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「おいアルあそこ見てみろよ、ワシが飛んでるぜ」
「え!?どこどこ?見えない!」
「エイルちゃんはニーナさんのおつかいで村外れまで行くのかい。今日も偉いねぇ」
「…うん」
「ふふっ、エイルさんはいつもアルフリート様と一緒ですね」
レイとサーシャ、ディアドラを加えた5人で村外れまで行くことになったアルとエイル。2人の時でも賑やかだったのに、人数が増えて更に騒がしくなったようだ。
「そういやアル様、アデーレのこと聞きました?あの子もおめでたらしいですよ」
「アデーレさんが!?だから最近体調不良で休んでたんだね。後でお祝い伝えないと!あ、でもそうなると侍女のお仕事どうするんだろう…」
アデーレというのは館で働いてくれてる侍女の一人で、サーシャの同僚だ。ここ最近休んでいたので心配していたのだが、そういう理由だったのかと驚き、目を剥くアル。
しかしこのままだと侍女の仕事を続けられないんじゃないか、と再び心配してしまう。
「一旦辞める事になるそうですけど、心配なされたレーティア様が乳母として雇えないかとフィンに聞いていましたよ。丁度同じ時期に産まれるそうですし。ただ、どうなるかは…」
そんなアルを安心させるためか、 乳母として雇う道もあると伝えるディアドラ。
貴族の赤子には乳母がいるのは当たり前なのだが、貴族の常識という物が欠如しているアルには考え付かない事だった。
「乳母!なるほど、そういう雇用も有るんだね!後で俺もフィンにお願いしておくよ!」
普通の貴族であれば乳母を選ぶ際、身元や人柄、背後関係に本人の思想など、それはもう厳しく調査するのでそう簡単には決められない。
母親の代わりに赤子に乳を与えるのだから、やろうと思えば毒を盛る事だって出来てしまうのだ。
現に他国の話だが、弱い毒を自ら飲み続けた乳母が毒の含まれた乳を赤子に与える…という事件もあったらしい。
それでなくても乳母になるという事はその人物に『格』を与える事になる。
乳母の実子とは同じ乳を飲んで育った『乳兄弟』になり、場合によっては大人になってからでも親しく、本当の兄弟のように付き合う事もある。そうなれば乳母自身も多大な影響力と発言力を持つ事になるのだ。
もちろん人格者であれば、乳母だったという立場を利用して成長した主人に苦言を呈したり、諌める事も有るだろう。
しかし中には権力に溺れ、己の欲を満たそうとする者もいると歴史が証明している。もしそうなればその貴族家自体を衰退に追い込む原因となり得るのだ。
普通であれば親族や親交のある他の貴族から乳母を選ぶのだが、ヘイルムーン家には親族はいないし、こちらから縁を結びたいと思うような貴族もいない。
というよりもディルトはあえて他の家と距離を取っているようだった。
生まれてくる子とヘイルムーン家の今後の事を考えると、相応の人物に任せなければいけないのだが…。
「そいつはアデーレも喜ぶだろうさ。アル様、すまないねぇ」
「ま、まだ決まったわけじゃないし!言い出しっぺはお母さんだし!気にしないで!」
そんな事情を全く知らないアルとサーシャは、もう決まったも同然と話をする。
しかしディアドラは乳母の重要性を知っていたので『そう簡単には決められないでしょうね…』と言おうとしていたが、今ここで伝えるのは野暮だと思ったのか口をつぐんだままだった。
「そうなると侍女が1人減るから、追加で募集するのかな?丁度いい人がいればいいけど」
「希望する子は多いと思うけどねぇ。なんたってちゃんとお給金が貰えて仕事も楽しい。奥様や旦那様は優しくて話しやすいし、そんでもって募集の条件も緩いとなれば人気が無い方が不思議さ。…キツネ顔はうるさいけどね」
普通、貴族の家で働く侍女と言えば『年若い未婚の女性』と相場が決まっているのだが、ここヘイルムーンでの募集の条件は『既婚の女性』だった。
侍女達には煙たがられているが、これは筆頭事務官であるフィンの思惑が大いに反映された結果だ。
ディルトの侍女へのお手付き防止である。
