↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜の翼ははためかない9 〜竜王伝説〜  作者: 藤原水希
第十三章 そして伝説へ
PR
7/74

チャプター7

〜エルリッヒの自室〜



「それでは語ってしんぜよう、魔王と勇者の戦いについてを!」

「いよっ、待ってました!」

 魔王復活が噂話でなくなった今、勇者と魔王の話はこれからの時代に戦い抜くための重要なヒントとして見られていた。であれば、当時を知っているエルリッヒの話は最高の資料だ。

「もしかしたら、前に聞いた話もあるかもしれないから、そこは気にしないでね」

「いいよいいよ。こっちだって同じ話を覚えてないだけで何度もねだってるかもしれないし。そんな前置きはいらないよ。それで、勇者はどんな冒険をしてどう魔王と戦ったのか。聞かせてよ!」

 ニコニコしながら話を聞いてくれると、こちらもつい雄弁になる。もしかしたらがっかりさせてしまうかもしれないが、それをどう楽しめる話に組み立てるか。童話作家でもないのにそのような心持ちになる。

「じゃあ、続けるね。あの時私が住んでた村にお城からの知らせが届いたのは、実際に魔王が倒されてから一ヶ月くらい経った頃で、仰々しい衛兵の人たちがわざわざ書状を持ってきて、それも王様の印の入ったやつ! で、村のみんなを集めて、広場でこれまたもったいつけて読み上げるの! 先刻、かの勇者が魔王討伐を達成したとの知らせがあった。各国合同の調査隊を派遣したところ、魔王の居城はもぬけの殻になっており、空は青く澄み渡っていた! とかなんとか言ってね。それからはもう大騒ぎ! 収穫祭以来の大きなお祭りが三日三晩続いて。あれは楽しかったな〜」

「へぇ〜。100年も前のことでも、ちゃ〜んと覚えてるものなんだねぇ。でも、実際のところ魔王は討伐したっていうより、封印するに留まったってことなんでしょ?」

 この辺りの話、フォルクローレは腑に落ちていなかった。もし、魔王を倒せず封印するのが限界だったというのであれば、包み隠さず報告して、後世封印が解けたときのために対策や魔王との戦い方を各地の記録に残しておくのが筋である。それを、こんなに禍根の残るやり方になってしまったというのに、「息の根を止めました!」とでもうそぶいたというのであろうか。

 あまりにも大事な報告なので気まずかった、ということであれば、その心情は理解できないでもない。が、未だに伝説に残っている勇者一行の報告がそれでは、あまりにもお粗末ではないだろうか。一体、魔王討伐の報告が行われた時、勇者一行にどのような議論があり、その心中どんなものだったのか。

「う〜ん……不自然だよねぇ」

「魔王が強くて、弱らせたところを封印するのが精一杯だったんじゃないの? 100年後に封印が弱まることまで想定してたかどうかはわからないけど」

 エルリッヒは幾分楽観的に見ているが、過去のことをあれこれ言ってもしょうがない、という考えのもとの態度だ。当時の人々を知っているから、封印だけでも十分といえば十分だったのだ。

「そうそう、そこだよそこ。封印が永遠に続くって、ちょっと虫がよぎると思うんだよね。当時、封印を施したのが勇者だったのか仲間の魔法使いだったのかはわからないけど、どう考えてたのか、叶うことなら問い詰めたいところだよ。それに、封印した後で故郷に戻って『魔王を倒してまいりました』とかなんとか報告したわけでしょ? 嘘じゃん。多分、何かがあったんだよ。何かが」

「そうだねぇ。この時代まで生きてる人は私と竜人族の人たちだけだから、その辺考えてる人はほとんど位なさそうだけど、言い出せなかったんじゃないかなー。私が村を出て海沿いの町に移り住んだ時なんか、町中勇者の冒険譚で持ちきりだったし、勇者一行っていうだけで歓待ムードがすごかったみたいだから」

 あの後もいろんな街を渡り歩いたが、勇者一行が通った街、勇者一行が泊まった宿、勇者一行が買い物をした道具屋など、後になってみれば真偽のほどの怪しい幟旗が立っている商店をたくさん見てきた。それはそれで、田舎から出てきた娘の瞳には楽しく映ったものだが、それはつまり、あの時代の勇者たちに向けられた期待の表れでもあったはずで、期待はすなわちプレッシャーにもつながりかねない。

