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今日も何かを食べています  作者: 弓軸月子
第二章

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28 焼きおにぎりと海苔の味噌汁


『ピンポーン』


 もうお昼になるからと片付けを終え、一階でお茶を飲んでいたら来客だ。

 店の入り口ではなく玄関のインターフォンをだったので、誰だろう? と店の入り口を開けてみれば峰岸さんだった。


「こんにちは」

「こんにちは。昨日の今日でごめんなさいね。二人にちょっとしたプレゼントをと思って」

「そうなんですか? 昨日も沢山頂いてしまったのに。ありがとうございます。お茶飲んでいきます? 丁度休憩中なんですよ」

「ううん、今日はお暇するわ。お誘いありがとう」


 そう言って、峰岸さんは微笑んで、後ろからのぞき込んでいた茉里奈と私に、お年玉でも渡すように、はい、はい、と渡してくれた。

 中身を確認する間も与えずにそれじゃあね、と扉を閉めて帰っていく。


「なにかしら?」

「展望台のチケットですね。こればっかりは一日三枚までが限界ですから、昨日頼んでくれたのかもしれませんね」

「展望台?」


 アミューズメントスポットだろうか。

 目に見えているものすべてが幻のような世界で、展望もなにも無いと思うのだけど。


「生前の世界が見られるっていう、展望台のお話、ご存じないですか?」


 ああ、そういえば佐藤さんに初めて会った日に聞いたかもしれない。

 化けて出れないけど見れるんだっけ。

 ぼんやりと思い返していると、茉里奈はチケットの小さな文字を確認している。


「チケット一枚で六時間滞在可能。結構長いですね」

「茉里奈も初めて手にするの?」

「はい。到着しないと行けないと聞いていましたし、今すぐ家族の顔が見たいという時期は超えてしまって、落ち着いて幸せそうにしている所を見たいと思ってしまったので、もう少ししてからと思っていました」

