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今日も何かを食べています  作者: 弓軸月子
第一章

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07 親子丼その1と具無し味噌汁モドキ


『パラッパラッパラッパラッパー・パ・パ・パ・パパッ』


 携帯から激しく陽気なサキソフォンの音が鳴る。

 佐藤さんはびくっと体を震わせた。びっくりしたらしい。


「失礼、平日は十七時に鳴るようになってて」

「ああ! 市町村防災行政無線みたいですねー。もうそんな時間ですかー」

「市町村防災行政無線?」

「十七時か十八時に鳴ると聞きましたー。それを聞いたら家に帰る時間だったという方が多かったですね、最近ですけれど」

「あれってそういう名称だったんだ。……私の子供の時には既に鳴ってたと思うけど、最近?」

「少しずつですが、こちらにいらっしゃっていますねー。鳴らないなりに不便らしいですー。曲もバラバラだったので、今一つ状況が分からないのですが、要はテスト放送の一環なんでしょう?」


 佐藤さんはニコニコと笑っていた。直接聞いたことが無いらしい。


「佐藤さん産まれは何年なの?」

「明治十三年ですー」

「……三十三引くんだっけか、足すんだっけか」

「引くんですよー、一八八〇年ですー」

「ごめん、全然わからないかも。え? まだ着物着てた感じ?」

「はいー。洋服もありましたけれど庶民は着物でしたよー。ふふ、ちょん髷も廃止していますからねー」

「へー」


 ジェネレーションギャップどころの話ではなさそうなので、そっと目をそらした。

 幼少期の話をするのは止めよう。


「ウチの会社、割とセキュリティが緩くて、自席まで携帯持ち込みOKだったんだけど、十八時が就業時間なのね? 十七時にはまとめに入らないと終わらせられないから、アラームを設定してたんだけど、ある時マナーモードになってなくて、会社でこの陽気なサキソフォンが鳴り響いたわけ。なんでか以降、十七時には毎日鳴らすように頼まれてしまったんだけれど、未だにその理由は分からないんだよね」

