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今日も何かを食べています  作者: 弓軸月子
第二章

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26 蒸し鶏の梅肉和え定食


「ふふふ。実際に一人は殺しているのよぉ。可愛らしい事」


 峰岸さんがおっとりと笑うと、葛城さんはピクリと罪悪感から驚愕に目の色を変える。

 おお、やっぱり可愛い! とはいえ、少々峰岸さんも人が悪い。今度は悪戯がばれた少女の様に笑うのだ。悪女っぽさがない分、逆に怖い。

 峰岸さんが嘘をついているのか否か、と言えば、嘘はついていないと思う。けれど。


「被害者側と目撃者からも証言とらないとなんとも言えないかなぁ。

 まぁ、話を聞いて罪悪感を感じて涙する葛城さんが素直でとても可愛いらしいのは同意しますけど、ちょっと意地が悪いですよ、峰岸さん」


 ふふ、と峰岸さんは笑って、カステラを口に入れる。


「え? え? ど、どういう……?」

「うふふ」

「十人中一人しか殺してないし、その一人も事故みたいなものったって、激情にかられた撲殺だもん。キレたら殺されちゃうかもってとこは変わらないんじゃない? 当たり所が悪かったのかとは思うけど、この人数だし、非礼は詫びても疑いを晴らせるようなスッキリする話ではないと思うから、そんな涙目にならなくても……」


 葛城さんはくるくると目を行ったり来たりさせて混乱している。

 正義感というか悪とされるものに対する嫌悪というか、私にもこういう潔癖な時期ってあった様な気も、しないでもない。一瞬位はあったかな。

 目の前にいる人の話をまるっと鵜呑みにして素直に心を揺らせるのはちょっと羨ましい。生きていて楽しそうだし。あ、死んでた。


「かもしれない話にすればいくらでも峰岸さんを悪者に出来るんですよね。

 ちょっと食事の塩分濃度を上げてたかもしれないし、うっかり殺しちゃったのかもしれないし、追い詰めすぎたのかもしれないし、誘導するように操作したかもしれない。疑いだしたらきりがないしつまらないのでしませんけど。……ただ、間接的殺人の人数が尋常でなさそうな予感が」


 ぼそっと呟けば、峰岸さんは、


「そうなのよぉ。三百十四人ですって。円周率ですねってお話をしたから間違いないわ。やっぱり多い方っておっしゃってた」

「多っ!」

「平均を聞かなかったから良く分からなかったのよねぇ」

「私三人でかなり少ないって言われましたけど」

「……私、人数は聞きませんでしたけど、普通って言ってました。けど、え、私も人殺しを?」


 ますます葛城さんがぐるぐるしていて可愛い、けど、ちょっと可哀そうだったので、私の場合の間接的殺人の話をしてどんなものか説明すると、こくこくと頷いた。これは納得は出来てないかもしれない。

 さておき峰岸さんである。このおっとりした上品美人はなんなんだ。

 国政に携わってて、戦争しましょう! とか言ってれば、億単位の間接的殺人は出来そうだけれど。


「第一裁判の結果も聞きたかったのよね? こっちの刑務所に二~三日位じゃないかってお話だったわ。そうしたらすぐ生まれ変わるようになるんですって。選択の余地はないみたい」

「あ、意外と短いんですね、刑期」

「それがね、そうでも無いんですって。なんだか正気を失って魂が真っ白になるまで自分のしたダメな事を経験させられるんですって」

「はい?」

「無自覚のダメな事がとても多いみたいなのよ。今から早く正気を失いますようにってお祈りしているところ」


 峰岸さんは怖いわぁと言いながら手を合わせた。

 葛城さんはもはや茫然としているので、カステラの皿をとんとんと叩いて食べるように言うと、大人しく食べ始める。


「住む住まないは別にして少し家に来ない? お茶が結構あるのよ。お裾分けするわ。それから食器もね。必要最小限を残して譲るから、使ってくれると嬉しいわ」


 と、大変嬉しいお申し出を頂いたので、無表情、無口にになってしまった葛城さんも連れて峰岸さんのお家にお邪魔する事になった。




***




 峰岸さんのお家は何と言うかほぼマンションのような作りだった。

 一階に玄関が二つあり、一つは幅が広めの階段が三階まで続いている。一階を峰岸さん夫婦が、二階をご両親が使っていたそうだが、良くある2LDKマンションの間取りを縦に二つ、三階は物置と物干しになっているという。

