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今日も何かを食べています  作者: 弓軸月子
第三章

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65/124

63 焼き魚・焼き茄子朝定食/納豆ご飯


『予定通り明日お会いできそうです。楽しみです。』


 茉里奈が教育部へ行き、アケル君も帰り、一人になったところで佐藤さんからそんな連絡が入る。


『待ち構えてる。』


 そう返事をしてため息を付いてしまった。

 佐藤さんはどこまでも本気なんだろうな。

 紙とペンを用意して、自分の死んだ日付を書く。

 十七日分下に日付を書き進めて、ああ、裁判終了まで丁度半分だなとふと思う。

 ご飯食べて寝てただけと思ったけど、結構濃かった。

 長いのか、短いのか、妥当な線か、二~三日もすれば慣れるなんて表現もよく聞くし、まぁ、こんなもんなのかな。

 一行日記みたいになんとか思い出して書き込んでいく。

 思い出せない日は後回しにして、とにかく埋める。

 こんな風に夜を過ごしたのは、そういえば初めてのことかもしれない。

 夜に寝ないが常識なら、私は何をしてどんな風に過ごすんだろうと、どこか他人事の様に思った。

 日付をかき込めば後は芋づる式に、記憶を探って書き込んでいく。

 これが役に立つのかは分からないけれど、気持ちの区切りの一つを、多分明日付ける羽目になると思うのだ。



一日目 大量の玉ねぎと佐藤さんに会う

 死んだと思ってなかった。全部気のせいだとか、実感がなかった。寂しかった。

二日目 事故を調べて嫌になる。

 小さい頃を思い出すのは走馬灯? 火葬は嫌だった。親子丼で佐藤さんをからかった。 

三日目 運転士に会う

 運転士に殺されたとは思わなかったけどムカついた。佐藤さんの手料理も食べた。明治時代ちょっと想像がつかなかった。思い出してみたら主任のこと完全に面白がられた。

四日目 速度超過

 ヤスヒロ運輸が怖かった。クロワッサンを作る。魂の型番?

五日目 到着・軟禁

 私も到着者ならグループに関係なく会えるのかな? どこで? 会いたい人で死にそうな人もいないか。そういや主任はなんで死んだんだろ?

 生きていても死んでいても魂はそのままそこにある?

六日目 裁判

 あっさり別れてあっさり連絡がつく。っていうか向こうは知ってた。人が悪い。引っ越した。

 SIMカード。

七日目 茉里奈と同居

 峰岸さんの人生を聞く。人に歴史あり。

八日目 展望台とコスの店

 味覚の壁。飲み会帰りに死んだけど普通に飲み会出来た。

九日目 餃子の日?

 山田さん達の名前を知って、分裂体とか、なんとなく地獄を知り始めた日? きっかけは?

十日目 シアタールーム

 起床拒否で死ねる。茉里奈は一日寝てた。

十一日目 シアタールーム

 子供って融通効かないのか私だからなのか。アケル君彼氏になった日。雨どい使って二階に行くやつアケル君にやってもらおう。

十二日目 シアタールーム

 佐藤さんから友人と言われる。母親、分身、分裂、子供、どれ? でも友人?

十三日目 裁判

 想像した形の具現化。池橋さんと会う。暑苦しい。考えることを考えた日。

十四日目 たこ焼き

 宋帝王(そうたいおう)と佐藤さんは関係がなさそう。大先輩だけなら影響範囲は地域部だけ?

十五日目 シアタールーム

 本当に好きで付き合った人っていたのかな。別グループへの波長寄せ。迷子。

十六日目 女子会

 記憶の納品。情報販売? リーク、ビジネス、物語、美味しい情報、欲しいのは?

十七日目 本日



 落書き含め、びっしりと字で埋まった紙を眺めながら寝ころんで見る。

 角度を変えれば別の次元が発見できるかもしれないとか、そんな実験もあったよな。

 十一次元まであるんだっけ? いつか認識できることがあるんだろか。

 にしても、濃いのか薄いのか。

 情報量が多いと思ったけど、学校だって入学式とかオリエンテーションとか、一通り専門の教室を使ってみるとかしないと、把握出来なかったんだから、こんなもんと言えばこんなもんか。


 耳たぶの後ろに指を這わせるとすぐにSIMカードを取り出せた。

 小さなSIMカードには、小さく記号が羅列されていて、私たちが家畜だとするなら耳標みたいなものだろうか。

 生きていた頃は持っていなくて、死んでから渡される耳標?

 生まれ変わる時に回収するなら、返してもらってるって事?