「……冗談だったんでは?」

「……ありうる……定着したけど……だれか引き継ぐのかな…」

「必要であればそういう時計を買うなり館内放送を行うなりするんではー?」

「ですよねぇ」


 そんな感じで、今日はのんびりとどうでもよい話を楽しんだ。

 昨日初対面なのに不思議な人だと思ったが、登場人物が配達のお兄さんと佐藤さんだけなので、依存しないようにしなければ。全然知らない人なのに恐ろしいことだ。


「佐藤さん、今日は何か食べてから帰る?時間は?」

「うう……フランス料理じゃないんですよねー……?」

「まだ言うかっ!」

「だって結構なインパクトからのフランス料理ですもん! 期待するに決まっていますー」

「今日は親子丼です。昨日から決めていたんです。食べるの食べないの?」

「いただきます!」

「食べるのかよっ!」


 という事で夕飯の支度を始める。

 後でお茶を飲むためにポットのお湯を入れ替えておこう。

 お湯を沸かしながら、冷蔵庫に仕舞っていた炊いたご飯を出して、二人分をレンジ用のボウルに移してラップをかけて温める。

 鶏肉はモモ肉の方を1枚、一口よりやや大きめで切って、玉ねぎは半分を薄くスライス。


「玉ねぎ薄い派なんですかー?」


 佐藤さんが狭い台所を覗いている。

 床座りだと声が聞き取りにくいというので折りたたみの椅子を出したら冷蔵庫の反対側に陣取ったのだ。

 お湯が沸いたのでポットに移しながら、返事をする。


「今日はちょっとうまく切れたかも」

「私は意外と厚めですねー。お出汁で煮た玉ねぎって甘みが増して美味しいんですよねー」

「ああ、分かる」


 私も煮た玉ねぎは好きだ。今日は煮ないで生で行くから薄くてOK。

 さっと塩水にさらしておく。

 レンジのご飯も終わったので、さっくり混ぜて半ラップでもうちょい加熱。

 丼ものってちょっと固めが美味しいと思う。

 フライパンにごま油を引いて鶏肉を入れ、軽く焼け目をつける。

 佐藤さんがさっきから、え? え? と首をかしげている。

 ちょっと面白い。

 フライパンに直接みりんと砂糖少々と醤油を入れて、蓋をして、弱火に設定。

 その間に卵を黄身と白身に分けて、白身はメレンゲ状にする。

 コツは混ぜるのではなく空気を含ませる、と思う事だと思う。


「食後のデザートかなにかですかー?」

「いや、親子丼」

「からかってます?」

「ばれたか!」


 丼にご飯を入れ、スライスした玉ねぎを敷く。

 鶏肉は蓋を外して強火にして少しタレを煮詰める。念の為味見。よし、ちょっと濃いめで良い感じ。

 丼の外側に肉を並べ入れて、真ん中にメレンゲ、黄身をのせて、フライパンに残しておいたタレを回しかければ親子丼の完成っと。


「おお! ちゃんと親子丼になりましたね!」


 佐藤さんが喜んでいる。


「見た目にこだわってみました!」

「お味噌汁は?」

「はい?」

「丼には汁と漬物がないと。漬物が無いのは分かっていますが、お味噌汁」

「コンソメスープなら炊飯器にあるけど…」

「いえ、味噌汁で」


 語尾が伸びてないのでなにがしか琴線にふれたのかもしれない。

 取りあえず完成した親子丼をテーブルに置き、ざっと調理器具だけ洗ってしまおうとしたら、佐藤さんが椀と冷蔵庫の開閉許可を求めてきたので許可をだす。

 調味料を見ながら、佐藤さんはさっと、顆粒出汁と味噌を椀に入れ、さっき沸かしたばかりのお湯を注いだ。


「え?」

「味噌汁です!」


 きりっとした顔で佐藤さんはそれを二人分作ってテーブルに並べてくれた。

 まぁ、インスタント味噌汁ってそんな感じだよね。


「「いただきます」」


 二人で手を合わせて食べ始める。

 具無しの味噌汁っぽいものはなかなか良かった。

 すぐ出来るし、乾燥わかめとか、お麩とかあれば味噌汁と言って出しても問題ないような気がする。

 佐藤さんはまたちゃんと美味しいですと言ってくれて、それから黄身を潰すタイミングを話あったりしながら楽しく食事をした。


「「ごちそうさまでした」」


 食べ終えて少ししてから、佐藤さんはチェックしたいテレビ番組があるからと言いつつ、しっかりとショートブレッドを持って帰っていった。

 結構のんびりおしゃべりした一日だったのに、帰りは嵐のようだったなぁ。

 本当のところ、時間的な問題でもあったんじゃないか?と心配になりつつ、片付けや風呂を終えて、テーブルの上に置いた携帯電話と対峙する。

 さて。

 見るべきか、見ざるべきか。

 どうせなにも出来ないんじゃ、見ても意味がないとは思いつつ、気になる。

 見ない方が良い、に気持ちは傾いているのに、悩んでしまうのはどうしてだろうか。

 家族に迷惑が掛かっているんじゃないか、という心配、これはある。

 今がどうなっているのか?好奇心もあるのかな。

 とは言えそれ程情報は更新されないと思うのだ。

 親戚や、家族が大事と思っている人については、直接やり取りをしているはずだし、面倒な人こそ、この携帯でのみやり取りをして落ち着いたら解約する方が良いだろう。

 とすれば、嫌な事の方が見る確率は高いような気がする。

 ふーっと息を吐きながら天井を見上げて、思考を止める。


 取りあえず明日の三品を先に考えよう。


 スキムミルクか牛乳か豆乳のどれかと、レタス欲しいな。漬物にも出来るし大根もいいかも。在庫野菜が白くなるな! トマトも欲しいんだよなー、あとベーコンとか、魚ものも欲しい。