『お手付き自体はかまいません。いえ、むしろして頂かなければ困ります。ですがそれは平民の侍女では無く、貴族の娘でなくてはなりません』
以前、ディルトとレーテの二人に真顔でそう言ってのけたフィン。
言われた当人達はぽかーんと口を開け『ア、ハイ…』と分かっているのかいないのか、生返事を返すだけだった。
ディルトの近くにいる貴族の娘となると、レーテの護衛役の女性騎士達しかいない。
国王自ら精査した『側室候補』でもある彼女達をディルトに勧めるのは、国王の臣下であるフィンならば当然のことだろう。
中央貴族の、しかも国王の息の掛かった家の娘である彼女達がディルトの側室に収まれば、王家とヘイルムーン家との間に目に見える形で確かな繋がりが出来る。
貴族の家というのは婚姻や養子に寄子寄親など、複雑怪奇に網の目のように絡まり合っている。
その点ヘイルムーン家はほとんど他の家と関わっていない。
ディルトは名目上だけではあるが『海運諸王』トールキンの血筋という事になっているし、国王バルタザールの覚えもめでたい。
しかも30手前とまだまだ若く男盛りだ。それなのに側室が一人もいない。
救国の英雄となった『浮遊剣』のディルトラントと血で繋がり、その威光にあやかりたい。そしていずれは王家とも縁を―――そう考える貴族達にとって、まさに信じられないような良物件なのだ。
もしレーテに第二子が出来たと彼等に知られれば、乳母と側室の売り込み合戦が始まっていただろう。
もちろんそれだけのメリットがあればデメリットもある。
ヘイルムーン家に近づくということは、平民出のディルトを快く思わない保守派貴族達や、先の戦で戦功を奪われたと逆恨みする一部の者達に睨まれるという事だ。
えてしてそういった者達ほど欲深く、執念深い。
国王にしても側室となった貴族の家にディルトとの仲を取り持った恩が売れるし、他の家と横の繋がりを得ることはヘイルムーン家にとっても有益な事だ。
肝心のディルトとレーテの気持ちを考慮しなければ、という注釈が付くが。
そんな国王とフィンの思惑を知ってか知らずか、ディルトは女性騎士どころか侍女達にも全く興味が無いようで、その心はレーテのみに向けられていた。
赴任して数ヶ月経った頃には女性騎士達が『はいはいごちそうさま。末永くお二人で幸せになって下さい』と呆れてしまうほど仲の良さを見せつけたレーテとディルト。
中には側室の座を本気で狙っていた者もいたが、そういう者はディルトが『脈無し』と見ると1、2年で家に呼び戻され王都に帰って行った。
彼女達は赴任当時、結婚適齢期である10代中盤から後半。これからの人生を左右する大事な時期であり、その親にしてみれば娘達の嫁ぎ先を決め、他家との繋がりを得る大事な時期だ。
その貴重な時をこんな辺境で無駄に過ごさせる訳には行かなかったのだろう。
そのため最初は5人いた女性騎士も現在は3人、しかもその内の2人も近々呼び戻されてしまうらしい。
彼女達もヘイルムーンに来て早5年。20才を過ぎてしまっているので、貴族の娘としては完全に『行き遅れ』だ。
本来なら交代の女性騎士が来るはずなのだが、その人選は難航しているようでまだ決まっていない。
ディルトの側室になれるかもしれない、という旨みが消えてしまったので娘を送り出す貴族がいなくなってしまったのだ。
ただディアドラを含めた今いる3人は国王の命でヘイルムーンに赴任し、結果的に婚期を逃していたのだから王家が責任を持って良縁を世話するらしい。
しかしディアドラ本人は結婚する気などさらさら無いようで『王家からの紹介で縁談が来ている。さっさと帰って来い』という実家からの手紙をずっと無視し続けていた。
流石に心配したディルトがそっとディアドラに聞いてみると『私までいなくなったら、いったい誰がレーティア様をお守りするのですか』と言い返され、ディルトはもう感謝するしかなかった。
ちなみに直近の手紙では『お願いします帰ってきて下さい!何でもしますからぁ!(意訳)』という内容に変わっていた。
王家の紹介で来ている縁談の返事を保留し続け、ずっと先延ばしにしているのだ。
勝手に断る事も出来ず、かと言って本人がいないのに進める事も出来ずと、相手の家と王家に対して相当気まずい思いをしているに違いない。
