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竜の翼ははためかない9 〜竜王伝説〜  作者: 藤原水希
第六章 貴族たちの場合
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チャプター36

〜王城 月光の間〜



 フランツが月光の間にたどり着いたのは、それからしばらくのことだった。衛兵に促され、月光の間に入ってきた彼は、神妙な面持ちだった。

「父上、このような場に私をお呼びとは、穏やかではありませんね。どうされましたか?」

「衛兵に聞いておらぬのか? ルーヴェンライヒ伯爵たっての希望でな、そなたもこの場に同席させることにした。意見があれば、好きに申すが良い」

 用意された座席は、国王の隣。名実ともに国王の次席であることを伝えていた。

「珍しいですね。いつもはまだ早いと言って参加させてくれないのに」

「ことは魔王軍襲来に対する備えの話だ。そのようなことを言っている場合ではないのでな。それに、武具購入に際し、我らにも金を出せと言い出したのは、そなたではないか。言い出したからには、責任を取ってもらおう」

 国王の言葉は重くのしかかる。この議会の場を丸く収めることは至難の技だ。その舵取りを命じられているのである。どこまでできるかはわからないが、できることはやれるだけやろう、という心持ちにさせてくれる。

「わかりました。それで、話はどこまで進んでいるんですか?」

「これから、購入する武具と店の選定に入るところだ」

 武具の目利きについて特に知見があるわけではないのは、フランツも同じだった。だから、そこで何か偉そなことができるわけではない。しかし、市中の物価については誰よりも詳しかった。なまじ城を抜け出しているだけに、この辺りの世情に通じていることには期待が集まっていた。

「そして、そこに座る二人は、騎士団で武具の整備や補充を担当している者たちだ。彼らも、伯爵の要請で来てもらっている。我らでは、目利きも何もあった者ではないからな」

「殿下、初めまして。私はフリードリヒ・ラインラント男爵と申します。日頃、騎士団で武具の購入などを担当しております」

「私はメッサー・ゲハインスト子爵です。日頃、私と配下の者たちで武具の修繕や整備を行っています」

 二人が手短に自己紹介を行うと、それが合図だとばかりに議論は再開された。

「して、何をどこで購入するのが良いか。二人の意見を聞かせてもらいたい」

「いきなり私たちの意見でよろしいのですか? そうですね。購入するとしたら、今は軽装が中心ですから、全身を覆うタイプのフルメイルが良いのではないでしょうか。ただ、これは重量も大幅に増えますし、兜越しの視界はかなり狭くなりますから、着こなすには時間がかかります。とはいえ、魔物の攻撃に備える防御としては、他に選択肢はないでしょう。次に武器ですが、大きく分けて、剣、槍、それに斧なんかもあります。これは、各々の兵士に好きなものを選ばせるのがいいでしょう。今は比較的簡素なやりと剣を支給していますから、もっと強力なものを仕入れる必要があります」

「なるほど。ラインラント男爵、ありがとう。ゲハインスト子爵からは何かあるかね?」

「はい。この度の二度の襲来での、武具の損傷具合を見ておりましたが、敵の攻撃は、今支給している簡素な鉄の鎧を易々と切り裂いておりました。今後より強力な魔物が現れることを想定すれば、単に体を覆う面積が多いだけでなく、純粋により強固な守りの防具が求められるでしょう。ただ、それでは重量は増すばかりです。ですから、着こなすためには長い時間がかかってしまいます。そこで、今のように軽装な防具、という選択肢を設けるのもいいのではないか、と考えました」

