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今日も何かを食べています  作者: 弓軸月子
第二章

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27 朝食用フレンチトースト


『……テムは塩昆布! 今日も素敵な一日をお過ごしください。ピ・ピ・ピ・ポーン……』


 TVの目覚まし機能で目を覚ます。

 五十九分にセットしたけんだけど、五十秒くらい気が付かなかったのかな。正しくは時報の方で目が覚めた。

 何故か放送されているのは生前の世界の物で、どういう仕組みなのかは相変わらずわからないけど、昨晩探したら二チャンネル程こちらの放送局のものもあったんだけれど、馴染みが無いから朝はこっちかなと。

 部屋の外からかすかに人の気配があるので、葛城さんはもう起きているようだ。

 なし崩し的に始まった同居だけれど、昨晩はお互い片付けや大まかなルールを決めて寝たので、今日はもう少し交流を深めたいと思っている。

 着替えて洗面所に行くと、顔を洗い終えた葛城さんが洗濯機の前で、何やら確認をしていた。


「おはよう、葛城さん。洗濯機使う?」

「おはようございます。洗剤とコースの確認をしていました。回しますか?」

「昨日の分はそのまま入れちゃってたから回しちゃおうか。後で籠が届くからそれからは別々にしたいでしょう?」

「うーん、一緒でも構いませんけれど、気になりますか?」

「どっちがどれだけ洗濯しただの干しただの取り込んだだのとストレスになる可能性がある事は事前に回避しときたいほうなんだけど、一緒に洗濯すること自体は気にならないよ」

「なるほど。洗濯のタイミングがぶつかるのと、量がそれ程でもないならと思ったので気になったんですが、そういう事もあるかもしれませんよね」

「時間さえ決めちゃえばバッティングは問題ないと思う。後で細かい事は話し合いましょう」


 歯を磨いて顔を洗って、軽く化粧をする。こちらに来てからスッピンで人に会っていないので、日々のリズム作りもかねて再開する事にした。


「そういえば、高坂さん、茉里奈って呼んでくださいって言おうと思っていたんですが」


 洗濯機を回して一度自室に戻った葛城さん、もとい、茉里奈が洗面所を覗いて言う。


「分かった。こっちも和香でいいよ。これからざっと床掃除して朝ごはんにするけど、茉里奈は?」

「いただきます! 床掃除もお手伝いしますね、……和香さん」


 自分で言い出して何故照れるのか、今日も安定の可愛らしい茉里奈だな。……私はお父さんか。

 フローリングワイパーが一つしかないので、先に自分の部屋を掃除してから二階は任せて、一階の掃除をする。

 掃除用具がまだないので、伸縮ポールに古い保存容器をガムテープで止めて、古いタオルを巻きつけて掃除した。

 なんだかすっきりとしないが、まぁ、昨日の今日でそれ程汚れていないし、一度きりの簡易なものと思えば上々といえよう。

 テーブルは昨日の内に拭いてあるので、早速朝食の準備に取り掛かる。

 お湯を沸かしながら、在庫の食パンが六枚切りなので、丁寧に真ん中に切り込みをいれて、スライスチーズと、縦に四分割したウインナーを入れる。

 卵と豆乳を混ぜ合わせて、パンを浸している間にコップと皿とナイフとフォークをの準備。

 フライパンにたっぷりのバターを入れて、溶けたらパンを入れて、弱火でじっくりを焼く。

 皿にサラダミックスとミニトマトを乗せて、オリーブオイルとレモン汁、塩コショウで簡単なドレッシングを作ってかける。

 パンをひっくり返して塩コショウを振ってから、沸いたお湯をポットに移して、茉里奈ちゃん用にダージリンをティーポットがないので急須に入れて、私はインスタントコーヒーを入れて、おっと、パンからチーズがあふれてきた。

 さっと切り込みを入れていない方に立ててから火を止める。

 切り込みを入れた方はフォークで押さえておけば良かったな、と思いながら皿に移す。

 茉里奈も掃除を終えて降りてきたので、カウンターに二人分並べて、席に着く。

 調理器具の片付けは後回し、アツアツのとろとろの内に食べたい。


「「いただきます」」


 普通はハムなんかで作るけれど、ウインナーから肉汁がでてトロトロ感がアップしているような気がする。美味しい。

 茉里奈は少し困惑気味だ。


「美味しくない?」

「甘いフレンチトーストしか食べたことが無くて、少し驚いてます」


 ああ、そういう事か。味が上手く再現されていないかもしれない。


「このままだとしっとりしたホットサンドって感じでフレンチトーストっぽくないかな? ハチミツかけて甘じょっぱにする?」


 茉里奈の方もどうやら合点がいったようで、小さく首を振ってからもう一口食べて、美味しいですと言った。


「この味覚システムもややこしいよね。頑張って工夫して作っても人によって味も食感も改ざんされちゃうみたいだし」

「年代が違うと難しいかもしれませんね。家のおばあちゃんがタピオカの事を濃度を間違えて作った蒟蒻って言ってました」

「間違えた蒟蒻……イメージは沸きそうだけど。そういう商品もあったよ、確か。種類違うけど芋は芋なんだけどね」

「え? 蒟蒻って芋なんですか? 寒天みたいな草だと思ってました」

「あはは、草って。蒟蒻芋だよ。だからでんぷん加工品。寒天は海藻粘液質の加工品」

「ええ! 後で調べてみます。デングサって言うから畑栽培だとばかり」

「偉いね」


 ググレカスもこんな感じで調べまくる人生だったんだろうか。

 茉里奈も将来偉人になるかもしれない。仲良くしておこう。

 食事を終えてから、朝起きてから寝るまでを想像しながら細かな事を決めていく。

 お互い時間を決めてしまった方が良い、という考え方を持っている事もあり、もめることなくスムーズに進んだ。

 ただ、家賃代わりに、と、茉里奈は日々の欲しい物三つの内の一つは共有で使用するものにします、と宣言していたので、気にしないように言ったが、割と頑固で受け入れて貰えなかったので、ひっそりこちらの欲しい物で還元しよう。