「そういえば気になってたんだけど、ディアドラさんとサーシャさんって仲良かったんだね、ちょっと意外。家でもそんなに話してないよね?」
館でのディアドラはわりと無口な方で、サーシャはもちろん他の侍女ともあまり話しているところを見たことが無い。それにサーシャはヘイルムーン生まれの平民なので、身分の差も相当に有るはずだ。
以前他の女性騎士からこっそり聞いた話では、ディアドラは王家に近い血筋の生まれらしい。普通ならアルやディルトだって気軽に話せないほどの高貴な血だ。
しかしアルがそう聞くと、ディアドラとサーシャは二人で笑い合う。そこには身分や生まれ等を気にする様子は全く無かった。
「年も近いですし、なぜか気が合いまして…。お屋敷では基本的に仕事中ですから、レーティア様の護衛である私が私語をする事はありませんので」
「その代わり仕事が終わればよく話すねぇ。非番の日には家に遊びに来てくれることもあるし、今日だって………あっそうだ!アル様聞いて下さい!この間なんてチビどもの世話をしてくれたり、畑仕事までやってくれたんですよ!」
「サ、サーシャッ!そのことは内密にと言ったじゃないですか!」
先程までの余裕のある微笑みが崩れ、今まで見たことが無い表情で慌てふためくディアドラ。
そんな彼女の顔を見て笑うサーシャの姿は、なるほど流石はレイの母親だ。と納得する物が有った。
当のサーシャは「あれぇ、そうだったっけ?すっかり忘れちまってたよ!」と笑顔ですっとぼけていた。
「へぇー、ディアドラさんが子守に畑仕事って意外だ!」
突然友人から秘密をバラされたディアドラは恥じらうようにその頬を赤く染める。だがもう観念したのか否定はしなかった。
「その、子供は可愛いですし…畑仕事もやってみると面白いので…子供可愛いですし………」
しかし動揺しているのか同じ事を繰り返し言ったり、視点がウロウロと辺りをさまよっている。アルは館での無口で凜とした姿ばかり見ていたので、こんなディアドラの表情は新鮮だ。
「どうだいアル様。この子ほっとけないぐらい可愛いだろう?」
「うん、いわゆるギャップ萌えだね」
何故か自慢げなサーシャだったが、アルは気にせず同意する。
ただでさえ普段の凛々しい姿が密かに人気のディアドラなのに、こんな姿を村の若い男達が知ったら色めき立つだろう。それを上回る若い女性達の黄色い歓声も加わるだろうが。
「ぎゃ、ぎゃっぷもえ?アル様はよく分からない言葉を使うね………まぁそれはそうとこの子の結婚の世話をしておやりよ、ディルト様の側室が無理ならアル様が娶るとかさ」
「いやいや無理でしょ何言ってるの!?年離れすぎだよ!」
サーシャの突然の提案に我も忘れ素で返してしまうアル。流石はレイの母親と言うべきか、周りを自分のペースに巻き込むのはお手の物のようだ。
「えーそんな事ないと思うけどねぇ…それにアル様、最初は年上がいいって言うじゃないか、ねぇディアドラ?」
「…え?サーシャ?」
ここでサーシャがディアドラに対して目配せを送る。
始めは意味が分からず、きょとんとしていたディアドラだったが、その意図を理解すると二人で頷き合ってから目を伏せる。そして悲しそうな表情を浮かべ、これ見よがしに潤んだ瞳でアルの目をじっと見つめた。
「アルフリート様は私がお嫌いですか?そうですよね、こんな行き遅れの大年増なんて押しつけられても、迷惑なだけですよね………」
「ディ、ディアドラさん?」
いじられる対象が自分からアルへと変わった事を敏感に察知したディアドラ。決してこの機を逃すまいと話に乗って来た。
「あぁ5年前ならまだしも、20才を過ぎた私に結婚相手なんて見つかるのでしょうか?あぁっ!5年前ならまだしもっ!」
ことさら5年を強調し、ヘイルムーンでの5年間の任務で婚期を逃したことを暗に言ってくる。その大げさでわざとらしい演技はお世辞にも上手いとは言えないが『自分達のせいでディアドラさんの結婚を邪魔してるんじゃないか?』と思い始めているアルには効果てきめんだった。
「うぅ、そのことは大変申し訳なく思っております………ディアドラさん実家から縁談の手紙来てたよね?取りあえず一回帰って話しだけでも聞いてもいいんじゃないかな?ご両親も顔を見たいだろうし」
