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今日も何かを食べています  作者: 弓軸月子
第三章

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58 グレフルヨーグルトケーキ


「ちょっとマキネッタ取ってくる」


 食後にゆっくりデザートでもと、皆で片付けをして飲み物を準備しようとしたところで、コスが出て行った。


「直火式エスプレッソマシンの総称」


 茉里奈が傾いて携帯端末を手にしたので言うと、ああ、と頷いて、それからちょっと、うっ、となっている。


「どうしたの?」

「ご一緒するならラテかなと思ったんですけれど、乳製品の話を思い出してしまって」

「飲みたいもの飲みなよ」

「そうそう。好きなものを飲んで食べたら良いんですよ。高坂さんタバコ吸ってい?」


 すぐに戻って来たコスがそんな事を言う。

 ちょっと意外だった。


「表で吸って来てよ、入れとくから」

「はーい」


 コツコツとマキネッタと豆の入った瓶を置いてコスはまた出て行った。


「こっち来てタバコ吸ってる人初めて見た」

「教育部には何人かいらっしゃいますよ。人体に影響はないから吸わなくても問題ないそうなんですけど、区切りとかリセットに吸ってた人は習慣で吸ってるって言ってました」

「依存はしないけど、って事?」

「はい。習慣の方も実験で、タバコの代わりにトイレに行って手を洗って戻ってくるとか、瓦割とかやってみたそうです。変更可能だったそうです」

「へー」


 豆の瓶はミル付きで、マキネッタにセット出来たので挽いていく。ゴリゴリとなんとも言えない音が心地いい。


「お茶もコーヒーもきちんと入れると時間がかかりますけど、そもそも時間をかけるものだったんでしょうね」


 茉里奈も私の手元を見ながら穏やかな顔で言う。


「自動販売機でガコン世代だとこういうの贅沢な感じがするね」


 豆を挽き終えて火にかけたところでコスが戻って来た。


「すみません、やり方分かりました? どうも一度家に帰っちゃうと出るのが大変で、無理矢理出てくるとこのありさまです」


 コスにしては言葉数少なく言い訳して、厨房に回ってきて手を洗い、マキネッタの前に陣取った。


「茉里奈は結局なに飲むの?」

「あ、ほうじ茶にします。自分でやりますよ」

「そういう高坂さんはどうします? 一緒にコーヒー飲みます?」

「うん、貰う。アイスアメリカーノにしようかな」


 グラスにたっぷりの氷を入れて準備する。

 茉里奈は冷蔵庫からコスの作ったデザートを出して、カウンターに並べてくれていた。

 うーん、女子会感が凄いなぁ。

 コスが差別と区別という重たい議題をペラペラと物凄く軽く喋り続けながら飲み物を用意し、時折私と茉里奈も笑ったり参加したりしながら準備が整って席に着いた。


「……という訳で、毎回身長百八十センチの男性新入社員に棚の上の物を取らせていたのは、もう一人の新入社員が女だからでも贔屓してるからでもなく、身長が百五十センチで、周囲にはキャスター付きの椅子しかなく、脚立は別の階にある清掃倉庫から貸してもらわなければならないからであって、どういった理由から男性新入社員がパワハラとかモラハラとか女尊男卑とか騒いでいるか知らなかった支持者が蜘蛛の子を散らすように去って行ったわけですけど、結局会社的には新入社員は一人も居なくなったし、新入社員は二人とも稼ぎ口がなくなったし、残った社員は平等に平等にとか思いすぎて女子社員に十五キロの段ボールを持たせたりしちゃうわけですけど、まぁ持たされた方もウチの子と同じくらいだからこれくらいならって感じで、人に頼るとろくなことが無いし、裏取りって大切ですよね。結局見たものしか信じられないってのも頷ける」


 重たい上に情報量が多く話も変わっちゃってるよ、コス。

 茉里奈は小さくそうですね、と答えてから話題を変えた。


「デザート嬉しいです。これはなんになるんでしょう? パフェ?」

「ケーキ型がなかったからこうなったんだけど、味的には……グレフルヨーグルトケーキ? 低カロリーチーズケーキみたいな構成だけど、水切りヨーグルトに特に加工をしてないから、ゼリーと一緒に食べると酸味の錯覚でチーズっぽく感じるのだと思う。まぁ、好きな方に割り振って考えて食べるなり、途中で味を変えるなりして食べればいいんじゃないかしら。製造工程を見ていなければ豆腐でも同じことだと思うし、味覚無双、味覚無双」


 面白そうなので試してみたら、言われてみれば程度にしか変わらなかった。

 製造工程を見ているからなのか、私の味覚記憶が貧相なのか、なんか損した気がする。

 アケル君は得意そうだよな。

 茉里奈にも少し難しかったようだ。それでも美味しくは食べられるのでまぁいいだろう。


「コスって普段どうやって過ごしてるの?」

「普段……。地球のアニメ、漫画、映画を見て、洋服を作ってますよ。合間に死者の相手をしてますけど片手間ですね。苦手だし、向こうからなにか聞かれない以外は話さないし、喋りすぎて怒られるから、片手間で問題もなくて。人と喋らないってだけで独り言はずっと言ってますけどね。配信しようかないっそのこと」

