↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜の翼ははためかない9 〜竜王伝説〜  作者: 藤原水希
第二章 ゲートムントとツァイネの場合
PR
14/74

チャプター14

〜近くの森〜



「それで、その適任者は誰なの?」

 ツァイネ語るところの妙案とは、自分とは違い王宮での発言力を持った人物に提言してもらうことだった。だが、それにふさわしい人物とは、一体誰なのか。

 ツァイネの口から出る名前に、注目が集まる。

「それは、二人、いや、三人かな。一人は、エルちゃんもよく知ってるルーヴェンライヒ伯爵。彼は騎士団でも上層部にいるからね、話を通してもらいやすい。エルちゃんと交流があるっていうのも大きなポイント。で、その伯爵に意見を吹き込むのは誰かっていう話なんだけど……」

「え、お前じゃねーの?」

「うん、私もそう思った。ツァイネから意見を言ったら、聞いてくれそうな雰囲気はあるよ? 伯爵様」

 エルリッヒが知り得る限りのルーヴェンライヒ伯爵は、少なくともただし意見には耳を傾けてくれるような了見のある人物だった。もしかして、違う一面、例えば身分で人を判断するような一面も持ち合わせているのだろうか。お城で働いていたツァイネしか知らないような一面もあるのかもしれない。

 そう思うと、少し悲しくなる。いい領主、いい貴族、いい父親であろうとする姿はとても印象的だっただけに。

「いやいや、勘違いしないで。伯爵は話を聞いてくれる人だよ。でも、俺からの進言じゃ弱いってことさ」

「伯爵からの進言ってことにはならないの?」

 伯爵から人事権のある人に話をするのであれば、十分に意見は通りそうなものだが。伯爵位でもまだ低いのだろうか。そこまで行ってしまうと、もうお城の人事事情がまるでわからなくなってしまう。

 それとも、他にも理由があるのだろうか。

「伯爵からの進言ってわけにはいかないんだよ。冷静に考えてみて。いくらなんでも、伯爵の口から『名ばかり指揮官をやってる貴族の子弟がいるから人事を見直したい』だなんて言ってごらんよ。たちまち他の貴族を敵に回しちゃう。だからって、俺からの進言って話になると、『騎士団を抜けた貴族でもない奴の意見は聞けん』てなっちゃう。後、正直騎士団では俺のことを疎んでる人も多かったからさ、その辺の政治的事情もあるんだよ」

 ツァイネの説明は逐一腑に落ちる。言われてみればその通りだ。少なくとも、同じ貴族にケチをつけるようなことは言えないに決まっているではないか。

 エルリッヒは目から鱗が落ちる思いだったが、ゲートムントの胸中は少し違うようで、

「かーっ、めんどくせぇ! そんなとこなら、いっそ滅んじまってもいいんじゃねーの?」

「そういうわけにはいかないでしょ。仮にもこの国の行政機関で、治安維持のためにも騎士団は必要なんだから。それは、先々この国が王制を辞める日が来たって同じだよ。ま、ゲートムントらしい考えだけどね」

「まあ、事情はわかったよ。それで、伯爵の裏で糸を引いてもらうのは、誰なの? どっかの公爵様? それともまさか、王様? いくらなんでも王様だったら直に言えばいいよね」

 これ以上は話を引き伸ばすだけだ。ツァイネは続きを話すことにした。

「そうだよ。いくらなんでも陛下までは駆り出せない。角が立ちすぎるのは同じだからね。駆り出すのは、王子だよ。それか、姫か」

「え!」

「お、王子??? いたのか!」

 今まで全くその存在を意識してこなかった名前だ。この国の王子と王女。冷静に考えれば、跡取りがいないのは困るので、街の話題にもなっていない以上いないはずはないのだが、自分の生活には無縁すぎた。

 エルリッヒはともかく、ゲートムントの驚きようは、それを強く表していた。

「はぁ、さすがにお世継ぎの話くらい知っておこうね、ゲートムント。いるんだよ、王子様と王女様、お姫様がね」

「そっかー、そうなんだな。で、そいつらを担ぎ出す、と」

「ゲートムント、誰もいないからってそいつら呼ばわりは不敬罪で重罪になるよ? でも、私もちょっと意外だった。全く候補にいなかったから。王様よりは立場が低いから角が立たないし、まだ国政の表舞台には出てこない。それでいて力はある。確かにいい人選だわ」

