

 慎重に聞いてきた割には呆気なく咀嚼されたな。


 何となく食べ終わるのを待って、何となく声をそろえて三人でごちそうさまでしたと唱えてから荷物の受け渡しをする。

 テーブルには各々飲みたいものを準備して呑気な感じだ。


「和香嬢が、車エビと茗荷と寝袋?」


 茉里奈からクワイを貰った私は、厨房側から取りあえず車エビと茗荷を受け取りながら分裂チャレンジの話をする。


「え? 寝袋の中に髪の毛一本入れとくんすか?」


 そう聞かれると物凄いシュール。


「まぁ、やるだけならタダだし」

「そうっすけど。具体的にどれくらいで出来上がりそうとかって思い浮かべてるんすか?」

「えー、考えてなかった。三十四年位?」

「気の長ぇ話だな、おい」

「さすがにかかり過ぎよね? 犬飼少年方式で二十四時完成だと分かりやすいけど」

「あー。発想は猟奇的っすけど、解釈的にイケんならいんじゃねっすか。なんか引っかかるとこあります?」

「完璧SF映画みたいな気持ちだから素っ裸かなって。ちょっと嫌なんだけど」

「……いや、自分とか普通にこのカッコで分裂してんじゃないっすか」

「そうなんだけど。自分なんだけど人の下着履いてるみたいな気分にならないかなって。新品の下着用意した方が良い様な気がしてきた」

「向こうも同じ事考えってっから大丈夫っすよ」

「あ、そうか、自分なんだもんね。じゃあ大丈夫かしら。でも押し入れの寝袋の中で目が覚めて素っ裸とか凄く怒るし、着替えが置いてあっても着替えずに取りあえず押し入れから出て本人殴るよね?」


 アケル君がぽかんとしたので茉里奈に同意を得ようと茉里奈の方を見る。


「分裂体なんですから洋服着てると思いますよ。大丈夫」


 なんか説得された。


 それから三人で私の部屋へ行き、押し入れの収納ケースを取り出して寝袋を設置。

 茉里奈から借りた人感センサー付きのLEDテープを奥の壁に貼って剥がせるテープで留めて、モバイルバッテリーとつなげておく。

 起き上がったら中がクリスマスみたいに七色に発光するとか結構地獄だと思うんだけど。

 念の為下着とワンピースを畳んで脇に置き、髪の毛を一本抜いて寝袋の中に入れれば完成だ。

 それまでやいのやいの言っていたのだけれど、寝袋に髪の毛を入れてからは、なんとなく起こさないように全員無言でそうっと押し入れの戸を閉める。

 無言で部屋を出て、無言で一階に降り、各々椅子に座って出しっぱなしだったカップを手に一息。


「逆泥棒ってこんな感じかしら」

「どちらかというと子供の寝かしつけの感じでした」

「田植え。っつか逆泥棒ってなんすか」

「盗むんじゃなくて置いてくるやつ」

「サンタクロースですか?」

「茉里奈嬢のLEDテープクリスマス感出してったっすもんね。でもその言い方なら殺人の濡れ衣系っしょ?」

「そうそう。血濡れの家主指紋がべったりついたナイフをね」

「サンタさんはそんなものを置きませんよ」

「和香嬢は自分が危険物の自覚あったんすね」

「そうなの?」

「気にしないでください。個性ですよ」

「慰めてもフォローは入れないとこ良いと思うっすよ」


 私の扱いがひどい。


「まぁ多分明日の朝にはもう一人私が出来ているという事で。いったん忘れましょう」


 ぽんと手を叩いて一階空きスペースの改装案を発表してもらう。

 茉里奈の方は教わっただけあって、本当にプレゼンだった。

 置くだけタイプのウッドデッキを椅子の代わりになるようにコの字型に設置、真ん中に天板の丸いテーブルを置いて、私の寝転がりたい欲を知ってか、階段側のデッキは奥行き有。そのまま寝転がれる。これなら床部分はモップ掛けも可能で、ゴザやラグ、クッションを使えば気分でイメージを変えることもでき、料理を提供したいなら料理に合わせても素敵ですとかなんとか、非常に魅力的なプレゼンの最後にはデメリットにもちゃんと触れられる。一人だと模様替えが難しい事、初期設置は欲しいもの三点で出来るけれど、イメージ変更の為の小物は別途頼まないとならない事が告げられた。

 思わずアケル君と二人で拍手。

 もちろんイメージ図にサイズを書き記した資料と、販売されているサイトのホームページも資料としてプリントされ、クリアファイルに入ったものを渡されている。

 ちなみに採用されたら単焦点プロジェクターでプロジェクションマッピングを楽しみましょうとの事。うーん。プレゼン上手。


「えー、もう茉里奈嬢のでいんじゃないっすか? 自分資料とか用意してないっすよ」


 アケル君はやっぱりあんまり準備はしてなかった。

 少し高さのある畳が天板になった箱を三つ、階段側の壁際に仕切りの様に置いて、ただただ四角骨っぽい折りたたみが出来るテーブルと、スタックできる椅子、これを来た人の人数とか、雰囲気とかで好きに設置すればいい、と、商品写真を自分の端末で見せてくれた。


「店じゃないんだから、普通ならあるもんでなんとかするじゃないっすか。必要最小限で動かせて、みんなが好き勝手出来た方が和香嬢らしいかなって、そーゆーイメージ。畳みユニットはゴロっと出来んのと、三畳あれば小さいちゃぶ台みたいのでも置けばそこそこイイ感じのスペース出来んじゃないかと思ったんすよね。ちょっと場所取るけど、こっから先は家って感じも出るし。あとあれ、ちょっと座布団たりないから貸してーとか、そーゆーゆるい感じ?」


 準備してない割にふわっと良い事言うよなぁ。

 でもまぁ確かに、茉里奈案だともうそれだけで部屋がいっぱいになるってのはある。

 そして多分アケル君は答えが分かっているのだろう、ちょっと意地悪そうに笑って言う。


「んでぇ? どっちの案採用するんすか?」


 茉里奈は真剣に選んで欲しそうにしてて申し訳ないんだけれど。


「勿論両方。茉里奈の奥行きがあるウッドデッキ一つ。開いたスペースにアケル君おすすめの折りたたみのテーブルとスタックできる椅子を用意するよ」


 ですよね、って顔のアケル君と、少しだけ悔しそうにした後に笑っていいと思いますと言う茉里奈に、ありがとう、とお礼をする。

 楽しいな、幸せだな、と、暖かい気持ちになる。

 そうか、こういう三人ならではのやり取りも後十日なんだ。

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