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今日も何かを食べています  作者: 弓軸月子
第二章

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43/124

42 キッシュ


「おはようございます」


 今朝は茉里奈の方が早く起きていて、自室から出たら廊下の掃除をしている所だった。


「おはよう。今日は早いね」

「昨日いただいたSSDをパソコンに実装して、そのまま録画を見たり、昨日あった事をまとめたりしていたら朝になってしまって」


 言い訳のニュアンスを含む返事が可愛らしい。

 ほっこりした気分になりながら、そんなの届いてたっけ? と聞けば、ソリッドステートドライブの事だった。リモートコントローラーといい、こっちの人は略称を使うと口内でも爆発するんだろうか。


「和香さんはきちんと眠ったんですか?」

「気分的に少しだけ寝たんだけど。ドラマの続き見ちゃったんだよね。今日中に見終わると思うから、そしたら渡すね」

「ハマります?」

「アクションスリラーサスペンスドラマが嫌いでなければハマるんじゃないかな」

「楽しみです。これから一階の掃除ですよね? 二階終わってるんで、手伝いますよ」

「ありがとう」


 身支度を整えて一階に下りれば、掃除は終わっていた。

 テーブルやなんかの拭き掃除は夜のうちに終わっているし、床掃除と厨房に干した布巾を集めて畳む位なので、当たり前と言えば当たり前なんだけれど、暖簾を出しながら、ちょっと申し訳ない気分になる。


「掃除やらせちゃってごめんね。ありがとう。朝食の準備するから、パソコンでなにか流してもらっていい?」

「どういたしまして。これからご飯だし見るより聴く方が良いですよね。音楽かラジオか……」


 茉里奈は本当に好きなようで、嬉しそうにパソコンを触っているので、掃除をさせてしまった事は気にならなかった様だ。

 ほっとして、朝食の準備に取り掛かる。

 とはいえ、昨晩作ったキッシュがあるので、ミニサラダとスープ位でいいかな。

 ミニサラダは小鉢にサラダミックスとミニトマトを入れるだけ、スープはミックスベジタブルを入れて、顆粒コンソメとの塩コショウで味を調えるだけ、キッシュは切ってからオーブンモードで再加熱。

 サラダのドレッシング、どうしようかな。なんか全体的にオイリーな感じがするし、更にコーヒーも飲みたいし、サッパリと塩とレモンでいいかな。

 コーヒーと紅茶の準備をして、食器を出して盛り付けを始める頃、アケル君もやってきた。


「っはよっす」


 普通に入ってきて、適当に挨拶をして、適当に座っている。


「おはようございます」

「おはよう。今朝はアケル君が作ったキッシュだよ。コーヒー? 紅茶?」

「おはようございます。コーヒーで!」


 茉里奈の挨拶に、挨拶位ちゃんとして頂きたいという圧が感じられたせいか、軽く会釈付きでもう一度挨拶をしたのがおかしくて、笑ってしまった。


「「「いただきます」」」


 三人で並んで朝食を食べながら、今日の話をする。


「茉里奈、今日はどうする予定なの?」

「今日から総合受付の建物内で勉強する事にしようかと思ってます」

「図書館でもあるの?」

「学校……塾の方が近いですかね、そういうグループがいくつかあるみたいで」

「教育部っすね。生涯学習センターみたいな感じで、色々勉強出来るって言う」

「へぇ。あ、でも、総合受付ってグループ分けどうなってるの? 爆破されたりしない?」

「波長グループの方ですよね。そういえばどうなっているんでしょう? 爆破は困りますね」

「いくつかの波長グループは統合してるっすけど、そういう輩は来ないんでダイジョブ。総合受付内に居れば万が一殺されてもそのまま、その場リスタートなんで、安心してくださいっす」

「えぇ。全然安心出来ない。茉里奈が心配」

「勉強が大好きな殺人者って猟奇的な方が多そうですもんね」

「偏見! でも物凄い殺しあう勉強会もあるんすよ。そこは止めといた方がいいかも」

「やっぱり猟奇的じゃないですか!」

「実験に犠牲はつきものなんすよ」

「やっぱり、芸術は爆発だとか言って、爆破するグループもあるんじゃないの?」

「……自分が知らないだけであるかも知れないっすけど、それこそ波長圏外じゃないっすかね。したいっすか? 爆破」

「一回くらいは体験したいかもしれません」

「そうね、一回くらいはね」


 話が物騒な方向に転がりだしたので、何となくしばらく無言で食べる。

 間にアケル君が旨いっすね! と挟んでくれるので助かった。

 昨晩の作業も楽しかったそうで、また手伝いたいと言ってくれたのも嬉しい。


「和香さんは今日はどうするんですか?」

「シアタールームかなぁ。盗みについて、結局全然見れてなくて」


 私の発言に二人はとても驚いた。ドン引きの域で驚いた。そんな?