「……結構喋られている気がするんだけど」

「高坂さんは仲良くしなさいって初江王しょこうおうから言われたんですよ。でも高坂さんアニメも漫画も映画も全然ですよね。唯一ドラマは見るみたいですけど、ピンポイントで私の興味がないのばっかりだし。でも反応が面白いし、私も喋りたいのでまぁいいかなって思って喋ってるんですけど、そうか、私のフィールドに巻き込むのはありですよね? 今度オススメの作品ピックアップして持って来るんで見てください。寝なくても問題ないし、再生速度ちょっと上げてOP・EDスキップしたらツークールものでも一晩で見れますもんね。盲点だったな」

「え、出来れば夜は寝たいんだけど」

「なんでまた? 起きてても大丈夫なのに? え? 葛城さんも寝てるんですか? どうかしてませんか?」


 とんでもない偏見である。と思ったら茉里奈はパタパタと手を振って言った。


「あ、私は起きてます」

「嘘でしょ? 前寝てたよね?」

「嘘ではないです。最近は起きてます」


 コスがそれ見た事かと笑う。


「ほらあ、ニ対一ですよ、高坂さんの方が異常なんですよ。普通寝ないと思いますよ」

「いや、夜は寝ようよ。一日八時間、最低四時間は死守しようよ。大切だよ、睡眠」

「睡眠不足による不調なし、寝ようと思ったら即落ち、時間通り起きられるとか、寝るなんて瞬きと大差ないじゃないですか。時間がもったいないですよ。八時間もあったら茹で卵が三百個は作れますよ」

「どういう計算なの。多分もっと作れるよ。」


 わいわいとコスと言いあっていたら、茉里奈がまた傾いていた。


「茉里奈どうしたの?」

「さっきちょっと……。コスさん、初江王(しょこうおう)から高坂さんとはって言われたんですよね?」


 コスは頷いてコーヒーを飲んだ。


「私とも仲良くして問題ないですか?」


 噴いた。


「汚っ! ちょっとコス?」

「ごめんなさい。そういえば特に許可はなかったかも。何か拭くもの下さい。噴いちゃっただけに。ふふ」

「そういうのいいから」


 厨房に回って濡れたタオルと雑巾を渡してやると、コスは受け取って拭いた。


「ああ、びっくりした。喋りすぎちゃだめって言うのは頻繁に言われるけど、別に仲良くするなとは言われないから問題ないですよ。自分でも何を喋りすぎちゃってるのか良く分からないしなー。でもほら、どうしても言っちゃダメみたいな事があっても、サクッと納品しちゃえばいいだけだし。ああ、でもこうなってくると納品というよりも搾取かなぁ。良かったら持ってってくださいと、こんなのいらないと、神様の為に経験積みましたっていうので言い方が変わるから難しいですよね」


 ああ、こんなのいらない、が私の納品か。

 いかにも私が思いそうなことではある。覚えてないけど。

 ミニマリストでもないくせに、捨てようと思ったらどこまででも捨てられる。

 個人情報やら、粗大ごみやら、そういう問題がなければ、多分、スーツケース一つでも生きていけたと思う。かと言って山間部に置きざりとか無理だけど。


「コスさんも納品組なんですか? 搾取組? 神様の為になら……献上組?」

「あるとすれば搾取組ですかね。どうでもいい事ってどうでもいいからどうでもいいじゃないですか? シアタールームとかシステム的には搾取システムなんですけど、あれって、シアタールームで見た記憶を残して元の記憶は搾取しちゃうんですよね。だから最初の感情とかって、こう思っていた、っていうのだけが残るんですけど、別にそれで問題ないでしょう? あの時嬉しかったのよねーって記憶さえ残ってればいいし、再生した記憶が新しく追加されるわけで、なにも変わらないし、記憶が新しい分すぐ思い出せるし神様的にも二度美味しいんじゃないかと思うんだけど、どうなんだろう。今度聞いてみよう」


 茉里奈はグレフルヨーグルトケーキを完食してから頷いて、ほうじ茶を飲んで笑った。


「記憶の二番煎じみたいですね」

「そういうとまだまだ行けそうですね。シアタールームで見た記憶を見たりすれば三番煎じ位は余裕そう。四番煎じまでいくシチュエーション自体思い浮かばないですけど、三番煎じは全然ありですよね。あの記憶を見に行った自分への邂逅……うわー、どうでもいいのばっかり見に行ってる気がする」


 私は二番煎じまでしか想像がつかないなぁ。

 

