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今日も何かを食べています  作者: 弓軸月子
第一章

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08 たまごサンドその1と具だくさんスープ


『ピンポーン』


「ふぁいっ」


 インターフォンの音でパチッと目が覚めた。

 慌てて玄関に向かう。

 寝すぎてしまったようだ。

 そんなに遅くまで起きていたわけでもないのに恥ずかしい。

 半分寝ぼけて、羞恥心と警戒心はベッドに捨てて、無警戒にドアを開ける。


「おはようございます!」

「おはようございます。寝ていました?」

「今の今まで……あ、荷物、すみません」


 笑いながら配達のお兄さんが荷物を渡してくれた。


「配達のお兄さんはなんて呼べばいいんでしょう?配達のお兄さん? 配達人?」

「そうですね、ヤスヒロと言っていただければ大体通じますよ」


 荷物を降ろしながら聞くと、笑ったまま配達のお兄さんことヤスヒロさんが言う。

 ヤスヒロ運輸とか、ヤスヒロ急便とかそんな感じなのかな。

 そして笑われているので、ちょっと呂律が怪しかったり、寝ぐせもついているかもしれない。


「寝ぐせついてます?」

「やや」

「やや?」

「やや」


 微笑ましいものを見るような雰囲気で笑ってくれている分救われた感じがするが、女としてはダメな気がする。

 羞恥心今すぐベッドから起きてこい。


「寝て過ごすんでしたら、翌日に欲しいものが無ければ来ませんから、安心してください」

「あー、寝際に面倒になって……え? 五日後?」

「ちゃんと三日目の午前中です」

「……しっかり欲しいものは訴えていたから起きたのか……」

「そういうことですけれど、意味、把握されてませんよね」

「意味? ……後で考えてみます……」

「そうしてください。では」

「今日もありがとうございました」


 ヤスヒロさんはくすくすと笑いながら帰っていった。

 なんだったんだろう。

 取り合えず荷物はそのまま、ベッドに戻ってテレビをつける。

 十時半か。

 あれ? 携帯って電源落としても目覚まし起動しなかったっけ?

 昨晩放り投げた携帯を見てみたが、電源は落ちたままだったので、鳴って気が付かなかったわけではなさそうだ。

 まぁ、いいか。取り合えず目を覚まそう。

 すのこを持ち上げて床掃除をして顔を洗う。

 横を向いて寝ていたらしく、左側の髪の毛がくしゃくしゃになっている。

 この寝ぐせややかな? しっかり寝ぐせじゃない?