「そうね」


 考えても見なかったな。

 携帯を放り投げたあの日に、完全に線引きをしていたかもしれない。

 自分でどうしようもない事をあれこれ考えるのは苦手なのだ。

 薄情とも言えるかもしれない。


「取りあえずお昼食べて夕飯の仕込みしたら行ってみようかな」


 そう呟くと、茉里奈は少し心配そうな顔で言う。


「和香さんのご家族こそ大丈夫ですかね。突然の事故で、まだ混乱していらっしゃるかもしれませんよね」

「どうだろう。もう普通じゃないかな。結構忙しかったと思うし」

「テレビを見る限り大分ニュースでの取り扱いも減って来てますしね。そういう時こそ心配ではありますが」

「テレビ、目覚ましで使うくらいで全然見てないんだよね。嫌になってしまって。でもニュース減って来てるんだ? それなら良かったかな」

「気にならないんですか?」

「気にしてもどうにもならないからね。どうしてテレビが見れるか不思議だなってのは気になったけど」

「ああ、それこそ展望台と同じシステムらしいですよ。もう亡くなった芸能人で作られた番組には驚きましたけど」

「そんなチャンネルが?」


 驚きながら厨房に移動する。

 小さ目の焼きおにぎり四つとお味噌汁で良いかな。

 ご飯を温めて、鍋に湯を沸かし、醤油と、みりんで伸ばした味噌を用意する。

 小さ目に結んだおにぎりをフライパンで焼いていく。

 少し焦げ目がついてから醤油と味噌を塗り、もうひと焼き。

 沢庵を少し切って、味噌汁は鰹節子と味噌で味を決めてから海苔を入れる。あおさの味噌汁っぽく見えるが、あれよりももっと溶ける。

 具が無いからというのもあるが、割と好きな味噌汁だ。


「もともとテレビってあんまり見てなかったからな。BGM替わりと、話題作りくらいで」

「私は結構見ていたので、こちらのテレビも興味深くて。やっぱり前世もアナウンサーだった方の番組は安心して見れますね。活舌も良くて」


 好きなのだろう、とても楽しそうにおすすめの番組の話などをしてくれた。


「「いただきます」」


 お昼ご飯を食べながら、夕飯の相談をする。

 あの山田さんはやっぱり昨日も来てくれた山田さんで間違いなかった。

 覚えていないんですか? と、とても驚かれたが、私にしてみればどうして覚えているかの方が不思議である。

 食材が少ないからどうしようかな、と言えば、明日からはしばらく食材を頼みましょうか、と茉里奈が提案してくれた。

 一品はお言葉に甘えるかもしれないとお礼を言って、食材を思い返す。

 あまり増えていないのだ。一人なら良かったけれど、確かにちょっと考えた方が良いかもしれない。

 好きな食べ物や嫌いな食べ物を聞きながら昼食を終え二人で片づけをする。

 これから私は展望台へ、茉里奈は散策に出るというので、それぞれ出かける準備して、玄関で電気やガスの確認をして、ハタと気が付く。

 そういえば鍵もないし在っても意味がないね。

 笑いあいながら二人で玄関を出たら景色が喪失した。


 主導権忘れてた!




***




 展望台は、なんというか、カバサという楽器に似ていた。

 アルファベットのT型の建物で、物理法則はもう少し仕事した方が良いよ、と思わず言いたくなるような作りだ。

 真ん中に簡単な受付とエレベーターがあり、まっすぐ上へと伸びている。

 せいぜい十階建て位だろうか、展望台というに割にはそれほど高くない位置に、エレベーターを真ん中に円を描く様に床があり、ぐるりと一周、椅子と望遠鏡のセットが、パーテーションで区切られて設置されている。

 そんなフロアが上に五フロアあるそうだ。受付で渡された番号札には一フロア八時半と書かれていた。

 エレベーターを降りて正面の席に十二時とあったので、時計を模しているのかもしれない。

 左周りに目的の席を探し、座る。

 自宅、実家、兄夫婦の家、職場、と順番に見ていく。

 自宅は大きな家具はなかったので、少しづつ片付けているようで、数個の段ボールと伸縮ポールが残っていた。

 人影は無かったが、これから運び出すのに奥に奥に荷物をまとめているのを見るに、母の仕事か。

 実家には母の姿があった。何かの書類を見てため息をついてはいるが、目の下にクマもなく、元気そうだ。

 兄夫婦の家では兄嫁が尋常じゃない量の料理をしていた。

 作り置きかな? デーブルに所狭しとタッパーが並べられ、三つのコンロとグリル、炊飯器と電子レンジまですべて稼働している。

 確か兄嫁はパートをしていたはずなので、今日は休みで、そういう日なのかもしれない。とても元気そうだ。

 職場は、私の席は別の人の席になっており、相変わらずの時を刻んでいるようだ。

 別の部署の人かな? 机のプレートに刻まれた名前には見覚えが無かった。いずれにしてもこの部署の新人さんだろう。

 父の職場も、兄の職場も知らなかったが、思い浮かべたらそれぞれ見れた。

 二人とも元気そうだった。

 父は日曜日でも仕事だったようで、職場の風景が見える。検品だろうか、棚に置かれた段ボールを覗いては何やら書き込んでいる。

 老眼鏡が何とも哀愁を漂わせているが、疲れたり、落ち込んでいたりはしていないように見えて、ほっとした。

 兄は、兄嫁に追い出されたのだろう。甥っ子と姪っ子と共に土手を全力で走っていた。何をしているのかは分からないが元気そうで何よりだ。

 満足した私は事故現場を見る。

 献花台が置かれ、まだ置かれたばかりの花が沢山あって、少しだけ悲しい気持ちにさせられる。

 お墓は?

