チャプター13
〜近くの森〜
「いやー、いい経験になったよ。ありがとね」
「俺からも、礼を言うよ。まさか、あんなに簡単に持ち上げられちまうとはなー。ツァイネの吹っ飛びっぷりもすごかったし。いや、俺たちもいろんな奴と戦ってきたけど、あんなやられ方は初めてだったぜ」
一通り試合が終わると、三人はのんびりと話を始めた。ここからではよく分からないが、森に入った時点では十分な時間があったので、夜の仕込みを始める時間はまだ気にしなくていいだろう。
「まったく〜、いきなり手合わせとかいうから、正気を疑っちゃったじゃん。あれで気は済んだみたいだからいいけど、もし怪我してたらどうするの?」
「いや、ほんと、ごめん。怪我がなくてよかったよ」
「だな」
二人の表情には安堵の色が見える。やはり、怪我をさせるわけにはいかないという思いがあったのだろう。しかし、エルリッヒの言葉がそれを打ち砕いた。
「や、私のことじゃなくてね? さっきも言ったけど、怪我がなくてもよかったのは二人の方だよ。二人は私に怪我させないように気にしてたの? その割に十分本気に見えたけど。でも、私があの程度で怪我をするわけないじゃん。刃物を直接触らなきゃ、余裕だよ」
「……やっぱり、そうだったんだ」
「そりゃ、手加減なんかしちゃいなかったけど、こうあっさり言われると、やっぱ少し凹むよな。俺たちも仮にもずっとこの稼業で生きてきて、それなりには自信があったからな」
二人を落ち込ませたいわけではない。だが、嘘をついたりおだてたりするのは好きではない。深い理由はないが、やはり正直に話をしたい。
「こないだもねー、フォルちゃんと話をしてて、私に爆弾が効くかっていう話題になったんだよ」
「え、なにそれ! 面白いよ!」
「だな! 俺たちの攻撃が効かなくても、フォルちゃんの爆弾ならダメージを与えられそうだ!」
この二人は再び表情が輝き始めている。とりあえず、生来こういう話が好きなのだろう。これだから男ってやつは。と思ってしまう。本当に男女の心理差かと言われれば、フォルクローレもこういう話が好きなので、一概には言えないのだが。
「効かないとは思うけど、試すのはやめてよね。もし爆弾を投げつけてきたら、さすがに友達やめるから」
「わかってるって。俺たちだって命は惜しいしな。つーか、どっちにしろそんなことしねーって」
「そうだよ。いくらなんでも、俺たちだってわきまえてるさ」
好奇心はある。それでも、少なくとも自分が思いを寄せる女の子に爆弾を投げつけるような真似はできない。今の一幕だって、嫌われやしないか、少し心配だったのだ。
そういう思いは、二人に共通していた。
「あぁ、後、豆知識として教えとくけど、多分私は毒も効かないから」
「え!」
「なんだよそれ! そこまで行ったら反則だろう。でも、多分?」
小さなポイントに、ゲートムントが気づいた。わざと明言しなかったことに食いついてくるとは、なかなか侮れない。そこまできっぱりと語るつもりはなかったが、指摘されたのでは話すしかあるまい。
「試したことはないってだけだよ。それでも、一般のドラゴンに毒が通用しなかった話はいろんなところで伝わってるからね。魔物どころか魔族にでも通用するような強力な毒なら、わからないけど、果たしてそんな劇毒を作ることができるのかってことだよね」
「なるほどな。それなら、やってみないと確証はないってことだよな? もちろん毒を盛ろうなんて気はないけど、それだけの子が仲間なのは、スッゲー心強いな」
「そういう考えはあるね。いざという時、俺たちと共闘することがあるかどうかはわからないけど、爆弾は効かないかもしれない、毒も効かない、そういうエルちゃんが戦ってくれるとしたら、やっぱり千人力だよ」
上手い具合に話が逸れてくれた。人を超えた力の確認に話の焦点が絞られると、どこまでも面倒なことになってしまう。有事の際の話であれば、そこまではいかないので気兼ねなく話ができるのだ。