 ざっと髪を濡らして直し、今日も化粧はせずに着替えて洗濯機を回す。

 女子力もどっかに捨ててきたかもしれない。

 冷凍室から食パンを一枚出してラップをしておいておく。

 届いた荷物から豆乳は冷蔵庫へ閉まって、ミックスで頼んだレタスとトマトを確認する。

 ミニトマトの方は、赤、緑、黄、橙の四色のものがプラ容器に入っていた。

 それぞれ十個ずつだろうか、結構量がある。

 レタスの方は、想像した物が悪かったのか、最初に欲しいと思った普通のレタスは入っていなかった。

 レタスはレタスでもリーフレタス。

 業務用の袋の真ん中にサラダミックスと書かれているので、間違いではないんだけどね。

 曖昧に想像してたけど、最後に思い浮かべていたものが選ばれたようだ。

 その他に何種類か入っているので、開けて皿に並べてみる。

 リーフレタスは緑のと赤いのと2種類入っていた。

 赤い方はサニーレタスとかレッドオークとか別の名前があったよね、確か。

 茎が赤い葉っぱはたしかデトロイト。

 なにこれ? と聞いて名前のインパクトに驚いて覚えていた。

 ボルシチとかに使うビーツの若葉で、さらに何故デトロイト? となった覚えがある。

 葉っぱ自体が茎と葉っぱみたいなやつはルッコラだったはず。

 さっと水で洗って口にしてみる。

 ゴマっぽい香りと苦みと辛みが特徴なんだけど、うん、間違いなさそうだ。

 辛みは少なめだな。香りも言われてみれば位。

 丸い葉っぱの同じくらいのサイズの、緑の濃さが違うのは、個体差なのか二種類なのか。

 こちらもさっと水で洗って口にしてみる。

 食べ比べると味も食感も全然違うね。

 色の濃い方がほうれん草、薄い方は多分小松菜かな。

 どっちも別の名前があったような気がするけれど、まぁ分かればいいでしょう。

 取り出した分はこの六種類だった。

 念の為袋を見てみるがよくわからない。多分六種類。

 ほうれん草と小松菜はサラダ用で品種が違うんだろうけど、加熱調理でも使いたいから分けておきたいな、とは思いつつ、ちょっとめんどくさそうだ。

 佐藤さんから聞いた通り、いったん一枚づつよけて別に保存しておいて、食べきってから、増やしたいものだけ増やすのが効率的かもしれない。

 まぁ、暇つぶしにやってもいいし、後で考えよう。

 後回しばっかりだな。

 ミニトマトはそのままカウンターテーブルに置いて、サラダミックスは内容を確認するのに抜いた分から一種類ずつ保存袋に入れて、残りは袋を閉じてから一緒に冷蔵庫へ仕舞う。

 さて、どうしようかな。

 お腹もすかない、トイレにも行きたくならない、太りも痩せもしない、今、そういうところにいて、半場義務的に時間だからとご飯を食べていた。

 義務的に食べるには時間が中途半端だけれど、と、そこで佐藤さんの、


『美味しいです』


という真面目な顔が思い浮かんだ。

 彼女は百年以上もこの状態で、ひょっとしたら食事などきちんととっていないのかもしれないな、と思う。

 私みたいのを相手にしているのだ。

 ヤスヒロさんも言っていた、混乱したまま過ごす人々を相手にしながら、ニコニコと笑いながら否定も肯定もせずにただ説明と質問に答えて時間を過ごしているのかもしれない。

 一八八〇年に生まれて、二十五歳で妊娠中に亡くなった佐藤さん。

 一九〇五年って、なんかあったよな。なんだっけ。

 携帯で調べようとして電源を切ったのを思い出したので、パソコンを起動する。

 その間にコップに氷とハチミツとレモン汁と炭酸を注いでぐるぐると混ぜる。

 ハチミツなかなか溶けないけど、後半には完全に溶けるので、だんだん甘くなっていく感じは結構好きだ。

 パソコンでのインターネット通信は普通にできて、検索も出来た。

 一九〇五年の出来事を追っていく。

 日露戦争か。あ、雑誌って既にあったんだね。ニホンオオカミってそんな前にいなくなっちゃってたの? 結構本で題材にされてたよね? おお、電車も増えたのね。日露戦争の経過報告みたいの多いな。え? 相対性理論てそんな最近だったの? もっと大昔かと思ってた。って、そういえば前にもそう思ったことがあったな。

 戦争、ね。

 全然分からないけど、影響とかあったのかもしれないな。

 戦争の感想って、大変だった、の後に、らしいよ、が付く環境で生きていたと思っている。

 自分に降りかかったら嫌だなぁとか、戦争が起こらない方がいいね、とは思うけれど、絶対に戦争を起こさないためにはどうしたらいいのか、とか、どうして戦争が起こったのか、回避できる分岐点はどこだったのか、とか、考えた方がいいべきことってあるとは思うけれど、例えば政治家になるだとか、自衛隊に入るだとか、そういう夢には結びつかなかったし、そもそもあんまり考えて来なかった。

 普通で良くない? と思っていたし、よく、世界の歯車の一つ、なんて表現があるけれど、歯車一つないだけで動作しないことだってある。

 蛇口をひねって水がでる、その蛇口を作った人、水道管を設置した人、図面を書いた人、工事をした人、工事の資材を運んだ人、運んだ車を作った人、車が走れる道路を作った人、その人たち皆が食べている食材を作った人、その人を生んだ人、引きこもって生きているだけだと思っている人だって、何かを消費して誰かにお金を払っていて、それは確かに誰かに迷惑をかけているのかもしれないけれど、誰かの為にはなっているんだろうと思うのだ。

