ニート、お城に向かう
新章始まります。
えー、本日は御日柄もよく――あ、そういうのはいい?
「お嬢、今日は気合入ってますね」
外に待たせていたハルが私の恰好を見て目を瞬かせながら感想を行ってくる。エルデ達はその言葉に満足げだ。
今日は昼用のドレスを着ている。普段来ているワンピースや屋敷用のドレスとは違い、昼間のパーティに御呼ばれするときにも着ていける奴だ。
その中でもかなりいい生地を使っている。しかし派手になりすぎず、動きにく過ぎず。簡易正装としても及第点がもらえそうなものを選んでもらった。
いやあ、大変だった、主にエルデ達が。服を探すのもそれに合わせて髪型を整えてアクセサリーを選ぶという大仕事をこなしたメイドたち、とくにエルデやヒメル、エリーザはとても頑張っていた。
こんなに頑張ってもらったのには理由がある。
「それで、今日はどちらに?」
自分を呼んだのだから外に出かけるのだろう、そう問いかけるハルに私は(できる範囲で)にっこりと笑って見せた。
「ちょっと、王宮まで」
この国の城はファンタジーによくある大きな西洋風のお城だ。
城の敷地の周りには高い塀があり、入り口には門番が立っている。
お城に入ることができるのはそれなりの地位にある者か、招待を受けているもの。物資を運び入れる専門の業者に限られているためチェックは厳しい。
その難関をどうやって乗り越えるのか?
答えは簡単だ。
「フォルツァーノ侯爵家の方ですね。どうぞお入りください」
顔パスである。
正確には馬車パスというかなんというか。
私の髪と目をみれば城に努める人間であれば私が何者かはなんとなくでもわかってもらえるらしく、こうして城の中に顔パスで入れるのだ。代わりに案内役兼監視役として兵士と魔法使いが送り込まれたりする。
「フォルツァーノ様、本日はどのようなご用件でしょうか。侯爵でしたらこの時間は訓練場で指揮を執っておられるかと思います」
女兵士が馬車を降りた私の前に立って訊ねてくる。
「いいえ、今日は他の方に用がありますの」
「他の……。ヴェスパジアーノ殿下でしたら今は公務中ですが」
私の知り合いが二人しか思い浮かばなかった女兵士は首をかしげながら殿下の名前を出す。うん、私殿下を訪ねて城に来たことはないね。
殿下を訪ねてきたことはないが、兄以外にもう一人、私が会いに来たことがある人がいるのだけれども忘れられているみたいだ。
まあ、私が年齢一桁の頃だからな。仕方ないな。
もう一人、保険でいつも連れてこられている魔法使いはそのもう一人に思い当たったらしい。
あ、と声を漏らした後おそるおそる私に声をかけてきた。
「もしかして、オーデム様ですか?」
「オーデム様――オーデム宮廷魔術師長に?」
魔法使いの告げた名前に女兵士が驚いたように繰り返した。
グリプス・オーデム
この国に仕える魔法使いを取りまとめている人間だ。
白髪交じりの髪に眉間のしわがトレードマークな偏屈じじい――もとい、壮年男性である。
「あの、ご用件をお伺いしても」
「あら、どうして?」
にっこりと笑って見せると女兵士は青ざめて首を横に振る。
いや、青ざめるのは失礼じゃないか?私はただ笑っただけだぞ。
「せめて、先にオーデム様にお伝えしてもよろしいでしょうか? 公務中ですとすぐには対応できかねない場合がございます」
魔法使いがおそるおそる私の表情を窺ってくる。
「そうね。お願いしてもいいかしら?」
「はい!」
頷いた魔法使いがなにやら呪文を唱え始める。
えーっと、なになに?伝達系統の呪文ってことは、今連絡するのか。
おそらくオーデム宮廷魔術師長本人ではなく伝達官とかそういう相手だろう。
ふふふ、確かに私は呪文を使わない派だが呪文がわからないとは言ってないのだよ。敵が使う呪文がどんなものかわかっていると対策しやすいしめっちゃかっこいいからそれがわかるような魔法を常に発動している。
呪文を勉強もしたけどね、翻訳機能つけた方が楽だったんです。魔力はどれだけ使ってもいいし。
「お待たせいたしました。オーデム様はすぐにお会いできるそうです」
「そう、では行きましょう」
魔法使いの言葉に頷いて、私はオーデム宮廷魔術師長のいるらしい彼の執務室を目指すことにした。
2016/12/08/訂正魔法宰相→宮廷魔術師長
2017/02/09/フォルガードンって誰だ……。フォルガードン→フォルツァーノ




