ニートは巻き込まれてもニートである。2
久しぶりに使ったなあ、≪魔法使い殺し≫こと≪沈黙魔法≫。
ぶっちゃけ私が彼らの前に躍り出てかばうという選択肢もあったのだが、面倒だし普通に歩いたら間に合いそうになかったので呪文を唱えられない状態にすることで解決させてみた。
パクパクと口を動かしながらも声が出ないことに恐怖を覚えている顔をしているが自業自得でもある。
普通、敵対しているわけでもない人間に向けるのならもっと弱い魔法を使うか怪我させないように制御しないとだめだろう。あのままじゃあドンナー君とそれを取り押さえている生徒たち丸ごとこの世にグッバイしているよ。
全員が驚いた顔をしている間にけが人がいないかは確認しておく。
ドンナー君も捕まったときのものらしき擦り傷くらいで大きなけがはなさそうだ。
とりあえず説教をしたのに反応がないので「お、こいつ舐めてんのか?」と売られた喧嘩を買おうとしたがハルに止められてしまった。私の魔法の所為だって言われてしまうと私が悪いみたいね。悪いことをしているかもしれないけれど。
指を鳴らすのもありだけれど、ならなかったときの恥ずかしさがものすごいので手を叩いて魔法を解いてあげた。
「エルマン様……?」
なぜかドンナー君を抑えている生徒たちが心配そうに、しかし駆け寄ることもなくその生徒の名前を呼ぶ。
エルマン――エルマン?名前なのか名字なのかすらわからないな。
ちらりとハルを見るが自分が知るはずないだろうという目を向けられる。まあ、当たり前か。
ドンナー君はこちらを呆然としたような顔で見ている。
なんだ、宮廷魔術師長も教師も言っていなかったのか。まあいう必要もないか。
「わ、私はジークムント・エルマン。エルマン子爵家の者です!フォ、フォルツァーノ様とお会いできて光栄です」
エルマン子爵……やっぱり知らんな。いや、聞いたことはあるかもしれないけど、子爵クラスになると兄と関わってない限りおぼえられないよねえ。
侯爵家・伯爵家でも結構な家がある。全家を覚えるなんてこと私にはできないし、さらにその子息令嬢までいくともう無理だ。
「そうですの。私、ドンナーさんに用がありますので失礼しますわ」
目の前の人物に興味もわかないのでとりあえず仕事兼楽しみの一つでもあるドンナー君のしごきに移ろうと挨拶する。
そんな私になぜかエルマンは口を間抜けに開けて、驚いたという感情を隠すことなく見せてきている。
何か驚くことでもあっただろうか、自分が流されることなんて今までになかったとか?
「あ、あの、フォルツァーノ様はこちらに通われているのですか? 今までお会いできなかったと思うのですが」
「私は魔法を学ぶ必要がありませんから。もう、行ってよろしいかしら?」
必死に食いつこうとされるのが面倒になったのでさっさと解放しろという気持ちを込めて返せばひゅっと息をのみ、何度もうなずいて見せてきた。まるであかべこのようだ。スピード感のあるあかべこ。
可愛さは段違いだけどね。
必死に食い下がるときの表情や空気がなんとか私の家とつながりを持とうとしている時の他貴族みたい で、あまりいい気分もしなかったから礼儀としては失礼かもしれないが構わないことにした。
「ドンナーさん、行きましょう」
「は、はい!」
どうしたらいいかわからない、といった顔をしていたドンナー君についてくるように促してその場を後にした。