 自分が歯車のどこにいるのかは分からなくても回っているならそれで良し。

 どうやら違うようなら、気が付いた時に訂正すればそれで良し。

 人の強さ弱さを言うなら私の強さはこの割り切りだと思うのだ。

 割り切るだけでどうせまた落ち込むけど、割り切ったという事実が大切。

 OK。

 割り切りましょう。

 インターネットラジオを流して、私は台所に立つ。

 死んでいる私も、朝は起きて、ごはんを食べて、夜は眠る。

 どうやら裁判というのがあるらしいので、今日からその準備は進めよう。


 お湯を沸かしている間にミニトマトを六個づつ取り出し、ヘタを取って十字に切り込みを入れる。

 サラダミックスをひとつかみ、ざるに入れてさっと洗ってボウルを重ねてカウンターに置く。ついでにミニトマトが十二個入りそうな瓶を二つ、蓋を開けておいた。

 ボウルにミニトマトを入れてお湯を入れ、余ったお湯はポットへ移動、先に鍋を洗って拭いたら、フライパンと交代。

 サラダミックスの入ったざるを軽く振って水けを取ったら、重ねていたボウルにうつして、ざるをさっとすすいで、ミニトマトを湯から上げる。

 ボウルに氷と水を入れて、ざるからミニトマトを移して皮をむいていく。

 たまに上手く剥けないのがあるんだけど、しっかりしているのだと思うと、食べる時に美味しくなりそうでちょっと嬉しい。包丁を使って丁寧に剥く。

 半分はそのまま瓶に入れて、ハチミツとレモン汁を入れて蓋をして軽く振り、もう半分は軽く塩を振ってから瓶に入れ、ハチミツとお酢を入れる。

 片方はデザートで片方は食事用だ。

 実家用であればハチミツと砂糖を合わせたり、砂糖で煮たりして家計に優しく作っていたと思うが、明日になれば増えているのだから贅沢にハチミツを使ってみた。楽しみだ。

 卵を割りほぐして、少しだけ塩を入れ、特に何をするでもなく焼く。

 パンの大きさ位に端を折りたたんで四角く焼いてから、さっき出しておいた冷凍パンを確認する。少し解凍が甘いかな?ちょとだけレンジにかけて、バターを塗り、卵とサラダミックスを載せてマヨネーズをかけ、くるくる巻いてラップをかける。

 使った調理器具を洗って片付け、ミニトマトの瓶を軽く振ってから冷蔵庫にしまう。

 ラップで巻いたパンはラップごと半分に切って皿にのせ、炊飯器で保温を続けていたコンソメ味のスープを椀によそい、コーヒーを淹れればお昼ご飯の完成だ。


「いただきます」


 具だくさんスープは煮崩れる事無く柔らかく仕上がっていた。

 ちゃんと美味しい。

 くるくる卵サンドも、お行儀は悪いがパソコンを見ながら食事をしているので、この作り方で食べ方だと手も汚れないしなにより楽だ。

 検索ワードは、


『あの世 裁判』


 七日ごとでの裁判で、殺生、盗み、不貞、ウソ、までが裁判内容かな。

 三十五日目にはもう審判が加えられるから、その後は条件とかの相談要素という感じがした。

 実際のところどうかは分からないし、今のところ奪衣婆にも出会っていないし、服もそのまま、何なら家ごと移動中らしいから、空を駆ける鉄道にも乗っていない。乗りたかった気もするけど。

 どうでもいいけれど十王の名前って読みづらいよなぁ。

 フリガナがないと、しんこうおう、なんてヤスヒロ王としか。


 ん?


 しんこうおう(泰広王)=ヤスヒロさん?


 え?


 佐藤さんて奪衣婆?


 パソコン画面に向かって盛大に吹き出しそうになって慌てて口を押えて色々な意味で大惨事になったのは言うまでもない。

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