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竜の翼ははためかない9 〜竜王伝説〜  作者: 藤原水希
第六章 貴族たちの場合
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チャプター37

〜竜の紅玉亭〜



 昼下がり。この日ももう少しで昼の営業が終わろうとしていた。店内は相変わらずの賑わいで、エルリッヒが一人忙しく働いている。

「はーい、野菜と牛肉のコンフェッティ、お待たせ〜! ビュローさんはお水少し待っててくださ〜い!」

「あいよ〜!」

「おーい、ビュローんとこの水を出したらこっちは酒のお代わりを頼む!」

 注文の声がひっきりなしにかかる。調理も給仕も片付けも一人でやっているので、てんてこ舞いだ。毎日のことながら、大忙しである。

「はーい、ちょっと待っててくださいね〜!」

 おばさんやフォルクローレはたまに手伝ってくれるが、誰かを雇おうとまでは思わない。こうして一人で切り盛りして、たまに親しい人が手伝ってくれるくらいがちょうどいいのだ。

(お城は、今頃議論の真っ最中かな。それとも、お城もお昼時かな……)

 議会が招集され、武具購入についての話し合いがおこなわれていることは聞かされていた。手も口も出せないが、いい方向に決着することを密かに願うのだった。

(伯爵、頑張って!)




〜王城 月光の間〜




「特殊な金属? それを今からどうこうしようというのは、あまりにも時間がかかるのではないですかな?」

 フランツの言葉に、一人の男性が異論を唱えた。隙あらば意見を潰し、自分の都合のいい方向に話を進めようという意図が透けて見えた。だが、意見自体はさほど的外れではないため、多くの者がなるほどいった様子で頷いている。

 しかし、フランツの表情は微塵も動いていなかった。

「そうですね。今から鉱山に行って採掘をして、その組成を調べたり、新しい鉱山を探したり、そんなことをしている時間はありません。でも、この国ですでに採掘されている鉱石や、国外から大量に仕入れられる鉱石で有効なものは、ありますよね? もしよろしければ、その目録を見せてください。彼らと三人で検討します。や、僕は詳しいわけじゃないんで、議論の邪魔になるくらいならいない方がいいんですけど」

「な、なるほど……」

「それはそうですな。二人とも、そのあたりの情報は持っているか?」

「さすがにそのような情報は。でも、出入りの武具屋や提携の鍛冶屋なら、そのあたりの情報も得られるはずです」

「もしよろしければ、私たちが行って確認してまいりましょう。どのみち、今日この場では具体的な決定は難しいと考えます。それでしたら、早々に武具屋や鍛冶屋に赴き、情報を仕入れてくるのが良いかと。もし不安でしたら、殿下もご一緒いただければ、諸侯の皆様方もご安心できるのではありませんか?」

 二人は示し合わせたような回答をした。ここに呼ばれた時点で、二人はこの方向に話を持っていくのが一番いいと考えていたのだ。平和な世の中とはいえ、装備品の貧弱さを以前から憂慮していた二人や関係する団員は、凶悪な魔物相手により強力な武具を使いたいと 考えていた。だから、武具購入の話が出た時、どうにかして思うように話が進められないかと、騎士団内で何度も議論を重ねていた。

 いくら税金を使うことになるとはいえ、魔物の襲来に際し街を守るのは自分たち騎士団だ。どのように意見が荒れても、購入自体は決定されると踏んでいた。であれば、後はこの場に「詳しい者」として呼んでもらうだけだ。この議会に呼ばれているのは騎士団の上層部のみ。そして、発言に強い説得力を持つのもまた、騎士団に所属する人間にかぎられる。その面々がわざわざ呼ぶのだから、ある程度自由な発言も認められるだろう。そこまでを、上層部のメンバーと示し合わせていた。

