閑話――シュラーク・ドンナーの驚き
ぎゅっと目を閉じ、来る衝撃に備える。
その、一瞬にも満たないはずの時間がとても、とても長く感じていた。
「――?」
しかし、それは感覚だけではなかった。
どれだけ待ってもその衝撃が僕を包み込むことはなく、僕だけでなく取り巻き達も不安そうに、少し安心したようにと息を漏らす。
ゆっくりと目を開けると、そこには口をパクパクと開けたり閉めたりしながら驚愕の表情でこちらをみているエルマンの姿があった。
「まったく、騒がしい方々ね」
取り巻きも含めて驚いた顔をしている僕たちの背後からため息交じりに聞こえた声に反応できたのは僕だけだった。
「フォルツァーノ様!」
「御機嫌よう、ドンナーさん」
振り返ってその名を呼ぶと、いつも通り護衛の人を連れたフォルツァーノ様がそこに立っていた。
「な、だれだ」
ぽかんとした顔の取り巻きがこぼした言葉には一瞥だけを返し、それにしてもと感情がわからない表情でエルマンを見つめる。
「学生かしら? 同じ学園の生徒に対して攻撃魔法を向けること、この学園では許されていないと思うのだけれど」
そうでしょう?と首をかしげるフォルツァーノ様にエルマンは何か言いたげに口を動かしている。しかし音は一切聞こえない。
「答えるつもりはない、ということかしら」
私に対して、と目を細めるフォルツァーノ様。それに合わせて周囲の空気がどんどん冷たくなっていっている。
エルマンの顔色がどんどん青くなっていっている。
エルマンだけじゃない。
僕や、僕を取り押さえていた取り巻き達も恐怖と寒さでガタガタと震えてしまっている。
「お嬢」
「あら、何かしらハル」
「お嬢が話せなくしているから答えないのだと思います」
護衛の人がフォルツァーノ様に呼びかける。
フォルツァーノ様がその言葉にそういえば、とほほに手を当てる。
「あ、あの、フォルツァーノ様。話せなくしたっていうのは」
「≪沈黙≫――言葉を抑えさせていただいているの」
まるでなんてことの無いように答える姿に、取り巻き達が息をのむ。
そんなこと、普通の魔法使いじゃできない。
先生たちから聞いたことはある。
この国で一番の魔法使いの話。宮廷魔術師長よりも優れているという噂もある、≪魔法使い殺し≫の話。
パンッ
フォルツァーノ様が手を叩いて鳴らすとエルマンがせき込んだ。
フォルツァーノ様の魔法が解けて一気に声が出た反動のようだ。
「フォ、フォルツァーノ様って、まさかフォルガードン侯爵令嬢?」
「あら、知っているの?」
エルマンの絞り出すような声に対してフォルツァーノ様は何でもないようにその通りだと返す。
それを聞いたエルマンの顔は、先ほど以上に驚愕と恐怖に飲まれていった。