「ふむ。今よりも頑丈な素材であれば、今と同じ面積を覆う鎧でも、強固な守りは得られる、というわけだな? 武器はどうかね。男爵の提案で良いか?」

 日頃から騎士団ので実地に装備品のことを扱っているだけに、二人の言葉は地に足が付いており、周囲の貴族たちはとても興味深そうに聞いていた。

 二人も、このような場に呼ばれることはないにもかかわらず、緊張する素振りを見せずに受け答えしていた。この辺り、彼らも曲がりなりにも貴族である。

「武器については、ほとんど言うことはありません。フリード、ラインラント男爵の言葉通り、まずはより強力な装備を、各々の好みに応じて支給すれば、それでいいでしょう。ただ、もう少し細かく好みを募るのが良いかと思います。今、男爵は一例として剣、槍、斧を挙げましたが、実際には他にも弓を取って遠距離から攻撃するのが得意な者もおりますし、盾による防御を捨て、両手に武器を持って戦うのが得意な者や、両手持ちの大振りの武器を好む者もいます。今は便宜上、皆一律の武器を身につけておりますが」

「なるほど。いや、実に興味深い。ちなみに、支給するのは末端の兵士たちだけで良いか? 以前の提言では、貴族出身者が大半を占める騎士たちは家の財力で強力な装備を用意すれば良い、ということになっていたが」

 この質問には、二人共が口を揃えて「はい」とだけ答えた。予算を少なくするためにも、お金のある家の者は自分たちで用意してもらうのに限るのだ。もちろん、それによる装備格差などは生まれることはある。が、今はそのような話をしている場合ではない。強力な武具が揃えられるのなら、それが一番だ。

「次に、どこの店で調達するのが良いか、という店については、どう考えておるのかね?」

「そうですね。通常、騎士団では幾つかの出入りの武具店に注文を行います。彼らは鍛冶屋とのつながりがありますから、希望通りの武具を用意してくれますし、量産しやすい既製品を購入することもあります。ただ、今回は大量発注になりますから、それでは間に合わないでしょう。それに、強力な装備品という意味では、できれば、市販の鉄製の武具よりも強固なものを調達したいものです」

「そのようなものがあるのかね?」

「あります。一部の方は感づいておられるかもしれませんが、親衛隊は、専用の装備を支給されます。宝石をはめ込むことによって刀身に炎や氷などを纏う、魔法のような力を有した剣に、騎士団員の憧れの象徴ともいうべき、青い鎧。あれは何も、鉄を青く染めているわけではなく、あのような色を持った特殊な金属でできています。金属としての頑丈さはもとより、不思議な力で炎や氷のダメージを弱めてくれると聞きます」

「まさか、それを提供せよ、というのではあるまいな? それは、以前の議論で却下されておる。あれらの武具が特別なものなのは事実だが、おいそれと量産できるものではないのだ。だからこそ、市中の武具屋に発注を行う、という方向で固まったのだ。説明が後になってすまぬが、その辺りの事情を踏まえてもらいたい」

 あれを全兵士に支給できたら言うことないのだが。とは、以前エルリッヒが言い出し、ルーヴェンライヒ伯爵が議会に持ち込んだ意見である。今の世情を考えれば、「親衛隊の特権だから」という理由で却下することはなかったが、特殊な製法で量産が難しいから、というのは、切実な理由だった。だからこそ、数年に一人しか採用されない親衛隊のメンバーに支給することができているのだ。

「なるほど、事情はわかりました。あれが秘中の秘とされるのには、そのような理由があるのですね? では、同時にあの特殊な金属自体も、加工に時間が掛かると見てよろしいですか?」

「そうだ。それこそが、量産が難しい一員でもある」

「それでしたら、あの金属を用いた武具を用立てるのは諦めましょう。しかし、魔物の強さが推し量れない以上、特殊な金属でつくった武具、という案は捨てがたいですな」

「あの、だったら、国内で採掘できるほかの特殊な金属が使えないか、模索してみるのはどうかな」

 今までずっと黙って話を聞いていたフランツが、おもむろに口を開いた。議員たちは一斉に注目するが、男爵と子爵の二人は、まるで示し合わせていたかのように、ニヤリと笑みを浮かべた。




〜つづく〜

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