 階段に小型の昇降機が取り付けられていたり、バリアフリーだったりと、高齢者が住みやすそうなお家という印象だった。

 移動がドアを開け閉めするだけなので、お茶などの接待はお断りして、台所を見学しつつ、不用品をダイニングテーブルに並べていく。

 普段使っている物はキッチンにすべて出しているそうで、フライパンや鍋、ミキサー等の調理器具はいかにも見せる収納と言った感じに置かれ、スパイスや乾麺類、茶葉、豆類もすべて瓶詰されてずらりと並んでいた。


「茉里奈ちゃん、その箱も出してくれる? あ、和香ちゃん、お鍋があったわ。箱に入ったままだけれどセットみたい」


 吊戸棚と床下収納の中に入っていた箱に入ったままの使っていない調理器具や食器がどんどん出てくる。


「茶葉のお裾分けはお古の容器でもいいかしら? 流石に新品はないのよ」

「勿論です! むしろ済みません! めちゃくちゃ嬉しいです!」


 落として割る事と重さが嫌で、瓶に見えるプラスティックの容器を大量に購入したが、煮沸消毒と密閉が出来ず、使わなくなっていたそうで、ほぼ新品の一〇〇g位入りそうな容器が沢山出てきた。


「茶葉を入れてラベルを貼るわね。その間に箱の中身をみてちょうだい。欲しい物があればいいのだけれど」


 そういいながらも手は止まらずに作業をしている。ゆっくりだけれど丁寧な動きは思わず見とれてしましそうだ。

 至れり尽くせり。

 取っ手が取れてスタックできる鍋セット、これは嬉しい。

 シンプルな白い平皿や小皿のセット、カトラリーセットもあった。

 引き出物の定番なんだろうか、湯のみと急須のセットは実家で見たことがある。

 使用用途不明の不思議な食器らしき何かに、小さ目のステンレスタンブラーのセットまで、ほとんどが五個づつのセットで、今すぐ家族単位でキッチン用品総入れ替えが出来そうな品揃えだった。


「葛城さん食器類は? 欲しいのある?」

「食事、特に摂っていないので、ちょっとピンとこないです。家も決まってませんし」

「……取りあえずで家に来る? ……犯罪歴もないし」


 葛城さんは顔を真っ赤にしながらフルフルと頭を振って、ごめんなさい、ごめんなさいと、峰岸さんに頭を下げる。


「あらあらまぁまぁ」


 峰岸さんは突然謝られて笑っていた。

 どう思ったのかは分からないけれど、取りあえず気持ちの方向性は決まったようで何よりだ。


 欲しいものは結構な量になってしまったので、何度か往復して運ぼうと準備をしていたら、いつの間にか峰岸さんが山田さんを呼び出していた。

 山田さんは嫌な顔一つせずに良いっすよー、と軽々と運んでくれた。

 多分、習得すれば私にも出来るんだろうけど、どういう理屈なんだろう。何度見ても納得がいかない。

 どこにでもつながるドアの方は普通に受け入れられたんだけど、力加減なのか、重さなのか、変動させないといけないんじゃないかとか、どうも引っかかる。

 試しに『超軽い!』と思ってから洗濯機を持ち上げてみたんだけどダメだったんだよね。




***




 どうしてこうなったんだろう。

 狐につままれたようなとはこのことだろうか。嫌ではないのでいいんだけど。

 キッチンというか厨房で食器や茶葉を片付けながら、ニ階から聞こえてくる賑やかな声にぼうっと思い返す。

 山田さんに荷物を運んでもらいながら、峰岸さんは同居する場合はどうすればいいのか質問した。

 引っ越し手続きと変わらないと言われ、では同居が上手くいかなくてもまた引っ越せば元居た家に戻れるのかと聞けば、もちろん戻れるというので、それなら荷物も少なそうだしこのまま茉里奈ちゃんの荷物も運んでもらっちゃいましょうよと、峰岸さんはのんびり言って、え? となった葛城さんより早く山田さんが、いいっスよ! と返事をしたので、足りないものがあって私が持っていたら譲るからお片付けまで手伝ってね? とその後の予定ものんびり独断で即断即決。

