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今日も何かを食べています  作者: 弓軸月子
第三章

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62 ベビーカステラ/ホットチョコレート


「取りあえずご報告と言いますか、元になる情報です」


 茉里奈は折りたたみテーブルを出して、箱ティッシュを半分くらいの大きさにしたものを置いた。


「携帯端末、電気を二段階暗くして」

『明度を二段階落とします』


 いつの間にそんな機能が? と思う間もなく電気が少し暗くなる。お互いの顔は認識できるし、豆電球よりも少し明るい位だろうか。

 会議室でプレゼンが始まるみたいで緊張するな。と思ったら正しくそれだった。

 折りたたみテーブルに置いた箱は単焦点プロジェクター。


「和香さんの不貞の記憶が一部無くなっているというお話に興味を持ちまして、私なりに考査したいと思ったのが事の始まりです。

 喋りすぎてしまうというコスさんがいらっしゃったので、沢山の情報が得られるのではないかと思いました。

 コスさんに初めてお会いしたのが四日前、死んでから十三日目の第二回裁判の前にです。この日コスさんから得られた情報は、」


 パッと画像が切り替わる。


『・無意識の怪我はしない

 ・自覚すると怪我をする』


「でした。靴を貰いに行っただけですが、なにか情報を漏らす方だな、という印象はこの日に持っていました」


 靴擦れの話だったかな? 私は頷いた。

 有益な情報とは思っていなかったんだけど。

 後は茉里奈を着せ替え人形に、という話だけだったと思う。


「二回目にお会いしたのが、昨日。得られた情報です」


 画面の下に文章が追加される。今度は長い。


『・神様に記憶を納品している

 ・簡単に記憶を搾取されることはない

 ・本人の意思で記憶を消す事が可能

 ・最終的にすべての記憶は消される

 ・裁判に減刑はなく加重はある

 ・特定の人物と仲良くするようにと言われている

 ・夜間の睡眠はとらないのが普通

 ・生活習慣による心身への影響はない

 ・不適切な言動があった場合即時消去可能

 ・シアタールームは記憶の搾取場

 ・再生した記憶は新たに記憶される

 ・シアタールームで見た記憶を見る事も可能

 ・展望台から見える景色は実際のものである可能性が高く、虚構の場合コストに見合わない

 ・現在地は地球から月よりも遠いと思われる

 ・六種類の世界がある(天道・人間道・修羅道・畜生道・餓鬼道・地獄道)

 ・便宜上地獄と言っているだけで地獄ではなく、人間道を再現しただけ

 ・想像した刑罰を受ける

 ・刑罰場がある』


 そんなに情報あったっけ?

 私は上から読みながら、首を傾げる。

 簡単に記憶が消されないって言ってるのに、即時消去可能って、コスが勝手に言ってるだけなんじゃないのかな。っていうか言ってたっけ?

 色々な言い回しをまとめているから、そんな感じになったのかな。

 アケル君はカウンターに両肘をのせつまらなそうに見ている。

 いつもより目が開いている気がして怖い。ビームとか出そう。


「さて。私は『高坂さんは仲良くしなさいって初江王しょこうおうから言われた』という発言から教育部に連絡をとり、途中から携帯端末をビデオ通話状態にしていました」

「どこの探偵事務所!?」


 思わず突っ込みを入れてしまった。

 茉里奈は笑いながら掲示板の画像を見せてくれた。

 画像と言うか映像で、画面が上にスクロールしていくのだけれど、長い。


[喋りすぎて初江王に怒られる担当者なう]

[キタコレ]

[詳細キボンヌ]

[実況希望]

[祭りの予感]


 教育部楽しそうだな。コメントがどんどん流れていくがネットスラングが多すぎて良く分からない。何人位参加してるんだろう。書き込みが多い。


[実況:仲良くしなさい指示]

[仲良くしたら喋りすぎちゃってヤバくね?]

[むしろそこ狙い]

[分かる]

[実況:夜は寝ないのが普通]

[常考]

[普通]

[人をダメにするソファー入手しちゃった]

[貸して]

[うらやま]

[実況:私とも仲良くオケ? コーヒー噴いた]

[キター]

[センセにビデオ通話しなよ]

[文字起こし行けるヒトー]

[魚拓待機]

[今北産業]

[実況:ビデオ通話開始]

[第二学習室]

[オケ]

[りょ]

[画像]

[画像]


 会話文が画像で張り付けられたところで、元の画像に戻り、茉里奈はレーザーポインターで『不適切な言動があった場合即時消去可能』という部分を指す。


「まずこの会話の記憶が消されていたことに気が付きました」


 あ、さっき気になったところだ。


「教育部ではリアルタイムで文字起こしをし、画面を写真に撮って、共通の掲示板に公開、それぞれが更にスクリーンショットを撮るという方法で証拠を残していました」


 怖っわ。教育部怖っわ。


「本日の議題になる予定でしたが、予定の記憶もなくなっていたので、考査開始時間も遅れてしまうところだったんですが、そんなこともあろうかと、先生がリマインダーをセットして下さっていたので、無事、消えた記憶とその理由について意見交換をすることが出来ました」