少しばかり身構えていたが、これならリラックスして話ができそうだ。
「千人力って、持ち上げすぎだよ〜。そもそも、この体でカバーできる範囲なんて、限られてるからね。兵士のみんなや、二人みたいな冒険者ギルドの戦士たちが頼りなんだよ。みんなで奮闘すれば、すごい戦力になるでしょ?」
「そりゃ、まあねぇ。でも、お城の兵士たちはそんなに強い印象ないし、ギルドの人たちだって、実力はまちまちだからなぁ。駆け出しの若い子もいるしね」
「だなぁ。あれだ、ギルドの上位戦士たちと、お前のいた親衛隊みたいな連中くらいだろ? 強いのって」
ゲートムントはあまりそのあたりに詳しくはない。仲間の冒険者のことはよく知っているが、騎士団の内部事情はさすがにツァイネ以外に詳しい者はいない。だが、ツァイネが「兵士」という呼び方をしたことは引っかかっていた。
つまり、「騎士」は強いのだ。
「そうだね。ギルドのみんなのことはゲートムントもよく知ってるかと思うけど、お城の騎士はさすがに結構強いよ。彼らは貴族だから装備もいいものを仕立ててるし、だいたいの家は、その家の一門に伝わる剣術の流派があるからね。でも、名ばかり騎士みたいなのもいるけどね。親衛隊は実力と人柄と忠誠心が問われるけど、騎士は家柄が重視されるから。武門に属する貴族の家柄なら、みーんな貴族になれるからさ、中には真面目に訓練してない人たちもいて。でも、家柄だけで指揮官をやったりするんだよ。今までは平和な時代だったから良かったけど、これからは、どんどん役職を外されちゃうだろうね」
「あー、そういうの、いるよなぁ。前に南に行った時には大変だったろうなぁ。そういう連中の部隊は」
いたずらっぽい笑いが浮かぶ。終わったことだから笑っていられるが、これからの話でもあるのだ。確かにお城の内情はツァイネですらもはや無縁の世界だが、国を守る戦いとなれば、そうも言っていられない。冒険者ギルドに所属する戦士も、十分に巻き込まれかねない話なのだ。
「笑い事じゃないよ。どうする? この先、有事は騎士団がギルドの戦士も指揮するって話になって、俺たちの上官にそういう名ばかり騎士がいたら。多分、死者はそれなりに出るだろうね。しかも、下手をすると俺のことを知ってるかもしれない。そしたら、考えなしに危険な指令が飛んでくるかもよ? そういう連中って、見栄の塊みたいな性格をしてるから。逆らうにしても、貴族の子息に逆らう以上、手に掛ける覚悟がいるし、戦いが終わったら、重罪は免れない。ぜーんぶ、付いて回る可能性があるんだよ」
「そ、そうか。笑ってもいられねーんだな。はぁ、今のうちから何とかして欲しいよなぁ」
「それ、ツァイネの人脈でなんとかならないの? 一応王様とも面会できるわけだし、退役してもこの剣とあの鎧を許されてるのは、それだけの証なんでしょ?」
そう提案してみるが、ツァイネ表情は芳しくない。それどころか、腕組みをしながら首をひねっている。
「いや〜、さすがに俺じゃあ騎士団の人事権には口は出せないよ〜。今でも騎士団にや王宮に籍のある、もっと偉い人じゃないと」
「そっかー、そりゃ残念だ」
いいアイディアだと思ったのに。いくら人脈があっても、親衛隊相当の権限を持たされていても、曲げられないものは曲げられないと言うことのようだ。法治国家としてはそうでなければ困るのだが、非常時に際しての話だからと思ったのだが、限界はあるということなのだろう。
「そうだね〜。せめて、偉い人から人事権のある人に進言するくらいなら、まだ話も……」
途中まで言いかけて、ふと言葉が止まった。目線が、遠くを見ている。
「ん? どうしたの?」
「まさか、さっきのダメージが今頃きたんじゃ!」
二人の問いかけに答えることもなく、一点を見つめている。
「いや、ちょうど良い人選がいるよ。うん、なんとかなるかもしれない!」
その言葉は、まるで福音のように降り注いだ。
〜つづく〜




