ニート、度忘れを発動する。
「ほら、あやふやになると変な移動先についてしまいますわよ」
「自分が降り立つ場所を思い浮かべるように。上空から見た景色なんて、そのまま空中に放り出されますわよ」
「もう一度向こうまで行って、景色を覚えましょうか」
座り込むドンナー君を見下ろしながらそう提案する。
いやあ、私もまさかここまで難しいとは思わなかったんだよなあ。
うーん、何か間違えてるかなあ。というかなぜ上空からの景色を思い浮かべちゃうんだ、いつ見たんだ。
「お嬢」
「あらハル、どうしまして?」
さて、では移動するかとドンナー君の腕をつかんだところでハルが声をかけてくる。
少々呆れたようなそれに、私が何かやらかしたかと首をひねっていると本当に気づいていないんだなあと呆れたように肩を落とし、とりあえずドンナー君の腕は放すようにと言われる。
「お嬢、お嬢の≪第三の目≫で向こうの景色を見せながら移動させればいいではないですか」
……その手があったか。
「正直に申し上げて、考え付きませんでしたわ」
「なんでお嬢は時々底抜けに抜けているんですかね」
「私の魅力の一つと思いなさい」
そう、ちょっと抜けているほうが可愛いのだ、そのはずだ。
そのはずだけどそのセリフはなんかいらっとくるな、やっぱり抜けてない方がいいな。計算だとしておこう。あれ、なんか違うな。
しかしそうか、≪第三の目≫があったな。
もともと自分で見るものだけど、やろうと思えばそれを他人の視界に移すことも可能だ。ハルやエリーザには使ったことがある。
「あ、あの、フォルツァーノ様?」
私が考え込んでいる所に恐る恐るといった様子でドンナー君が声をかけてくる。
だからなぜそこまで怯えるんだ。同年代じゃないか。
「ドンナーさん、やり方を少し変えますわ。私の魔法、≪第三の目≫で貴方に移動先の景色を見せます。その状態で≪瞬間移動≫を行ってもらいます」
「≪第三の目≫、ですか?」
「ええ。元々は遠くを見ることもできる、視力系の魔法なのですけれど。使いようによってほかの方にも見ていただけますのよ」
「そんなこと、できるんですか?」
「ええ。試しに、景色を送りますからその場所に≪瞬間移動≫してみてくださいね」
そういってまず、自分の中で移動先を選ぶ。ハインツたちがいる詰所の近く。人通りがない場所にしておけば巻き込むこともないだろう。
ようは、先ほど私が移動した場所だ。一番使い勝手がいい場所を選んでいるからね。
後はそれをドンナー君に飛ばすだけだ。視界ジャックみたいで楽しい。こっちが映像を流す側だ。
「わっ」
突然現れた景色に声を上げるドンナー君。わかるよ、最初はみんな驚くんだ。
私の視界にもその景色は投影されたままだ。同じものを見ているほうが指示が出しやすいからね。
「見えている場所が、先ほど私がドンナーさんを連れて行った場所ですわ。この状態で、≪瞬間移動≫の練習をしましょう」
「は、はい」
「≪瞬間移動≫の考え方は人それぞれでもありますわ。その場所に自分が立っている、その姿を想像し、視界に投影する方法もあります。すぐにできなくても、いろいろな方法を試してみるくらいの気持ちで十分ですわ」
これは本当。
私の場合は門と書いてゲートを開くイメージだ。
他にも二つの地点を繋ぐ装置を起動するとか、どこぞの帰還用道具を使うイメージとか、いろいろ試してみたこともある。
しかしこれは私の前世の記憶が支えているイメージだ。
こっちの人の場合は魔法陣でつながるイメージがやりやすいのかな。
魔法陣を使う≪瞬間移動≫を主流にしたのも、そのあたりが理由だろう。
「が、がんばります!」
「どうしても無理なら、魔法陣をイメージするのもいいわ。ただし、呪文には頼らないこと。いいですわね?」
「は、はい!」
緊張させてしまったようだ。
あまりガチガチでは成功できないだろう。イメージを強固にするのはリラックスした環境も大切だ。
まあ、最初はいろいろ試してもらって、失敗しても大丈夫だと伝えていく形でいいかな。
これからの流れを考えながら、ドンナー君の魔法を拝見することにした。




