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最強転生少女はニートを希望する。  作者: 三毛林実卦
学園編

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閑話――シュラーク・ドンナーの呟き


「お嬢、そろそろ」

「あら、もう時間なのね。それではドンナーさん、御機嫌よう」

「は、はい!」

 護衛だという男性を連れて部屋を出ていく彼女、フォルツァーノ様を見送って僕はふうとため息を吐いた。

 フォルツァーノ様からの教えを受け始めてそれなりに経ったと思う。もちろん、この学園で学んできた時間よりは短いけれど。

 期限はこの長期休みの間だけ。落ちこぼれの僕じゃまだ≪瞬間移動≫だけ(・・・・・・・・)しか満足に使えない。

 そんな僕にフォルツァーノ様は厳しくも感じるほど熱心に教えてくれる。

 厳しいというか、あの人にとっては普通なんだろうなあ。

 そもそも魔法を呪文なしで使おうなんて普通は考えないし、できることじゃない。

 それを簡単に、まるでこちらが普通だと言わんばかりに使ってみせて、それを自分だけにしておくんじゃなくて僕みたいな落ちこぼれにも教えてくれるのだから、本当にすごい人だ。

「僕も頑張らないと」

 家の手伝いをしながらも頭の中では教えられた通り、頭の中で魔法を固定する練習だ。

 集中してやるべきではないかとも思ったが他のことをしながらでも頭の中で簡単に思い浮かべられるのがいいんだそうだ。

 まだまだ、上手にできないけれど練習を続けていきたいと思う。



「おいおい、お前何してんだよ」

 フォルツァーノ様の講座に遅れそうで慌てて走っていたら後ろから嗤っているような声をかけられた。

 びくりと肩が揺れる。無視したいけれど、そんなことをしたら僕だけでなく家族にも迷惑をかけてしまうかもしれない。

 だから仕方なく足を止め、振り返った。

「もしかして、自主退学をしに行くのかな? ドンナーくん?」

「エルマン、様」

 呼び捨てにしようとしたらぎろりと睨んでくるのは同じ学園の魔法科に通うジークムント・エルマン。エルマン子爵家の人だからとても偉そうで、周りを裕福な商人の子供たちで固めて僕みたいな普通の学生に絡んでくる。

 そのくせ、自分より身分が高い人が相手だと媚びを売るから本当に苦手だ。

「すみません、急いでいるんです」

「おい、俺が待てと言っているんだぞ。どんな用事かは知らないけど俺を無視していいはずないだろう」

「と、特別講義があるんです」

 嘘はついていない。フォルツァーノ様は学園の教師ではないけれど、ちゃんと学園側から与えてもらったチャンスなんだから。

「はあ?お前に特別講義って、そんなの必要ないだろ? 落ちこぼれなんだから」

 エルマンの言葉に周りの取り巻きがゲラゲラと笑う。

 別にそう思っているんならそれでもいいから、解放してほしい。

「すみません、遅れると迷惑をかけるから」

「教師なんかより俺の方が偉いんだからな。いいから俺達と遊ぼうぜ」

 にやにやと嗤いながら僕の腕をつかむエルマンにやめてくれと必死で頼む。

 こいつらの遊びって、僕に弱い魔法をぶつけたりすることだから痛いし怖いし逃げたいんだ。

 それに、僕が教えてもらっているのはフォルツァーノ様だ。

 年齢は変わらないのに学園に通っていない、会ったことがない人で、講師をしてくれている人。きっと偉い人なんだと思う。文字もすらすら読んでいるし。

 エルマンもフォルツァーノ様も僕には空の上の人で、それなら嫌な奴より恩を受けている人を優先したい。

「ごめん、急いでいるんだ」

 そう言って振り切り、先に進もうとした。

「お前、何様のつもりだ!」

 エルマンの怒鳴り声と、大声で呪文詠唱が聞こえ始めた。

 慌てて走って逃げようとしたが取り巻き達に取り押さえられてしまう。

「離して!」

「そのまま捕まえてろ!」

 取り巻きの中でも大柄な生徒が他の取り巻きに命令する。

 その間に呪文は佳境に差し迫っていた。僕を捕まえている取り巻き達もその呪文が何をしようとしているのか気付いて真っ青だ。

「攻撃魔法はまずいですよ……!」

 取り巻きが必死になだめようとしているが、エルマンは真っ赤な顔のままで僕を睨みつけ、呪文を止めようとしない。

 死ぬことはなくても、大けがは間違いなしだ。休暇中は何もできなくなりそうだ。

 それは僕だけじゃない。あの状態の彼が僕だけに攻撃を当てら得るとは思えない。


 最後の一小節が終わる。

 彼の伸ばした手から火の塊が、僕たちに向けて飛んできた。


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