「せめて一個位は裁判前に見たいんだけどね、実例。峰岸さん達は初めて電車に乗った時が凄かったみたいなんだけど、言われた事しかやらない子だったから、多分……」


 ピタッと、パズルピースが埋まるように、頭の中で祖母の言葉がリフレインする。


『言われた事だけやってりゃいいってわけじゃないよ』


 右足を前に出して、左足を前に出す、交互にすれば歩く、早くすると走る、そういうレベルから始まったと聞いたことがある。

 言われた事はやるんだから良いじゃないか、と、諦めたのは父だったか。

 思いつめた母と、影響を受けてしまった兄を連れて、気分転換に出かけた日、父は私に、一日寝ていなさいと出かけて行った。

 その日は布団の中で排泄してしまったし飲まず食わずでとても大変だったので、次の休日には、午前中は寝ていなさい、お昼に菓子パンと水を飲んだらトイレに行き、帰って来るまで寝ていなさい、と出かけて行った。

 問題がなかったので、母は手がかからない事に気が付いて安心し、とても喜んだ。

 幼稚園ではお絵かきをしましょうね、と言われればお絵かきだけをするので、集中力のあるお子さんで、手がかからないと言われ、順調だった。

 小学校に入って、問題は起きる。

 授業の間の短い休憩時間はなんとかなった。先生がトイレに行きたい人は行き、次の授業の準備をして席で待てと教えてくれたからだ。

 自由時間、好きに遊んでいいですよ、校庭に出てもいいですよ、それが分からなかった。

 教室でぼんやりと休憩時間を過ごしていると、先生や友達が、「何々しない?」「何々しなくていいの?」と声をかけてはくれたが、「何々しなさい」とは言わなかったので、しなくても良さそうな事はしなかった。家だと余計な事をしないでって怒られてたからね。

 それまではあまり動かなかったので、運動はダメだった。

 成績は良かった。することが無かったので、頭の中で復習ばかりしていたからだ。

 色々な症例に当てはめては見たものの、決定打も無く、ネグレクトを疑われて、母の安心は消えた。

 母を心配した父は週末に、祖母に私を預け、気分転換に出かける様になる。

 それが、祖母の家に行った思い出につながる。

 ああ、小学校に上がって昼寝の時間が無くなった上に、夜になって寝なさいといわれるまで、睡魔と戦っていた様な気がする。慢性的に寝不足で眠かったのかも。

 『やりたい事は口に出しな』か。あれが無かったら人生違ったろうな。

 もっとも呪いの命令化して『なんでもかんでも口にするな』と言われるまで結構長くその状態は続いた気がする。


「和香さん?」

「ああ、ごめん。ちょっとトリップしてた。なんだっけ?」

「盗みの記憶の話ですけれど、無ければ無いで良い事だと思うので、そんなに気にしなくても良いと思います」

「まぁ、そうよね。なんだか気になっちゃって。まだ時間があるしと思っていたんだけれど」

「明日が裁判ですしね」

「はい?」

「え? 明日ですよね? その日含んで今日でした?」


 茉里奈が慌てているが、七日毎なので第二回裁判は十四日目の明後日のはずだ。


「あってるっすよ、明日っす」

「え?」

「?」

「十四日目の明後日だと思ってた」

「一日早く裁判だったからズレてんすよ。うわぁ! 他にも勘違いしてる人いるかもっすね!」

「日程調整しないの? 法要とかなんかそういうの関係するんでしょ?」

「四十九日法要とか、後ろにはずらさないっすから、一日位ならそのままっすね。裁判所も暇じゃないんで」

「待って、そう言えばそもそも高坂家は法要しない!」

「ええ!」

「家族で食事だけとか、しない家も結構あるんで、まぁ、気にすんな」

「気にしない!」

「気にしましょうよ!」


 人間の常識で茉里奈に負けている気がしないでもないが、そんな感じで明日が裁判だという事に気づけたのは良かった。危ないところだった。


 食後、アケル君は地域部に日程勘違いの報告と対策の相談があるからまた後程、と慌てて出て行き、茉里奈も、荷物は部屋の前に置いておいて貰ってもいいですか? と告げて出かけていった。

 まだ、なんとなく地に足が付かないような、何とも言えない気持ちでいたので、ゆっくりとコーヒーを飲みながら、佐藤さんに連絡を入れる。


『到着してお仕事中?

 昨日は白雄さんに会いました。思っていたより人間辞めてて笑いました。

 彼氏も出来ました。』


 秒で返事が来た。


『白雄さんとお付き合いするんですか?』


 驚いてる驚いてる。ふふっと声に出して笑いながら返事を返す。


『違うけど、地域部の人ではある。』

『決め手とか。』

『好きです付き合ってくださいと言われたので、好きではないけどいいですよって。』

『どうしてそんなに夢がないのでしょう。私の恋愛への憧れを返してください。』

『家に落ちてたから、引っ越しの時に捨てられちゃったと思うよ。残念だね。』

『新しい死者に期待したいところです。

 とは言え、今まさに、分裂体が、』

『死んだ?』

『虫の息ですね。止めを刺せなくておろおろされています。

 そちらに住むことにしたんですか?』

『どうかな。悪戯心でお返事しただけで、そういう感じでもないし。』

『とんだ悪女ですね。程々に。』

『そっちも程々で。』


 パタリ、とカウンターに突っ伏して、佐藤さんはやっぱりいいなぁ、と思う。

 恋愛への憧れって。絶対言うほど持ってないだろうに。

 一人なのに顔がニヤけてしまって、誰に見られているわけでもないのに恥ずかしい。

 そう言えば白雄さんの話をしたからか、さらっと分裂体がある事書いてあったな。

 もう一度携帯端末の画面を眺めて、虫の息の佐藤さんを思い浮かべてゾッとした。

 きっとあの調子で、笑顔を浮かべながら虫の息なんだろうな。

 やっぱり佐藤さんが一番怖いや。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] あれ?高坂さん、幼少の頃はちょっと変わった子だったのかな? [一言] ここのところ、登場人物が増えた場面での会話に、誰が発言しているのか判断が難しい描写が多かったので、そこは流れで読ん…
2021/05/23 23:20 退会済み
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