 ならば、期待に応えられなかったことを素直に打ち明けられなくても、無理はないのではないだろうか。

「私はちょーっと同情的になっちゃうかなー。や、もちろん実情は分からないんだけどさ」

「そっかー、その時代を知ってるとまた意見は違うよねぇ。そういえば、そもそも勇者ってのはどこから出てきたの? 仲間の戦士や魔法使いたちも、何か特別な人たちだったのかな。そこまで突っ込んで書いてる伝記って見たことないんだけど。魔王を封印しただけでも、言われてみればすごいことだし。でも、世の中に特別な力なんてものがあるのかって聞かれたら、あたしは首を捻っちゃうんだよね〜」

 目からウロコが落ちる思いだった。フォルクローレの意見は紛れもなく、何かの的を射ている。これは、竜王族としての直感だろうか、あの頃を生きてきた者としての直感だろうか。それとも、女の直感? とにかく、偉業を成し遂げたからには、「何かがあった」はずなのだ。

「その辺は、なんとも言えないね。今の話で、なんで勇者として旅立ったんだろうとか、どうして魔王封印まで漕ぎ着けられたんだろうとか、疑問は浮かんでくるけど、そこまでの話は一切地方には伝わってなくて、魔法使い様はどこぞの賢者の塔で修行を積んだとか、戦士様はお城に出仕する前から魔物を一刀両断したとか、勇者様は神に選ばれたとか、どんどんすごい方向に話が盛られてたから」

「あちゃー。ありがちなやつだ。それじゃ、勇者一行の秘密なんてわからないね。たまたま勝ち続けた結果、経験と力がついて行って強くなっただけなのかもしれないねぇ。でさあ、その頃エルちゃんは戦わなかったの? 絶対、勇者一行より強いよね?」

 好奇心に満ちた瞳からは、微塵の厭味も感じられない。勇者一行より強いのであれば、魔物と戦うのは半ば宿命で義務のようなものだ。だからこそ、気になって仕方がなかったのだ。

 こんな時、答えは決まっている。

「私は、庶民として人間の世界に来たからね〜。村娘は、表立っては戦わないんだよ。そういうのは、用心棒や兵士のみんなの役目だから。もちろん、ひとり旅の時は戦ったけどね?」

「そ、それって! この街に魔物が襲ってきても、一緒に戦ってくれないの? ねえ、そういうこと? うるうる!」

 急に大げさな態度で悲しむ様子は、本当に見ていて飽きない。きっと、わかっているのだろうが、ついこうして面白おかしくしてしまうのだろう。

 こちらもまた大げさになだめるようにして説明する。

「大丈夫だから! 大丈夫だから! 私は、フォルちゃんとこの街のみんなのことは、全力で守るから! だから、安心して!!」

「言ったね? 勇者以上の活躍だからね?」

 何かを企むような笑みを浮かべ、キラリ、と瞳を輝かせた。勇者以上などと言われ、一瞬身じろぎしてしまったが、やるからには全力で守るという気概は本物だ。安請け合いはできないが、気持ちに嘘はない。

 逃すまいと手を取るフォルクローレに身構えながらも小さく頷いた。

「う、うん……」

「よしっ! なーんかいっぱい話が逸れちゃったね。で、勇者より強かったんでしょ?」

 という問いかけには、苦笑いてお茶を濁すのが精一杯だった。なにしろ、エルリッヒ本人は勇者の戦いっぷりを目の当たりにしたことがない。戦闘能力も、装備品も、すべては伝説の語るところにしか情報がないのだ。あの当時ですら。だから、こればかりは明言できなかった。

「結局、勇者様ってなんだったんだろうね。っとと、あんまり長居すると仕込みの時間になっちゃうね。今日はこれで帰るね?」

「遠慮しなくていいのに」

 とは言うものの、その辺りは気遣いなのか、帰り支度を始めていた。当然のように、外に出て見送る。二人とも、階段を下りる足取りは軽い。

 肝心な装備品購入についての話もできたし、魔王時代の話で楽しませることもできた。

「今日はありがとね。ご飯は美味しかったし、お話も面白かった」

「そう言ってくれるなら、私も嬉しいよ。また来てね」

 小さく手を振って別れる。この時間、まだまだ日は高いが、少しずつ小さくなっていく姿に、なんとなく寂しさを覚えるのだった。

「さって、仕込みを始めなきゃね!」

 今一度、気合いを入れるのだった。




〜つづく〜

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。