チャプター65
〜職人通り 鍛冶屋ギルド〜
「それじゃ、納品はこれで全部だね!」
「おう! 今回もいい品質だ。ありがとよ!」
一行は、なんとか三便目の納品を済ませることができた。二便目の納品を終えて帰る頃には三人とも仮眠から目覚めていた。体力もそれなりには回復したようだったので、今度は再び一便目と同じように男三人とフォルクローレの四人で台車を運んできた。
彼らは回復し次第自分たちで運ぶことを想定しているであろうことを見越して、二便目の時にはエルリッヒが気を利かせてこっそり三等分よりも多めにインゴットを積んでいた。フォルクローレも載せていたので荷台が耐えられる重量については心配だったが、なんとか壊れずに乗り切ってくれた。しかし、そのおかげもあって、三便目は一便目よりも軽い状態にすることができたため、四人は幾分楽な状態で運ぶことができた。
ひとしきりの納品を終え、みんながギルドの前に集っていた。雨はまだ降っているが、達成感からか、気にならない。
「いえいえ〜。これからも、フォルクローレのアトリエをよろしくね!」
「もちろんだ! これからも贔屓にさせてもらうよ!」
フォルクローレと局長、二人はハイタッチをする。身長差があるので若干歪なそれは、二人の信頼関係をよく表していた。品質と納期をきっちり守れてこそ醸成されるものだ。初めからこうだったわけではないが、フォルクローレの努力の賜物だった。
「それにしても、兄ちゃんたち、大丈夫か?」
「ええ、もうすっかり。二便目の時には顔を見せられず、お恥ずかしいところをお見せしました」
「姿が見えないのに恥ずかしいとはこれいかに、て感じだけど」
「まあ、情けないところを見せちゃったのは事実だよな。俺たち三人、もうちょっといいところを見せるつもりだったんだけど。仮にもお城の騎士様だからね!」
フランツのことは「お城の騎士」、「自分たちよりも上位の貴族」ということで身分をごまかしている。そうでもしないと大騒ぎになりそうだったからだ。しかし、背負っているプライドは同じだ。少なくとも、二便目を女子二人に任せてしまう形になってしまったことは大いに恥じていた。
「いや、そこはいいんじゃねぇか? あんたらは、魔物が来た時にきっちり街を、俺たちを守ってくれりゃ、それでいいさ。そのために鍛えてんだろ? 重たい台車を運ぶためにやってることじゃねぇってことさ」
「まあ、それはそうですが」
「いや、俺たちより局長さんの方が強いんじゃねーのかって気はするけどな」
「言えてる。俺たち、絶対勝てねぇ気がするよ」
こうした軽口が言い合えるのは、ここに至るまでの交渉で何度も足を運んだからだ。局長に軽口を聞ける若者はなかなかいない。だから、職員たちはフォルクローレと彼ら三人、特に身分が下らしい二人を尊敬していた。少なくとも、若い娘だからとか、貴族と平民んだからとか、そんな理由ではこんな風に接していない。
「鍛冶仕事は伊達じゃねぇってことよ! ま、今は局長なんてやってて、しばらくハンマーを持ってねぇから、幾分鈍ってるだろうけどな。任期が明けりゃあまた窯の前でトンテンカンの毎日よ!」
「頼もしいですね」
「そうだ、おじさん、後で鍛冶屋さんにも一言言っておこうと思うんだけど、その方がいいよね」
話に割って入るようにフォルクローレが口を開く。
「鍛冶屋? あぁ、ゲルハルトのトコか。そうだな、一言納品が終わったことだけ伝えといてくれると助かる。後の工房にはギルドの名前で通知を出しておくからよ。頼んだぜ」
「うん! それじゃ、四人とも、そういうことだから。より道になっちゃうけどごめんね?」
「いいよいいよ。ゲルハルトさんの工房って、前に私が調理道具を仕立ててもらったとこでしょ?」
