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竜の翼ははためかない9 〜竜王伝説〜  作者: 藤原水希
第七章 武具屋あるいは鍛冶屋の場合
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チャプター39

〜職人通り 鍛冶工房〜



「なるほどな。魔物の再来に備えて兵士の装備を強くしたいってわけか。そいつぁ切実な問題だな。あん時、この辺は戦える奴らがそこそこいたからなんとかなったが、他の通りじゃ兵士に頼むしかなかったみたいだからなぁ……」

 ひとしきり説明が終わると、親方は今回の計画に理解を示してくれた。武具の製造を直接担う者として、思うところがあったらしい。もしかしたら、兵士がどのような装備を身につけているかも把握しているのかもしれない。

 しかし、それとは別に、三人は今の言葉が気になって仕方がなかった。

「あの、この街の戦える奴ら、というのは、誰のことなのですか?」

「そう、それそれ! 俺も気になってました」

「やっぱり、みんな親方さんみたいに屈強なんですか?」

 親方は重たそうな槌を振るっているせいか、見るからに強そうだ。これだけの体があれば、並大抵の魔物となら互角に渡り合えるだろう。

 決してこの親方のような男だけがここの主ではないが、それでも普段見ている兵士よりも強そうな男たちが多かったのは事実だ。それが、職人通りなのである。

「それか。俺たちゃ、見ての通り仕事の道具に武器にも使える道具を使ってるからな。いざとなりゃ、こいつでガツンよ! それに、ここはどこだと思ってんだ? できたてほやほやの武器や防具があるんだぜ? そいつがありゃ、もっと戦いが楽になるってもんよ。それに、さっき言った錬金術士の嬢ちゃん、あいつの爆弾は天下一品なんだよ! あれがありゃ、魔物もイチコロなんだよ! ま、それで工房まで吹っ飛ばしたんじゃ、元も子もねーけどな! ハッハッハ!」

「そ、それはすごいです! そうか、それが父上の言っていた錬金術士殿ですね? 貴族たちの間でも彼女のことは話題になりつつあります」

「あぁ〜。俺も聞いたことがありますよ。なんでも、一人で街の外に出て、爆弾片手に魔物退治をしてるとか」

「俺が聞いた話じゃ、南西の洞くつを根城にしてた盗賊団を壊滅させたらしいぞ? 他にも、北西の塔を拠点にしてた魔人を倒したとかなんとか」

 この「錬金術士」というのは、言うまでもなくフォルクローレのことだ。だが、その噂話にはいくらか大げさな尾ヒレや背ビレが付いているようだった。

 彼女が街の外に出る目的の多くは素材採取のためだが、盗賊の壊滅にせよ魔人の討伐にせよ、事実なのか根も葉もない噂なのか、事実だとしたら目的はなんだったのか、その真相を知るのは本人のみである。

「そうだ! 騎士団でも嬢ちゃんの爆弾を導入したらどうだ? ありゃあ本当にすごいもんだぜ? 威力もバリエーションも、職人通りのお墨付きだ!」

「へぇ。どんなものがあるんですか? 教えてください!」

 意外なことに、フランツがこの話に食いついた。爆弾の持つ可能性に惹かれたのか、騎士団を強化するための実用的なアイディアとして響いたのか、はたまた科学の萌芽のようなものに知的好奇心をくすぐられたのかはわからない。だが、彼が示している関心は本物だった。どう見ても、”本題の話をしやすくするためにお愛想で話題に乗っかった”というレベルではない。

「そうさなぁ。俺も全種類知ってるわけじゃねーが、まず、普通の手投げ式の爆弾だろ? それから、火薬を樽に詰めたタル爆弾、タル爆弾をもっと大きなタルで作った大タル爆弾、それに普通の爆弾をたくさんまとめて一つの爆弾にした大型爆弾、こりゃ手で投げられる大きさと重さじゃねーから、大砲で撃ち出したり、投石機でブン投げて使うやつだな。それから、氷の力を封じたっつー魔法みたいな爆弾もあったか。投げるとよ、その場に氷の塊ができるんだよ。ありゃ、夏場にゃ爆弾として使うよりも食い物を冷やしたり俺たちが涼を取るのに使うことが多いな」

「そ、そんなに色々あるんですか。で、威力はどうなんですか? 例えば、鉄の鎧を破壊したり、この建物を壊したり、そういうレベルなんですか? それとも、大きな音がしてちょっと怪我や火傷をする程度ですか?」

