チャプター35
〜王城 月光の間〜
国王の号令を以って議題は可決した。しかし、これはあくまで入口に過ぎない。この後が問題なのだ。果たして、どこのお店で、どんな武具を買い揃えるべきなのか。普段とは違う装備品を身につけるということは、兵士たちがそれに慣れなければならない、ということでもある。
各種の剪定は、少しでも早い方が良かった。
「さて、引き続き武具購入の詳細について、検討していきたいと考えているが、何かアイディアのある者はいるか?」
今決まったばかりの方針を鑑みれば、少しでも安く済ませようという方向で意見を出してくる者が現れるはずだ。それをどうねじ伏せて妥当なラインに落とし込んでやろうか。国王は内心でそのようなことを考えていた。
それと同時に、国王は武器防具の目利きができるわけではなく、市中の細かい物価についてもそこまでしっかりとは把握できていない。だから、それぞれ知見のある者にしっかりとした案を出してもらいたい、とも考えていた。
何しろ大掛かりな購入計画だ。税、という形では自分にも負担があるかもしれないとはいえ、武器屋がふっかけてこないとも限らない。見た目だけ立派で、実用性に乏しい装備品を進めてこないとも限らない。
皆、一様に難しい顔をしている。果たしてどんなことを言えば自分に都合のいい結論に持っていけるだろうか。明確な答えのない中、そんなことを考えている者ばかりだった。
お互いがお互いの顔を見合わせるが、牽制しようにも妙案が出てこない以上、誰一人として先手を切れない。そんな中でも表情を変えないのは、やはり騎士団に属している者たちだけだった。今この場では、文官よりも武官の方が事情に明るい分、強気でいられる。
その中で最初に声をあげたのは、やはりルーヴェンライヒ伯爵だった。他の騎士団の面々も、今回ばかりは先を譲る形になった。
「そうですな、それならば、大まかなところから段々と詳細を詰めていくのが良いのではないでしょうか。もしよろしければ、普段から備品の購入や整備を担当している者を呼びましょう。彼らの方が、こう言った話には明るいですから」
「ふむ、あまり詳しくない我らがどれだけ議論を重ねたところで、答えは出てこぬか。よかろう、その者たちをここに」
国王は伯爵の提案を快諾する。それもそのはず。国王は当然王家に伝わる秘蔵の武具を所持しており、有事の際はそれを着用するが、詳しいわけではない知識のある者に現実的な意見を出してもらったほうがいいと考えるのは当然のことだった。
「では、彼らを呼びましょう。申し訳ないが、騎士団の寮までフリードリヒ・ラインラント男爵とメッサー・ゲハインスト子爵を呼んできてくれ」
「はっ!」
入り口を守る衛兵の一人に声をかけ、二人の団員を招集する。衛兵が出て行ったのを見届けると、再び国王に視線を向けた。
伯爵の思惑は、ここからだ。
「む、まだ何かあるのか?」
「はい。もうお一方、ここに招集したい人物がおります」
「もう一人? 今度は誰と呼ぼうというのだね」
「部外者、とまでは言わないが、議会に属していない者をあまり呼ぶのは感心せんがな……」
伯爵の提案に、怪訝そうな表情を浮かべる者がいた。今呼んだ二人は爵位も低く、何かあったら家柄を盾にどうにでもできる。だが、あまり数を呼ばれては話が狂いかねない。わざわざ呼ぶからには、伯爵の派閥だろう。どんなに受け入れがたい提案をしてくるか、わかったものではない。なんとしても、阻止しなくては。
そう考えた者たちが、目配せをし合った。
「神聖な議会の場をどう心得ておるのかね?」
「今呼びに行っている二人とて、特例で陛下が許可なされたのだぞ。それを、あまり調子に乗るのは感心せんな」
「左様。陛下の寛大な計らいに甘えていては、なりませんぞ?」
牽制目的なのが見え見えの横槍だった。国のためを思えば、このような意見になど、左右させられてはいられない。確かに、自分より家格の上の者もいるが、国王以外の言葉は今は聞き入れるに値しなかった。
「みなさん、その言葉は、陛下のお言葉を聞いた上で言っていただこう。あくまでも、陛下のご判断あってのことです。それで、いかがでしょうか」
「誰とも聞かぬうちから判断はできぬ。誰を呼ぼうというのだ?」
国王の冷静な言葉に、伯爵は静かに告げた。
「それは、フランツ殿下です」
その言葉に、またしても一同がざわめく。
「陛下、それはなりません! 殿下はまだ国政の場に上げるには早すぎまする!」
「そうです! 経験の浅い殿下にお越しいただいても!」
「伯爵、貴公は何をさせたいのだ? 殿下に、政治を学ばせたいのか? もしそうなら、それは時期尚早というもの。まだ、実地に学ばれる必要はないと思うが?」
「諸侯らの言うことも尤もであるな。伯爵、何故にフランツをここへ?」
「陛下は、殿下のことを子供だと侮ってはいませんかな? 今回の件、我ら王侯貴族にも資金を出させるべきだと言い出したのは、殿下なのです。あの場に呼ばれた民達が思っても言えないことをわざわざ口にし、結果的に陛下はそれを採択された。これがどういう意味か、お分かりですか?」
もったいつけたような物言いで話を進める。こうして自分に注目を集めれば、より自分の発する言葉に説得力を持たせることができる。注目という一点でそれを成し遂げようというのは、一見すると無謀だが、これだけ注目を集めた時には、聞く側も意味を見出そうとするのだ。
そうして、十分に注目が集まったのを見計らい、言葉を続けた。
「殿下は、この場にいないにもかかわらず、我らを思い通りに動かし、民衆の納得を引き出したのです! このようなこと、陛下でもなかなかできますまい。これは、殿下の政治手腕が優れていることの片鱗だと私は感じました。もちろん、事前の打ち合わせなどは一切行っておりません」
「む、そうか。確かに余もいささか早い気はするが、いい機会かもしれぬな。よかろう。フランツもここに呼ぶこととしよう。貴公らも、良いかな?」
一応賛否を問われるものの、反対意見など言えるはずもない。反対派の面々も、押し黙ったまま弱く頷いた。そして、それを確認すると、残った衛兵にフランツを呼びに行かせた。
城を抜け出していなければ、自室でおとなしくしているはずである。この日、フランツは国王から直々に謹慎を言い渡されていたのだ。
「伯爵よ、これで良いかな?」
「ありがとうございます。これで十分です」
そう告げると、静かに目を伏せた。
☆☆☆
しばらくして、フリードリヒ・ラインラント男爵とメッサー・ゲハインスト子爵が到着した。彼らは、事前に伯爵が申し送りを行っていたため、戸惑うことなく招かれると、部屋の隅に椅子を用意してもらい、そこに着席した。
「わざわざ来てもらってすまぬな。本日の話し合いでは、諸君らの日頃の知見を大いに利用させてもらいたい」
「滅相もないことでございます。国の一大事に、我々の働きが活かせるのであれば、本望です」
「何なりと、ご用命下さい」
二人は、まだまだ若く爵位も低いが、国王の言葉に臆することなく受け答えていた。これは、騎士団に所属するメンバーにとってはとても誇らしいことだった。平民出身者でもあるまいに、ここでしどろもどろになられていては、騎士団での教育が問われてしまう。
「して、フランツはまだ来ぬのか?」
「殿下の部屋は西塔の上ですから、時間がかかっているのでしょう。気長に待ちましょう」
フランツが到着するまでの間、議会は小休止となった。
〜つづく〜




