ニートと魔法談義
宮廷魔術師長の部屋は王宮内でも中心部近くにある。
魔法関係の部署はここ以外に城の少し奥まった場所にある魔法研究署と入り口寄りにある魔法省があるが、宮廷魔術師長はその身分と仕事内容から政治の話がしやすい場所にあるのだ。
宮廷魔術師長の部屋の前まで行くと部屋の前に待機していた兵士がこちらに気付き中に確認を取る。
「フォルツァーノ様、どうぞお入りください」
「ありがとう」
わざわざ扉を開けてくれたので礼を言って中に入る。ハルはもちろん、女兵士もここでお留守番だ。
「これはこれは、エルヴィーラ嬢。このような場所に来られるとは珍しいですな」
「御機嫌よう、オーデム宮廷魔術師長閣下。まあ、ヴェスパジアーノ殿下、御機嫌麗しゅう」
室内には部屋の主以外にヴェスパジアーノ殿下もいたので少し驚いた。
驚いたのは殿下も同じようだ。困った顔をして私と宮廷魔術師長を見ている。
「エルヴィーラ嬢、久しぶりだな。それにしても、オーデム宮廷魔術師長にどんな用事が?」
「ええ、そうですわね。オーデム宮廷魔術師長はたしか学園の経営も任されているとか」
「そうですな。学園の、魔法科に関してはすべて宮廷魔術師長が取り仕切ることになっておりますので」
魔法使いが通う学校は貴族たちが教養を学ぶために通う『学園』の中の一学科という位置づけにある。
その実、魔法という強力なものを学ぶために学園とは分けて作られており、管轄もここだけは魔法省になっている。その責任者は宮廷魔術師長だ。
「少し、気になることがありますの」
「気になること、ですか」
「ええ。実は、私の魔法を見たある学園の卒業生だという方に私の魔法を否定されてしまいましたの。見たものを信じずそれでいて魔法に詳しいと言ってしまう、学園の教えに問題があるのではないかと思いましたからそれを聞きに来ましたわ」
普段通りの表情で言い切ると宮廷魔術師長の目じりがピクリと動いた。
殿下は何故か胃のあたりを抑えている。どうした、胃腸でも悪くしたか。
「失礼を承知で発言しますが、エルヴィーラ嬢の魔法は我々の知る魔法とはあまりにも違いすぎますので。卒業生の言葉は間違いだとは言い切れないと思いますが」
「あら、私は魔法使いの中で失われたと言われる≪魔法使い殺し≫が使えるのでしょう?あなたたちの知る魔法を使っていると、貴方方が結論付けたと思っていましたわ」
「貴方の使うそれは確かに伝承によって伝わる≪魔法使い殺し≫と同じ効果でしたからな。だがしかし、魔法は詠唱によって動くもの。詠唱のないあなたの魔法は、魔法とは呼べないのではないかと思っております」
「貴方が知らないだけで、呪文なしに魔法は使えるものなのよ?」
「私の人生で出会ったことがありませんからなあ。書物にもない、それを信じよと?」
「まあ、傲慢。“普通の”魔法使いの一生で、全ての魔法が紐解けると思っておいでかしら。百聞は一見に如かず。実際に目にしたものを信じられないのであれば、その目は必要ないのではなくて?」
張り詰めた空気、なんてものではない。
殿下は腕をさすりながら顔を青くし、私の護衛兼監視として付いてきた魔法使いはガタガタ震えている。
「その、二人とも落ち着いて」
「殿下、殿下は私を魔法使いではないと、そう思われますか?」
「殿下、どうやら魔法というものについて、エルヴィーラ嬢は我々と見識が違うようなのですが」
「こちらに話を振らないでくれ……!」
殿下の心から絞り出すような声に私と宮廷魔術師長がほぼ同時に肩をすくめる。
「それで、貴方の魔法を否定して卒業生がいると、それを伝えにわざわざここまで来てくださったのですか?」
「まあ、私はそれほどつまらないことはしませんわ。学園での教え方に問題があるのだからそれを直すようにと、改善を求めに来ましたの」
「そういわれましてもたった一人の例外のために教えを変えよ、とはいささか我儘なのではないでしょうか」
「あら、無詠唱魔法なんて誰でも使えるものですわ。オーデム様が無理だとおっしゃるのなら、私が教えて差し上げましょうか?」
「ほう、面白い」
宮廷魔術師長の目が光る。
殿下はもう好きにしてくれと魔法使いに外の兵士に胃薬を持ってくるよう伝えろと伝言を頼んでいる。
魔法使いは自分の分も足して外の兵士に頼んでいる。
私は、自信をもって宮廷魔術師長を見つめている。
そんなカオスな空気の中で、宮廷魔術師長はある提案を持ちかけてきた。
2016/12/08/訂正魔法宰相→宮廷魔術師長