「あぁ、確かに気になりますね。見掛け倒しじゃ意味ないですもんね」

「実際に魔物退治に使ったということですから、相応の威力はあるんでしょうが……」

 ある程度は世襲もあるとはいえ、自らの意思もあって文官の道を取らずに騎士団に入団した二人、当然この手の話は嫌いではない。フランツが食いついたこの話を聞いているうち、どんどん興味が出てきた。

 三人はまるで子供のように話を聞き、親方も、とても楽しそうに解説している。一方、親方の背後にいる徒弟たちも、ここぞとばかりに休憩を取っている。彼らには、降って湧いた幸運のようなものだろう。

「もちろん俺も詳しいことは知らねぇが、知ってる範囲じゃ、魔物退治にゃ十分使えてたぜ? しまいにゃ魔物たちが嬢ちゃんと戦うのを避け始めててよ、ありゃあ滑稽だったぜ。あとあれだ、『気をつけないと街を破壊しちゃうから』とも言ってたっけ。さっきも言ったろ? 工房まで吹っ飛ばしたんじゃ元も子もねーって。アトリエの中の爆弾に引火したら、あたり一面は消し炭になっちまうらしいぜ。ま、どこまで本当かは怪しいけどな。でも、確かに一番強い爆弾を使わないようにしてたな……」

 考え込むように顎に手を当て、先日のことを思い出す。親方の脳裏には、フォルクローレが「ある程度」の威力の爆弾を厳選して投げていた姿がはっきりと浮かんでいた。

 それはつまり、人間相手に使うような爆弾では弱いかもしれないが、一方で強力すぎる爆弾では街を破壊しかねないと危惧した、ということだ。

「嬢ちゃん、なんだってそんな恐ろしい爆弾を作ってんだ? まさか、街の誰かの依頼じゃねーだろーな。はは、国家転覆なんて、嫌な話じゃないことを祈るばかりだぜ。その辺の詳しいことは、直接聞いた方が早いかもしれねーな。なんなら紹介するぜ?」

「頼みます! 力のない者でも手軽に扱える爆弾の導入は、前向きに検討したいですから」

「確かに、魔物に知性があるなら抑止にもなりそうですね。そういう騎士団改革も、確かにありですよ」

「二人とも、話が逸れていることだけは、お忘れなく。親方さん、俺たちが武具屋や工房を訪ね歩いてるのは、さっきもお伝えしましたが買い換える武具の選定のためです。で、ここからが本題なんですが、この国でそれなりの数手に入って、鉄よりも強力な金属、鉱石って、ないですか?」

 子爵の軌道修正で、ようやく話は本題に戻った。フランツと男爵はすっかりフォルクローレの爆弾談義に意識を持って行かれていた。

 各工房はギルドに所属していている関係上、ここでも今までの工房で仕入れた情報と大差ない情報しか得られない可能性が高いだろう。それでも、こうして多くの店や工房を巡ることで、どこか一軒でも目新しい情報がないか、というのが狙いだった。

「そうさなぁ。お前さん方が今までのトコでどんな話を聞かされたかは知らねーが、想像には難くねーな。何しろ鉄は数が取れるし丈夫さや加工のしやすさもいい。青銅は少し安いけど、その分弱い。鉄の中でも生成した鋼鉄は丈夫だけど、値段も高くなるしあくまで鉄の延長だ。なんつったらいいか、お前さんらが探してるのは、あれだろ? もっとこう、魔法の金属、みたいなやつだろ?」

「そうです! 端的に言うと、ですけど。そこまで玉虫色の素材じゃなくてもいいんです。鉄より高いのは承知の上で、現実的に武器や防具が大量生産できるくらいの数と加工難度の素材であれば。今まで回った工房では、昔魔法の力を浴びた鉄、魔鉄と、ちょっと根が張るけど軽くて丈夫な晴青銀を紹介されました」

 フランツの言葉を聞き、親方はにやり、と口の端を歪めた。それは、仕草だけで「やっぱりな」と言っているようだった。この表情から、もしかしたら他の情報を知っているかもしれない、という期待が高まる。

「今、俺たち鍛冶屋ギルドがいつでも取り扱いできる特殊な鉱石は、確かにその二つだけだな。でも、もちろんそれだけじゃねーぜ? 各工房、一応しのぎを削り合う間だからな、教えたくねー秘密ってのもあるのよ。けど、お前さんがエル嬢ちゃんの知り合いっつーんなら話は別だ。もう少し他のことも、教えてやるよ」

 そうして、親方はカウンターを飛び越え、三人を工房の奥に案内してくれた。ここから先は、企業秘密だ。




〜つづく〜

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