第5話 わたくし、恋愛小説の中の悪役令嬢ですわ!?【後編】
なんと、この度いつの間にか、
[日間]異世界転生/転移〔恋愛〕 - 連載中
にランクインしていたようです。
ありがとうごさいます。ひとえに拙い内容ではありますが、面白い。と思っていただき、読んでくたさっているおかげてす。
て、調子に乗り、今日はもう1話投稿しようかと(笑)
ちょうど前後編ですし。
私、悪役令嬢? と、思い出したセラフィーナ。さて、これからどうするのか? をお楽しみいただければ幸いです。
よろしくお願いします。
「失礼いたします。エリカ・アリントン様がお見えです」
「あら。 エリカ様がいらしたのね。通してちょうだい」
お母様が来室を促してからほどなくして部屋へやってきた彼女は、私を見るなりぱっと笑顔になった。やだ、相変わらずぐうかわなエリカ様!(※心の中の推しへの敬称)
「セラ! 久しぶりね!」
私たち二人でぎゅっと抱きしめ合う。久しぶりの再会に、エリも嬉しそうに笑った。きゅんってするわ、その笑顔。カメラがないのが悔やまれる。心のカメラで残すしかないなんて! 残念過ぎるわ。
「今日はどうかしましたの? エリ?」
「遊びに来たのよ! 最近セラってば、ちっとも我が家へ来てくれないんだもの」
ぷくりと頬を膨らませるエリを見て、私の脳内で、前世の知識で魂が激しく揺さぶられた。っか……かわいい……! かわいすぎるよ。もの凄く萌えるっ……!!
あまりの愛らしさに内心で悶絶しつつも、私はすぐに淑女の顔を取り繕ってエリの手を取り、ぐいぐいと椅子へ促した。
「ごめんなさい。でも、ちょうど良かったですわ! これ、わたくしの作ったクッキーですの。食べてみてくださる? そして、食べながら聞いてくださいませ、エリ! わたくし、この世界の真実に気づいてしまいましたわ。ここは――恋愛小説の中ですわ!」
「……え? ちょっと待って、情報量多すぎ。まずこれはセラが作ってくれたクッキーね? いただきます」
私が差し出したクッキーを一つつまみ、口に入れるエリ。そして、
「なにこれ? 初めて食べる! すごい美味しい!」
って感動してくれた。
「……ごめんなさい。エリカお姉さま。少しだけお姉さまに付き合ってあげて?」
「えっと、で、セラが何を気づいたって言ったのかしら?」
エリは口をもぐもぐさせながら、ぱちぱちと愛らしく瞬きをして私を見た。私は得意げに頷いた。
それにしても、クッキーを食べてるエリ、何しててもかわいいって反則! 何に対しての反則か知らないけれど。
「前世で読んだ恋愛小説の世界ですの。しかも、わたくしは悪役令嬢という、将来婚約破棄されるポジションですの!」
「あくやく、れいじょう?」
「はい!」
「……どうしてそう思うの?」
「婚約者が格上の侯爵令息ですもの! 前世で読んだ悪役令嬢ものも、婚約者は身分の高い貴公子ばかりでしたわ!」
私がドヤ顔で言い切ってみせると、エリは驚きつつも身を乗り出してきた。手にはクッキーが握られている。気に入ってくれたのね。
セルジオがあきれた顔をしているのを私は見ていなかった。お母様は、そんな私を見ながら微笑んでいたことも、この時の私は知らないでいた。
「……なるほど。それで?」
「それでね、わたくしはクロード様を他の女性からとられまいと奮起しますの」
「……へぇ。それがどうして悪役令嬢とかいうのになるのかしら?」
「だって、モテモテになるクロード様を独り占めするために、わたくし、とっても意地悪してしまうのよ、きっと!」
「……なるほど(むしろ、お兄様は泣いて喜ぶと思うのだけれど……?)」
「でしょう!? わたくし、今後そのような態度をとってしまう運命なんですわ!」
「でも、だからってどうするの?」
……そうなのよね。どうしましょ?