 配達の時間帯は皆午前中なのかと思っていたら、生活習慣によって変わるらしく、茉里奈は今まで昼過ぎに受け取っていたそうで、昨日の内に山田さんに言って午前中に二人分、同時に届く様に調整をお願いした。

 荷物が届いたらお互い自由時間で、好きな事をすると決めている。

 食事については、私が三食普通に食べるので、タイミングが合えば一緒に食べることになった。

 茉里奈自身は生前からあまり食事に興味がなかったそうで、持っていた食材も無かった。

 物によってはセットで頼む、という事が上手くいかず、病院で暮らすために必要な細々したものを頼むので精一杯という事もあったらしい。

 食事が幸せと感じてもらいたいな、とぼんやりと思ってから、ああ、幸せのおすそわけ、なんて言い方があったけれど、自分の幸せは人に分けたくなるものなんだな、と思ったりする。

 食器を片付けている間に茉里奈が洗濯物をやってくれた。仕事でもしていれば素直に助かると言えるところだが、時間がたっぷりある分申し訳なさが勝つ。あとちょっと恥ずかしい。下着とか。

 そうこうしている間にやってきた山田さんから荷物を受け取ってお茶を勧める。

 お茶請けは以前焼いたショートブレッドだ。瓶に入れておいたら増えた。湿気ることもないので、今度別のクッキーも焼こうと思っている。これ以外だと羊羹になっちゃうんだよね。


「山田さん、こんにちは。今日もありがとうございます」


 二階から降りてきた茉里奈が挨拶をして、届いたものを確認している。

 さっきもじーっと洗濯機を見ていたので、確認する癖があるようだ。


「本当にセットで頼めたんですね。今まで結構無駄な頼み方をしていたかもしれません」


 ちょっと落ち込んでいる。個数じゃなくて項目なんだよね。

 今日は別の意味で無駄に頼んでいる。

 洗濯籠とカラーボックス用の収納ボックス、どちらも折りたたみ出来るタイプの物を十個。

 余ったらストックとしてしまっておけばいいし、箱型で持ち手が付いている物はなにかと使えるだろうと思う。

 タオルもギフトセットでバスタオルとフェイスタオルとハンドタオルがセットになっている物を十個、シーツや枕カバーも茉里奈は替えを持っていなかったので、リネンセットを二セット頼んで、プラダンも大判の物を十枚頼んだ。

 そして、一番の目玉商品は、飲食店用お掃除セットなる掃除用具のセットだ。

 モップとモップ用のバケツが欲しく、セットのイメージを掴もうと検索していた時に茉里奈が発見した、掃除用具十点セット。もはや使わないものも入っているが、不足はない。お値段も高めだったので迷わずこれにした。モップもバケツもホーキもちりとりも、デッキブラシも入っている。耐久性に期待したい。


「そうだ、夜、新人の山田とご飯食べに来ても良いっすか?」


 ぼしぼしとショートブレッドを食べていた山田さんが聞いてくる。

 はて? 何度かお世話になった山田さんであろうか。顔を覚えられないので分からない。


「別に良いけど、あんまり食材がないんだよねー。適当なものになっちゃってよければ。というか、なんでまた家でご飯?」

「それは全然大丈夫っス。実はうちのグループってちゃんとご飯食べる人少ないんですよー。昨日久々に定食食べたって自慢したら羨ましがられちゃって」

「説明会の会場で食べられるでしょう?」

「あそこ説明会中以外は閉まってるんすよ」


 厳密にいうとグループも違うそうで、いわゆるお役所仕事として請け負っているだけの、普通の死者だという。

 普通の死者ってなによね。

 次の来訪時間を告げて山田さんが帰ったので、荷物を片付ける。


「洗濯籠十個ってどういう内訳で考えていました?」

「部屋からお風呂用、脱衣所に置いておく用、洗い終わったのを干場に持って行く用で一人三個かなと。使い勝手が良さそうだったら下で野菜とか入れるのに良いかもとは思ってたんだけど」

「なるほど。名前を書きますか?」

「茉里奈はどうするの? 私絶縁テープで色分けしちゃう派なんだけど」

「何色あるんですか?」

「オリンピックプラス白」

「青黄黒緑赤でしたっけ? あ、ちょうど六色ですね。でしたら私もテープで色分けします」


 二人で黙々と色分けテープを貼り、タオルを箱から出して、元々持っていたタオルは雑巾に回す。

 タオルは茉里奈が干せる分だけでも、と洗濯し始めたので、その間にゴミ箱をいくつかプラダンで作り始める。


「あ、一階の手洗いの下にも一つ欲しいです」

「OK。お部屋のはあるのよね?」

「ゴミ袋をベットにぶら下げていたんですけど、あった方がいいですかね?」

「個人の好みの問題だと思うけど。あ、ベッドも病院の?」

「そうなんです。ちょっと替えたいとは思ってるんですけど」

「夜、山田さん来るから交換で交渉してみよう。ついでだから作っておくよ」

「ありがとうございます。掃除用品とか、片付けますね」


 茉里奈は嬉しそうに笑って、カラーボックス用の収納ボックスに紐とプラダンの端材でタグを作って、細々と片づけをしてくれた。

 なにこの甘酸っぱい同棲生活みたいなの。

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