 まさか、王侯貴族からも資金を捻出することになるとは思っていなかったが、好きな装備をあつらえられるのなら、多少の出費は気にならなかった。

「もし可能であれば、武具の選定も、我らに一任いただければ、この国を守るために、最もバランスの良いものを選定いたしましょう」

「そなたら、それは越権行為ではないか? 我らはあくまでも、詳しい者に意見を聞くために呼んだまで。決定するのはあくまで陛下を中心としたこの議会だ。議会のメンバーでない、まして爵位の低いそなたらには、そこまで求めてはおらん。よいな?」

「お言葉ですが侯爵様、ご列席の皆様の中で、我々よりも武具の性質や価格に詳しい方はおられますか? 騎士団上層部の皆様方は、どうですか? 我らに一任していただけますか?」

 作戦通りだった。武具の性能や価格に詳しい彼らの一任であれば、大きく外れることはない。できれば彼らに一任させ、自分たちは念のための確認に留めておこうというのが、上層部との話し合いで決定した騎士団としての作戦だった。

 もちろん、当初の計画よりは金額にはシビアにならざるを得ないが、思うままに選定できるとなれば、そのあたりはどうにでもなる。あとはこのまま作戦通りに運ぶことを期待するばかりだ。

「……そうだな、私は陛下のご判断さえいただければ、そなたらに一任しても良いと考える。団長、副団長、お二人はいかがですかな?」

 ルーヴェンライヒ伯爵は、作戦通り今判断したような顔で話を二人に促した。もちろん、団長以下2名もグルである。

「伯爵がそう申すのであれば、私も異存はない。あくまでも、最終的なご判断は陛下に仰ぐことになるがな」

「……団長閣下と実務を取り仕切っている伯爵がこう言っていて、副団長の私一人反対するわけないでしょう。私も、この案には賛成です。陛下、裁可をお願いいたします。一度、彼らに任せてみてはくださいませぬか?」

 国王の判断だけは、誰にも予想できなかった。だから、ここで却下されてしまったとしたら、また地道に話を組み立てて誘導していくしかない。だが、まずは国王の判断を仰ぐところまでは来た。もう一押しだ。

「陛下、お願いいたします! 我ら、魔物によって傷ついた兵たちの装備を見るにつけ、かような貧弱な装備で戦場に送り出すことに罪悪感を抱いておりました!」

「そうです! 安い武具であれば、購入したとて大した額にはなりませんが、先の二度の襲来では、全損や大破も多く、営繕費もバカになりません! 強力な武具であれば、それだけ長く使うこともできます。何より、兵たちが安心して戦えることによって、武具の損傷も減り、戦い方からも生存率が上がるのです。どうか、どうか寛大なご裁可を!」

 二人は大げさに訴えてみせた。言っていることもその心情も嘘ではないが、この方が国王の心情に訴えられるのではないか、と判断してのことだった。果たして功を奏したのかどうかはわからないが、国王は腕組みをして考えている様子だった。

「ううむ。彼らが専門家というのはよくわかる。だが、一任しても良いものかどうか。世も完璧な人間ではないからな。大臣よ、どう思う?」

「へ、陛下! ここで私に振るのはおやめください! 陛下が門外漢だと仰られるのでしたら、私なぞもっと門外漢なのですぞ? ただ、私見を言わせていただければ、門外漢ゆえに、彼らに一任するのも良いかと……」

 自信なさげな言葉が、大臣の本音だった。「わからないから任せる」というのは理にかなっているのだ。その言葉に、国王も意を決したようだった。

「そうだな。大臣もこう申しておるように、まずはそちらに一任するのもいいだろう。それであれば、フランツを連れて行くがよい。これも勉強だ。そちら二人とフランツで決定し、それを騎士団、余と二段階に判断して最終決定するものとする。これでよいか?」

「十分でございます!」

「必ずや、我らと殿下三人でよい武具を見繕って参りましょう!」

 二人は立ち上がり、国王に向かい礼を示す。それに呼応するように、フランツも立ち上がった。

「どこまで役に立てるかはわからないけど、僕も全力で手伝うからね」

「はっ」

「宜しくお願い致します!」

 こうして、この日の議会は閉会となった。騎士団としては、ここからが本番である。こう言ったからには、よい武具を選ばなければならない。




〜つづく〜

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