 そう思うと、父方の先祖代々の墓が見えた。ここに骨はあるらしい。

 墓にはまだ新しい花が入っていて、真新しい塔婆には親戚の名前が沢山書かれていた。

 ああ、会いたかったな。元気かな。来てくれてありがとう。

 そう思って、私は少しだけ懐かしく、それから取り残されたような寂しさを感じて、少しだけ泣いた。




***




 落ち着いてからほんの少し離れただけの街並みを眺め、少し早めに展望台を後にした。

 電車に乗って移動してみたかったのだ。

 エレベーターを降りて、不自然に設置された扉を開けて、電車に乗り込む。

 住んでいる家の最寄り駅の一つ前の駅を示す駅名標を閉ざすように扉が閉まり、電車は走り出す。

 車内にを見渡すと、驚いたことに人影があった。

 向こうも気が付いたのか、こちらを見て手を振りながら近づいてくる。


「こんにちは」

「こんにちは」

「電車、好き?」

「嫌いではないけど、今日はちょっと乗ってみたかっただけ」

「そう。残念。全部、電車、乗車、したい、けど、新車両、分からなくて。乗ったことが、ある人、と、乗りたかった、FV-E九九一系、とか」

「確か、水素で走る電車ですよね? 乗ったことはないですが、ニュースを覚えてますよ」

「そう、そう。残念。日中、は、よく、乗ってる、から、電車、興味がわいたら、声をかけて」

「素敵な趣味だと思う。じゃあ、また、どっかでばったり会ったらよろしくね」


 丁度駅に着いたので、私は別れの挨拶を交わして電車を降りる。

 翻訳機能があるのに片言とは、日本語で話してくれてたのかな。

 金髪碧眼の残念系男子。あの様子では世界中を回っているのかもしれない。

 そうか、海外旅行も容易なのか。


 駅から家までは十分程の道のりだ。

 駅前に大きなスーパーとドラッグストアがあり、短い商店街があって、住宅街を行けばすぐ。

 店はあるだけ、といった感じで、空っぽだった。

 ここに住もうと思えば住めるのかな? とどうでもいい事を考えながら歩いていると、稼働している洋服屋っぽいものを見つける。


「へ?」


 間抜けな声を出して見ていると、店の中から人が出てきた。

 出てきてきょろきょろと周囲を見渡している。景色に変化はないので、所在地の主導権は私にあるらしい。


「こんにちは」

「こんにちは」

「良かったら見て行きませんか? 趣味で作ってて、たまってきちゃって」

「……それじゃあ、お邪魔します」


 コスプレ衣装の山だった。

 趣味と言うだけあって、同じものは無く、ひたすらめんどくさそうな作りの、実用性のなさそうな洋服がひしめきあっている。


「普通の服はないんですか?」

「普通の服は欲しがる人が多いので直ぐ無くなるんですよ。でも趣味で作ってるだけなので、あまり作る気にもならなくて」

「着るんじゃなくて作る方が趣味なんですか?」

「ここで着てもお披露目の場がないし、再現する事が好きだという事に気が付いてからはご覧の通りで」

「なるほど。作務衣とかエプロンとかありますか?」

「作務衣はありますよ。書道家のコスプレのやつなのでちょっと大きいかもしれませんが。エプロンはメイド服と一体化してるのしかないなぁ」

「お代は?」

「基本的には差し上げています。でも家に裁縫系の物があれば差し入れしてくれると嬉しいです」

「んー、じゃあ、作務衣と、そこの浴衣もくれる? ちょっと裁縫系の差し入れ取ってくる」

「本当ですか! 嬉しいです。準備しておきますね」


 扉で移動してすぐ自室に入り、グルースティック十二色と、たまりにたまった最早謎でしかないボタンをひとつかみ、結婚式用に買ったきり一度しか使用していなかった派手な髪飾りを持って、さっきの店に戻ると、店主は大量の荷物をまとめていた。

 あれ? そんなに頼んだっけ?


「旅館の制服で作務衣セットがある事を思い出したので、サイズ的にそっちを用意しました。作務衣二セットと浴衣も一セット、そちらにあった浴衣一セットももちろん用意したので、持って行ってください」


 ニコニコと草履を箱に入れているところをみるに、どうやら頭から足の先までのセットらしい。

 思いの外すごい量になってしまった。

 差し入れは大変喜ばれた。グルースティックは持っていない色があり、ボタンはコインケースに入れておくと増えるそうで、そろっていなくても問題はなく、種類が豊富で嬉しいとのこと。派手な髪飾りは解体してしまうのでいいのだろうかと、心配そうにしていたが、花飾り部分に利用価値があったようで、返すつもりもなさそうだった。

 喜んでくれたのならばいいのだけれど。

 そのうち着ているところを見せてください、と言うので、茉里奈あたりになんのコスプレなのか確認してもらって、夕飯にでも招待しよう。

 茉里奈も巻き込むことを決意して、私は店を出た。

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