チャプター67
〜王城 修練場〜
国王と騎士団のお歴々たちは、王城の一角にある修練場までやってきた。新しい武具を早速試してみるためだ。年甲斐もなくワクワクしている一同は、ガヤガヤと世間話に花を咲かせていた。このように和気藹々とした雰囲気はなかなか見られないので、貴重な一幕だ。
「さ、ここで思う存分試してください」
「うむ、そうだな。して、これは?」
修練場は訓練用の木人形が常設してある。だが、今日は少し趣向が違っていた。その木人形に、鎧が着せてあったのだ。それも、騎士団でも一般の兵士が着用することはほとんどない、フルプレートのものだ。
せっかくいい武器を試すのだからと、指揮官以上の騎士が着用できる練習用の鎧をわざわざ持ち出して、こうして着せておいた。王都全体の事業だからこその行動だ。
「見ての通り、鎧です。普段通りの木人形では、これまでの武器でも破壊できます。それじゃあ面白くない、もとい武器の性能を測ることができないと思いまして、少し無理を言ってこうして用意した、という次第です。お気に召しませんでしたか?」
「いや、そんなことはない。むしろこの方が楽しそうだ。よし、皆の者、それぞれ試してみようではないか」
「はっ!」
「それでは早速。せいやーっ!」
先陣を切るように、大臣が木人形の前に立ち、手にした斧を振り下ろした。先ほどもその重量を持て余しているようだったが、その様子は変わらない。ここにいる面々は全員若い頃に剣術を学んでいるが、大臣だけは完全な文官なので、昔取った杵柄も存在しない。もちろん、斧の扱いも会得していない。だから、重さに振り回される形で振り下ろすことになったが、それが思いの外よかった。
「おおっ!!」
なんと、木人形は見事に真っ二つに斬れていた。切断面も、とても綺麗だ。さほど分厚くはない鎧だが、それでもそれを綺麗に切れるというのは、相応の鋭さの表れだった。
「新品ということもを差し引いても、これは見事だ。どれ、それでは次は私がやってみよう」
「おお、陛下!」
次は国王の番だ。移動のために鞘に収めた刀身を今一度抜き、王家に伝わる剣術固有の構えをとる。真剣な眼差しは、剣の試し斬りをしようという者の目ではなかった。これには、一同の注目が集まる。
「……せやぁっ!」
しばしの精神統一があって、木人形を袈裟懸けに斬りつける。そして、一息ついてそれを鞘に収めると、木人形がずるりと斬れ目に沿って二つになった。
力任せに振り下ろされた斧とは違うが、一閃の元に斬り結ばれた一撃もまた、十分な威力を持っていた。むしろ、こちらの方が強力な一撃になっていたと言っても過言ではない。
「これは見事な。どうですかな? 陛下」
「うむ、業物とまでは言えぬかもしれぬが、量産品でこの斬れ味を誇るのであれば、申し分ないのではないかな。フランツよ、せっかく鉄よりも良い鉱石を使ったのだ、何かすごいことはできぬのか?」
「すごいこと、ですか? それはつまり、親衛隊の剣のような、ということでしょうか。あまり期待されても困りますが、そういうことでしたら……」
国王から剣を受け取ったフランツは、少しの間目を閉じた。武具が納入された際、フランツたちは局長から扱い方を教わっていた。それを頭の中で反芻しているのだ。
「……フランツ、何をする気なのだ?」
国王としてはちょっとした悪戯心で言い出した話だったのだが、フランツの様子を見るに、何か隠しダネがあるようだった。俄然、期待が高まる。
「えぇと、何だったっけ? そうだそうだ。少し離れててください。行きますよ? とりゃあ!」
先ほどの国王と同じ、王家の剣術に伝わる構えで短く精神統一し、鋭く、そして国王がしたよりも素早く剣を振り下ろした。次の瞬間、轟音と共に土煙が上がった。
「い、一体何が起こったのだ……」
「殿下、やりましたね」
「多分、成功です。局長さんに教わった通り、できたんじゃないっすか?」
「そうかな。練習する暇もなかったけど、成功してたのならよかった」