「ふふっ、アルフリート様、今のは冗談ですからどうかお気になさらずに。それに一回でも実家に帰ったらそのまま無理矢理結婚させられそうですし、こんな性格ですからね。きっとどこぞの年寄りの後妻にでも押し込められるのがオチですよ」
王家からの紹介でそんな縁談が来るはずが無い。
なのでこれは実家に帰りたくないディアドラの方便なのだが、アルはそもそも王家がディアドラ達の結婚の世話をしてくれるなんて知らなかったので『そんなものなのか』と納得してしまった。
「ここにいてくれたら嬉しいけど、無理はしないでね?そのせいでディアドラさんに迷惑がかかるのは嫌だから」
「ありがとうございます、アルフリート様はお優しいですね。ですが無理なんてしていませんよ、私がここにいたいと思っているのです。奥様と旦那様は私を『騎士』として必要だと仰って下さいますから」
「騎士として?だってディアドラさんは騎士でしょ?」
何を当然の事を、とアルは疑問を口にする。だがそれに対してディアドラはゆっくりと首を振った。
「私達が『騎士』ではなく『女性騎士』と呼ばれるのには理由があります。勿論『女』ですからそれは当たり前なのですが、『騎士』と『女性騎士』では明確に役割が違うのです」
「え、役割…?」
「はい。私達は貴族の奥様やご令嬢など身分の高い女性の護衛に就きます。そういった方々の傍に男性の騎士を置いていては、様々な問題があるからです」
「あー、なんとなく分かった…。周りが男ばっかりで息が詰まる、とかならまだいいけど、惚れた腫れたになると面倒臭そう…」
5才の子供に大人の恋愛の機微が分かるのか、と驚いたディアドラだったが『まぁアルフリート様なら不思議じゃないか』と納得した。
そして同時にあんまりドロドロとした大人の事情を話すのは如何なものか、とも思ったが『まぁアルフリート様ならいいか』とこれも納得した。
この5年間の生活で、順調にアルに対する感覚が麻痺してしまっているディアドラだった。
「…仰るとおりです。不倫に駆け落ち、家を巻き込んでの喧嘩や刃傷沙汰まで色々です。それが元でお取り潰しになった家まであったらしいですね。そのお陰で私達が必要とされるのですから、ちょっと複雑な気分ですけどね」
そう言ってクスリと笑うディアドラの顔は、アルが見たことの無いとても魅力的な表情で、思わずドキリと心臓の鼓動が跳ね上がった。
「で、でもディアドラさんが『騎士』として扱われない事と関係有るの?」
その表情にドキドキと胸が高鳴る。何故だか声がうわずり、顔が火照ってくる。アルは今まで経験したことの無い出来事に困惑していた。一体自分に何が起こっているのか全く分からない。
「私達は常にご令嬢の傍にいて話し相手になったり、お茶会に参加したり、夜会にもドレスを着てお供します。剣を持ってはいますが、ほとんど専属侍女のような物ですね。あ!流石に夜会では短剣を太もものベルトに隠すぐらいですよ?」
「…えっ!?あー、うん!そりゃあ夜会には剣は持って行けないよね!でもそれじゃ誰が護衛を?」
ドレス姿のディアドラが太ももに短剣を隠す。きっとドレスのスカートをたくし上げ、ガーターベルトに短剣の入った鞘を挟むのだろう。その姿を想像してしまったアルは、どぎまぎしながらもその映像を頭から追い出そうと頭をぶんぶんと振る。
「…む」
「エイルさん?どうかしました?」
「…何でもない」
レイと会話をしていたエイルだが敏感に何かを感じ取り、じとーとアルを見つめる。しかし自分の事でいっぱいいっぱいになっているアルは気付いていないようだった。
「その時はちゃんと周りにいる男の『騎士』が護衛していますよ。私達はご令嬢が『護衛されていると気付かない』もしくは『護衛されていても気にならない』為の壁のような物なのです」
「うーん、そっか。始めから戦力として数えられて無い、だから役割が違うって言ったんだね」
「はい。私は隊の中で剣の腕は3番目でした。勿論男も女も合わせてですよ?ですのでそれなりに自信と誇りを持っていたのですが、いざ護衛の任に就いてみると、そこでは剣の腕など求められませんでした」