 レーザーポインターを消しながら、茉里奈は誇らしげに笑っているが、当事者としてそれでいいのか。録音の許可を取ってからにしてほしかった。多分ろくでもない事を話していたに違いない。

 アケル君の分裂体の記憶全部確認したい気持ちがちょっとわかってしまった。

 ちらりとアケル君を伺えば、相変わらずの開眼である。目が細いから普通の人の半眼位だけど、どっちにしろ怖い。


「ところでこの情報、秘匿されているのかと言えばそういう訳でもないそうで、一部の、職員と言われる、こちらに滞在の長い方々は知っている事でした。神様が死者の記憶を即時消去可能と言うのは公然の事実。本人が希望すれば記憶を消す事が可能ならば、この部分の記憶を消去した理由は、その権限を裁判担当の死者が持っている事を隠したかったのではないか、という仮説が立てられました。

 アケルさん、どうでしょう?」


 茉里奈がアケル君を見て首を傾げる。とても真剣な顔つきで、こみ上げる笑いを押し殺すのに私は必至だ。


「自分? 隠してもないし、ふつーに知ってる内容っすよ。地域部にその権限ないから頼んで担当者呼び出すこともあるし」


 アケル君はそう言って、こっちを向いた。


「茉里奈嬢に聞かせたくないって話じゃなくて、和香嬢に巻き込まれただけじゃねっすかね。この人考え事苦手だし、あんま意味なさそうっすけど」


 本人を目の前になんてことを。

 そう思ったのに、茉里奈も同意したのでどうやら人としてダメなのは私なのかもしれない。ちょっと落ち込む。

 茉里奈は話を切り替えるように、んん、と、喉を鳴らすが、若くて威厳もないので、痰がからんだのかな? って感じだ。


「和香さんに巻き込まれただけと言うのは、理由として挙げられましたね。消された理由は腑に落ちるものもなくて。

 ただ、内容に関しては、知らなくても良い事だけれど知ってもどうにもならない事だから、諦めるのか、探求して楽しむのか、という古参勢と、納得がいかない新人とで白熱したんで、そうやって新人が白熱するから落ち着くまでは知らなくて良い、という扱いの情報なんではないか、というところに着地させられました」


 言ってることが議事から雑談ぽくなって来たな。話しやすくていいけど。


「茉里奈、電気、厨房のをもとに戻してくれる? 飲み物入れる。話続けていいよ」


 昼間のイマヒトツチョコムースを牛乳で温めてホットチョコレートにしてしまおう。

 冷蔵庫を開けたらアケル君が厨房を覗き込んできた。


「なんか作んならたこ焼き器でベビーカステラ焼こうぜ」

「レシピが分かんないよ。カステラって味醂入れるよね?」

「そんな本格的なカステラ生地じゃなくて、なんちゃってでいんすけど。ホットケーキ的なやつ」


 小麦粉に卵と砂糖、牛乳で扱いやすいところまで伸ばすとして、ベーキングパウダー入れとけば何とかなるかな。結構甘くしないと美味しくなさそうだから、ハチミツも入れちゃうか。

 適当にボウルに放り込んで、カウンター越しにたこ焼き器と一緒にアケル君に渡すと、ぽかんと見ていた茉里奈がハッとしたようにたこ焼き器用の延長ケーブルを準備する。

 うん、物凄くグダグダになったな。


「話続けていいよ?」


 あまりにも真剣にベビーカステラを作り始めたので、出来上がったホットチョコレートを渡しながら心配になって声を掛ける。

 茉里奈はそうでした! という顔をして一口飲んでから話を始めた。


 そもそも茉里奈と仲良くしてよいのかという質問に、動揺したコスに対する疑心だったと茉里奈は言う。

 消された記憶はもう一つ、現在地は地球から月よりも遠いと思われる、の部分で、今朝の予定の件と合わせて茉里奈は3つの記憶を消去された事になる。

 関連記憶は残ってる感じだったので、バッサリと記憶が無いというよりは、ぼんやりと曖昧に、考えなくてもよいくらいに記憶が薄い感じが近いそうで、そんな話したかも、程度には残っているけれど、細かく覚えていないという。


「それ、普通の事では」


 私のそんな発言はあっさりと二人に却下される。


「予定は忘れませんし、私一人の事ではないので」

「こんだけ証拠残そうとしてんすから、忘れる方がおかしいっすよ」


 うーん、この話、どうでもいいんだよなぁ。


「裁判担当の死者が記憶を消す権限を持っていたとして、それを消してみて、茉里奈が調べて、私に報告してくるところまでがワンセットだったとしたら、それは初江王関係ないと思うんだよね」