 保存を考えたらスキムミルクだけれど、ここでは保存に気を使わなくて良さそうだ。

 牛乳か豆乳。

 ミキサーがあれば作るところだけれど……大豆から、豆乳、おから、豆腐、湯葉、味噌、料理にも菓子にも使えるし便利な食材だ。

 生乳なら、ヨーグルト、チーズ、生クリーム、バター、と、これも便利なんだけれど、遠心分離機とかほしくなる。

 いずれにしても付随して欲しいものが増えるだけなんだよね。

 どっちが好きかって言えば豆乳の方かな。よし、豆乳にしよう。

 残りの候補はレタス、大根、トマト、ベーコン、魚もの。

 鶏ハムを作るとしてベーコン消し。

 漬物は明日梅干しが手に入るので今日のところは諦めよう、大根消し。


 魚ものはツナ、鯖缶、鮭、カジキマグロあたりが思い浮かんでいるが、明日でなくてもいいし、大根を消した今、セットで頼みたい欲が沸いてきたので消し。

 あ、レタスは冷蔵庫を圧迫しそうだし、サラダミックスとかリーフミックスとか言われている物の方がいいかな?

 色を考えるならトマトもミニトマトのミックスで頼めば良さそうだ。

 と言うことで、どこかでこの思考を読んでいる神様的な人、人なのか? わからんけども、明日は豆乳とレタスが入ったミックスのやつとミニトマトのミックスのやつをください!

と、これで良し。


 さて。また携帯と対峙せねばなのか。

 そう思ってしまってから、この考え方も酷い物だなと自嘲気味に笑う。

 心配したってどうしようもないことは心配できないのだ。

 申し訳ないとは思うけれど、誰かの人生を変えるほどの力など持ち合わせていないことをよく分かっている。

 情熱や努力、カリスマ性とかの天性のものもそうか、とにかくそういうのを持ち合わせていないのだ。

 自分が一番大切と言えばそうなのかもしれない。

 そうなってくると、なにに申し訳ないと思っているのかもよく分からない。

 何度目かのため息をついて、テレビをニュース番組に切り替えてから携帯を眺める。

 やっぱり好奇心なのかな。猫をも殺す、か、落ち込むことまでワンセットで考えたら確かにね。

 葬儀の案内は私の携帯からは出していないようだった。

 案の定というか、ろくでもないメールだけが数通届いていて、特に返信はしていない状態になっている。

 飲みすぎて死んだのに電車の事故で死んだことにしているらしいですね、というメールには流石に頭を抱えたくなった。

 差出人は知らない人で、本人はちょっとした悪戯のつもりなのかもしれないが、普通に恨むことにする。二~三日中に激しくお腹を壊してくれ。

 ああ、嫌だ。

 ぎゅっと目をつむって、少しだけためらって、電源を落とした。


 過酷な労働環境、憔悴した運転手の奥さんらしき女性、線路内の悪戯の可能性、遺族・被害者への補償、何かあるかなんて考えて乗っていないので怖いです、大きな事故、一番下のお子さんがまだ小さいので、心的外傷後ストレス障害、土曜日の始発で不幸中の幸いでした、いつもと変わらない通勤風景、朝帰りの学生さんやなんかも多かったのかな、復旧の目途、後遺症、いいお父さんでしたよ、可哀そうにねぇ、まだ若かったから可哀そうで。


 断片的に入ってくるテレビの音声をぼんやりと聞いて、今まで何とも思わずに面白がって見ていたニュースの向こう側にいたであろう人々に、ごめんね、と心の中で懺悔する。

 これはなんか、腹立つわ。

 ガシャンと音を立てて携帯を放り投げ、テレビの電源を切る。

 そうして、なんだか説明のつかないような気持になりながら、ミックスベジタブルの仕分けの残りに手をつけて、二日目の夜を過ごした。


あと五日、寝て起きたら五日後だといいのにな。




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死亡 二日目

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入手品:卵/鶏肉/ミックスベジタブル(コーン・グリーンピース・人参)


朝食:玉ねぎサラダその2とオリーブオイルトースト

昼食:玉ねぎの煮びたしと炒めご飯その1

間食:ショートブレッド

夕食:親子丼その1と具無し味噌汁モドキ

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