ニート、無茶ぶりする2
魔法の指導を始めて早数日。
「ほら、形が乱れていますわ。細部だけでなく全体にも気を配ってくださいまし」
「は、はい!」
現在は自分の属性を剣にまとわせる練習中だ。
ん?魔法使いは剣を使わないのではないかって?そりゃあそうだろうね。
これ、結構難しいし使わないものなんだけども、彼の中に『自分は落ちこぼれだからできない』という考えがあるみたいでね、そんなのに固執してたらどう教えても無理だからスパルタというか、無茶ぶりをしてその考えを粉微塵にしてやろうと画策中だ。
実物を作り上げるよりもそのままの属性で形をとどめる方が難しい。
剣の周囲に、彼の場合は雷を纏わせてそのまま3分静止させる。
これが出来れば雷で剣を作ることなんて簡単にできるだろう。一気に作り上げる方が持続させるより簡単だからだ。
こうやって少しずつ落ちこぼれとか関係ないってことを覚えさせようかなと、あとあわよくば簡単にこのレベルまでやってくれないかなとも思っているけど、まあ無理は望むまい。
「この纏わせる行為は自己防衛にも利用できますわ。自分の周囲に防御膜を張るというのも、この纏わせる行為と同じだと考えればいいのです。防御膜に属性を付属することで歩兵相手に有利に行動できるようになりますの」
「えっと、僕は戦場に出る予定はないんですが」
「あら、このまま冒険者ではなく就職した場合は国からの要請であれば拒否権無く戦場に連れていかれますわよ?」
何を言ってるんだ、と首を傾げればきょとんとしていた顔が見る間に青くなっていく。
忘れているのか、考えていないのか、戦場に立つ可能性を考えてない子って割と多いらしいんだよねえ。
私だって兄から命令されれば戦場に立ちますし人間相手でも手加減なく命を奪うことになるわけだ。
それを理解しているし、特に私は『侯爵家令嬢』という身分によってちやほやされ、保護されている。その身分が持つ義務はちゃんとこなすつもりだ。
あ、令嬢としてというよりも『侯爵家の魔法使い』として、といった方がいいかもしれないけど。
「まあ、なんにせよ防御を考えるのは生きていくうえで大切ですわ。自分だけでなく、大切なものを守ることにも使えますから」
さすがに戦場の話は先走り過ぎたようなので身近なものを守れるぞーという方向に話を変えておく。
こちらには関心があるようで、飛びかけていた意識を自力で引き戻してくれた。
「他の――あの、フォルツァーノ様は他の人に纏わせる、ですか、それをすることはできますか?」
「ええ、簡単よ。私は使いやすさから風を利用することが多いけれど、そうね。見やすいようにしましょうか。ハル」
実はこれまでで初めてドンナー君が自ら興味を持ってくれたので私もやる気になった。
呼ばれたハルは今度はなんだと訝しみながらも素直に近づいてくる。
「見やすさを重視したいけれど、炎は室内では暑苦しいわね。色水にしましょう」
魔法で作った炎なら延焼したりしないけれど、ドンナー君が慌てそうなので安心と信頼の水の膜にすることにする。
ハルに合図をすると心得た、とばかりに手を少し広げた状態で立つ。
「まずは円」
水の泡の中にハルを入れるような形だ。水の中に入ったときに最初に使ったけれど、色水にするととても見やすい。ハルの表情は見えないけど。
「次に体に沿わせて」
指の一本一本、というのは張るが指を広げてないから難しいけれど、腕に沿って水の膜を縮める。
「すごい……」
「ちゃんと呼吸ができるようにもなっているわ。これが炎にすると魔法使い相手でなければ手も足も出させないわね」
触ったら大やけどだからね。
「こ、これは僕もできるようになりますか!?」
「貴方ができると信じることができればできますわ。先ほどの練習でもそうですけれど、頭の中で全体像がしっかりと固まっていれば瞬時に起動することもできますの」
そこまでやれて、ようやく実践に使用できるレベルかな?と思う。
戦闘中に教えを思い出して、最初からじっくりとイメージを固めて、なんてやってたら使う前に倒されてしまう。
「がんばります!」
ドンナー君はいい返事をして、先ほどよりも集中して剣と向かい合い始めた。
何がどう琴線に触れたのかわからないけど、これはもう少し先に進めそうかな。




