第15.5話 ぼくのお姉さまは、ぼくのお姉さまなの!
ぼくには、世界で一番可愛くて愛おしいお姉さまがいます。お姉さまは少し変わっているけれど、でも、ぼくの大好きなお姉さまです。それは変わりません。絶対に。
そんな、お姉さまと聖なる夜の今日、ぼくのためにクッキーを焼いてくれたので、夜にはお姉さまとぼくと、お父さまとお母さまで流星群を見ながらお茶会をする約束をしていました。まさに天国のような一日になるはずだったのです。
……そう、夕刻にクロードお兄さまが、我がバルディア伯爵邸の応接室に現れるまでは。
「流星群の観測……!? クロード様と二人きりで……!?」
案の定、クロードお兄さまがやってきて流星群に誘った途端、お姉さまの暴走スイッチが入ってしまったのです。
前から言っている「ここが恋愛小説の中」とか言う、変な妄想のせいで、『無理ですわー!』とパニックになるお姉さまを見て、ぼくは隣で静かに紅茶を飲みながら『たぶんそれ違うと思います』とツッコミを入れました。
二人っきりで流星群の観察? そんなの行かせない。だって、お姉さまはぼくと一緒にクッキー食べながらお茶会するんです。
(よし……っ! 今だ! このままお姉さまを行かない方向へ誘導するんだ!)
ぼくはすかさず、お姉さまの手をキュッと握りしめて提案しました。
「でも、そんなに嫌ならいかなくてもいいのではないでしょうか。それに今日は家族で過ごすほうがいいと思います。さっき焼いたクッキー、一緒に食べる約束もしていましたし!」
「そ、そうかしら? そう思う? セルジオ」
(お姉さまの瞳が揺れる。勝った! 今夜のお姉さまはぼくのものだ!)
ちらりとクロードお兄さまの方を見ると、ものすごく冷ややかな目で見下ろされていたけれど、そんなの怖くない。お姉さまとのクッキーお茶会のためなら、侯爵家の跡取り相手だって一歩も引くつもりはないのだから。
……だったのに。
「セラ、落ち着いて。お兄さまがセラを誘ったのは……そう、生徒会の気象観測記録のお手伝いです」
クロードお兄さまの後ろから、妹のエリカお姉さまが優雅に微笑みながら前に出てきた。
(むっ……エリカお姉さまだ……!)
エリカお姉さまは、さも本当のことのように「助手が必要なんですの」「セラ様しか頼れませんの」と、とんでもない嘘をスラスラと並べ立てていく。
(うわぁ……! 完全なはったりだ! クロードお兄さまがそんな理由で誘うわけないじゃないか!)
ぼくが「騙されないで、お姉さま!」と叫ぶ前に、お姉さまの瞳がキラキラと輝いてしまった。
「き、記録係……? それって、つまり……助手ですの!?」
「……あ、ああ、その通りだ、セラ。君の助けが必要なんだ。一緒に行ってもらえるかい?」
クロードお兄さまが低く甘い声で追撃をかける。お姉さまは顔を真っ赤にして、「完璧な観測記録を仕立て上げてご覧に入れますわ!」とあっさり落ちてしまったのです。
「っち。エリカお姉さまはクロードお兄さまの味方ですか」
ぼくが悔しさのあまりボソッと呟くと、クロードお兄さまはぼくの方を振り返り、勝ち誇ったようにニヤリと笑い返してきた。
(くっそー!! クロードお兄さまの意地悪!!)
ぼくとお姉さまの大切なクッキータイムを奪っていったくせに! 意地悪なクロードお兄さまは、少しだけ、ほんの少しだけ好きじゃないです。でも……お姉さまのために、こんな素敵なイベントを用意してくれたクロードお兄さまは、ほんの少しだけ好きになってあげます。
でも……だいたい、お姉さまが焼いたあのクッキーだって、本当はクロードお兄さまの好みに合わせて甘さ控えめに作っていたのをぼくは知っているのです。でも、ぼくは言いません。絶対に。
意気揚々と馬車に乗り込んでいくお姉さまの背中を見送りながら、ぼくは悔し涙をグッとこらえて拳を握りしめ手呟きました。クロードお兄さまには聞こえませんが。
「覚えていてください、クロードお兄さま……! 次のお茶会は、絶対にぼくがお姉さまを独占してみせますからね……っ!」
(――っ! ぼくのお姉さまは、ぼくのお姉さまなの!)
夜風が吹き抜ける屋敷の玄関で、ぼくは去りゆく馬車に向かって小さな宣戦布告を投げかけました。勝つのはぼくです。絶対です。