徐々に、土煙が晴れていく。一体何が起こったのかと、一同が騒然となる。轟音も、土煙も、先ほどの国王の一撃にはなかったものだ。
柄を握るフランツの手には、したたかな痺れが残っていた。
「こ、これは!」
フランツの攻撃したその先には、木っ端微塵になった木人形と、えぐれた地面、それにかすかに破壊の跡が見られる城壁、ありえない現象の証拠があった。
これを、フランツがやったのだ。この剣で。
「これが、この武器の”すごいこと”です」
「つまり、何が起こったのだ?」
「衝撃波を、放ったんですよ」
「信じられないと思いますけどね」
これこそ、鍛冶屋ギルドの局長、ひいては国が誇る鍛冶屋たち、もっと言ってしまえば、フォルクローレから託された「守る」ための力だ。
「この鉱石は、防具に使えば強固な上に軽く、炎や氷を防ぐ、魔物相手にぴったりの鎧や盾になります。でも、武器に使えば、このように自然界の力を味方につけることができるだそうです。今は、素早く振るったから風の力を借りて、衝撃波が起こりました。多分、他にも色々なことができると思います」
「……すごいな。そなたたちはそこまで見越していたのか?」
「いいえ。殿下も私たちも、鉄より丈夫で軽くてそんなに高くない、それだけで選びました」
「もちろん、それだって十分有益なんですが。でも、嬉しい誤算でした。我々がこれから相手にしようとしているのは、人間だけではないんですから。魔物相手には、これくらいが丁度いいですよ」
三人は衝撃波がえぐった場所を見る。想像以上の効果だ。そういう、特殊効果を期待して使いこなすのは大変かもしれないが、普通に扱うだけでもこれまでよりもはるかに強力だ。それにこんな特殊効果がおまけについてくるのだ、十分すぎる強化だろう。
しかし、みんながみんな驚いてしまって、武器の試用どころではない。これは、場の空気を変えねば。
「みなさん、今の余興はおまけくらいに思っててください。それよりも、他の皆さんも使ってみてください。必ずや気に入ってくれますよ。ほら、団長も副団長も、ここなら広いですから遠慮もいりませんし、是非是非!」
「お、おお、そうであったな。殿下の放った一撃があまりにすごかったんでな、我を忘れてしまった」
「それじゃあ団長、我らも試してみましょうか」
二人は武器を構え、それぞれの間合いで木人形に向き合った。日の光を受けて、武器も、木人形の着ている鎧も、眩しく輝いている。
「うむ。双剣の舞、とくとみるがよい!」
団長は先程よりも素早い動きで舞う。舞いと言ってもダンスというわけではないが、すごい勢いで木人形の鎧を刻んでいく。その、甲高い金属音は、あたり一面に響き渡っていた。
「これは、負けてられんわ。でやぁっ!」
副団長も負けじと槍を振るう。大仰に振り回し、勢いをつけて木人形めがけてひと突き! すると、鎧を貫通し、木人形をも貫いていた。もし通常の槍であれば、鎧を凹ませるだけで精一杯だったかもしれない。よくて、鎧を貫いて木人形に浅く突き刺さる程度だっただろう。もちろん、副団長がそのレベルの槍を振るうことは滅多になく、有事の際に家から持ち出すのは家柄と財力に物を言わせた一級品だが、少なくとも、それにも引けを取らないのではという印象を受けた。
「こりゃすごい。さすがに全盛期の力は出せんからいかほどかと思っておったが、これほどとは」
「本当だな。私の双剣の舞も、全盛期のようではないか」
団長の刻んだ鎧は、まさに今細断されようとしていた。こちらも加齢による衰えで全盛期の力や速度は出せなくなっていたが、明らかに鋭い一撃が、それを補うような攻撃を演出していた。
「おお、お見事ですな。これなら、あの頃と同じように戦えるのではありませんかな?」
「言ってくれるな。だが、魔物相手なら、遠慮なく力を振るえるからな」
二人は往時を思い出し、心まで若返るようだった。その様子を見て、我も我もとそれぞれが武器を取り、木人形相手に攻撃を繰り出し始めた。
その様子を、国王とフランツは穏やかな表情で眺めていた。
〜つづく〜