 仮にも王女という立場にある自分が、普段全く意識することのないそれを意識する瞬間。人間社会とはまるで違う世界での血統など、全く意味をなさないが、幸か不幸か、この国の国王はそれを尊重してくれているような態度を取ってくれる。もちろんそこには魔王復活という世界規模の一大事に備えた利益が絡んでいるのは間違いないが、それだけではないのも感じ取れる。もしかしたら、その辺りも活かせるかもしれない。そんなことを思った。

「でしょ? 王子と姫、どっちに話をするかは決めかねてるけど、やっぱり王子かな〜。そういう話は男の方がしやすいから。俺たちから王子に話をして、それから伯爵に話をしてもらうんだ」

「なあ。なんでそこで伯爵を挟む必要があるんだ? 王子様なんてのがいるんだったら、直接話をしてもらえばいいんじゃねーの?」

「それは、今エルちゃんが言ったでしょ? 王子様っていうのは、政治的には何の力もないんだよ。役職に付いてるわけじゃないからね。肩書きだけ騎士団の上層部に属してるような感じで、今は全く出番がないけど、戦に出る時にお城から号令をかけるような役割だけを任されてるんだ。でも、その王子様が何か意見を言えば、表向きには何の効力もないけど、言われた方は無視できない。そういう立場なんだよ」

 騎士団の、それも親衛隊にいたツァイネはこういった話にも明るいが、ゲートムントはやはりピンとこないようで、もう「そういうものだ」として聞き流すことしかできなかった。それでも、ツァイネにいい案があるという以上、それに乗っかるのみだ。といっても、自分にできることはあまりないとも考えていたのだが。

「で、ツァイネは王子様とのつながりはあるの? いきなり会いに行っても会える相手じゃないでしょ? どうするの? まさか、王様に頼むとか!」

「いやいや、さすがにそれは無理だよ。王子とはそれなりに交流があったんだよ。だから、その辺はどうにでもなるんだよ。王子もさ、庶民階級で親衛隊に入った俺のことがめずらしかったみたいで」

「そりゃあそうだよなぁ。俺だって興味あったもんな。じゃ、直接王子様に話ができるってわけか。いいじゃねーか!」

 話の段取りは固まってきた。ツァイネが王子に呼びかけて、王子がルーヴェンライヒ伯爵に進言する。そして伯爵が騎士団の人事担当者に「恐れながら王子様からの意見です」と話しかける。それで完遂だ。どこまでいくかはわからないが、計画としてはバッチリだ。

「うんうん、いいよいいよ。これで騎士団のリフレッシュができそうだ」

「兵士の無駄死にが減ったらいいよね。魔物の脅威なんて、ホント想定外だろうし」

 いつか来るであろう次の脅威に思いを巡らせる。その時、少しでも善戦してくれれば。その思いが全てだった。それが、命を救うことにつながるのだから。

「そうそう。俺たちだって、さっきシュミットの話で驚いたくらいだからね」

「だな。さっきも言ったけど、正直ゴブリンは雑魚だから、俺たちも舐めてるとこあったもんな。ま、油断したら危なかったっつーくらいだから、いっぺん手合わせしてみたくなったってのはあるけどな」

 怖いもの知らずというべきか、怖いものを肌で知っているからこそというべきか。呆れるよりも先に感心してしまう。

「ゲートムントらしいね。さてと、そろそろ行かなきゃ。そうだ、もしよかったら来る? これから仕込みだから開店までは少しあるけど、話し相手くらいにはなってあげるからさ、夜になったらご飯食べてってよ」

「え、いいの?」

「よっしゃ!」

 切り株から立ち上がったエルリッヒは、明るく声をかける。そして、二人は二つ返事でこれに応える。やはり、友達に食べてもらって美味しいと言われるのは、抗い難い快感だ。

「それじゃ、決まりだね。さ、帰ろう帰ろう!」

 三人は、軽快な足取りで森を後にした。




〜つづく〜

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。