「あ」


 小さく声が漏れた。

 この記号の羅列、覚えてたら前が分かるんだ。

 イメージとか、気のせいとかいうから、感覚的な事かと思ってたんだけど、違うのかも。

 人間はパソコン。死んだらアドレスを割り当ててサーバー化、蓄積データの確認をして吸出し、クリーンインストールして、OSを再インストール。

 OSは死なないように反射行動が入るとして、違う、逆だ。

 OSが入ってないパソコンを見つけたから気が付いたんだ。

 これ、佐藤さんの分裂体って話も確定じゃないのかも。

 だったら分かる。

 佐藤さんがブレブレだってのも、分かる。

 それにしても似ていたんだろう。だから悩んだんじゃないかな。

 楽しく友人として過ごして、自己完結?

 そんなに人生上手く行かないと思うよ?

 友達ならなおさらだ。

 取りあえずデコピンは絶対しよう。




--------------------

死亡 十七日目(四日目)

--------------------

入手品:牛肉/オクラ/フォアグラ/展望台チケット


朝食:ネギ玉

昼食:大根飯

夕食:袋麺その3

間食:ベビーカステラ/ホットチョコレート




***




 起きていて分かった事といえば、自分にはやっぱり向いていない事ぐらいだろうか。

 なんだか全然スッキリしないし、一日の区切りが曖昧になりそうだ。

 カジキマグロをグリルで焼きながら、フライパンにごま油を引いて、輪切りにして水に漬けておいた茄子を並べて蓋を閉める。

 お味噌汁は豆腐とネギ。

 カジキマグロは焼き上がりきる前に醤油を塗ってもうひと焼き。

 大根をおろしはブレンダーで多めに作って、後は沢庵とご飯、なんだけど、ダメだな。調子が出ない。

 カジキマグロに大根おろし、焼き茄子に刻んだネギと大根おろし、味噌汁に豆腐とネギ、ところどころ被ってる。全部醤油をかける事によって茶色くなるし。緑と赤どこ行った。

 申し訳程度にサラダミックスとミニトマトでミニサラダを付けてそれっぽさだけを演出。

 ダメさに拍車がかかった様にしか見えない。

 でも評判は良かった。

 二人にだけど。


「朝食の焼き魚って贅沢感あります」

「旅行っぽいっすよね。家は焼き魚結構出たんすけど、夕食とか弁当用の半端なやつだったからなぁ。それより焼き茄子だけでご飯五合くらいいけそうなんすけど」


 朝からどうして五合食べられるんだろう。

 今日頼んでいた蓋付ステンレスバットと納豆と大葉を受け取り、茉里奈から素麺を貰い、貰っといて蕎麦が良かったなどと思ってしまって反省していたら、二人は簡単に昨晩の話その後、を喋り始めた。


「茉里奈嬢、昨日あの後教育部いったんすよね。どうっした?」

「どうってこともなかったですね。色々意見が出て、確定事項と未確認事象をまとめたくらいです」

「まぁそんなもんっすよね。勉強にはなったんすか?」

「なったと思います。色々あるんだなと。一方向から見てしまう事が多かったので、こう、色々な角度から見たり考えたりしたいと思いました。アケルさんは、ご連絡取られたんですか? 佐藤さん? って方。今日お会いするんでしょう?」