「それならば、お姉さま。何か証拠でも見つけたら? そうなってしまうっていう運命の」
セルジオが半ばあきれ気味っぽく言ってきた。でもそれ! いいじゃない。
「セルジオ! そうよ。そうだわ。証拠を集めますわ! この世界が本当に恋愛小説の中だという決定的な証拠を!」
「……何それ、面白そう!」
「でしょう!?」
「……エリカお姉さま。ほどほどにお付き合い、お願いしますね?」
セルジオの「そんなもの、ないと思うけどね?」と言っているその言葉は、私の耳には届かなかった。
意気投合した私は、すぐに侍女に紙とペンを用意させた。運ばれてきた真新しいノートの一ページ目に、私は鼻息荒く大きな文字を書き込んでいく。なんだろう、わくわくと、どきどきと、ちょっと不安が入り混じるこの気持ち。ううん。ここは絶対恋愛小説の中なんだもの。仕方ないわ。証拠がすべてよ! きっとそう。
『小説の中である証拠のノート』
書き記したその文字を見て、私とエリカは満足そうに頷き合った。いいんじゃない? そのまんまだけど、証拠っぽい感じがするよね。
自画自賛する私とは反対に、「ネーミングセンス、なさすぎるよ。お姉さま」とあきれているセルジオ。そして、楽しそうに笑っているエリ。ふふふ。なんだか、みんなが居れば大丈夫な気がしてきたわ。よし頑張るぞ!
「これから、どんどん集めますわ!」
「私全力で手伝うわ、セラ!」
頼もしい相棒(?)を得て、私は深く頷いた。さっそく、インクを含ませたペンを手に取り、ノートに書き連ねていく。
『証拠①:王侯貴族がいる(異世界転生の基本ですわ)』
『証拠②:冒険者ギルドがある(テンプレ世界のインフラですもの!)』
ここまでは基本中の基本だと思うの。だってこの世界の基本だわ。だから、ここからが本番だと、私はさらに気合を入れる。
「まずは何よりも身近で決定的な証拠ですわ、エリ。わたくしの婚約者のクロード様のことです」
「お兄様がどうかしたの?」
エリは机に身を乗り出し、興味津々で覗き込んでくる。ふふふ。これは、きっとびっくりするわよ。
「初めてお会いした時のことですわ。クロード様ってば、わたくしと目が合った瞬間、もの凄く無愛想で、頬を赤くされていましたでしょう?」
「あ、確かに! お兄様、なんだか耳まで赤くしていたわね」
「そうですわ!」
私はペン先をツンと立てた。
「あれは前世の恋愛小説で嫌というほど見たテンプレート――冷徹なヒーローが、親に決められた悪役令嬢の婚約者を嫌悪しているサインに違いありませんわ!」
「ええっ!? お兄様、セラのこと嫌い設定なの!?」
「ええ、きっとそうですわ。でなければ、あんなにツンケンした態度を取るはずがありませんもの!」
「え? ……クロードお兄さま、不憫。……でもぼくちょっと、ちょっとだけお姉さまの勘違いが嬉しいかも」
『証拠③:婚約者が冷徹。初対面で盛大に塩対応された』
クロード様の本当の気持ちなど、もちろん私が知る由もなく、私は恋愛小説で得た知識だけを頼りに、「嫌われている」と解釈してサラサラと書き込んだ。だって、こういうことは鉄板だもの。
「……ねえ、セラ。たぶん、たぶんなんだけれどもね? お兄様はセラのことを嫌ってはいないわよ? (むしろ、毎日セラの姿絵が欲しいって部屋で悶えてるのだけれど……?)」
エリはゴクリと何かを飲み込んで私にそう言ってきた。
「エリカお姉さま。その優しいフォローはきっとお姉さまには全く届かないと、ぼくは思うよ」
セルジオが何か言っていたが、よく聞こえなかった。それより、エリってば相変わらずお兄ちゃん子なんだな。って再確認したよ。そんな風にクロード様をフォローしてあげるなんて。そんなことないってわかってるよ! 私のためにクロード様をかばって言ってくれるなんて本当に優しいんだから。
「そんなことありませんわ、エリ! 分かっておられませんわね! 悪役令嬢モノにおいては、婚約破棄を告げられるその瞬間までは、ヒーローは義務として優しく接してくる設定なんですわ! 表向きは完璧な婚約者を演じつつ、心の奥底では冷え切っている……これこそが冷徹ヒーローの神髄ですもの!」
「そ、そうなの……? そこも婚約破棄までは優しい設定なの?」
「そうですわ!」
力説する私の気迫に押され、エリはそっと視線を逸らした。ん? なんで?
「……お兄様、ホント頑張って」
ぽつりとエリがなにか呟いたけれど、すでに次の証拠のことで頭がいっぱいの私の耳には届かなかった。
「んん。お兄様が冷徹ヒーロー……なんだかかっこいいわね! じゃあ、次の証拠は?」
「エリカお姉さま。現実逃避早!」
「セルジオ! しっ!」
あら? なんかエリとセルジオ仲がいいわね? ちょっと焼けちゃうかも。まぁでも次よ。次。
「次は、これですわ!」
私はいったんペンを置き、一冊のパンフレットを広げた。
「わたくしたちが秋になったら通うことになる王立学院のパンフレットです。ご覧になって、エリ。この中庭の紹介にある、やたらと大きな噴水広場を」
「うん、綺麗なお庭よね?」
「普通ならただの広場ですわ。でも、恋愛小説の世界においては違います! こういう大がかりな噴水のある場所は、ヒロインとヒーローが運命の出会いを果たすか、あるいは……わたくしが悪役令嬢として大勢の前で断罪され、婚約破棄を告げられるステージなんですわ!」
「まぁ! 噴水ってそんなに危険な場所だったのね!?」
「……そんな所ではないと思うけど」
エリはセルジオをじろりと見てから、とても真剣な表情で頷いた。え? さっきまで仲良しだったのに?
