第6.5話 ぼくのお姉さまは、やっぱり少し変わっている
今回のは、かなり短めです。サクッと読めます。
よろしくお願いします。
ぼくの名前は、セルジオ・バルディア。十歳です。今日は、ぼくのお姉さまの「いつも」を紹介したいと思います。
ぼくのお姉さまは、とても優しくて、いつも良い匂いがします。でもそこに、お菓子の良い匂いもするようになりました。ぼくが五歳のころからです。
お姉さまには前世の記憶とかいうものがあるらしいですが、全然気になりません。むしろ、そのおかげで美味しいクッキーを焼いてくれるようになりました。とてもいいものだと、当時のぼくは思いました。
今も、そう思います。だって、お姉さまのクッキーは本当においしいから。
この間、お姉さまをお茶に誘った時、ぼくはクッキーが食べたいとお願いしました。きっと嫌とは言わないと思ったけれども、でもそう言われたらやだな。って思ったのでちょっとだけ、ほんのちょっとだけお姉さまが言う「かわいいぼく」でお願いしてみました。そしたら作ってくれました。
クッキーは、本当においしかったです。
ただ、その日は、なんだかお姉さまがいつもより変で、突然「ここ、前世で自分が読んでいた恋愛小説の中かもしれませんわ!」って言い出したのでびっくりしました。
ぼくには何を言っているのか全然わかりませんでした。しかも、悪役令嬢とかいう役らしい。
お姉さまが悪役令嬢? なにそれ? 優しいお姉さまが悪役なんて、あるわけがない。お姉さまの言葉でも信じられない。ふざけてる。
なんでも、クロードお兄さまが、お姉さま以外の方を好きになって、お姉さまはその方をいじめるんだとか。もう、そこからしておかしいよね? どうして、クロードお兄さまがお姉さま以外を好きになるんだろうか? ありえないじゃないか。なのに、お姉さまはその好きになった方をいじめるとか。どういう内容だよ。ほんと。
おっと。言葉遣い、気を付けないといけないですね。
その後、エリカお姉さまもやってきて、三人でその話をしていたんですが、ちょっとエリカお姉さまに物申したいです。
だって、この突拍子もないお話に付き合ってください。ってお願いしたら、おもしろそう。って、お姉さまを煽るんです。煽らないでください。
いや、お姉さまの突拍子もない所は、確かに面白いし、お姉さまらしくてぼくも好きです。けれども、悪役令嬢とかいうのは納得できません。
だからぼくは、証拠でも見つけたら? って言ってみたんです。そんなのあるわけないし。
そうしたら、ノートを持ち出して、そのノートに『小説の中である証拠のノート』とか書き出しました。
つい、お姉さま、ネーミングセンスなさすぎです。って声に出して言っちゃって。これで嫌われたら、きっとエリカお姉さまのせいです。うん。きっとそう。だって、お姉さまを煽るからいけないのです。……でも、そうじゃなくて。ぼく、嫌われてないといいな……。たぶん嫌われてないと思うけれど、大丈夫かな……。いつも通りだったと思うし、たぶん。
そのあとも、お姉さまとエリカお姉さまは、楽しそうに、なんかよくわからない証拠をたくさんノートに書いてました。
というか、何それ? っていうのばかりでしたけれども。でも、お姉さまは真剣でしたので、ぼくは何も言いませんでした。だって、お姉さまは楽しそうにしていたから。ぼくはお姉さまが楽しいと笑っているときが大好きです。
ただ、クロードお兄さまが「冷徹なヒーローが、親に決められた悪役令嬢の婚約者を嫌悪しているサイン」とかで、お姉さまを嫌い設定。っていうのに、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ嬉しく思いました。
だって、お姉さまはクロードお兄さまが、少しだけ、きっとすこーしだけ好きなんだと思います。クロードお兄さまも、お姉さまを好きなんだと思います。でも、ぼくのほうがもっとお姉さまを大好きなんです。だから、クロードお兄さまがお姉さまを嫌いって言ってもぼくがいるから大丈夫。って、ちょっとだけ思いました。
でも、……きっとお姉さまはクロードお兄さまが嫌いって言ったら悲しいと思います。なんだかちょっと悔しいです。
だから、そんな「そうなってしまう運命」なんかじゃなくて、お姉さまは悪役令嬢でもなくて、クロードお兄さまに嫌われることもない。そういう証拠を探してほしいと思っています。
それに、クロードお兄さまが嫌いって言ったら悲しいくせに、婚約破棄を告げるとか、本当に思ってそうで、絶対そんなことしないクロードお兄さまが、不憫すぎて。だから、ぼく少しだけ、ほんの少しだけ好きになってあげようと思いました。でもお姉さまはぼくのお姉さまです。
ただ、最後に書いていたあれ。あれはすごいびっくりしました。
『証拠⑤:縦ロールの髪型と瞳の色(赤×紫)』
おもわず、エリカお姉さまと一緒にお茶噴出しちゃった。だって、理由が『自分のこの赤く見事な縦ロールの髪型』だっていうんです。しかも『深紅の髪にディープパープルの瞳』とかいう設定。それをお姉さまは完璧に一致。とか言うし。あまりにも強引すぎると思います。
(――っ! ぼくのお姉さまは、やっぱり少し変わっている)
どうやっても、『つつじ色の髪とライラック色の瞳』は、『深紅の髪にディープパープルの瞳』には、ぼくはならないと思います。でも黙っていました。
その代わり、ぼくも同じ色だから、悪役令息になるんじゃないか。って聞いてみました。
そうしたら、『かわいいセルジオが悪役令息なわけないじゃない』って言ってくれました。嬉しかったです。ぼく、嫌われていませんでした。「いつものかわいいぼく」でした。良かった。
お姉さまはいつもちょっとずれているけれども、今ではそんなお姉さまだからこそ、大好きなお姉さまなのだと思っています。
……そうそう。クロードお兄さまはまだ、お姉さまのクッキーを食べたことがないらしく、だからぼくは、お姉さまと食べるクッキーは、とっても美味しいんだよ。とだけ、伝えておきました。