 一階に荷物を置いてから二階に行き、もし葛城さんが住むなら奥の部屋を、私の部屋以外の立ち入り許可と、奥にある二畳ほどのスペースに取りあえず置いてある空っぽのカラーボックスや布、伸縮ポールは好きに使っていい旨伝えると、厨房の片付けがしたいでしょう? ここは任せて、と緩やかに二階から追い出された。

 うん。さりげなく追い出されたよ、あれは、多分。

 どうやら二階の洗面室のドアを媒介に葛城さんの病院と峰岸さんの家を行ったり来たりしながら荷物を運んで設置しているようで、時折山田さんが間違えて店舗の入り口から入って来たり、葛城さんが店舗の入り口を開けてすみませんと閉めたりするのもなんだか面白い。

 ともあれ棚に食器や茶葉を並べ入れてから、何となく食事の準備を始める事にした。

 二階に行かない方が良さそうな雰囲気だし、ある程度落ち着いたら降りてくるとして、もう夕方だ、おやつというよりは早めの夕食の方が良いだろう。

 新しい調理器具や食器も嬉しくて使いたいし、とは言えそれ程食材も無いのだけれど。


 取りあえず、大きい鍋で湯を沸かす。

 鶏ムネ肉を開いてからフォークで数か所穴をあけ、鍋に入れて酒を振りかけ蓋をして弱火にかける。

 お味噌汁用鍋と玉蒟蒻湯がき用鍋とポットに、それぞれお湯を移して、と。

 お味噌汁の具はシンプルに豆腐だけで行くとして、鰹節子と昆布をひとかけ入れておこうかな。

 玉蒟蒻はそのまま茹でて、仕分けしていたミックスベジタブルからトウモロコシを取り出して解凍目的に軽くレンチン。

 梅干の種を取って叩いて滑らかにして、ボウルにいれてごま油を加える。

 鶏ムネ肉をひっくり返して、玉蒟蒻を鍋からザルに移し、フライパンを用意してレンチンしたトウモロコシを移す。

 味噌と砂糖と酒を混ぜて、レンチン。冷蔵庫からご飯を出してレンチン。

 トウモロコシはざっと煽って水けを飛ばしてから醤油バターで味付け、小鉢に入れる。

 玉蒟蒻も小鉢に入れて、レンチンした味噌だれをよく混ぜてからかけて、次は平皿を準備。

 鶏ムネ肉を鍋から取り出して一口大のそぎ切りにして、酒蒸しで出た汁で少し梅肉ごま油を伸ばしてから和える。

 平皿にサラダミックスをちょっと高さを出して置いて、蒸し鶏の梅肉和えを綺麗に盛り付ける。

 お味噌汁用の鍋に豆腐を入れて、ひと煮たちの間に沢庵を切って小皿に入れてから火を止めて味噌をといて、と。

 ご飯も丁度温まったのでお茶の準備。

 茶葉は紅茶も日本茶も数種類あって、本当に嬉しい。

 食事なのでほうじ茶がいいかな。昨日葛城さんもほうじ茶って言ってたしね。

 お茶碗にご飯をよそい、味噌汁を椀に注いで、カウンターに三人前セットして、厨房に一人前セットする。

 丁度、ああ、いいにおいがする、と、三人が二階から降りてきた。

 今、呼ぼうと思っていたと告げれば、皆が嬉しそうな顔をして順番に手を洗って、席に着いた。


「「「「いただきます」」」」


 召し上がれ、と小さく呟いて皆の顔を伺えば、ニコニコと穏やかで幸福な色が見えた気がする。

 ああ、おばあちゃん家の雰囲気だ。

 ずっと困惑していた葛城さんも嬉しそうに食事をしている。

 なにはともあれ、取りあえずご飯。

 多分家訓。




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死亡 七日目(一日目)

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入手品:カウンター用の椅子五脚/カラーボックス十個/ウィンナー/食器/調理器具/茶葉


朝食:クロワッサンとソイラテ

昼食:ピラフとチキンサラダ

間食:ぐりぐらカステラ

夕食:蒸し鶏の梅肉和え定食

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