当時のことを思い出しているのだろう、淡々とまるで他人事のように言葉を続ける。
「一番大事なのはご令嬢の機嫌を損ねない事。飽きさせない話術に、人気の本や歌劇の知識。そして傍にいてもご令嬢が恥をかかない程度の、それでいて決してご令嬢以上に目立ってはいけない、それなりの容姿。自分が思い描いていた『騎士』とはかけ離れた物でした」
「ディアドラさん…」
アルがなんと声を掛けたら良いのか分からず迷っていると、困らせてしまったと思ったのかディアドラは明るく笑い飛ばす。
「アルフリート様、本当に気にしないで下さい。ここでの生活は充実しているんですよ。レーティア様にディルトラント様。アルフリート様やエイルさん、サーシャもいますから毎日が楽しくて仕方ないんです」
「そ、そうなんだ…ありがとう…」
ディアドラが挙げた名前に自分も入っていた。それだけでなぜか嬉しくなってしまい、思わずお礼を言ってしまうアル。
「もう、なぜアルフリート様が仰るのですか。お礼を言いたいのは私の方ですよ?」
「な、何となく!何となくお礼が言いたかったの!」
「ふふっ、変なアルフリート様ですね」
「………」
そう言って笑い合う2人を、エイルは相変わらず黙って見つめていた。
「あー、まぁいいか。困るのはアルだし」
それを見て事情を察したレイだが、部外者が口出ししない方がいいか…と思い特に何もせずにいた。
『放っておいた方が面白そうだしな』と思っていたのは秘密である。
そうこうしている内に5人は村外れまで到着した。ここまで来ると周りに家はほとんど無く、見渡す限り麦畑が広がっている。
育てられているのはもちろん黒麦で、アルの膝程の高さまで成長していた。しかしよく見ると麦の間には雑草が生えていて、管理が行き届いているとは言い難い。
定期的に抜いてはいるのだが、村を中心にして四方八方に麦畑が広がっているので全く人手が足りていないのだ。
「それじゃあアル様、私らはここらへんで」
「うん!またね!明日はお仕事だったよね?お母さんをよろしくね!」
「アルフリート様、私も行きますね。明日またお屋敷で」
「う、うん。ディアドラさんもよろしく!」
サーシャとディアドラはここでアル達とは別れ、麦畑で働く男達の元へ行くらしい。
「おーいアル、オレはそっちに行っていいか?かぁちゃんについて行ったら畑の手伝いさせられそうだからな」
「手伝うために一緒に居たんじゃないのかよ!」
「いや違うし」
「…さぼり?」
すると、先へ行ったと思っていたディアドラがこちらに向かって来るのが見えた。その奥ではサーシャが何やらニヤニヤしながらこっちを眺めている。
「あれ、どうしたの?」
「すみません、ちょっと伝え忘れていた事がありまして」
そうすると悪戯っぽく笑い、アルの目線の高さに合わせるためにしゃがみ込む。
「アルフリート様が成人した時、もし私が独り身でしたら―――その時は責任を取って下さいね」
「へっ?」
悠然とした笑みでそう言い残し、サーシャの元へと去って行くディアドラ。
その途中でエイルの頭をぽんぽんっと叩いて何事か話していたが、まったく耳に入って来なかった。
残されたアルはしばらくその背中を見つめたまま、今の言葉を頭の中で反芻する。そして次第にその意味を理解すると、ボッと音が聞こえそうなほどの勢いで顔を真っ赤に染めた。
「え?えぇぇ!?」
「………アル、良かったね」
いつもよりも幾分か低く、そして冷たいエイルの声が真横から聞こえ、アルはハッと我に返るがもう遅い。
何故だか分からないが、あれほど熱かった顔が一気に冷めた気すらする。
「あ、あれ?エイル姉ちゃん機嫌悪い?」
「別に。いつも通り」
ツンっと向こうを向きながらそう言うと、一人でさっさと歩き出してしまうエイル。全然まったくこれっぽっちもいつも通りではない。
「ま、待ってエイル姉ちゃん!一緒に行こうよ!」
一人で行ってしまうエイルと、それに追いすがるアル。
そんな二人から少し離れ、成り行きを見守っていたレイがはぁっとため息を付き、思わず素直な感想を漏らしてしまう。
「バカだなぁ、アルは」
「なんでーーー!?」