「自分からは別に。大先輩に文句言ったくらいっすかね。分裂体増えて忙しいから勘弁してくださいって。笑われたけど」

「そうですよね。

 あ、そういえばコスさんと和香さん、教育部で大人気で。みんな会いたがっていましたよ」


 急にこっちに話を振られても。

 大葉をさっと洗って瓶に入れてたところだったので、取りあえずいやな顔だけしたらアケル君がからかうように笑う。


「和香嬢、遊びに行けば?」

「解剖されそうで嫌なんだけど」

「そうじゃないかと思ったので、無理だと思うとは伝えてますよ。和香さんの方はお菓子のお礼とかも直接言いたかったとは言ってたので、その内知りたい事が出来たら是非」

「そんなこともあったよね」

「あ、あの菓子箱まだあるんすか? 何個か欲しいっす」

「ありますよ」


 茉里奈が五箱ほど出して袋に入れてアケル君に渡している。

 それじゃ、出ますか、と二人とも出かける為に立ち上がったので、手を拭きながら見送ろうと厨房から出ると、まずは茉里奈が言った。


「夕食の配膳はお手伝いするので、準備頑張ってくださいね。それじゃ、行ってきます」

「ありがとう、助かる。今日はコースだから楽しみにしててね。いってらっしゃい」


 さて、次はアケル君か。


「決めた?」

「なにを?」

「先行き?」

「決めてない」

「佐藤さんは?」

「そっちは決めた」

「決めたんだ?」

「うん。珍しく」

「毎食メニュー決めてんだから、決めるのは珍しくないっすよね?」


 そういえばそうだ。

 なにも決めてないと思ってたんだけど、意外と決めているのかもしれない。


「服とか?」

「あー、逆にそれ自分は決めてねっすけど」

「決めてないの?」

「今着てるもん全部クリーニングに出すじゃん?」

「うん」

「戻ってきたの着んすよ。だから着る物は決めてないけど、何着るかは決まってるしそう決めたんすよね」


 ああ、そうゆう。


「っつか佐藤さん、自分のが憂鬱なんすけど」

「そっちこそどう対応するか決めたの?」

「いやー、それはほら、場面で」

「場面なんだ」

「気が変わるかもしんねーっしょ? まぁ、だいじょぶ」

「だいじょぶって言うよね」

「ん?」

「ひらがなっぽいなって」

「あー、漢字で言うと頑張らないといけねぇ感じしねぇ?」

「頑張らないんだ?」

「頑張って大丈夫ってそれはもうだいじょばないと思うんすけど」

「日本語が破綻してる」

「そーんなん厳密に言ったらこの場合へーきの方っしょ?」

「だいじょばないに対してだったんだけど、確かに平気の方だね。……厳密に言葉選んで喋んないよね」

「そそ。そっちもだいじょぶ?」

「だいじょぶ」

「じゃ、その件は頑張んないで、飯の支度は頑張ってね」


 ニカっと笑ってアケル君は出かけて行った。

 朝晩ご飯食べに来るけど、なんか住んでるようなもんだよなぁ、と見送って、私は店の入り口を開けて空を見てみた。

 相変わらず青いだけだから、空が好きな人には地獄のような光景というんだろうか。

 昨晩も少し考えたけど、やっぱり私には非常にフラットな世界で、地獄でも天国でもなく、普通だった。




***




 少し早いけれど、私はのんびりと夕食の準備をする。

 グレープフルーツ液をバットに流し、豆腐チョコレートムースは冷え固まっているので、スプーンで空気を含ませるように削ってバットに移した。

 スープ用のベーコンと玉ねぎは良く炒めてコンソメ顆粒を入れて油をすくい取り、炊飯器に入れておく。

 カジキマグロは切ってバットに並べ塩を振り、牛肉とフォアグラもそれぞれ切ってバットにガーゼを敷いて並べ、ラップで空気に触れないようにして冷蔵庫へ入れて、カジキマグロは一度水分を抑えてからガーゼに包んでラップして冷蔵庫、水切りヨーグルトのはちょっと固まりすぎたかな。少し硬めのチーズケーキ風にはなっている。スプーンですくって盛り付けようと思っていたんだけど、カットでいいかな。

 後は、そろそろ冷蔵庫からパンを出して、ついでにグレープフルーツはスプーンで攪拌しておく。凍りきるまで三十分に一回位攪拌しておきたい。携帯端末でタイマーをセットして、と。


 昨晩猛烈に食べたくなって頼んだ納豆をご飯にかけて頬張りながら考える。


 小前菜(アミューズ)は考えてなかったけど、ちょっと時間あるし、なにか準備しようかな。

 パイ生地があるから、一口サイズで焼いてツナを乗せて、ミニトマトで飾ったらそれっぽいかな。

 それから、グレープフルーツとタコのマリネ。グレープフルーツは剥いて半分サイズにタコもサイズをそろえて一切れ、オリーブオイルと塩コショウレモン汁を混ぜたものをかけて、と。

 これじゃイタリアンかしら? 良く分からなくなってきたけど、まぁいいか。


 久しぶりに食べた納豆が美味しかったので、改めてなぜ私はフランス料理をしかもコースで作らされているのだ、と思ったらなんだか笑えて来た。佐藤さんめ。いや、先に聞いたのは私だし出したのも私か。


 常温に戻ったパンをガス抜きして二次発酵。グレープフルーツも順調に攪拌。

 メニュー表はハガキに手書きで作ってみた。

 準備は万端。

 ああ、早く会いたいな。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] とうとう、今日だっ♪ (*´∀`)♪ ・・・お話的には、来週以降だけど・・・ 高坂さんと佐藤さんが面と向かって会話したのって、・・・10ヶ月前・・・期待して待ってますっ!!
2021/10/15 18:55 退会済み
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