「なんだか薄くなりそうだね」

「気持ちなんて普通に年月とともに薄くなるじゃないですか。ガムみたいなものですよね。でも味が無くなっても口さみしいのはなんとかなりますかねぇ。一時間も噛んでるとシリコンゴムなのかガムなのか区別がつかなくなりますけど。スルメだと気が付くと口の中からいなくなってるから、次を口にしないといけないじゃないですか。いつまでも味があったとしても終わりは来るんですよ。あ、なんか今の名言ぽいかも」

「迷言」

「ですよね? 名言!」

「和香さん、漢字違いませんか?」


 ぽそりと茉里奈が突っ込みを入れてくれた。どうもありがとう。

 それからも茉里奈はしばらくうーんと傾きながら、携帯端末をいじっているので、ガムについてでも調べているのだろうか。

 目が合ったらにっこり笑われて、


「ガムは味がしなくなってからも噛んでもいいけれど、噛みすぎは良くないみたいですよ」


と教えてくれた。


「そういえば、展望台から見えるものって、本当の事なんですか?」


 それまでの口調と全く変わらず、茉里奈はコスに聞いた。


「どうでしょう? 状況によっては毎日通う人もいる位だし、いちいち架空の世界を作って見せる程神様も暇じゃないんじゃないかなぁ。ただそうなってくると移動するのに一週間もかかるって事は地球から月より遠いのに、鮮明な高解像度プラス見たいもの特定速度が速すぎる気がしますよね。まぁ人間の常識なので考えるだけ無駄かなと思って、本当の事が見れているとは思ってるんだけど、そう言えばしばらく行ってないなぁ。死んで直ぐは気になって何回か行ったけど、絵に書いた餅でしょう?」


 ああ、その気持ちは分かるかも。

 茉里奈も頷いて、見るだけってもどかしいですよね、と同意した。


「まだ勉強中なんですけれど、地獄の中に人間界があるんですよね? 生きてた時に言う、血の池地獄とか、賽の河原とか、その地獄と、人間界も地獄というのが良く分からなくて。長くいると分かるようになりますか?」


 峰岸さんの刑罰についての話から疑問に思っていたのかな?

 私もそれは気になった。


「居ても分からないいんじゃないかなぁ。漠然と、位で。漫画とか小説にその手のものもあるから覚えてるけど、要するに死んで生まれ変わる先が、天道、人間道、修羅道、畜生道、餓鬼道、地獄道の、六道って言われる六種類の世界で、どんな生き方をしてきたかで行先を決めるっていう裁判を今うけてるじゃないですか? 鬼籍に入るなんて言い方もある位だし、死んだら鬼になって地獄に来るものなのかと思った時期が私にもありました」

「え? ここ地獄じゃないの?」

「便宜上地獄と言っているだけで地獄ではないんですよ。天は天に、人は人に、修羅は修羅に、それぞれが生きていた世界をイメージした空間に居る状態で、別に地獄でもなんでもないです。強いて言うならやっぱりあの世なんですよね。で、人間界の裁判で、有罪判決になった場合って、刑罰があるでしょう? その罰が血の池地獄とかの、人間がイメージした地獄に放り込まれる感じなんですよ」


 そういえば佐藤さんも最初の頃はあの世って言ってたもんなぁ。

 いつからだろう、地獄と言い換えたのは。

 ああ、違うな。ヤスヒロ運輸に鬼の話をされて、私が地獄と言いだしたんだ。

 そうだった。


「イメージしちゃった責苦を受けるんだっけ?」

「そうですそうです。刑罰場っていうかビルがあるんですけど、地下に伸びてて、人間界の底辺判定の人とかだといったん最下層まで突き落とすんで、イメージ最悪らしいですよ。何の話でしたっけ? そう、葛城さんのお勉強の話でしたよね。転生先の地獄と刑罰の地獄がごっちゃになっちゃってるんじゃないですかね? 平均みたいなもんですよ。均すのか、中間値の話なのか。同じ言葉でも意味が違う事ってありますよね。そう言えば昔、百点九十九人に一点一人で平均九十九点って、誰も九十九点なんて取ってないのに、って思ったことがあったなぁ」

「より正確に言えば小数点以下九十九が付くけどね。普通に赤点は一人で平均出さなくて良くない? と思ったけど」

「ああ、平均値を割った数でかけると合計数になるのって忘れがちですよね」


 そんな感じで、大切な話なのか、どうでもいい話なのか、よく分からない話で夜を過ごした。

 明日欲しい物の話で解散になったけれど、そうか、二人ともこの後も起きてるのか。

 いや、私は寝るけど。




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死亡 十六日目(三日目)

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入手品:テリーヌ型/ゼラチン/パプリカ(八色)/フライヤー


朝食:ポーチドエッグ

昼食:ポテサラチーズトースト

夕食:シーフードドリア

間食:グレフルヨーグルトケーキ

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[一言] 『生活するって何でしたっけ?』 本作品のあらすじ記載の言葉です。 高坂さん、交遊関係が広がってやれることは増えたけど、基本してること変わりませんよね(^_^;) でも、裁判は生存中の行動に対…
2021/09/12 20:59 退会済み
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