「僕たちも構わないよ。それじゃ、行こうか」
「よっしゃ、行くぞ〜!」
「それじゃ、俺たちはこれで」
五人は鍛冶屋ギルドの面々に手を振りながら、ゲルハルトの工房に向かって一路足を進めた。相変わらず雨は降っていたが、やるべきことをやり終えたため、足取りは非常に軽かった。
☆☆☆
「オヤジさ〜ん!」
ゲルハルトの工房はフォルクローレのアトリエのすぐ近くにある。一行はアトリエに台車を置いてから工房に向かった。入り口はいつでも開け放たれており、中に入るなりフォルクローレが声をかける。
「おう、フォルクローレ嬢ちゃんじゃねぇか! どうした?」
この通りの親方は、大体がフォルクローレには「おじさん」か「オヤジさん」と呼ばれ、親方衆もフォルクローレのことは「嬢ちゃん」と呼び、それぞれ似たような口調で話す。まるでそれがここでの倣いのような振る舞いだが、決してそんなことはない。皆、職業柄いやでも似たような人物像になっていくのである。それがフランツたち三人には面白かった。少なくとも、お城ではなかなかないことだからだ。
「例の武器を作るやつ、さっきインゴットを納品してきたから、それを伝えに来たんだよ」
「お! いよいよか! じゃあ、こっからは俺たちの仕事だな。もう、デザインはもらってんだよ。分担もできてるしな。他のパーツはもう作り始めてるはずだぜ? あいつからお呼びがかかるのもすぐってことだな。王子様たち、待っててくだせぇよ。俺たちが精魂込めていい武具を作ってやりますから!」
「い、いや、僕たちはすでにそれなりの武具を持ってますから。今回はもっと末端の兵士たちに支給するためのもので」
「それとも、俺たちの武具を超えるものを作るって意味かな?」
「だとしたら、楽しみだね。あ、なんなら見てみる?」
男爵は腰に下げた剣をすらりと抜き放った。台車を置くときには不要だからとアトリエに置いてきていたのだが、もう重たい荷物を運ぶこともないということで、三人とも改めて自分達の剣を腰に提げた状態でここを訪れた。
それは、貴族にとって基本の身だしなみなのだが、それと同時に、何かあった時に自分や他者を守れるように、という意味合いが強い。生身ではできることも限られるが、武器一つ持つことで、それを大きく広げることができる。そして、普段はむやみに抜かないのもたしなみのひとつである。
「これが、俺の剣。騎士団に入った時に仕立ててもらったんだ。まあ、自分で作ったわけでも、自分の稼ぎで買ったわけでもないから、そんなに誇れるものでもないけど、ものはいいよ。こだわって作ってもらたからね」
「どれ。ほほう、これはいいものだ。て、そんなありきたりの感想なんか求めちゃいないんでしょう? 軽いし、細身なのに頼りない感じはない。装飾も綺麗だ。切れ味はどうかな? ちょいとこいつを失礼して。せいっ!」
親方、ゲルハルトは軽く剣を振るった後、手近な鉱石を手に取ると、作業台に乗せたそれを一刀両断にした。
「お、斬れ味もなかなか。いい剣だ」
一通りの品定めを終えると、剣を男爵に返した。鉱石を斬った時には驚いたが、幸い刃こぼれはなかった。わかっていて斬ったのか、そこも見極めるための行動だったのか。ゲルハルトの表情はからはうかがい知れない。
「と、とにかく、俺の剣の良さは伝わったよね」
「そいつを超えるってのは、なかなか面白ぇ話だな。ま、いいもんを作ってやるから、楽しみに待っててくれってことだな! 俺だけじゃなくて、通り中の鍛冶屋が頑張るからよ!」
誇らしげな表情からは、絶対の自信が見て取れた。彼らがこの街の鍛冶を支えているということが、しっかりと伝わってくる。むしろ、言葉を受けた五人の方が誇らしくなるようだった。
〜つづく〜