「セラってば予言者みたいで本当にすごいわ! 私、お兄様に変なところがないか、これから家でもしっかり見張っておくわね! 学院に変なとことがないかも、様子をお兄様からきちんと聞いておくわ!」
「ありがとうございます、エリ! とっても助かりますわ!」
なんだかセルジオがあきれているように見えるけど、なんか気にしたら負けな気がするので気にしないことにする。
『証拠④:王立学院に立派な噴水広場がある(断罪イベント用)』
「……でも、婚約破棄を告げるって……お兄様、ホントのホントに頑張ってね……」
「うん。ホントに……クロードお兄さまのこと、ちょっとかわいそうで、ぼく、好きになっちゃうかも」
エリとセルジオはまた二人でぼそぼそと言い合っている。なんだよ。結局仲良しかよ!
「なぁに、エリ? セルジオ? 何か問題でもあった?」
「いいえ、何も! で、次の証拠は?」
「ううん。ないよ。で、お姉さま、次は何かな? 気になるな」
「はい! これですわ!」
『証拠⑤:縦ロールの髪型と瞳の色(赤×紫)』
「わたくしが悪役令嬢である、決定的な証拠ですわ!」
「「……っぶふ!」」
エリとセルジオが同時にむせたので、書く手を止めて顔をあげ二人を見た。お茶変なところに入ったの? 二人とも大丈夫? ってか、こういうのも同じとか、ほんとコンビかよ!
「……し、失礼。なぜそれがその、悪役令嬢? の確固たる理由なのかしら?」
「そ、そうだよ、その髪型はとてもお姉さまに似合ってるのに、なぜそれが悪役令嬢? 意地悪するから悪役令嬢じゃなかったの?」
「わたくしのこの赤く見事な縦ロールの髪型!! これは恋愛小説の中のテンプレと言っていいほどの髪形なのです!」
「えっと……縦ロールの方なら、王都にもたくさんいらっしゃると思うわ?」
「エリ、ちがいますわ。わたくしのこの赤く見事な縦ロールの髪型が、悪役令嬢なのです。あ、あと瞳の色もですわね」
私は得意げに胸を張った。
「わたくしのこのつつじ色の髪に、ライラックの瞳。悪役令嬢の定番である『深紅の髪にディープパープルの瞳』と同じ『赤×紫属性』ですわ! つつじ色は赤系統ですし、ライラックは紫ですもの。つまり完璧に一致していますわ!」
「真っ赤じゃないし、紫も違う気がするけれど……(それに、『完璧に一致』してないけど?)」
「いいえ! わたくしは、赤×紫ですわ!」
「……そう言われれば、そうかもしれないわね!」
「えっと、その赤×紫の原理だと、そしたらぼくは悪役令息?」
セルジオは、自分の瞳と髪の色を交互に指さしながら言ってきた。確かに、セルジオの瞳はライラック色で、髪の色もつつじ色だけれども!
「まぁ! かわいいセルジオが悪役令息なわけないじゃない!」
「それならば、お姉さまも悪役令嬢じゃないのでは?」
あら? そうなのかしら? でも、わたくしは悪役令嬢のはずなのよ……?
「髪色だけならほかにもいらっしゃいますものね? でも、『セラのこの赤く見事な縦ロールの髪型』が、悪役令嬢なのよね?」
「あ、そう。そうなのよ! エリ、よくわかっていらっしゃるわ」
「……エリカお姉さま(お姉さまが疑問に思ったのに、なんで話し戻すの?)」
「セラ、他にも証拠一緒に探しましょうね(きまってるわ。だって楽しそうだもん!)」
「ええ。よろしくですわ!」
エリとセルジオが目で会話していることには気づかずに、こうして、私とエリカの、ちょっと変わった証拠集めが始まった。
この時の私は、この『小説の中である証拠のノート』がこれからどんどん厚くなっていくことを知らない。そして――書けば書くほど自信満々になっていくその証拠のほとんどが、ただの盛大な勘違いだということに、私が気づくのは、ずっと未来の話である。