「どういう……?」


 茉里奈は首を傾げるが、まぁ、そうだよね。茉里奈は知らないのだから分かるはずもない。

 考えるの面倒だな、と思いながら、焼き上がって合体させる前の半球型のベビーカステラを爪楊枝で刺して口に放り込む。

 熱い。けど、甘さはこんなもんかな。砂糖を振ってもいいかもしれないけど。

 もぐもぐしている私を、考え事をしていると勘違いしたのか、茉里奈は黙って待っている。

 アケル君の方はベビーカステラを合体させながら一つ余ってしまう分を口に放り込んで、熱がっていた。

 うーん。


「紙に書くなり、パソコンに打ち込むなり、喋るなりしないと考え事って出来ないんだけど」


 茉里奈は頷いて、聞きますよ、と言い、アケル君はガンバってー、と接合面をくるくると焼き上げている。相変わらず器用だな。

 私はいまだ壁に映しだされたままの情報一覧を見ながら、考え始める。


「不適切な言動があった場合即時消去可能、これは普通だと思うんだよね。最終的に記憶消去が確定しているなら、いつどこでどのタイミングで抜いたって神様は困らないし、本人の意思でっていうのにもつながるんだけど、人間の脳だってする事でしょう? 深いトラウマは記憶の再生に障害を起こすし、気が狂いそうだから記憶を消しておくっていうのは、円滑に裁判を行う上であってもおかしくない処置の一つだと思うんだよねぇ。

 その上でなんでこれを消したかって、さっき言ってた新人は知らない事柄って事で間違いないんじゃないかな。知らない事を知ると盛り上がるし、ちょっと隠されると裏があるんじゃないかって騒ぎになるし、ほら、ちょっと裏がありそうではあるじゃない。

 それこそ、シアタールームは記憶の搾取場、こっちの情報の方がヤバそうなのにそっちはノータッチ。

 現在地は地球から月よりも遠いと思われるっていうのは具体性の消去かな。私も覚えてないけど、コスの事だから、ペラペラッと適当に思いつくまま喋ってたんだと思うけど、六道の話と矛盾してくるでしょう?

 それぞれの世界を再現する世界で七つ目の世界なのか、人間道が表として裏側に人間道死者の世界があるとか、そんな感じなら六道でも説明が付くかもしれないけど、物理的な話じゃなくて概念的な世界である事には変わりないと思うから、月より遠い、って言って、じゃあロケットだ転送装置だって考えても無意味、って、ああ、それは私じゃなくてそっちのせいかも。

 議題に上げることによる問題定義かな。ロケット作るような人ならピンときそうだもん。色んな施設あるけど、こっちのは全部物理法則無視した作りだし」


 アケル君がベビーカステラを皿に取り分けてくれたのでお礼を言って受け取る。

 完成品は丸というより楕円になってしまった。ベーキングパウダーが少なかったか。

 パクっと口に入れれば、半球の時よりも美味しく感じた。


「考えるの、言うほど苦手ではないですよね?」


 茉里奈が困惑気味に聞いてくる。


「苦手だよ? 今は喋ってるだけ。別に考えてるわけじゃないから」


 そう、別に私は考えているわけではないのだ。

 組み立てている方が近いかもしれない。

 だから、完成目標がない今、非常に困っている。ここで話を終わらせたいくらいだ。


「なーんで、初江王関係ねーって思ったんすか?」


 アケル君ナイスアシスト。


「初江王には無意味でしょう? コストに見合わない。目的は私に考えさせることか、それとも、伏線か、どっちかなんだけど。前者であって欲しいかな」

宋帝王(そうたいおう)ですか?」

「裁判前に記憶を消したって担当者が怒りに来たんだからそれもないよ。残念ながら」

「和香さん、心当たりがあるんですか?」

「んー? 生まれ変わり条件クリアが私がものを考えることにかかっているのか、それか、一人分の記憶を無かった事にしますよっていうお知らせか。これはどっちなのか分からないし、どっちでもありそうなんだけど、お互いに知らないなら問題ないだろうから、やっぱり片方だけのつもりなのかな。その上で無理なら記憶は消せますよという事だとすると、向こうが消す、のか、なぁ。

 アケル君、事前に相談あるんだってのはその辺?」


 アケル君はリスみたいに、口の中のベビーカステラで左頬を膨らませながら言った。


「なんも聞いてないっすけど、マジでそういう話だったらクッソめんどくさいんすけど」


 でしょうねぇ。


「どういう事ですか?」


 どういう事とな。


「消すまでにタイムラグもあったみたいだし、奪衣婆担当かなって。

 明日会えるけど、自己紹介代わりに記憶消してみちゃいました、位の感じじゃないかなぁ。

ちょーっと変わった人で、かつ、困った人なんだよ。

 一応フォローするけど、無意味って事はないと思うよ」


 そう言う事なのだ。

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